異世界宿屋の住み込み従業員
106話 「残り1週間ぐらいらしい」
「いやー悪いねぇ、こんなにお土産貰っちゃって」
「別に構わないよ、貴方が居なければ交渉など出来なかっただろうし……それにそれは貴方達にとって珍しいものではあるけど私達にとってはごくありふれたものだしね」
八木の手元にあるのはお土産として渡された黒鉄の実と黒鉄の樹皮を使って作られた布やなめし皮のようなものだ。
八木達に振る舞われた黒鉄の実は中身部分だったようで、手渡された実は黒いカボチャのような外観をしている、ヘタの部分をねじると簡単に外す事が出来そこから中身だけを取り出して食べるのだ。
布は黒鉄から作られらだけあって黒っぽい色合いをしている。
エルフの集落にいた者を見る限りほぼ全員がこれで作られた衣服を纏っているようだ。
「しかし、黒鉄の実がこんなんだとはね……これ上から落ちてたのに当たったら下手すると死ぬんじゃ……」
「死ぬよ。だから枝の上を通ってきたんだよ、私達は一応察知して避けれるけど……」
鉄のように堅くずっしりと重い黒鉄の実をコツコツと叩く八木。
こんなのが100mも頭上から降ってきたら……頭に当たれば即死だろう。腕や脚などに当たったとしても良くて骨折、当たり所が悪いと手足がちぎれそうだ。
そんな光景が頭に浮かんだのだろう、八木はぶるりと身を振るわせる。
「俺らは絶対無理!」
「うん、だから帰りも枝の上通るよ。さすがにもう慣れたかな?」
その言葉を聞いて渇いた笑い声をあげる八木。
つい数時間前まで目の前のエルフに必死にしがみ付いていたのは記憶に新しい。
「ま、まあなんとか……」
「そう? それじゃそろそろ出発しようか。今から行けば夕方前には着くはずだよ」
高い木の枝の上を恐る恐るだが行きよりは早い速度で歩く八木達。
やはり慣れるものなのだろう、八木はエルフにしがみつく事なく歩けてしまっていた。
少し悲し気な八木の瞳にうつるのは先頭をいくエルフの姿だ。
(……歩けないって言っとけばよかった)
と、ほんのちょっとの後悔を胸に八木は森の境界線へと向かい歩いていくのであった。
「地面って素晴らしい」
「いや、まったくじゃわい」
境界線へとたどり着き地面へと降りた途端に地へ倒れ込むヒューゴとアントン。
よほど木の上がこたえたのか地面に頬ずりしそうな勢いである。
「それじゃ……えっと」
「そういえば名乗っていなかったな……クリスだ、また尋ねに来てくれ。いつでも歓迎するよ」
「ええ、いずれまた……その時はまた案内お願いしますね」
皆と別れ森へと戻るクリスを名残惜しそうな顔でじっと見つめる八木。
「何してんのー? 日が暮れる前に帰るよー」
「うぃっす」
とは言えじっと見ている訳にもいかない、探索者達は休憩を終え城への道を歩き始めている。
八木も声を掛けられ後ろ髪を引かれつつも皆と共に城に戻るのであった。
城へと戻った八木達は少し休憩した後、夕食の準備が出来たと伝えられ食堂へと向かう。
食堂には探索者達や城のものがすでに集まっており、八木が席についたところで食事が開始される。
「なるほど枝の上を歩いてですか……いやはや、正直あの高さを歩くのは勘弁願いたいものですねえ」
食事中話題になるのはやはりエルフの住処についてである。八木の対面に座っていたロレンが髭をなでながらそんな感想を口にする。
やはりあの高さになると出来れば登るのを避けたくなるようである。
「あ、そうだ! アルヴィンどこいった? あの性悪エルフ!」
「アルヴィンなら向こうで泊まるって言ってたから今日はおらんぞ」
「くそがー!」
アルヴィンに一言文句いってやろうと思っていた事を思い出したヒューゴであるが、どうやらアルヴィンはそれを見越して避難していたようである。
やけ酒気味に酒を煽るヒューゴを見て若干引く大臣、横目でちらちらと気にしつつも八木へと話を振る。
「八木殿、エルフの住処はいかがでしたかな? 何か参考になるようなものなどあったのでしょうか?」
「……なかったっす」
「えぇ……」
そう、本音はともかく本来の目的はエルフの住処を見て、何か参考になるものを探すことであった。
だが、木を丸ごと使った家を参考にすることなど出来るわけもなく、ただ八木の知的好奇心を満たすに終えただけだったりする。
「木を丸ごと使ったすっごい家だったんですけどね……さすがにまねできないですし」
「それは……たしかに」
「明日は城下町見て回ろうと思います。頭の中に一応いくつか案はありますんでどれが良さそうか街を見て決めようかと」
八木の言葉をきいてほっと安心した様子を見せる大臣。
「では、明日の朝までに案内役の準備をしておきますね。朝食後に来るよう伝えておきます」
「よろしくお願いします」
明日は街を見て回り計画図を起こして行くことになる。
あと1週間もすれば探索者達の用事も終わる、それまでには八木の計画図の方も大体終わっていることだろう。
(あと1週間か……なんとか乗り切ろうっと)
食事を終え部屋へと戻った八木。
疲れていたこともあり早々にベッドへと潜り込む。残り1週間何事もなく終わることを祈り、その日は明日に備え早めに寝るのであった。
「別に構わないよ、貴方が居なければ交渉など出来なかっただろうし……それにそれは貴方達にとって珍しいものではあるけど私達にとってはごくありふれたものだしね」
八木の手元にあるのはお土産として渡された黒鉄の実と黒鉄の樹皮を使って作られた布やなめし皮のようなものだ。
八木達に振る舞われた黒鉄の実は中身部分だったようで、手渡された実は黒いカボチャのような外観をしている、ヘタの部分をねじると簡単に外す事が出来そこから中身だけを取り出して食べるのだ。
布は黒鉄から作られらだけあって黒っぽい色合いをしている。
エルフの集落にいた者を見る限りほぼ全員がこれで作られた衣服を纏っているようだ。
「しかし、黒鉄の実がこんなんだとはね……これ上から落ちてたのに当たったら下手すると死ぬんじゃ……」
「死ぬよ。だから枝の上を通ってきたんだよ、私達は一応察知して避けれるけど……」
鉄のように堅くずっしりと重い黒鉄の実をコツコツと叩く八木。
こんなのが100mも頭上から降ってきたら……頭に当たれば即死だろう。腕や脚などに当たったとしても良くて骨折、当たり所が悪いと手足がちぎれそうだ。
そんな光景が頭に浮かんだのだろう、八木はぶるりと身を振るわせる。
「俺らは絶対無理!」
「うん、だから帰りも枝の上通るよ。さすがにもう慣れたかな?」
その言葉を聞いて渇いた笑い声をあげる八木。
つい数時間前まで目の前のエルフに必死にしがみ付いていたのは記憶に新しい。
「ま、まあなんとか……」
「そう? それじゃそろそろ出発しようか。今から行けば夕方前には着くはずだよ」
高い木の枝の上を恐る恐るだが行きよりは早い速度で歩く八木達。
やはり慣れるものなのだろう、八木はエルフにしがみつく事なく歩けてしまっていた。
少し悲し気な八木の瞳にうつるのは先頭をいくエルフの姿だ。
(……歩けないって言っとけばよかった)
と、ほんのちょっとの後悔を胸に八木は森の境界線へと向かい歩いていくのであった。
「地面って素晴らしい」
「いや、まったくじゃわい」
境界線へとたどり着き地面へと降りた途端に地へ倒れ込むヒューゴとアントン。
よほど木の上がこたえたのか地面に頬ずりしそうな勢いである。
「それじゃ……えっと」
「そういえば名乗っていなかったな……クリスだ、また尋ねに来てくれ。いつでも歓迎するよ」
「ええ、いずれまた……その時はまた案内お願いしますね」
皆と別れ森へと戻るクリスを名残惜しそうな顔でじっと見つめる八木。
「何してんのー? 日が暮れる前に帰るよー」
「うぃっす」
とは言えじっと見ている訳にもいかない、探索者達は休憩を終え城への道を歩き始めている。
八木も声を掛けられ後ろ髪を引かれつつも皆と共に城に戻るのであった。
城へと戻った八木達は少し休憩した後、夕食の準備が出来たと伝えられ食堂へと向かう。
食堂には探索者達や城のものがすでに集まっており、八木が席についたところで食事が開始される。
「なるほど枝の上を歩いてですか……いやはや、正直あの高さを歩くのは勘弁願いたいものですねえ」
食事中話題になるのはやはりエルフの住処についてである。八木の対面に座っていたロレンが髭をなでながらそんな感想を口にする。
やはりあの高さになると出来れば登るのを避けたくなるようである。
「あ、そうだ! アルヴィンどこいった? あの性悪エルフ!」
「アルヴィンなら向こうで泊まるって言ってたから今日はおらんぞ」
「くそがー!」
アルヴィンに一言文句いってやろうと思っていた事を思い出したヒューゴであるが、どうやらアルヴィンはそれを見越して避難していたようである。
やけ酒気味に酒を煽るヒューゴを見て若干引く大臣、横目でちらちらと気にしつつも八木へと話を振る。
「八木殿、エルフの住処はいかがでしたかな? 何か参考になるようなものなどあったのでしょうか?」
「……なかったっす」
「えぇ……」
そう、本音はともかく本来の目的はエルフの住処を見て、何か参考になるものを探すことであった。
だが、木を丸ごと使った家を参考にすることなど出来るわけもなく、ただ八木の知的好奇心を満たすに終えただけだったりする。
「木を丸ごと使ったすっごい家だったんですけどね……さすがにまねできないですし」
「それは……たしかに」
「明日は城下町見て回ろうと思います。頭の中に一応いくつか案はありますんでどれが良さそうか街を見て決めようかと」
八木の言葉をきいてほっと安心した様子を見せる大臣。
「では、明日の朝までに案内役の準備をしておきますね。朝食後に来るよう伝えておきます」
「よろしくお願いします」
明日は街を見て回り計画図を起こして行くことになる。
あと1週間もすれば探索者達の用事も終わる、それまでには八木の計画図の方も大体終わっていることだろう。
(あと1週間か……なんとか乗り切ろうっと)
食事を終え部屋へと戻った八木。
疲れていたこともあり早々にベッドへと潜り込む。残り1週間何事もなく終わることを祈り、その日は明日に備え早めに寝るのであった。
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