異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

203話 「夏の過ごし方」

本当は本編書くつもりでしたが……

時期的には本編より少し未来の話になります。
小説内の時期が夏になったらやる予定だったお話しです。
あまりの暑さに閑話と言う形で先に投稿です。(´・ω・`)



カンカン照りの日差しが道行く人々を容赦なく焼いていく。
春などとうの昔に過ぎ去り季節は夏真っ盛りである。
冷房に効いた室内に居ればその厳しい暑さも凌げるだろう、だがそうも行かないのが実情である。
そして加賀もそうも行かない内の一人である。なるべく朝早く宿を出たのにも関わらずその日差しは厳しかった。買い物を終えへとへとになりながら宿へとたどり着いた加賀は食堂に入って荷物を置くなり椅子にその身をだらしなく投げ出してしまう。

「あちゅい……お水お水……」

ぐったりとした様子で力無く呟く加賀の前にコトリと水の入ったコップが置かれる。
それを見た加賀の瞳に生気が戻り、コップをがしっと掴むと一気に飲み干し大きく息を吐く。

「くあーっ……お水おいしい……ありがとアイネさん」

「お帰りなさい……大丈夫? 顔真っ赤だよ」

コップを置いたのはアイネであった。彼女は今日は暑いと聞いていたので加賀が帰ってきたのを察して水を用意して置いてくれてたのである。

「あんましだいじょぶじゃなーい……あー、宿は冷房効いてて涼しー」

基本は客である探索者達に合わせて冷房を付けているので宿の中は冷房がきっちり効いている。温暖化防止のため節電のため、28度設定……なんて事はない。効き過ぎていてずっと室内に居る人にとってはむしろ寒いぐらいである。
だがそんな効き過ぎた冷房は今の加賀にとってはとてもありがたいものであった。

そしてそんな休んでいる加賀に白くてとても暑苦しい……もとい可愛らしい毛玉がてこてこと近付いていく。

うー(かがーかがー)

「う、うーちゃん毛が……毛がぺたつく」

毛が張り付くこと等お構いなしに手でぺしぺしと加賀を叩くうーちゃん。

「もー……どうしたの?」

ぺしぺしと叩かれ観念したように顔を上げる加賀。
加賀が反応したのを見たうーちゃんはすっとある方向を指さし加賀の袖をぐいぐいと引っ張る。

うー(ふろいこー)

「そだねー……汗流したいし、てか着替えたい……上も下もぐっしょり」

暑い中買い物をしたせいでかなり汗をかいているようだ。
上着は濡れそぼり肌に張り付いているし、下も何となく湿っているように見える。

「荷物は片付けておくからお風呂行ってくると良いよ。……風邪ひいちゃう」

「アイネさんありがと……お言葉に甘えてはいってきちゃおうかな。うーちゃんいくよー」

うっ(ぺたぺたする)

「ってはや!?」

アイネの言葉に甘えてお風呂に行くことにした加賀とうーちゃんであるが、うーちゃんは加賀の言葉を聞くなりぴゅーっとダッシュで風呂場に行ってしまう。
どうやらうーちゃんもぱっとみでは平気そうであったが暑くて不快であったらしい。


「うあー……きもちー。なんでお風呂って熱いのに気持ち良いんだろ」

うー(ぺたぺたせんー)

外の気温より温度が高いお湯に浸かっているのにも関わらず気持ちが良い。疑問に思うことはあっても答えは分からないでいた。
うーちゃんが言ったのも理由の一つであるのは確かだろう、現に湯船の中で毛皮に触れても先ほどのようにぺたぺたはしてないのだから。

「んじゃ、そろそろあがるよー」

うー(おー)

湯船から上がり、体を拭いて新しい服に着替える。食堂に戻ればアイネがコーヒー牛乳を用意してくれていたようで加賀もうーちゃんもお礼を言って美味しそうに口を付ける。

「ぷひー……」

「……ここ最近酷く暑いみたいだね。露店も無理して出さない方が良いと思うよ?」

「ん、露店は大丈夫。オージアスさんから冷風出す魔道具借りる事になったから」

指を二本立てピースする加賀。
ここ数日暑い日が続いており、加賀の体調を心配したオージアスが加賀へ魔道具の貸し出しの申し出があったのだ。
暑さにまいっていた加賀はその申し出を喜んで受けた、魔石は自前で用意しなければならないが短い時間使うだけであれば大した負担ではないし何より暑さを凌げる方が大事である。

「夏はメニューも冷製スープとかに変えてるから、それ目当てのお客さん多いし休むわけにもいかないから本当助かる……」

どうしても外で働かないといけない人にとって冷製スープなど夏用の食事を用意してくれている加賀の屋台は中々に重宝するものであるようだ。このくそ暑い中でも客は減ることはなくむしろ冷たい料理目当てで増えてすらいる。

「そう、なら良いのだけど……」

「しっかしこう暑いとプールで泳いだり外でBBQしたくなるねー」

暑い時期になるとプールで泳いだり、外でBBQしたりとしたくなるものである。
花火もあれば良いが、あいにく少なくともこの辺りではそういったものを加賀は見たことが無かった。

「プール……? 水浴びしたいの? だったら汽水湖にでも……」

「んっと、水浴びと言うか何というか……ちょっと部屋きてもらってもいい?」

どうも加賀の頭に中にあるイメージとアイネの頭の中のイメージが一致していない、そう思った加賀はアイネを引き連れ自室へと向かう。とりあえず画像なり映像なりを見せた方が早いと考えたのだ。


「なるほどね、泳ぐためだけに専用の場所に水をためたのね……なんで皆下着なのかしら」

「えと……それ下着じゃなくて水着っていう泳ぐとき様の服だね。…あとこれBBQの映像」

「確かに泳ぎやすそうではあるね……」

とりあえず市民プールの様子や個人宅の庭にあるようなプールの映像を見せる加賀。下着と言われてちょっと焦るが確かに見慣れぬ人から見ればそうとしか見えないのだろう。
泳ぐとき様の服だと加賀が軽く説明したがそれで納得したかは不明である。

「……待って。お肉にお肉を挟んでるのだけど……」

「うん、なんかすごいよね……あ、この料理はさすがにちょっと特殊だからね?」

加賀がアイネに見せたBBQの映像は日本のものではなく
アメリカぽいのであった。
なぜそれを見せたか。単に加賀がやってみたかったからである。

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