異世界宿屋の住み込み従業員
53話 「夜の訪問者」
「その力ですが、連続して何度も使えるものなので?」
「ええ、すごく燃費いいみたいで。四六時中つかっても平気!と神様はおっしゃってましたよ、実際ほとんど疲れてないみたいですし」
先ほどのショックから立ち直ったバクスであるが、さっそく先ほどの力について咲耶に質問している。
質問に答えつつ先ほど回収した洗濯物を宿の外に運ぶ咲耶、次は先ほどの加護で洗濯をするらしい。
「ほい、母ちゃん。石鹸ねー」
「ん、ありがと命」
街の外からは見えない中庭の一角にて石鹸を受け取った咲耶はいったん籠を下におろす。
「命、悪いけどお水だしてもらえないかしら。量は洗濯機一杯ぐらいで」
「ほいほい。精霊さんお水ちょっとだしてくださいなー」
咲耶の願いをきいて加賀が精霊魔法を使用する。
詠唱とよぶにはあまりにも気の抜ける言葉ではあるが、それでも精霊はしっかりと答えてくれたようだ。
空中に水球が現れじわじわとその大きさを拡大していく。
「そのへんですとっぷー」
「ありがとう。それだけあれば十分よ」
空中に浮かぶ水球に向け、籠にはいった洗濯物と石鹸を放り込む。
すると水球はぐるぐると中に入った洗濯物と一緒に回転しだす。そして逆回転。
透明な洗濯機があればこんな光景が見れるのだろうか、水の回転する勢いなど地球で使用していた洗濯機と遜色ないレベルである。
「なるほど洗濯もこうやってできると……あのサービス出来るようになるかも知れんか……ちなみにどれぐらいの量まで一度に洗えますか?」
「それはやってみないと……命、悪いけどお水もっと出して貰えないかしら?」
咲耶に言われほいほいと水を出していく加賀。そしてどんどん増えて行くぐるぐると回転する水球。
「加賀、咲耶さんその辺で止めてくれ」
その数が30を超えるといったあたりでバクスがストップを掛ける。
「これ以上増やすと外から見えちまう……それで疲労とかありますか?咲耶さん」
「無いと思います……あっても気になるほどじゃないですね」
その言葉に満足げに頷くバクス。
その後食堂に戻ってもバクスは終始ご機嫌な様子だ。
人手が足りないのと人件費がかかりすぎる為半ば諦めていたあるサービス。それを実現できる目処がたったの為である。
「良かったすね、バクスさん」
「ん、ああ。本当助かるよ……これなら来週あたりから宿開いても良さそうだな。……ああ、もちろん最初は受け入れる客の数は絞っていくぞ?」
「最初はそれがいいでしょねー……それじゃそろそろ良い時間だし、夕飯仕上げちゃいますよー」
気がつくと日が暮れ出す時間となっていた。
気合い入れるように帽子を被り直し厨房へと向かう加賀。ゆるい口調とは裏腹に、何時になく気合いのはいった表情をしているのは久しぶりに会えた母のに美味い料理を食べさせたいが為だろう。
「おまたっせー」
「おーすっげー具だくさん。うまそー」
湯気を立てる器がテーブルに並ぶ。
加賀が数週間掛けて作ったビーフシチュー、具はオーソドックスにもも肉と芋、人参、玉ねぎの3種のようだ。
実際にはもっと大量の材料が使われているのだろうが、作る過程でそれらの材料はスープと一体化してしまっている。
「んっ、ビーフシチューはやっぱうめーなあ」
辛抱たまらんとばかりに早速シチューにとりかかる八木。
まずはスープを一口続いて大きめに切られた肉に取りかかる。
一応ナイフも置かれているが必要ないようだ、スプーンで問題なく切れている。
「恐ろしいぐらいのこくと旨みだな……肉に味がしみこんでてやばい」
一口食べてその味の虜となるバクス。
一度感想を述べた後はただひたすらに手を動かし続けている。
たまに喋ってもやばいとしか言っていない。
「うん、前より力強い味になってるね……お肉の違いかしら。あ、命。すじ肉もあるの?」
「うん、あるよー。皆お代わりするだろうし、次はすじ肉ねー」
すじ肉と聞いて顔をほころばせる咲耶。どうやらもも肉よりも好みらしい。
「……ん?」
「どうしましたバクスさん? 口に合わなかったですか……?」
ふいに手を止めてあたりを軽く見渡すバクス。
加賀の問いに対しすまんと軽く謝ると再びシチューにとりかかろうとする。
「何か聞こえた気がしたんだがな、たぶん気のせい……」
「……バ…スさん」
「……じゃないな」
先ほど聞こえた声は恐らくバクスを呼んだものだろう。
まったく、と言って立ち上がりバクスは玄関へと向かった。
「ったく何だって飯時にくるかね……誰だ?」
ガチャリと音を立てやや乱暴に開かれるドア。
扉の外にいた人物はその勢いに驚いたように慌てて後ろへと下がる。
「あっバクスさん!」
「……お前、ガイか?」
「そうです! ガイです、ご無沙汰してますバクスさん!」
扉の外にいたのはバクスの知り合いだったようだ。
短めのくすんだ灰色の髪、灰色の目。堀はやや深めでイケメン……
とまでいかないが、なかなかに愛嬌のある顔をしている。
格好はやや軽装に見えるが全身に防具を着込み、腰には短剣を背中には弓を背負っているようだ。恐らくは探索者であろう。
「……まあ、なんだとりあえず入れ」
「ありがとうございます!」
最初は訝しむ顔をしていたバクスだが、何かを思いついたのかガイと名乗る男性宿へと招いたようだ。
食堂の扉を開け、中へと二人入って行く。
「ええ、すごく燃費いいみたいで。四六時中つかっても平気!と神様はおっしゃってましたよ、実際ほとんど疲れてないみたいですし」
先ほどのショックから立ち直ったバクスであるが、さっそく先ほどの力について咲耶に質問している。
質問に答えつつ先ほど回収した洗濯物を宿の外に運ぶ咲耶、次は先ほどの加護で洗濯をするらしい。
「ほい、母ちゃん。石鹸ねー」
「ん、ありがと命」
街の外からは見えない中庭の一角にて石鹸を受け取った咲耶はいったん籠を下におろす。
「命、悪いけどお水だしてもらえないかしら。量は洗濯機一杯ぐらいで」
「ほいほい。精霊さんお水ちょっとだしてくださいなー」
咲耶の願いをきいて加賀が精霊魔法を使用する。
詠唱とよぶにはあまりにも気の抜ける言葉ではあるが、それでも精霊はしっかりと答えてくれたようだ。
空中に水球が現れじわじわとその大きさを拡大していく。
「そのへんですとっぷー」
「ありがとう。それだけあれば十分よ」
空中に浮かぶ水球に向け、籠にはいった洗濯物と石鹸を放り込む。
すると水球はぐるぐると中に入った洗濯物と一緒に回転しだす。そして逆回転。
透明な洗濯機があればこんな光景が見れるのだろうか、水の回転する勢いなど地球で使用していた洗濯機と遜色ないレベルである。
「なるほど洗濯もこうやってできると……あのサービス出来るようになるかも知れんか……ちなみにどれぐらいの量まで一度に洗えますか?」
「それはやってみないと……命、悪いけどお水もっと出して貰えないかしら?」
咲耶に言われほいほいと水を出していく加賀。そしてどんどん増えて行くぐるぐると回転する水球。
「加賀、咲耶さんその辺で止めてくれ」
その数が30を超えるといったあたりでバクスがストップを掛ける。
「これ以上増やすと外から見えちまう……それで疲労とかありますか?咲耶さん」
「無いと思います……あっても気になるほどじゃないですね」
その言葉に満足げに頷くバクス。
その後食堂に戻ってもバクスは終始ご機嫌な様子だ。
人手が足りないのと人件費がかかりすぎる為半ば諦めていたあるサービス。それを実現できる目処がたったの為である。
「良かったすね、バクスさん」
「ん、ああ。本当助かるよ……これなら来週あたりから宿開いても良さそうだな。……ああ、もちろん最初は受け入れる客の数は絞っていくぞ?」
「最初はそれがいいでしょねー……それじゃそろそろ良い時間だし、夕飯仕上げちゃいますよー」
気がつくと日が暮れ出す時間となっていた。
気合い入れるように帽子を被り直し厨房へと向かう加賀。ゆるい口調とは裏腹に、何時になく気合いのはいった表情をしているのは久しぶりに会えた母のに美味い料理を食べさせたいが為だろう。
「おまたっせー」
「おーすっげー具だくさん。うまそー」
湯気を立てる器がテーブルに並ぶ。
加賀が数週間掛けて作ったビーフシチュー、具はオーソドックスにもも肉と芋、人参、玉ねぎの3種のようだ。
実際にはもっと大量の材料が使われているのだろうが、作る過程でそれらの材料はスープと一体化してしまっている。
「んっ、ビーフシチューはやっぱうめーなあ」
辛抱たまらんとばかりに早速シチューにとりかかる八木。
まずはスープを一口続いて大きめに切られた肉に取りかかる。
一応ナイフも置かれているが必要ないようだ、スプーンで問題なく切れている。
「恐ろしいぐらいのこくと旨みだな……肉に味がしみこんでてやばい」
一口食べてその味の虜となるバクス。
一度感想を述べた後はただひたすらに手を動かし続けている。
たまに喋ってもやばいとしか言っていない。
「うん、前より力強い味になってるね……お肉の違いかしら。あ、命。すじ肉もあるの?」
「うん、あるよー。皆お代わりするだろうし、次はすじ肉ねー」
すじ肉と聞いて顔をほころばせる咲耶。どうやらもも肉よりも好みらしい。
「……ん?」
「どうしましたバクスさん? 口に合わなかったですか……?」
ふいに手を止めてあたりを軽く見渡すバクス。
加賀の問いに対しすまんと軽く謝ると再びシチューにとりかかろうとする。
「何か聞こえた気がしたんだがな、たぶん気のせい……」
「……バ…スさん」
「……じゃないな」
先ほど聞こえた声は恐らくバクスを呼んだものだろう。
まったく、と言って立ち上がりバクスは玄関へと向かった。
「ったく何だって飯時にくるかね……誰だ?」
ガチャリと音を立てやや乱暴に開かれるドア。
扉の外にいた人物はその勢いに驚いたように慌てて後ろへと下がる。
「あっバクスさん!」
「……お前、ガイか?」
「そうです! ガイです、ご無沙汰してますバクスさん!」
扉の外にいたのはバクスの知り合いだったようだ。
短めのくすんだ灰色の髪、灰色の目。堀はやや深めでイケメン……
とまでいかないが、なかなかに愛嬌のある顔をしている。
格好はやや軽装に見えるが全身に防具を着込み、腰には短剣を背中には弓を背負っているようだ。恐らくは探索者であろう。
「……まあ、なんだとりあえず入れ」
「ありがとうございます!」
最初は訝しむ顔をしていたバクスだが、何かを思いついたのかガイと名乗る男性宿へと招いたようだ。
食堂の扉を開け、中へと二人入って行く。
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