俺にはこう見えている

きいちゃん

俺には母ちゃんがいない

俺の名前はカイト。
俺の家族は友達の家族と少し違った。

無口で無愛想で、あまり他人と喋らない。
だけど俺の前だけでは優しくて冗談を言う父ちゃん。

叱ると怖いけどお菓子をいっぱいくれるばぁちゃん。

いつも家事をしてくれて優しく抱きしめてくれる大ばば。

公園やお祭りによく連れて行って遊んでくれる大じじ。

父ちゃんの2つ下の弟で
いつも俺を子供扱いする。
だけど一緒にゲームをして遊んでくれるヒカル。

この6人で生活している。

母親はいない。

物心ついた時からいなかった。
保育園の友達には母ちゃんがみんないた。
だから何で俺には父ちゃんはいるのに母ちゃんはいないんだろうと疑問に思った。

カイト「何で俺には母ちゃんがいないの?」

父ちゃんとお風呂に入ってる時に聞いてみた。
いつも仕事から帰ってきたら俺とお風呂に入る。
お風呂はいつもバトルフィールドだ。
悪の魔王に変身した父ちゃんをやっつけて世界を守るのが俺の日課。

でもある日、バトルを始める前に何となく聞いてみた。

お風呂場だったから少し俺の声が響いた。

数秒の沈黙の後に父ちゃんの低い声が聞こえた。

父ちゃん「カイトに母ちゃんはいるよ。」

カイト「え!いるの!?」

いないのが当たり前だった俺には想像していない解答に俺は大きな声が出て更に響いた。

父ちゃん「でも、父ちゃんと母ちゃんは喧嘩したからバイバイしたんだ。」

父ちゃんは俺の頭に手を置いて優しく撫でた。

俺は3歳で母ちゃんの存在を初めて知った。
そもそも存在していないと思っていたから驚いた。

父ちゃん「早く上がってご飯食べるぞ!」

父ちゃんはそう言って頭と身体を洗ってくれた。
俺は小さいからまだ自分の身体の洗い方を知らない。

カイト「じゃあさ、母ちゃんはどんな顔してるの?」

父ちゃん「動いたら洗えないだろ。」

じっとしていられない俺を力強く洗っていく。

身体を洗うときは曇った鏡で絵を描くのが好き。

今日は何を描こうかなぁー。
そうだ、好きな仮面ライダー描こう‼︎

あ、仮面ライダーは何か好きな食べ物あるのかな⁇
俺が好きなお菓子を描いて食べさせてあげよう。

父ちゃん「カイト、ーーーー…!」

カイト「…。」

こっちには敵の手下を描いてやっつけてやろう。
仮面ライダーは強いから何人でも倒せる。
沢山描いちゃえ‼︎

するといきなり、描いていた手を掴まれた。
後ろを振り向くと父ちゃんだった。

カイト「何⁇もうちょっとだけ…」

父ちゃん「何回もおいでって言ってるだろ‼︎それ描いたら終わりだぞ。」

いつのまにか既に俺の身体は綺麗になっていた。
全然聞こえて無かったが
父ちゃんは俺をタオルで拭くために
何度も呼んでいたらしい。

お風呂から上がった父ちゃんは
いつものように一服しに外に出た。

カイト「母ちゃんはどんな人なの?」

俺は母ちゃんの話を思い出して
リビングにいた大ばばに聞いた。

大ばば「さぁねー。父ちゃんに聞いてごらんなさい。」

大ばばは、優しい笑顔で言った。
この笑顔が大好きだ。
安心できてとっても温かい気持ちになる。

お菓子が無くなって悲しい時も
父ちゃんがお化けに変身して驚いた時も
いつもこの笑顔に泣きついていた。

父ちゃんが戻って来た時に、また聞いた。
だけど父ちゃんはそれ以上は言わなかった。
何処にいるのか、生きているのか、全く知らないって。

でも、俺も今どうしてるかって事には
そこまで興味もなかったから話は終わった。

この生活が当たり前過ぎて
寂しいとか、母ちゃんがいたら
なんて考えることは無かったから。

保育園のイベントには父ちゃんが
仕事を休んで来てくれた。
友達の家は母ちゃんが来る方が多かったけど
全然気にならなかった。

だって保育園の友達や先生に
若くてカッコいいお父さんだね。
って言われるのが嬉しかったから。

俺は父ちゃんが大好きだ。

仕事で送り迎えが出来なかった時は
大じじが来てくれる。

家族がいるから母ちゃんの事はあんまり気にしなかった。

そしてその時、リビングのテレビに
子供番組が流れていた。
俺はそれに夢中になって
母ちゃんの話は既に頭から消えていた。




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