異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

179話 「見つけてしまった」

翌朝、食べ終えた者は席を立ちはじめ、少し人のまばらになった宿の食堂で朝から元気に飯を書き込む八木の姿とそれをぼーっと眺める加賀の姿があった。

「ん……? い、いる?」

加賀の視線の意味を勘違いしたのか恐る恐る食いかけのヨーグルトを差し出そうとする八木。

「や、いらない」

もちろん加賀はそんなつもりで見ていた訳ではない、勧められたヨーグルトを真顔で拒否すると、少し凹んだ様子の八木に向かい口を開く。

「八木も結構食べるよなーって思って」

「ん……ま、そうだな。この体になってから食欲すごくてさ、筋肉が多い分燃費悪いんかねー」

「ふーん」

「どったの?」

行儀悪くスプーンを加えたまま加賀に尋ねる八木。
食いながらしゃべるんじゃありません、と加賀は一言いって昨日のアイネとの会話をかいつまんで八木に伝える。


「ほー……確かにみんな食うよね」

「でも俺もそうだけどさ、筋肉多いと消費するカロリーも多いんよ。だからみんな大丈夫なんでない?」

筋肉を膨張させ加賀に見せつける八木。
加賀は八木から体ごと目を背けつつやっぱそうなのかと独り言ちる。

「……ボクもそうだと思う。ちょっと気になった……だけ、だか……ら」

八木から視線を外したことで先ほどまで見えてなかった光景が加賀の目に入ってくる。
それは二人で対面するように椅子に腰かけ食後のデザートを楽しむシェイラとイーナ、二人の女性の姿であった。
それ自体は別に珍しい光景でもないが、昨日までの加賀では気づけなかったある違和感が存在していた。

「や、八木、八木……八木」

「え、なに怖い」

「あ、あれ見て……」

加賀に言われ二人の方を見る八木であるが、じっと見るのも悪いと思いすぐ目をそらしてしまう。

「加賀、あんまじっと見るのはどうかと……」

探索者は普段ダンジョン攻略する際、鎧などの下に全身をぴったりと覆うタイプの耐水、耐食性に優れた服を着こんでいる。これは毒等の液体から身を守る為であるが……いかんせん着心地がよろしくない。普段からそんなのを着こんでいるせいか彼らは宿にいる間はかなり開放的な格好をしていたりする。時期的にどうかと思わなくもないが宿の中は暖房が効いている為薄着だろうが問題はないのだ。
そしてシェイラとイーナの二人もその例に漏れることなく四肢はもちろんの事お腹まで丸出しな格好をしている事があり、八木が目を反らしたのはその為だ。

「そ、そうじゃなくて……ほら、よく見てってば。シェイラさんのお腹」

「えぇー……」

加賀に言われ微妙な顔をしながらシェイラのお腹を見る八木。
宿の探索者は漏れなく鍛えられた体をしている。それはモンスター討伐した際に身体能力が若干向上する為である。その効果はたとえ後衛であろうと女性であろうと発揮される、その為シェイラ、それにイーナも非常に鍛えられた姿をしており、イーナの腹筋はは6つに割れシェイラの腹筋は縦に二つに割れている、

「あ、あれ?」

縦に二つに割れている、

「え、あれ? なんで……」

見間違いかと目をこする八木であるが、シェイラのお腹は縦に二つに割れていた。
それは腹筋ではなくどう見てもお肉である。

「イーナさんもシェイラさんも食ってるもんそんな変わんないよな……?」

「うん、大体同じ……どうしよ、八木ちょっと言ってきてよ」

「やだよ!?」

まさか昨日話していた事を次の日になって目のあたりにする事になるとは、と加賀は山盛りのケーキをぱくつくシェイラを見て頭を抱えるのであった。


「なんで私何ですか……」

急に加賀と八木に呼ばれたかと思えば、先ほどの話を振られるはめになったチェスター、普段糸目な大きく見開き後退る。

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