異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

5話 「出会い」

「加賀!?」

倒れた加賀に八木は声をかけるが加賀はぐったりとしておりまったく反応を見せない。
八木は痛めた足を引きずりながら加賀の元へと向かう。

「お、おい!加賀だいじょうぶか!?」

近づいて呼びかけるも加賀から返事はない。
八木は頭をあまり動かさないように気をつけながら外傷がないか確認するが、出血している箇所は無いようだ。
ただその顔はひどく青白く、呼吸も苦しそうにしている。

ここで八木は加賀が言っていた言葉を思い出す。

「……魔力全部持って行っていいから!」

魔力を全部持って行っていい、つまり今の加賀は魔力が空と言う事
ならば今の加賀の症状は魔力切れによるものではないか、と八木は考えた。

「魔力切れが原因でぶっ倒れたのか……?なら放っておけば回復しそうな気もするが……いや」

放っておけば回復する、一瞬そう考えた八木だが自らその言葉を否定した。
放っておけば回復するかは分からない、何らかの処置を施さなければ回復しない……最悪の場合悪化する可能性すらある。
それに、外傷がないだけで内部にダメージを負っている可能性もある。
とにかく街にいって医者にでも見せないとまずい、そう八木は判断した。

「とにかく街に向かおう、今は猪動けないでいるが何時また動けるようになるか分かったもんじゃねえ」

そう八木が言った直後、猪の右肩部分をおおっていた土がバキバキと音を立てながら崩れ落ちる。

「げぇっ!?」

全身の動きが封じられていた為よく分からなかったが、猪は土の束縛から逃げ出そうともがき続けていたようだ。
崩れ落ちた右肩部分を起点にピシピシという音と共に徐々にひび割れが広がっていく。

「くっそ、こんなフラグ回収はいらねーってのに!」

「PGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

八木は加賀を担ぎ再び逃げ出そうとする。
だが先ほどやられた足が痛み、加賀を担いだ状態では歩くことすらままならない。
そうこうしている間にもひび割れは広がって行く、仮にこのまま加賀を担いで逃げたとしてもまず逃げ切ることは不可能だろう。
八木は少しの間思案した後、加賀の体を地面にそっと横たえるとあたりを見回し、人の頭程もある石を見つけると担ぎ上げ猪の元へと近づいて行った。

「動けないんだろ?……だったら今のうちに攻撃すりゃいいじゃねえか!」

八木は両手で石を頭上に掲げ、気合の声と共に猪の頭へと振り下ろした。

「PGY!?」

鈍い音が辺りに響く、石が当たった猪は一瞬ひるんだ様子をみせるがすぐに八木を血走った目でにらみ付ける。
一撃では倒せない、そう判断した八木は再び石を頭上に掲げた。

街道ににぶい音と猪の悲鳴が響いている。
何度か石を叩き付けた事により猪はかなりのダメージをおったようだ、その額は大きく割れ血があふれ出し骨が露出している。
だが石を叩きつその衝撃によるものだろう、猪を覆う土は全体にひびが入り特に首まわりは今にも崩れ落ちそうだ。


「うおらぁああっ!!死にさらせー!!!」

八木は今までで一番大きく石を掲げ叫ぶと同時に石を猪の血にまみれた額へと叩きつけた。
その威力はかなりのものだ、猪の額の骨はひびが入り……同時にその衝撃で前半身を覆っていた土と八木が手にしていた石が砕け散った。

「あ……ぐあっ!?」

半身が自由になった猪は一気に暴れだした、首を大きく振るとその長大な牙を使い八木をはじき飛ばす。

「PGYYYYYYY!!!」

「うぐ……くっそ」

猪はすぐさま八木へと突進しようとするがまだ後ろ足が土で固定にされてることに気がつくと、身をよじり土を砕こうとする。
もうだめか……八木がそう呟いた直後──

──猪の斜め後方にある森の中から何者かが飛び出してきた。
そいつは刃渡り1m程もある肉厚な剣を両手に持ち、簡素な鎧を着込んだ戦士風の男であった。

男は猪へと一気に駆けより剣を振りかぶるとフッと息を吐き猪の首へとその刃を叩き付ける。
男の腕か剣の切れ味かはたまたその両方だろう、猪の首は皮を一枚残して断ち切られていた。

「あ……」

「だいじょうぶか?」

男は目の前の光景に頭がついていかずぽかんとしている八木に声をかけ無事であることを確認すると、そばで倒れている加賀の元へと向かい、怪我の有無を確認する。

「こっちの子は怪我は無さそうだな、みた感じ魔力切れか?」

加賀に怪我がない事を確認すると男は八木の方へと振り返り声をかけた。

「助けに入るのが間に合って良かった、無事でなによりだ……って大丈夫か?」

「ああああありがとおおぅうううう!!」

八木は自分たちが長けられたことを理解したのだろう、今までの恐怖や緊張から涙ぐみ、感動から思わず男へと抱きついていた。

「うおぉああ!? っちょ、抱きつくな!!」

「もうだめかと思ったああああああ!!!」

「は!な!せ!」

鈍い音があたりへと響いた。

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