天使に紛れた悲哀の悪魔

堕天使ラビッツ

第4章 込み上げる怒り

 こうしてはいられない、ゼル達がわたしのいる場所を見つける前にこの状況を打破しなくては、ゼルが危ない。せめてもう一体……精霊と契約出来たら。

 そんな名案を思いつくと、わたしはすぐに行動に出た。時間は僅か、ゼルの父がわたしに怯んでる間だけ。集中して魔力を集めるんだ。

「我の魔力に値する精霊……汝、我の元に姿を現せ」
「や、やめろ……」

 突然光を纏ったわたしに、きっとゼルの父は驚愕しえ怯えているだろう。でもそんな声はわたしには届かない。聞こえるのは音だけ……。

《私は水を司る者、ウンディーネです。私の力、其方に授けましょう》

 姿は見えないけど確かに聞こえた、先程とは違ってちゃんと名前も。これが契約……?

「我の魔力に値する精霊……汝、我の元に姿を現せ!ウンディーネ!!」

 また、勝手に口が開き詠唱を始めた。魔法とは不思議なもので、聞き覚えもない言葉を勝手に口走る。

 そんな事を考えていると、地面が輝いて揺らぎ、現れた1人の人魚。穏やかな顔つきに、ロングウェーブの青髪。まさに美しい天使のようだった。

「ーー出来た……」

 わたしは始めて魔法に成功し、感動で胸が一杯だった。だが、ゼルの父は今までのがハッタリで演技だという事に気付いたようで、凄い剣幕で睨みつけてきた。

「貴様……! やはりまだ魔法も使いこなせぬ新米だったのか!!」
「ごめんなさい。……でもこれで貴方を倒してみせます!」

 わたしの言葉と共に、ウンディーネは攻撃を始める。手のひらから水流を放ち、その水流は刃へと形を変える……

 ゼルの父は必死に剣でなぎ払い、ウンディーネは攻撃を続ける。その繰り返しがしばらく続いた。次第に体が重く、息が切れ始める。

 ……もしかして、召喚魔法は召喚士の魔力を消費するの? なんだか体が重く感じてきた……

《このままでは貴女の身体が危険です、もう少しだけ魔力を下さい。この一撃で……必ず決めてみせます》

 わたしが頷くと、水流の刃は数十へと増え始めた。ゆっくりとゼルの父を囲み、まるで牢獄のよう。

《遍く水の刃に裁かれなさい。ーーエターナルアクアミスト!!!》

「こ、国王陛下! お助けを……!」

 ゼルの父の必死な命乞いに、国王陛下は聞こえないフリをしてみせた。自分の手下が助けを求めているというのに……。

「どうしてこんな人の元についたのです?! ゼルを捨ててまで……そんなの酷すぎます!!!」

 涙の訴えと共にわたしの視界はかすみ、意識は途絶えた。



 ………………



 突如聞こえてきた凄まじい爆発音を頼りに、俺と白露は音のした建物に入ると、そこには倒れたサリーと一人の男、さらには国王陛下が居た。この男がゼルの父だろう。
 国王陛下が構えた銃の先にはサリーの頭。どうやら撃ち抜く気みたいだ。

「さぁ、サリーを返してもらいましょうか」
「……やらぬと言ったら?」
「安心してください、敬意を払って綺麗に埋葬して差し上げます」

 込み上げてくる怒りを必死に抑えて、冷静なフリをした。本当は怒りに任せて叫び、今すぐにでもその弱りきった心臓を刺して息の根を止めてやりたいさ。だが感情に身を委ねて得する事などない。いつものように慎重に戦略を練らなくては……

 まず、国王陛下には核兵器がある、それは今握っている銃の形をした物なのか、果たして別の物なのか。どちらにせよ、運任せであれを爆破させでもしたら、サリーの頭諸共、俺達まで吹っ飛んでしまう。

「父上、どうしてゼルの父と居るのですか!!!」
「ゼルを殺す為に決まっておろう?」

 その言葉を聞くと同時に、白露は憤怒に満ちた表情を見せた。どこか狂気めいた殺気が籠っているようにも見える。

「……貴様など父ではない!! ただの極悪非道な奴じゃ!!!」

 白露は怒り叫び、弓を構えた。その弓は炎を帯びている。
 驚いた、ゼルと似た魔法を使うのか……

「この娘を撃ち抜くのが先か、試してみるか?」

 白露がサリーを見捨てられないのを知ってか、国王陛下は得意げに笑った。こいつはどこまでも腹が立つ。

「茶番は終わりだ。この娘諸共始末してやろう」

 国王陛下は小刀を取り出した。やはり銃型の物は核兵器だろう。いつでもサリーの頭を撃ち抜けるように核兵器もしっかり握っている。

 サリーの首筋に刃を添えられては、下手に動けない。さて、どうしたものか。と、いくつか戦略を練り始めたその時だった……

「それはこっちの台詞なんだよ!!!」

 沢山の窓が割れるような爆発音と共に登場したのはゼル。表情は今まで見た事のない怒りで満ちていて、体全体を炎が纏っていた。


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