心装人機使いのあべこべ世界旅行
8.初めての街 【着】
体が一定のリズムで揺れていてとても心地がいい。
耳からは静かな風音が、鼻からはずっと嗅いでいたくなるような甘い香りが、そしてなによりも手からは暖かい感触がする。
「セス、もしかして起きたのかな?」
風の音に乗せて、耳に心地いい声も聞こえる。
(このまま、ゆっくりと寝ていたいな〜)
なんて思っていると、背中に硬い感触……どうやら地面に降ろされたようだ。
「セス、おきてるんだろ? 苦しそうな声が止んでから、いきなり……その……手を握ってきたり、髪の匂いを……嗅いでたり、恥ずかしいからやめてくれないかな」
どうやら、少しやりすぎてしまったようだ。
バレていないと思ったが、どうやら想像以上に俺が動いてしまっていたようだ。
「うん、おはようクオン……ごめんね、心地よくてついやっちゃったよ」
「全く……私だって冷静に見えるかもしれないが、いつも心の中ではドキドキしてるんだよ。それをセスから求められたら……困っちゃうよ」
そう言うとクオンは、顔をリンゴのように顔を赤く染め、目線を俺とあわせないようにそらした。
なぜ、こんな性格で、可愛らしい動作をする彼女が嫌われるのかが分からない……
逆に、この世界の人たち視点でクオンを見ると、とてつもないブサイクだから……うん、考えたら負けだな。俺は俺! それでいいかな。
「ごめん、これからはちゃんと断ってからするね」
「いや、そういうことを言ってるんじゃないんだが……まあ、いいか」
そう言うと、クオンは立ち上がり、手を差し出す。
「立てるか? もう少しで街が見えるから、精霊とどんな話をして部屋から出てきてもらったのか、歩きながら聞きたいな」
「あ……うん、一人で歩かせちゃってごめんね」
俺はクオンの手を握り立ち上がる……そういえば、ラティスは戻ってきているのだろうか。
《ラティス、いるか?いるなら返事をくれ〜》
《ハイハイ〜♪ アタシはここにいるよ!》
初めて話をした頃のように明るい口調は、間違いなくラティスだ!しっかり戻ってこられていて良かった。
「いや、気にすることはないよ。言ったよね、もっと頼ってくれって……これからもずっと一緒なんだから」
《セス、アタシを受け入れてくれてありがとね……ずっとついて行くから大切にしてね》
耳から入ってくる声と、内側から聞こえる声がグチャグチャになる。
何もわからん……たった二人の言葉も聞き取れないなんて、どうやら俺には聖徳太子の才能はないようだ。
「ごめんクオン! 待って待って! 妖精の声と被っちゃって聞こえなかった。なんか対処法ないか聞いてみるからちょっと待ってて」
《ごめんラティス、俺の口使ってもいいから、耳から聞こえるように喋ることはできるか?》
《できるよ! 別に口を貸してもらう必要もないから、今度からそっちで喋るね!》
《助かるよ、それで頼む》
ラティスとの話を終えクオンの方を見ると、少し寂しげにこちらを見ていた。
(しまった!! よく考えたら、クオンの発言を聞かずに、一方的に会話を切り上げてしまった!)
「ご……ごめん! クオン……」
「今……結構大事なこと言ってたんだよ」
やっぱり大事なこと言ってたのか!?
こんな時のための言葉が思い浮かばない……どうしよう、嫌われてしまう。
色んな言葉を考え、うじうじしているとクオンが口を開く。
「ふぅ、まあいいけどね。でも、こういうことはあまりしないで欲しいな……目の前にいるのに遠くに感じてしまうよ」
「わ……わかった、次からはクオンを一番にする……約束する!」
「クハハッ! 言質はとったからね────それよりもほらっ! 街が見えたよ」
小高い丘を上がりきった所で前を向くと、そこにはRPGゲームとかでよく見る、お城や時計塔が見えた。
遠目から見てもかなり高く見えるのだから、街の中で見れば、首を痛めてしまいそうだ。
クオンも許してくれたようなので、空気を変えるため少し大きな声を出す。
「うわぁ、スゲェデカイな!! 初めて本物の城を見たよ!!」
「私も初めてここの城を見たときは、結構な大きさで驚かされたよ。恐らく、人族のお城の中では上位に入る大きさだろうね」
これと同じくらいの城がまだあるのか! それに他の種族なら、もっとデカイ建物があってもおかしくないよな〜。世界を回るのが楽しみになってきた!!
「キャハハ! セスったら興奮しすぎだよ〜。アタシなんか、もっと大きいところ知ってるよ〜」
「!? ……だ、誰だ! ……いや、敵意や存在を感じられない……相当な強さだよ……セス、気をつけて」
そういえば、クオンにラティスの紹介をまだしていなかったな。
「クオン落ち着いて。今喋ったのは、精霊のラティスだよ……結構好奇心旺盛で、よく喋るんだけど、頭の中で喋られると外と中でグチャグチャになるから、外で話してもらうようにしたんだ。驚かせてごめんね」
「い、いや……構わないけど。驚いてしまうから、こういうのは早めに言ってほしいな」
クオンの言う通りだ。もしこの一連の動作が、敵から身を隠す時に行われていたとしたら……そう考えると、前世でいう『ほう・れん・そう』は必要なんだと、改めて実感させられた。
「そうだね、俺の認識が甘かったよ。些細なことで大怪我なんてしたら大変だもんね」
「アタシもいきなり声を出してごめんなさい」
「分かってくれたのならいいよ。セスは物わかりがいいから、次からは気をつけるだろうし。ラティスちゃん……でいいのかな、君もちゃんと謝れることはいい事だよ。これからもよろしくね」
実際にラティスの声がしているのはどうやら俺のお腹の辺りからのようだ。
クオンとラティスが会話しているようなのだが、話の内容がどうやら、俺がラティスの名付けをしたことについてだった。
「へぇ、風に吹き飛ばされてもずっと見つめてねぇ」
「そうそう、あの熱い視線は────」
「なんか羨ましいな、私なんか初対面の時は────」
女三人集まれば姦しいってよく言われてるけど、二人でも十分うるさいと思う。
────────
「さあ、ここがイレーンの街だよ」
クオンが振り返り、街の入口の仕組みを教えてくれる。
条件は二つあり、どちらかを満たしていれば入れるようだ
・身分証を見せる。ない場合は交通費を払う。
・身分証を持つ者の奴隷であること。(ただし、主人も同伴していること)
その他細かい条件もあるようだが、これだけ覚えていればまず問題ないだろうとのことだ。
「とりあえず、セスは今回だけお金で入ることにしようか。大した額ではないから、そんなに申し訳なさそうな顔をしなくてもいいよ」
「でも……」
「クハハッ! なら、いつになってもいいから、冒険者組合に所属して、稼いだお金で返してくれればいいよ」
「うん……それならいいかな……ありがとうクオン。絶対返すからね」
「どうせ返してもらうならお礼はいらないけど、せっかくだし受け取っておくよ」
結局、この世界でも借金をしてしまった……
人というのは、死んでもあまり変わらないのかもしれない……だけど、今回はまだ返せる範囲だから頑張らなければ!!
「んじゃ、入ろうか」
「う、うん」
大きな門をくぐり、初めて生で見た西洋の建物の数々に、内心感激していた。
(カッコイイな〜壁の色使いとか家の形とかも見てて飽きないな)
「クハハッ!! セス、今凄く子供みたいだよ。迷子にならないようにね」
「ならないよ! それよりも冒険者組合に行くんでしょ?」
「そうだよ、登録しておかないと身元の証明ができないからね」
軽く街の中を説明してもらいながら歩いていると、周りからまるで動物園のパンダを見るような視線が、俺たちに集中していることに気づく。
「セス、気にする必要は無いよ。相手の目線になって考えてみればこれは当たり前のことだよ。私でもジロジロ見てしまっていたかもしれない」
「うーん、そうかもしれないけど」
「私はこれでも、この見た目でずっとやってきたんだ。用は慣れだよ、慣れ」
そう言うと、クオンが大きな建物の入口で止まり振り返る。
「セス……色んな挑発とか飛んでくるけど、気にしちゃダメだよ」
「それくらい分かってるよ……さっきも言ったけど子供じゃないんだよ」
「クハハッ! 分かっているならいいかな。それじゃ、入ろうか」
異世界転移してから初めての冒険者組合、一部の体質とか性格とかが入れ替わっているのなら、きっと中にはたくさんの女性がいることだろう。
(どんな人達がいるのか、楽しみだな〜)
俺は呑気に考えながら、クオンに続いて扉の奥へ歩いていった。
耳からは静かな風音が、鼻からはずっと嗅いでいたくなるような甘い香りが、そしてなによりも手からは暖かい感触がする。
「セス、もしかして起きたのかな?」
風の音に乗せて、耳に心地いい声も聞こえる。
(このまま、ゆっくりと寝ていたいな〜)
なんて思っていると、背中に硬い感触……どうやら地面に降ろされたようだ。
「セス、おきてるんだろ? 苦しそうな声が止んでから、いきなり……その……手を握ってきたり、髪の匂いを……嗅いでたり、恥ずかしいからやめてくれないかな」
どうやら、少しやりすぎてしまったようだ。
バレていないと思ったが、どうやら想像以上に俺が動いてしまっていたようだ。
「うん、おはようクオン……ごめんね、心地よくてついやっちゃったよ」
「全く……私だって冷静に見えるかもしれないが、いつも心の中ではドキドキしてるんだよ。それをセスから求められたら……困っちゃうよ」
そう言うとクオンは、顔をリンゴのように顔を赤く染め、目線を俺とあわせないようにそらした。
なぜ、こんな性格で、可愛らしい動作をする彼女が嫌われるのかが分からない……
逆に、この世界の人たち視点でクオンを見ると、とてつもないブサイクだから……うん、考えたら負けだな。俺は俺! それでいいかな。
「ごめん、これからはちゃんと断ってからするね」
「いや、そういうことを言ってるんじゃないんだが……まあ、いいか」
そう言うと、クオンは立ち上がり、手を差し出す。
「立てるか? もう少しで街が見えるから、精霊とどんな話をして部屋から出てきてもらったのか、歩きながら聞きたいな」
「あ……うん、一人で歩かせちゃってごめんね」
俺はクオンの手を握り立ち上がる……そういえば、ラティスは戻ってきているのだろうか。
《ラティス、いるか?いるなら返事をくれ〜》
《ハイハイ〜♪ アタシはここにいるよ!》
初めて話をした頃のように明るい口調は、間違いなくラティスだ!しっかり戻ってこられていて良かった。
「いや、気にすることはないよ。言ったよね、もっと頼ってくれって……これからもずっと一緒なんだから」
《セス、アタシを受け入れてくれてありがとね……ずっとついて行くから大切にしてね》
耳から入ってくる声と、内側から聞こえる声がグチャグチャになる。
何もわからん……たった二人の言葉も聞き取れないなんて、どうやら俺には聖徳太子の才能はないようだ。
「ごめんクオン! 待って待って! 妖精の声と被っちゃって聞こえなかった。なんか対処法ないか聞いてみるからちょっと待ってて」
《ごめんラティス、俺の口使ってもいいから、耳から聞こえるように喋ることはできるか?》
《できるよ! 別に口を貸してもらう必要もないから、今度からそっちで喋るね!》
《助かるよ、それで頼む》
ラティスとの話を終えクオンの方を見ると、少し寂しげにこちらを見ていた。
(しまった!! よく考えたら、クオンの発言を聞かずに、一方的に会話を切り上げてしまった!)
「ご……ごめん! クオン……」
「今……結構大事なこと言ってたんだよ」
やっぱり大事なこと言ってたのか!?
こんな時のための言葉が思い浮かばない……どうしよう、嫌われてしまう。
色んな言葉を考え、うじうじしているとクオンが口を開く。
「ふぅ、まあいいけどね。でも、こういうことはあまりしないで欲しいな……目の前にいるのに遠くに感じてしまうよ」
「わ……わかった、次からはクオンを一番にする……約束する!」
「クハハッ! 言質はとったからね────それよりもほらっ! 街が見えたよ」
小高い丘を上がりきった所で前を向くと、そこにはRPGゲームとかでよく見る、お城や時計塔が見えた。
遠目から見てもかなり高く見えるのだから、街の中で見れば、首を痛めてしまいそうだ。
クオンも許してくれたようなので、空気を変えるため少し大きな声を出す。
「うわぁ、スゲェデカイな!! 初めて本物の城を見たよ!!」
「私も初めてここの城を見たときは、結構な大きさで驚かされたよ。恐らく、人族のお城の中では上位に入る大きさだろうね」
これと同じくらいの城がまだあるのか! それに他の種族なら、もっとデカイ建物があってもおかしくないよな〜。世界を回るのが楽しみになってきた!!
「キャハハ! セスったら興奮しすぎだよ〜。アタシなんか、もっと大きいところ知ってるよ〜」
「!? ……だ、誰だ! ……いや、敵意や存在を感じられない……相当な強さだよ……セス、気をつけて」
そういえば、クオンにラティスの紹介をまだしていなかったな。
「クオン落ち着いて。今喋ったのは、精霊のラティスだよ……結構好奇心旺盛で、よく喋るんだけど、頭の中で喋られると外と中でグチャグチャになるから、外で話してもらうようにしたんだ。驚かせてごめんね」
「い、いや……構わないけど。驚いてしまうから、こういうのは早めに言ってほしいな」
クオンの言う通りだ。もしこの一連の動作が、敵から身を隠す時に行われていたとしたら……そう考えると、前世でいう『ほう・れん・そう』は必要なんだと、改めて実感させられた。
「そうだね、俺の認識が甘かったよ。些細なことで大怪我なんてしたら大変だもんね」
「アタシもいきなり声を出してごめんなさい」
「分かってくれたのならいいよ。セスは物わかりがいいから、次からは気をつけるだろうし。ラティスちゃん……でいいのかな、君もちゃんと謝れることはいい事だよ。これからもよろしくね」
実際にラティスの声がしているのはどうやら俺のお腹の辺りからのようだ。
クオンとラティスが会話しているようなのだが、話の内容がどうやら、俺がラティスの名付けをしたことについてだった。
「へぇ、風に吹き飛ばされてもずっと見つめてねぇ」
「そうそう、あの熱い視線は────」
「なんか羨ましいな、私なんか初対面の時は────」
女三人集まれば姦しいってよく言われてるけど、二人でも十分うるさいと思う。
────────
「さあ、ここがイレーンの街だよ」
クオンが振り返り、街の入口の仕組みを教えてくれる。
条件は二つあり、どちらかを満たしていれば入れるようだ
・身分証を見せる。ない場合は交通費を払う。
・身分証を持つ者の奴隷であること。(ただし、主人も同伴していること)
その他細かい条件もあるようだが、これだけ覚えていればまず問題ないだろうとのことだ。
「とりあえず、セスは今回だけお金で入ることにしようか。大した額ではないから、そんなに申し訳なさそうな顔をしなくてもいいよ」
「でも……」
「クハハッ! なら、いつになってもいいから、冒険者組合に所属して、稼いだお金で返してくれればいいよ」
「うん……それならいいかな……ありがとうクオン。絶対返すからね」
「どうせ返してもらうならお礼はいらないけど、せっかくだし受け取っておくよ」
結局、この世界でも借金をしてしまった……
人というのは、死んでもあまり変わらないのかもしれない……だけど、今回はまだ返せる範囲だから頑張らなければ!!
「んじゃ、入ろうか」
「う、うん」
大きな門をくぐり、初めて生で見た西洋の建物の数々に、内心感激していた。
(カッコイイな〜壁の色使いとか家の形とかも見てて飽きないな)
「クハハッ!! セス、今凄く子供みたいだよ。迷子にならないようにね」
「ならないよ! それよりも冒険者組合に行くんでしょ?」
「そうだよ、登録しておかないと身元の証明ができないからね」
軽く街の中を説明してもらいながら歩いていると、周りからまるで動物園のパンダを見るような視線が、俺たちに集中していることに気づく。
「セス、気にする必要は無いよ。相手の目線になって考えてみればこれは当たり前のことだよ。私でもジロジロ見てしまっていたかもしれない」
「うーん、そうかもしれないけど」
「私はこれでも、この見た目でずっとやってきたんだ。用は慣れだよ、慣れ」
そう言うと、クオンが大きな建物の入口で止まり振り返る。
「セス……色んな挑発とか飛んでくるけど、気にしちゃダメだよ」
「それくらい分かってるよ……さっきも言ったけど子供じゃないんだよ」
「クハハッ! 分かっているならいいかな。それじゃ、入ろうか」
異世界転移してから初めての冒険者組合、一部の体質とか性格とかが入れ替わっているのなら、きっと中にはたくさんの女性がいることだろう。
(どんな人達がいるのか、楽しみだな〜)
俺は呑気に考えながら、クオンに続いて扉の奥へ歩いていった。
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