異世界宿屋の住み込み従業員
150話 「白い毛玉」
「これで全員ですか……ああ、確認ですが皆契約書にはサインしてますね?」
イライラが限界に近いヒューゴやその他の気の短い連中に代わりアルヴィンが代表で新人らに声をかける。
だが新人達の反応は芳しくなくアルヴィンの問いに答える者は居ない。お互いの様子をちらちらと伺う新人達であったがやがて一人の青年が口を開く。
「……してねーっす。つかそんな書類みてないし」
「…………」
新人の答えを聞いてひくひくと引きつる頬を手で押さえ、ギルドの受付へと向かうアルヴィン。やがて少ししてから戻ってきたアルヴィンの横には加賀と八木がギルドにはじめてギルドにいった際に対応した受付嬢が居た。
「えぇと、何でしょう……その、あまりみられると困っちゃいます」
「彼らに新人教育の契約書を渡してサインをもらってください」
「……? あぁ、いっけない忘れてた」
そう言って受付の奥にある戸棚から書類を持ち出し、新人達に渡していく受付嬢。
手に余った契約書を持ち、指で指しつつ新人達に声を掛ける。
「じゃあ皆ここにサインしてくれるかな?」
美人が言うことは素直に聞くということだろうか、特に嫌がるそぶりもなくというより契約書の内容を見ることすらなく契約書にサインをする新人達。
それをみた探索者達の口が弧に歪んだのを残念ながら新人たちは気づく事が出来なかったようだ。
新人をいくつかに腑分け、探索者と合わせて10人程度のグループを作成していく。
ヒューゴ達が担当となったのは八木を勧誘していたグループのようである。
「んじゃ、これから──」
「すっげー、やっぱリザートマンでっか!」
「ほんと、前衛まかすならこいつで決まりっしょ! あーこの前の奴ら勧誘したかったなあ」
「……ふーん」
八木から聞いた話と一致する人物、どうやらこいつらがそうかと理解したヒューゴは無表情で彼らを見つめていた。
「まあ、いい。もう行くぞ、時間も押してんだ」
そういってぞろぞろと大勢でギルドを後にするヒューゴ達。
彼らが向かうのはダンジョン……ではなく、近くにある探索者ご用達の雑貨屋であった。
「あれ、ダンジョンじゃねーの?」
「……どうせ講習も受けてねーんだろ? 基本的に必要なもんは教えてやるから買い足しておけ」
ダンジョンではなく雑貨屋にいくと知って口々に文句を垂れる新人をつれ雑貨屋へと入る探索者達。
一応は新人教育であり、このあたりの基本的な事は教えるつもりなのだろう。
「……まさか非常食すらもってねーとは」
ダンジョンに向かう道を進みながらはぁと溜息を吐く探索者達。後ろを振り返れば先ほど買った非常食を興味深げに見ている新人たちがいる。そして見ているだけならまだしも試しに非常食を食ってみる輩までいる。
「……こいつは大変そうだ」
そう誰となく呟くとみんな一斉に今日何度目になるか分からない溜息を吐くのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方そのころ宿の食堂では、部屋の角にぴったりと体をあずけイヤイヤと首をふるうーちゃんと、それにじりじりと迫る加賀の姿があった。
「うーちゃん、おとなしくなさい」
うー(やだーいやじゃー)
涙目のうーちゃんの瞳には加賀の手に握られるブラシが映っていた。
冬も近づいた今日この頃、ほかの動物と同様にうーちゃんの毛も生え変わろうとしていたのだ。
その毛はなぜか料理に入る……といったことは起きないが、それでも床やソファー、ベッドに毛がちらほらと落ちているのはあまりよろしくはない。
ゆえに加賀はブラシを使いうーちゃんの毛を取ろうとするのだが。
「ほりゃほりゃ」
うーっ(ぎゃわー)
どうもうーちゃんはブラシが大の苦手らしく、ブラシが体に触れる度に手足をじたばたと暴れさせ隙を見ては加賀の魔の手から逃げ出そうとするのだ。
「もー……わかったよ。ほらお風呂いこ?」
うっ(いくっ)
だが毛は落として置かねばならない。
とりあえずごそっと取れた毛をブラシから落とし、うーちゃんの手をひき風呂に向かうのであった。
そしてそんな二人と入れ違いに食堂に入ってくる咲耶。
「命~……あら、いないね。……これは」
加賀の名を呼びきょろきょろと室内を見渡す咲耶だが、二人はすでに風呂に行っている為食堂には今誰もいない状態である。
そして室内をきょろきょろと見渡していた咲耶の視線が先ほどのブラシへと止まる。
「この毛うーちゃんのかな、抜け毛の季節だものね……そうだ、確かこの前の……」
何か思い出したのかぶつぶつと呟き食堂を出ていく咲耶。再び戻ってきたときには何やら手に袋を抱えていた。
「ん、母ちゃんなにしてんの?」
加賀とうーちゃんがお風呂からでて食堂に戻ると、そこにはせっせと何か作業をする咲耶の姿があった。
「あら、命……これなんだと思う?」
加賀の存在に気付いた咲耶であるがにこにこしながら手元にあるそれを加賀へと見せる。
「……でっかい毛玉? ……まさかそれ」
咲耶の手元にあったのは巨大で真っ白な毛皮。
それを見た加賀の脳裏に浮かぶのはつい先ほどまで一緒にお風呂に入っていたうーちゃんの姿。
「そ、うーちゃんの毛玉」
「え、えぇぇぇ」
うー!(ほぎゃー)
にこにこと微笑む咲耶とは対照に思いっきりドン引きする加賀とうーちゃん。
うーちゃんにいたっては全身の毛が逆立ちまさに毛玉といった姿になってしまっている。
「な、なんだってそんなの……」
「だって、何かに使えないかなって……こんな綺麗な白いウールとか売ってないのよ?」
うー(いーやーだー)
いやいやするうーちゃんであるが、にこにこと微笑む咲耶にはあまり聞こえてないようだ。
加賀はそれをみてこれだめそうと判断し、ほどほどにねと一言呟いてうーちゃんと共に厨房へとこもるのであった。
イライラが限界に近いヒューゴやその他の気の短い連中に代わりアルヴィンが代表で新人らに声をかける。
だが新人達の反応は芳しくなくアルヴィンの問いに答える者は居ない。お互いの様子をちらちらと伺う新人達であったがやがて一人の青年が口を開く。
「……してねーっす。つかそんな書類みてないし」
「…………」
新人の答えを聞いてひくひくと引きつる頬を手で押さえ、ギルドの受付へと向かうアルヴィン。やがて少ししてから戻ってきたアルヴィンの横には加賀と八木がギルドにはじめてギルドにいった際に対応した受付嬢が居た。
「えぇと、何でしょう……その、あまりみられると困っちゃいます」
「彼らに新人教育の契約書を渡してサインをもらってください」
「……? あぁ、いっけない忘れてた」
そう言って受付の奥にある戸棚から書類を持ち出し、新人達に渡していく受付嬢。
手に余った契約書を持ち、指で指しつつ新人達に声を掛ける。
「じゃあ皆ここにサインしてくれるかな?」
美人が言うことは素直に聞くということだろうか、特に嫌がるそぶりもなくというより契約書の内容を見ることすらなく契約書にサインをする新人達。
それをみた探索者達の口が弧に歪んだのを残念ながら新人たちは気づく事が出来なかったようだ。
新人をいくつかに腑分け、探索者と合わせて10人程度のグループを作成していく。
ヒューゴ達が担当となったのは八木を勧誘していたグループのようである。
「んじゃ、これから──」
「すっげー、やっぱリザートマンでっか!」
「ほんと、前衛まかすならこいつで決まりっしょ! あーこの前の奴ら勧誘したかったなあ」
「……ふーん」
八木から聞いた話と一致する人物、どうやらこいつらがそうかと理解したヒューゴは無表情で彼らを見つめていた。
「まあ、いい。もう行くぞ、時間も押してんだ」
そういってぞろぞろと大勢でギルドを後にするヒューゴ達。
彼らが向かうのはダンジョン……ではなく、近くにある探索者ご用達の雑貨屋であった。
「あれ、ダンジョンじゃねーの?」
「……どうせ講習も受けてねーんだろ? 基本的に必要なもんは教えてやるから買い足しておけ」
ダンジョンではなく雑貨屋にいくと知って口々に文句を垂れる新人をつれ雑貨屋へと入る探索者達。
一応は新人教育であり、このあたりの基本的な事は教えるつもりなのだろう。
「……まさか非常食すらもってねーとは」
ダンジョンに向かう道を進みながらはぁと溜息を吐く探索者達。後ろを振り返れば先ほど買った非常食を興味深げに見ている新人たちがいる。そして見ているだけならまだしも試しに非常食を食ってみる輩までいる。
「……こいつは大変そうだ」
そう誰となく呟くとみんな一斉に今日何度目になるか分からない溜息を吐くのであった。
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一方そのころ宿の食堂では、部屋の角にぴったりと体をあずけイヤイヤと首をふるうーちゃんと、それにじりじりと迫る加賀の姿があった。
「うーちゃん、おとなしくなさい」
うー(やだーいやじゃー)
涙目のうーちゃんの瞳には加賀の手に握られるブラシが映っていた。
冬も近づいた今日この頃、ほかの動物と同様にうーちゃんの毛も生え変わろうとしていたのだ。
その毛はなぜか料理に入る……といったことは起きないが、それでも床やソファー、ベッドに毛がちらほらと落ちているのはあまりよろしくはない。
ゆえに加賀はブラシを使いうーちゃんの毛を取ろうとするのだが。
「ほりゃほりゃ」
うーっ(ぎゃわー)
どうもうーちゃんはブラシが大の苦手らしく、ブラシが体に触れる度に手足をじたばたと暴れさせ隙を見ては加賀の魔の手から逃げ出そうとするのだ。
「もー……わかったよ。ほらお風呂いこ?」
うっ(いくっ)
だが毛は落として置かねばならない。
とりあえずごそっと取れた毛をブラシから落とし、うーちゃんの手をひき風呂に向かうのであった。
そしてそんな二人と入れ違いに食堂に入ってくる咲耶。
「命~……あら、いないね。……これは」
加賀の名を呼びきょろきょろと室内を見渡す咲耶だが、二人はすでに風呂に行っている為食堂には今誰もいない状態である。
そして室内をきょろきょろと見渡していた咲耶の視線が先ほどのブラシへと止まる。
「この毛うーちゃんのかな、抜け毛の季節だものね……そうだ、確かこの前の……」
何か思い出したのかぶつぶつと呟き食堂を出ていく咲耶。再び戻ってきたときには何やら手に袋を抱えていた。
「ん、母ちゃんなにしてんの?」
加賀とうーちゃんがお風呂からでて食堂に戻ると、そこにはせっせと何か作業をする咲耶の姿があった。
「あら、命……これなんだと思う?」
加賀の存在に気付いた咲耶であるがにこにこしながら手元にあるそれを加賀へと見せる。
「……でっかい毛玉? ……まさかそれ」
咲耶の手元にあったのは巨大で真っ白な毛皮。
それを見た加賀の脳裏に浮かぶのはつい先ほどまで一緒にお風呂に入っていたうーちゃんの姿。
「そ、うーちゃんの毛玉」
「え、えぇぇぇ」
うー!(ほぎゃー)
にこにこと微笑む咲耶とは対照に思いっきりドン引きする加賀とうーちゃん。
うーちゃんにいたっては全身の毛が逆立ちまさに毛玉といった姿になってしまっている。
「な、なんだってそんなの……」
「だって、何かに使えないかなって……こんな綺麗な白いウールとか売ってないのよ?」
うー(いーやーだー)
いやいやするうーちゃんであるが、にこにこと微笑む咲耶にはあまり聞こえてないようだ。
加賀はそれをみてこれだめそうと判断し、ほどほどにねと一言呟いてうーちゃんと共に厨房へとこもるのであった。
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