異世界宿屋の住み込み従業員
77話 「お酒だめ、ぜったい」
アイネと別れてちょうど2週間が経った日の夕方、1台の馬車が宿の前に止まっていた。
夕食にはまだ早いが、食堂の中には人影があり、各々椅子に腰掛けているようだ。
一人はアイネ、残るは宿の従業員と八木である。
「無事戻れて何よりだ」
「ありがとう。会議も特にこれと言って問題は起きなかったよ。道中も特に何もないし……食事と言う楽しみが出来たから、以前よりもずっと楽しくすごせたわ」
ありがとうね、と改めて礼を述べるアイネ。
みんなの意識が自分に向いていることを確認すると軽く手を合わせ口を開く。
「それで、会議で決まった内容なのだけど……監視をつけるって話は聞いている? ……そう、なら話は早いわね。私も監視に選ばれたの、だからこれからこの宿でお世話になるわね」
この宿で世話になると言うところでバクスがぴくりと反応する。
「監視する者もこの宿にってことか……そいつは構わんが今宿は人手が足りなくてな、あまり来られると本当に手が回らなくなってしまうぞ。全部で何人なんだ?」
そう、宿は人手が不足したままなのだ。
一時的に人が増えるぐらいならまだしも恒常的に増えるとなるといずれ加賀が倒れかねない。
アイネはそれを聞いて軽く頷くと言葉を返す。
「だいじょうぶ、宿に来るのは私一人」
「んん?」
宿に来るのが一人と聞いて思わず怪訝そうな顔をするバクス。
とりあえずは続きを聞くべく、先をうながす。
「他のものはどこか別の所から監視をするそうよ」
それぞればらばらになると言う事だろうか、それにどんな思惑があるのかは分からない。だが宿の負担が少ないならそれで良いとバクスは考え口を開く。
「そうか……まあ、会議でそう決まったのなら特に言うことはない」
「ええ、会議でお願いしたら許可が出たの。だから何も問題ないよ」
それを聞いて思わず苦笑するバクス。
ノーライフキングのお願いだ、どようにしてお願いしたのかは分からないがそうそう断れるものでもないだろう。
「了解した。とりあえず部屋に案内しよう」
「ありがとう、お願いするね」
そして今日から一人宿の客が増える事となったのである。
とはいえ、一人増えただけではそうやる事が変わるわけでも無い。
アイネを改めて迎えた次の日の昼、宿の従業員とアイネは皆で昼食をとっているようだ。
食事を次々平らげていくアイネを見て加賀が疑問に思っていたことを口にする。
「アイネさん、質問いいです?」
「ええ、かまいません。どうぞ」
「どもです。以前は普通の人と見た目変わらなかったって言ってましたよね、ということはここで食事続けていけばそのうち元に戻るんです?」
加賀にとわれ頬に……頬骨に手をあて考えるアイネ。
やがて考えがまとまったのか手を下ろすと加賀に向かい口を開く。
「ええ、おそらくは、戻ると思う。魔力が少しずつだけど回復してきているから……どれぐらい掛かるかわからないけどいずれ戻れるのは確かだと思う」
「なるほどー……魔力かあ、これちょっと食べてみてもらえますー?」
「これは……?」
加賀の取り出したもの、それはこっそりと2週間かけて仕込んだフルーツケーキであった。
加賀の謎加護の効果に滋養強壮にきくと言うものがあり、魔力を込めるとその効果は増す。
2週間の間ひまを見てはうんうんと魔力を込めておいて仕込んだのがこのケーキである。
「良い匂いがするね、すごく甘い匂い」
「2週間かけて仕込んだケーキだよー、口にあうと良いんだけど……」
切り分けたケーキを皿にのせ各自の前に置く。
それが何か知っている八木と咲耶は早速とばかりにフォークを口に運んでいる。
「お、やっぱうめーな。ラム酒とかよくあったなあ」
「うん、いいお味」
それを見て自分もとフォークを持つバクスとアイネ。
うーちゃんはいつの間にか食い切っている。
「うお……酒がけっこうきついが美味いぞ。うん、いける」
「あっ……これ、すごいね」
口に含んだ瞬間酒の香りに驚き目を見開くバクス、だがすぐになれたようで次々と口に運んでいく。
そしてアイネについてだが、こちら口に含んだ瞬間、目から燐光が一瞬あふれた、魔力が一気に回復したのだろう。
それを見て加賀は満足げに頷く。
「効果あったみたいでよかった、2週間魔力こめたかいがあったよー」
「……あれ、そういう事だったのな。ケーキの前でうんうん唸って一体なにやってんのかと」
こっそり作っているつもりでも見られていたようである、八木の言葉に軽く笑うと加賀もケーキを口に含み、飲み込み。
そして一気に顔が赤くなる。
「あふぇ?」
「あ、お前酒だめだったろ。いや、でもそこまで弱くはなかったけど……」
顔が赤くなりふらふらと席を立つ加賀。
そのまま手じかにいたうーちゃんに持たれ掴みかかる。
「うーちゃんふかふかやのお」
うー(ぎゃー)
うーちゃんのお腹に顔をぐりぐりと埋める加賀。
しばらくそうしてたかと思うと、急にぱたりと動かなくなる。
「……寝てる」
「……うーちゃん、悪いがそのまま部屋まで運んでやってくれ」
うー……(ひどいめにあった)
うーちゃんに担がれ食堂を出る加賀をみて、バクスはやれやれと言った様子でため息を吐く。
「……夕飯俺が用意すんのか」
その日以降加賀には宿の一同から禁酒令が言い渡されるのであった。
夕食にはまだ早いが、食堂の中には人影があり、各々椅子に腰掛けているようだ。
一人はアイネ、残るは宿の従業員と八木である。
「無事戻れて何よりだ」
「ありがとう。会議も特にこれと言って問題は起きなかったよ。道中も特に何もないし……食事と言う楽しみが出来たから、以前よりもずっと楽しくすごせたわ」
ありがとうね、と改めて礼を述べるアイネ。
みんなの意識が自分に向いていることを確認すると軽く手を合わせ口を開く。
「それで、会議で決まった内容なのだけど……監視をつけるって話は聞いている? ……そう、なら話は早いわね。私も監視に選ばれたの、だからこれからこの宿でお世話になるわね」
この宿で世話になると言うところでバクスがぴくりと反応する。
「監視する者もこの宿にってことか……そいつは構わんが今宿は人手が足りなくてな、あまり来られると本当に手が回らなくなってしまうぞ。全部で何人なんだ?」
そう、宿は人手が不足したままなのだ。
一時的に人が増えるぐらいならまだしも恒常的に増えるとなるといずれ加賀が倒れかねない。
アイネはそれを聞いて軽く頷くと言葉を返す。
「だいじょうぶ、宿に来るのは私一人」
「んん?」
宿に来るのが一人と聞いて思わず怪訝そうな顔をするバクス。
とりあえずは続きを聞くべく、先をうながす。
「他のものはどこか別の所から監視をするそうよ」
それぞればらばらになると言う事だろうか、それにどんな思惑があるのかは分からない。だが宿の負担が少ないならそれで良いとバクスは考え口を開く。
「そうか……まあ、会議でそう決まったのなら特に言うことはない」
「ええ、会議でお願いしたら許可が出たの。だから何も問題ないよ」
それを聞いて思わず苦笑するバクス。
ノーライフキングのお願いだ、どようにしてお願いしたのかは分からないがそうそう断れるものでもないだろう。
「了解した。とりあえず部屋に案内しよう」
「ありがとう、お願いするね」
そして今日から一人宿の客が増える事となったのである。
とはいえ、一人増えただけではそうやる事が変わるわけでも無い。
アイネを改めて迎えた次の日の昼、宿の従業員とアイネは皆で昼食をとっているようだ。
食事を次々平らげていくアイネを見て加賀が疑問に思っていたことを口にする。
「アイネさん、質問いいです?」
「ええ、かまいません。どうぞ」
「どもです。以前は普通の人と見た目変わらなかったって言ってましたよね、ということはここで食事続けていけばそのうち元に戻るんです?」
加賀にとわれ頬に……頬骨に手をあて考えるアイネ。
やがて考えがまとまったのか手を下ろすと加賀に向かい口を開く。
「ええ、おそらくは、戻ると思う。魔力が少しずつだけど回復してきているから……どれぐらい掛かるかわからないけどいずれ戻れるのは確かだと思う」
「なるほどー……魔力かあ、これちょっと食べてみてもらえますー?」
「これは……?」
加賀の取り出したもの、それはこっそりと2週間かけて仕込んだフルーツケーキであった。
加賀の謎加護の効果に滋養強壮にきくと言うものがあり、魔力を込めるとその効果は増す。
2週間の間ひまを見てはうんうんと魔力を込めておいて仕込んだのがこのケーキである。
「良い匂いがするね、すごく甘い匂い」
「2週間かけて仕込んだケーキだよー、口にあうと良いんだけど……」
切り分けたケーキを皿にのせ各自の前に置く。
それが何か知っている八木と咲耶は早速とばかりにフォークを口に運んでいる。
「お、やっぱうめーな。ラム酒とかよくあったなあ」
「うん、いいお味」
それを見て自分もとフォークを持つバクスとアイネ。
うーちゃんはいつの間にか食い切っている。
「うお……酒がけっこうきついが美味いぞ。うん、いける」
「あっ……これ、すごいね」
口に含んだ瞬間酒の香りに驚き目を見開くバクス、だがすぐになれたようで次々と口に運んでいく。
そしてアイネについてだが、こちら口に含んだ瞬間、目から燐光が一瞬あふれた、魔力が一気に回復したのだろう。
それを見て加賀は満足げに頷く。
「効果あったみたいでよかった、2週間魔力こめたかいがあったよー」
「……あれ、そういう事だったのな。ケーキの前でうんうん唸って一体なにやってんのかと」
こっそり作っているつもりでも見られていたようである、八木の言葉に軽く笑うと加賀もケーキを口に含み、飲み込み。
そして一気に顔が赤くなる。
「あふぇ?」
「あ、お前酒だめだったろ。いや、でもそこまで弱くはなかったけど……」
顔が赤くなりふらふらと席を立つ加賀。
そのまま手じかにいたうーちゃんに持たれ掴みかかる。
「うーちゃんふかふかやのお」
うー(ぎゃー)
うーちゃんのお腹に顔をぐりぐりと埋める加賀。
しばらくそうしてたかと思うと、急にぱたりと動かなくなる。
「……寝てる」
「……うーちゃん、悪いがそのまま部屋まで運んでやってくれ」
うー……(ひどいめにあった)
うーちゃんに担がれ食堂を出る加賀をみて、バクスはやれやれと言った様子でため息を吐く。
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