異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

199話 「お芋」

昼食も終わり皆が仕事を再開しだす時間帯。宿の呼び鈴を鳴らし、声を上げるのものがいた。

「すんませーん! 荷物お届けに上がりましたー!」

宿へと荷物を届けに来た配達人である。ちなみに少し前に宿に来た配達人とはまた別人である。彼はもう別の街へと配達に向かっており、今頃少なくない荷物を配り回ってる所だろう。

「すいませんー! ……子供でも良いからいねえのかな……あっ、お荷物……お届けに…………した」

人が居ないのか気が付いてないだけなのか、配達人がいくら呼んでも人が出てくる気配はない。一旦出直そうか、そう彼が考えたとき食堂の扉がガチャリと開かれる。

うー

「…………」

だが出て来たのは人では無く巨大な兎であった。
配達人はちょっと予想外すぎる出来事に頭が追いつかないのか眉間に寄ったシワを揉みほぐすように手で押さえている。

「えーっと……おうちの人居るかな? 荷物を届けに来たんだけど」

うっ

恐らくはこの宿で飼っているペットか何かだろう、そう思った配達人はダメ元で巨大な兎へ子供に話しかけるように声を掛ける。もしかすると言葉が通じるかも、そんな期待を込めて。

うー

だが巨大な兎はその場から動くことはせず自らの毛皮に手を突っ込むと何やら取り出したようだ。

「えっ……さ、財布? ……えぇっと8200リアになります……ま、毎度」

うっ

取り出したのはポンポンに膨れた可愛らしい手縫いの財布であった。財布のがま口をぱかりと開け配達人の方をちらりと伺う巨大な兎。配達人が代金を伝えるとぴったりの額を財布から取り出してぽんと手に置く。

「あ、一応ここにサイン貰っても――」



「――どうも……じゃ、何かあったらまたよろしくお願いします」

サイン代わりにぽんと押された兎の手形に顔を引きつらせそそくさと退散する配達人。巨大な兎、もというーちゃんは荷物を抱えると飛び跳ねるように食堂の中へと戻っていく。

うー(かがーかがー)

食堂へと戻ったうーちゃんは荷物をテーブルに置くと厨房にいる加賀へ声を掛ける。

「ん? あれ、どったのその荷物」

うーちゃんの声に反応し厨房からひょっこり顔を覗かせた加賀はテーブルの上に乗る荷物を見て首を傾げる。

うっ(とどいたー)

「あら……もしかしてうーちゃん払ってくれた? あ、そうなんだ。ありがと、気が付かなかったよー」

まさかうーちゃんが代わりに受け取ってくれていたとは思っていなかった加賀、うーちゃんにお礼を言うと頭をぐりぐりと撫でまくる。
頭をぶるぶると振るうーちゃんに後で代金返すねと言う加賀であるがうーちゃんはそんな事より荷物の中身が気になって仕方が無いようである。

うっ(はよはよ)

「ほいほいちょっと待ってねー……中身なんだろな、色々頼んでるから何が来たのやら」

うーちゃんに促されテーブルの上の荷物を開けにかかる加賀であるが、色々と依頼しすぎていて加賀自身も荷物が何であるか分かっていないようである。

「おー……やっぱあったかサツマイモ」

う?(いも?)

荷物の中身は大量のサツマイモであった。原産国が日本ではないと知った加賀が試しにとギルドに依頼を出していたのである。

「いもだよ。とは言っても甘い品種でねー火を通してそのままでも良いし、お菓子に使っても良いし。もちろん普通の料理にも使えるよ」

うー(ほーん)

「さてはてどんなお味かな? ちょっと味見……もちろんアイネさんも一緒にね」

芋を一つ二つ手に取り立ち上がった加賀であるがお菓子と聞いて厨房からひょっこり顔を覗かせたアイネと目が合う。
芋を一つアイネに手渡し厨房へと入る加賀。これから一つは茹でてもう一つはじっくり蒸し焼きにするつもりである。
石焼きでじっくり熱を通すとより甘くなるがそんなものは用意していない。なのでその代わりである。


「茹でた方はそろそろ火が通ったかな……うん、串が入るし大丈夫。 一応八木にも声かけて、あとバクスさんと母ちゃんは……もう座ってるし」

「八木は呼んでくるね。確か部屋でトランプ遊んでたはず」

「あ、じゃあお願いしますねー。ついでに遊んでる人にの声かけて見てくださいな」

芋に串がすっと入り火が通った事が分かる。加賀は火から鍋を降ろして芋を取り出すと輪切りにしていく。あくまで味見であるので一人あたりの量は少なめだ。
程なくしてアイネがトランプで遊んでた者を食堂に集め、試食会が開催となった。


「サツマイモかーしばらくぶりに見たな」

「探してみたらあったんだよねー……んじゃま取りあえず食べてみよか。甘い品種だと良いんだけど」

そういってお芋をぱくりと口にいれる加賀。
味合うようにゆっくりと口を動かしているがその顔に浮かんだ表情は微妙そうである。
いち早く芋を呑み込んだ八木がぽつりと呟く。

「あんま甘くないなー」

「んー……ほんのり甘い」

「まずか無いな」

「口の中の水分が……」

八木に続いて他の者も感想を口にするがどうも評判は今ひとつの様だ。

「むむ……じゃあ次はゆっくり火を通した方ね。たぶんこっちのが甘いはず」

「どれどれ」

こっちの方が甘いと聞いて先ほどいまいちな反応を見せた者も芋へ手を伸ばしていく。

「おっまじだ甘い」

「おー……程よい甘さだな。俺こんぐらいが丁度良いかも」

「これ同じ芋よね? なんでこんな甘さ違うのかなー」

「甘いけど口の中の水分が……」

じっくり火を通した事により甘みを増したサツマイモの評判は悪くない様だ。

(そのまま出すのはあんま歓迎されないかなテレビ石焼き芋あたりな良いかもだけど……お菓子に使った方がいいかな)

芋の味をじっくり味わい、皆の様子を伺っていた加賀であるが当面はお菓子に使った方が良いと判断する。試食会を終えるとアイネに声を掛けてレシピを調べに部屋へと向かう。
まず作るのはサツマイモ使った代表的なお菓子の一つ、スイートポテトである。

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