心装人機使いのあべこべ世界旅行

えいせす

1.プロローグ

「やっぱり、怖いな」

 人影が見えなくなった地下鉄で俺は呟いた。
 目の前のトンネルの闇が、今にも俺の身を喰らいに来るんじゃないかと想像し、馬鹿らしい考えだと少しにやける。

「さよなら」

 俺の身を食らうのは、闇などではなく……
 眩しい光を前方に取り付けた鉄の塊なのだから。





「……い………たる…こ」
 何か言われた気がする。
 俺は…確かに死んだ筈なんだけどなぁ。
 …たる……樽? 確かに太ってたけど、樽って言われるほどじゃ無かったんだけどな。
 気になったので聞くことに集中すると……


 「おい!! メンタル雑魚!!」


 とても綺麗な声で汚い言葉が聞こえてきた。

「お、起きたようだな! そのまま私の話を聞くのに集中してるんだぞ!」

 どうやらお相手には俺の考えてることが筒抜けのようなので、恐らく神様とか天使とかそこら辺だろう。
 常日頃から転生したいとか、転移したいとか考えていたのだから、これ位のことは想像するのに難しくはない。

「聞くのに集中しろと、私は言ったはずだよな!!」

 彼女の言う通りに話を聞くのに集中しなければ……

「よしっ物分りが良くて助かるぜ、まず私はお前の想像通り天使だ! だが、用事は違う…お前には罰を与えるために此処へ呼び出させてもらった」

 罰……か…
 昔母親に、自殺をすると天にも地にも行かずに、無に行くと聞いたことがあったな。

「残念だがそれはハズレだ! お前には私の管轄している世界で、下働きとして使わせてもらう」

 ………んむ? 転生できるパターンなのか?!

「まあ、結果的には転生にはなるが、お前の記憶の中にあるような自由な行動はできんし、させないぞ」

 全然構わないです!! 借金が無くて人生リセットさえできれば…!!

「けっ!! 前の世界のことなんか忘れちまえよな。んで? どんな世界がいいんだ? 私の管轄内なら近い所を選んでやるよ」

 …めっちゃ好待遇じゃないか!
 それじゃあ早速────



「注文が多かったが、一番近いのがこんな感じの世界だな! しっかり選んだんだからちゃんと働けよ!!」

 はいっ、天使様!!
 という訳で、結局俺が働きに行く世界はこんな感じになった。

・憑依装着型の武装、通称《心装人機》が存在している
・魔法があり、他種族が生息しており、魔物も存在している
・男女の思考概念が入れ変わり、体質もそれに伴い一部変化している
・美醜の判断が入れ替わっている

 1、2項目に関してはとても良い結果になったが…3、4項目に関しては正直予想がつかない。
 まあ、慎重に行けばなんとかなるだろう……多分。

「さぁて、そんじゃあ物分りが良くて世界選択も早く終わったからな、お前の記憶にある特典とやらもつけてやるよ。なんでもいいぞ!!」

 俺の時代キターーーー!! 異世界無双してやるぜぇ!

「考えねぇならやめるか?」

 すいませんでしたッ!! さっさと考えさせていただきます!!


 ────「てめぇ!! こっちの負担も考えろや!!」

 という訳で天使様のご好評も頂いた能力がこちら。

・全武器、魔法適正
・状態異常無効化
・アイテム収納空間
・運を良くしてもらう
・全言語、文字翻訳

 こんな感じにしてもらったぜ!! ああ、チート人生待ったなし〜、天使様マジ天使!!
 ほんとは魔力超回復とかも欲しかったけど、天使様の機嫌がよろしく無いので止めさせてもらった。

「チッ!! いいよ、それも入れてやる」

 て、天使様ぁ〜〜!! ありがと「ただしっ!!」
 ……このパターンは、よろしく無い予感!!

「お察しの通り呪いも付けるぞ…なぁに、軽いものだよ。あっちに着いてからのお楽しみだからな、楽しみにしておけよ!!」

 なんという笑い顔、黒さがオーラとなって見える気がする。軽いと言われて、本当に軽かった試しがないんだよな。
 でもまあ、特典のトレードって考えれば安いもんかぁ。
  
「お前も納得できたことだし、早速行ってもらうぞ」

 どうぞ!! 穴に落ちる覚悟はできておりま〜す!!

「バーカッそんなに自殺の罪は軽くねぇよ…私は優しいから10回で勘弁してやるよ」

 ……へっ?!


 いきなり体の感覚が戻ったかと思うと目の前が眩い光に包まれ、次の瞬間………


 凄まじい痛みと、耳が弾けるようなブレーキ音が俺の身を喰らった。

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