異世界宿屋の住み込み従業員
116話 「楽しい時間はすぐ過ぎるもので」
城の一角にあるアイネの私室。
本人が必要としていないのと誰かを招く事などほとんどなかった事もあり、加賀とアイネの二人で寝泊まりしても十分な広さの部屋に家具や調度品の姿はあまりなく、どこか殺風景な印象がある部屋であった。
だが、今その部屋は様々な荷物で埋め尽くされている。
「やー……今さらだけどこれ全部持って帰れるのかな」
主な原因は加賀が購入した調理器具類である。
前世で見たことのある調理器具を見かけた加賀はつい衝動買いをしてしまったのだ。
食料品は意外と少ない、ココアペーストが大量に入った容器と日持ちのする香辛料などがある程度である。これはアイネが商人に話をつけ欲しい物の配達を依頼かけたからである、現地で買うよりは高くつくがよほど日持ちがしないものでなければ届けてくれるようだ。
「……つめれば乗るとは思う。でも寝る場所が狭くなっちゃうかな」
だいじょうぶ?と尋ねるアイネに頷いて返す加賀。
別に大の字にならなければ寝れないという訳ではないし、多少手足を丸めて寝るぐらいであれば加賀にとっては何の問題もないのだろう。
「そう、でも無理そうだったらすぐに言ってね。デーモンに持たせておくから」
「っ!?」
予想外の言葉に驚きを隠せず一瞬姿を現す雄山羊の顔。
ここ2週間近く加賀の料理を食べ元気を取り戻していたデーモン、毎回の様にアイネに魔法陣から出し入れされても何とか乗り切っていた。だがここで新たに荷物持ちという仕事を押し付けられるとなると……加賀の頭の中に虚ろな目をして大量の荷物を手に持つデーモンの姿が思い浮かぶ。思わず熱くなった目頭を押さえる加賀。
「……ほんとに大丈夫。せまいとこで寝るのはうーちゃんで慣れてるから」
「そう、ならいいのだけど」
別にデーモンを気遣って嘘をついたわけではない。
うーちゃんが小さかった頃から就寝を共にしていた加賀、うーちゃんが加賀よりも大きくなった今でもそれは続いている。多少ベッドが狭かろうがうーちゃんを枕にしてしまえば問題はないのだ。
「荷物は明日積み込むとして……とりあえず夕飯にしようか」
「そだね、日持ちしないのは食べちゃわないとだ」
新鮮な魚介類も今日で食い納め……帰りも行きと同じ海岸沿いを通るので途中の街で食べはする、だがこの街ほどの品ぞろえでは無いだろう。
その日の夕飯は2週間の間で各自が一番気に入った料理を作る事としたようだ。アイネはエビグラタン、加賀はシンプルにサンマの塩焼き。デーモンはとりあえずアイスがあれば後は二人の好きなようにとの事。
「やっぱおいしい……フォルセイリアではあまりエビは手に入らないよね」
「そだねえ、川で取れたのがたまに手に入るぐらいかな……あれはあれで美味しいけどこのエビとはまた味が違うね」
「そう……残念」
そう呟いて悲し気な目で空になったグラタン皿を見つめるアイネ。お腹は満たされていると言うのに暫くこの料理を食べる事は出来ない、そう考えると何かがぽっかりと抜け落ちた気分になる。
加賀も最後のサンマを食べきると口についた脂をぺろりと舐める。
こちらはアイネほど悲観してはいないようだ、加賀にとってサンマは元々時期がきた際に食べていたものであり、年中食べていた訳ではない。
別に次に食べるのが一年後とかでも構わないのである。もっとも川で取れる鱒なども加賀の好物とすることも大きいが。
「……悪魔的な味」
その点デーモンは気楽なものである。
彼の好物はアイス、別に夏であろうが冬であろうがいつでも作って食べる事が出来る。
悲しそうにするアイネに気づくこともなく今も上機嫌でアイスをひたすら胃に収めている。
「……やっぱ荷物全部持たせよう?」
「ははは……」
冗談にしては少し目が本気なアイネ。
加賀はとりあず笑ってごまかし、今日はじめて知った情報について口にする。
「フォルセイリアの北にある汽水湖……あそこで取れたらよかったんですけどね」
「……それよ」
加賀の言葉にはっとした表情を見せるアイネ。
じっと加賀のほうを見て言葉を続けた。
「汽水湖ってことは海のエビも手に入るかも知れない、今まで大した気にしてなかったけれど……そう言う事なら話しは別」
「えぇっと、何するつもりでしょう?」
ぎらぎらとしたアイネの目を見て思わず敬語で話しかける加賀。
アイネはさも当然といった表情で加賀の質問へと答える。
「竜を退治する」
「えぇ……あ、目が本気だ」
一瞬冗談をと笑い飛ばそうと思った加賀であるが何やら目が本気っぽいのとアイネであれば問題なく倒せるのではと考え、口にするのを止める。
「……冗談よ」
「よかった! 一瞬本気にしちゃったよーもう」
「退治は出来るけど」
「あ、それは出来ちゃうんだ……」
退治するだけなら簡単なのだけどね、そう言って加賀に竜の事について話を聞かせるアイネ。
どうやら自然界に存在する竜はダンジョンの竜と異なり話が通じる事が多いそうだ。
そんな竜を問答無用で倒せばどうなるか、仲間の竜からの報復が待っている。
魔力が満ちているアイネであればたとえ上位の竜が来ても負ける事はない、だが叩くとなれば周りの被害は甚大となる、だから簡単に退治するなんて出来ないのと話を終えお茶を飲むアイネ。
珍しく長く話し込み喉が渇いたようだ。
「へー……知らなかった」
「だから加賀も……まず無いだろうけどいきなり攻撃したりなんかしちゃだめだよ」
「それはまず無いけど……何かするときは皆に相談してーだね、ボクの常識がこの世界の常識と一致するとは限らないし」
「それがいいね」
さてと、と呟き食器を以って立ち上がるアイネ。
いつの間にかデザートも食べきり全ての食器は空となっていた。
それを見て加賀も食器をもち立ち上がる。
「洗い終わったら今日はもう寝ましょう、明日の朝は早めにでるよ」
「りょーかい。ちゃちゃっと洗って寝ちゃおー」
食器をもって洗い場に向かうアイネと加賀、そしてデーモン。
なおデーモンはアイネと加賀が食器を洗うのをみて自ら参戦するようになってたりする。デーモンだが割とその辺りの気遣いは出来るらしい。
本人が必要としていないのと誰かを招く事などほとんどなかった事もあり、加賀とアイネの二人で寝泊まりしても十分な広さの部屋に家具や調度品の姿はあまりなく、どこか殺風景な印象がある部屋であった。
だが、今その部屋は様々な荷物で埋め尽くされている。
「やー……今さらだけどこれ全部持って帰れるのかな」
主な原因は加賀が購入した調理器具類である。
前世で見たことのある調理器具を見かけた加賀はつい衝動買いをしてしまったのだ。
食料品は意外と少ない、ココアペーストが大量に入った容器と日持ちのする香辛料などがある程度である。これはアイネが商人に話をつけ欲しい物の配達を依頼かけたからである、現地で買うよりは高くつくがよほど日持ちがしないものでなければ届けてくれるようだ。
「……つめれば乗るとは思う。でも寝る場所が狭くなっちゃうかな」
だいじょうぶ?と尋ねるアイネに頷いて返す加賀。
別に大の字にならなければ寝れないという訳ではないし、多少手足を丸めて寝るぐらいであれば加賀にとっては何の問題もないのだろう。
「そう、でも無理そうだったらすぐに言ってね。デーモンに持たせておくから」
「っ!?」
予想外の言葉に驚きを隠せず一瞬姿を現す雄山羊の顔。
ここ2週間近く加賀の料理を食べ元気を取り戻していたデーモン、毎回の様にアイネに魔法陣から出し入れされても何とか乗り切っていた。だがここで新たに荷物持ちという仕事を押し付けられるとなると……加賀の頭の中に虚ろな目をして大量の荷物を手に持つデーモンの姿が思い浮かぶ。思わず熱くなった目頭を押さえる加賀。
「……ほんとに大丈夫。せまいとこで寝るのはうーちゃんで慣れてるから」
「そう、ならいいのだけど」
別にデーモンを気遣って嘘をついたわけではない。
うーちゃんが小さかった頃から就寝を共にしていた加賀、うーちゃんが加賀よりも大きくなった今でもそれは続いている。多少ベッドが狭かろうがうーちゃんを枕にしてしまえば問題はないのだ。
「荷物は明日積み込むとして……とりあえず夕飯にしようか」
「そだね、日持ちしないのは食べちゃわないとだ」
新鮮な魚介類も今日で食い納め……帰りも行きと同じ海岸沿いを通るので途中の街で食べはする、だがこの街ほどの品ぞろえでは無いだろう。
その日の夕飯は2週間の間で各自が一番気に入った料理を作る事としたようだ。アイネはエビグラタン、加賀はシンプルにサンマの塩焼き。デーモンはとりあえずアイスがあれば後は二人の好きなようにとの事。
「やっぱおいしい……フォルセイリアではあまりエビは手に入らないよね」
「そだねえ、川で取れたのがたまに手に入るぐらいかな……あれはあれで美味しいけどこのエビとはまた味が違うね」
「そう……残念」
そう呟いて悲し気な目で空になったグラタン皿を見つめるアイネ。お腹は満たされていると言うのに暫くこの料理を食べる事は出来ない、そう考えると何かがぽっかりと抜け落ちた気分になる。
加賀も最後のサンマを食べきると口についた脂をぺろりと舐める。
こちらはアイネほど悲観してはいないようだ、加賀にとってサンマは元々時期がきた際に食べていたものであり、年中食べていた訳ではない。
別に次に食べるのが一年後とかでも構わないのである。もっとも川で取れる鱒なども加賀の好物とすることも大きいが。
「……悪魔的な味」
その点デーモンは気楽なものである。
彼の好物はアイス、別に夏であろうが冬であろうがいつでも作って食べる事が出来る。
悲しそうにするアイネに気づくこともなく今も上機嫌でアイスをひたすら胃に収めている。
「……やっぱ荷物全部持たせよう?」
「ははは……」
冗談にしては少し目が本気なアイネ。
加賀はとりあず笑ってごまかし、今日はじめて知った情報について口にする。
「フォルセイリアの北にある汽水湖……あそこで取れたらよかったんですけどね」
「……それよ」
加賀の言葉にはっとした表情を見せるアイネ。
じっと加賀のほうを見て言葉を続けた。
「汽水湖ってことは海のエビも手に入るかも知れない、今まで大した気にしてなかったけれど……そう言う事なら話しは別」
「えぇっと、何するつもりでしょう?」
ぎらぎらとしたアイネの目を見て思わず敬語で話しかける加賀。
アイネはさも当然といった表情で加賀の質問へと答える。
「竜を退治する」
「えぇ……あ、目が本気だ」
一瞬冗談をと笑い飛ばそうと思った加賀であるが何やら目が本気っぽいのとアイネであれば問題なく倒せるのではと考え、口にするのを止める。
「……冗談よ」
「よかった! 一瞬本気にしちゃったよーもう」
「退治は出来るけど」
「あ、それは出来ちゃうんだ……」
退治するだけなら簡単なのだけどね、そう言って加賀に竜の事について話を聞かせるアイネ。
どうやら自然界に存在する竜はダンジョンの竜と異なり話が通じる事が多いそうだ。
そんな竜を問答無用で倒せばどうなるか、仲間の竜からの報復が待っている。
魔力が満ちているアイネであればたとえ上位の竜が来ても負ける事はない、だが叩くとなれば周りの被害は甚大となる、だから簡単に退治するなんて出来ないのと話を終えお茶を飲むアイネ。
珍しく長く話し込み喉が渇いたようだ。
「へー……知らなかった」
「だから加賀も……まず無いだろうけどいきなり攻撃したりなんかしちゃだめだよ」
「それはまず無いけど……何かするときは皆に相談してーだね、ボクの常識がこの世界の常識と一致するとは限らないし」
「それがいいね」
さてと、と呟き食器を以って立ち上がるアイネ。
いつの間にかデザートも食べきり全ての食器は空となっていた。
それを見て加賀も食器をもち立ち上がる。
「洗い終わったら今日はもう寝ましょう、明日の朝は早めにでるよ」
「りょーかい。ちゃちゃっと洗って寝ちゃおー」
食器をもって洗い場に向かうアイネと加賀、そしてデーモン。
なおデーモンはアイネと加賀が食器を洗うのをみて自ら参戦するようになってたりする。デーモンだが割とその辺りの気遣いは出来るらしい。
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