心装人機使いのあべこべ世界旅行
4.精霊と人機と襲撃と
目が覚める。
「────ここは、どこだ?」
不思議な感覚だ、とてもフワフワの布団のような感覚が体を包んでいる様だ。
「布団の中だよ」
長の声が近くから聞こえる。
────どうやら、寝ていたようだ。
「おはようございます。 すいませんお布団借りちゃって」
「別にイイよ、成人後に精霊入れたんだから仕方ない。んで、気分はどうだい?」
布団から出て、体のあちこちに力を込めるが、特に違和感はない、むしろ力が湧いてくる気がする。
「いえ、特にはないです。というより何となく力が湧いてきます」
「へぇー!! 相性良かったのかもしれないね。そいつは少しヤンチャでね、普通は精霊が宿主に直接関与してくることはないんだ。けどそいつは、外の事が気になってしょうがなくて、宿主に催促してくるんだよ」
催促なんて可愛いもんだろうと思うのだが、それだけでヤンチャだったら、他の精霊はどんだけ静かなんだろうか。
「そいつの宿主になった奴、みんなが口を揃えて───『気になりだしたら煩くて眠れない…まるで呪いの様だ!!』って言って違う精霊と契約しにいってしまうんだ……」
……それ聞いちゃったら捨てられないじゃないかよ!
てか、呪いって……天使様からもくらってたんだった!! 俺、呪いだらけの男になっちゃうよ……
「その顔見る限り、天使様に呪いとか言われてるだろ、残念だが────呪われてないからな」
「へっ?」
「だから、忙しい天使様がわざわざ呪いかけるなんて、そんな面倒くさいことしないって言ったんだ」
なるほど、確かに俺の様子見るとかそんな様子じゃなかったからな……お使いさせるやつに普通足枷はしないか。てことは────
「ふふっ、気づいたか?遊ばれたんだよ、結構気に入られてたみたいだぞ。天使様、めちゃくちゃ機嫌よく笑ってたからな」
ですよねぇ!!
姉御っぽい話し方なのに茶目っ気あるなんて可愛いィィ!! 代償なしのチート能力ありがとうございます!!
手となり足となり働かせていただきます!!
「良かったな、顔見ただけで嬉しそうなのが分かるよ。それで、水を差すようで悪いんだけど、天使様からのお願い聞いてもらってもいい?」
「あ、ああ、はいお願いします。すいません、頭の中凄いことになってて」
「謝ることじゃないよ、誰だって、実は呪いがありませんでしたって聞いたら、嬉しいだろうしね」
そう言い終わると、長は立ち上がり深呼吸をする。
纏う空気感が変わり、表情がとても真剣なものに変わると俺を指さしこう言った。
「────世界を周り、困ってる者を助けなさいッ!!」
……続きを待つ。
だが、続く言葉はなく、長は腰掛け、先程の様子に戻り。
「だってさ」
と一言言った。
それだけですか? 天使様ぁ……
とても緩やかな転生になりそうだな、と心の底から思い、これからどうしようかと考え、聞いた方が早いだろうと聞くことにする。
「な……なるほど、それで、俺はこれからどうす……」
────ゴッゴッ!! バキィッ!!
「長!! 長ッ!! 人族が……人族が来ました!!」
門番のスレンダー美人エルフが扉を殴り壊して入ってくる。
えぇ……人間来ただけでそこまでするのか……
「何ッ!? わかった、すぐ向かう」
長も先程の真剣な表情になり、走って行ってしまう。
どうやら、今回は常識のようだ。なんて思いながら寝ようとすると。
下腹部のあたりから何か意思の様なものが伝わってくる。
《人間とエルフの闘い見てみたい!! 見てみたい!!》
声が聞こえた瞬間とても驚いてしまったが、特に焦ることもなく、コイツが精霊なんだと気づいた。
とりあえず、伝わる様に念じてみる、これでダメなら声に出して話しかけよう。
《聞こえるか? 聞こえるなら名前を教えてくれないか?》
《わぁ!! 人族がアタシに話しかけてくれるなんて初めてのことだよ!!  でも精霊には個体名称がないんだよ、だから好きに呼んでねっ。そんなことより見に行こうよ!!》
なるほど、これは好奇心がメーター振り切りまくってんな……とりあえず。
《わかった。今から向かうことにするから道案内を頼む》
《分かった!! って言っても村の出入口だけどねっ》
《なるほど、あそこなら道案内はいいや》
《そうでしょ!! だから早く早くぅ!!》
こうして急かされながらも、入ってきた村の入口までゆっくり歩いて向かうと……
「なんだよ……コレ……」
綺麗なエルフの女の子たちや、イケメンなエルフの男達が首輪をハメられ、涙で顔を崩しながら馬車に乗っけられていく。そんな場面に出くわした。
(村長はっ!?)
周りを見回すと、門番の子と一緒に、首輪と手枷を着けられ、口には詰め物をされていた。恐らく呪文封じの為だと予想をつける。
そんな中、人間の軍団の中で、一番ブサイクな奴が俺を見つけ、口をニタァッと歪ませると────
「おいっ!! 人間の上玉が一人、こっちを見てボーッとしてるぞ!! 早く捕まえてお楽しみと行くぞ!!」
と言い放つと、一番近くにいた豚の擬人化のような奴がドシンドシンッと近づいてきた。
気が狂いそうだ……
この場に渦巻く、全て失ったかのような悲しみや、突然襲われた不条理に対する怒り、そして憎しみで、エルフ達のあんなに綺麗だった顔立ちが、負の感情で染まりきってしまっていた。
そんな表情にさせたのは……目の前に迫るクソみたいな奴ら……
近づくにつれ漂う酷い臭い……顔はニキビができ放題で、毛は生え放題! 鎧を着ててもわかる程の肥満体型ッ!!
「……なやつらに」
「んんっ? どうじだ? ぢがづいてぎだアダジの匂いに興奮しぢまったのがぁ?」
────ナニカがキレるオトがシタ
「テメェみてぇな奴等に!!」
叫ぶ声は俺のものじゃない様だ。
頭が沸騰しているようだが、何故か冷静に感じる。
《頼む…力を貸してくれ!!》
《えぇー!! メンドくさいなぁ》
《……アイツってどれくらい強いんだろうな。もしかして、お前の力を借りた俺より強いのかな……》
ピクピクッ!!
下腹部の辺りが震える、頭の回転が異常に早い。発想が……妄想が……頭の中に浮かんでは消えていく。
《ハァッ!? アタシが力貸して、あんなヤツに負けるわけが無いでしょ!!》
どうやらこの妖精、好奇心旺盛なだけじゃなく、負けず嫌いでもあるようだ!!
《なら……頼めるか》
《いいよ!!あんたの強い心、ギンギン響いてくる────唱えなさい!!》
そう言われた瞬間、回転が異常に早かった思考の中に訳の分からないものが横切ってきた。
だが不思議と読める。いや違う……きっと感じてるんだ。理解するものじゃない! 思考ではなく心で読んでいく。
──────我が心に宿るは《怒り》
────握る拳から滴る辛苦の涙こそが
───我が糧となり、汝を滅ぼす禍となる
────来れ、暴怒の機人 《アレクター》
……気づけば、心の中に浮かんでいた言葉を口にしていた。
残り数歩までの距離まで近づいてきたクソ共は、こちらを見ながら様子を伺っていた。
「あれは、人機か?」
そう、俺の右腕は今…赤黒い装甲に覆われていた。
力の使い方なんか理解する必要はない……
────ただ、ムカツクヤツを殴る……それだけだ!!
ダッ!!
思い切り駆け出そうと思い地面を蹴ったら、想像異常に早くて止められない!!
体を止めるため、進行方向にある馬車を蹴飛ばす。
グシャァァァ!! ────ヒュッ!!
馬車はその場で潰れ、潰れきった材木は音だけ残して飛んでいってしまった……凄い威力だ!!
だが、力の代償なのか……頭が沸騰しそうな程に怒りが湧いてくる!!
「次は……アテル!!」
「ぢょうじにのるな!!」
────ブオッ!!
クソデブは身の丈二倍以上はある棍棒を横に振り、広範囲に当てに来たが、空を切る音と共に「メキャッ」と、丈夫な木を押しつぶした時のような音がする。
すると、瞬き一つする間に液体が散り、原型が分からないナニカが森の奥へと消えていった。通ったと思われる道は木がズタズタに切り裂かれていた。
「な……!?あのコンボーを倒したというのか……あんな男一人で……ありえない、お前達!! 全員で奴を捕らえろ!! 報酬はいくらでも出してやる!!」
「お…おう!! オオォォォォォ!! 男の癖に調子にのんじゃねぇ!! 金のために死ねやぁ!!」
「お前らがシネ!!」
《一体一体捻り潰すのもいいが、まとめて燃やしてしまえ!! イメージしろ!! お前の守りたいものを壊していく奴らが、灰になる姿を!!》
血の気の多いオッサンのような声が聞こえた瞬間、頭に単語が浮かぶ。
《それが発動キーだ!! イメージしろ!! 奴らを逃がすな!!》
クソッ!! 酷い怒りだ!! 思考のコントロールができない!!
とりあえず、軽い爆発を出して、時間かせ……?!
《ヌルイわッ!! これくらいはやれ!!》
声と同時に、頭の中にイメージが流れ込む。
────こ、これは……「リリース!!」
……?!口が勝手にッ!!
発動キーが唱えられた瞬間に、敵側にいた奴らが順番に苦しみだす。
「あ……あつ……カヒュッ……た、たふけ……へ」
「アヒゅい! あ……べい!!」
先ほどのイメージ通りなら、奴らは今、胃の中に炎がある状態となっている。
見渡すと、さっきまで俺に向かっていた奴らは体の内側から炎があがり、炭化して倒れていた。
だが奴らのリーダーのような奴…ではなく、一番遠くにいた緑髪の女だけは普通に立っていた。
《クソッ!! ならば直接叩くまで────ヌゥッ!》
《ハイハイ!! そこまでぇ。アレクターは毎回やり過ぎだよ!!  ちょっとは大人しくしててよね!!》
ようやく戻ってきたか…
精霊の声が聞こえた瞬間、少しだけ頭の中に冷静さが戻る。
《いやぁ、まさか『アレクター』まで出すほどの怒りとは思わなくてねっ。でもアタシが戻って来たから、意識と体がちゃんと動くでしょ?》
《ああ、ありがとう。さっきの声のやつは?》
《後で教えからっ!! 今は最後の一人……やっちゃいなよ。まだ終わってないでしょ》
《────ああっ!!》
残った一人に意識を戻し、前を見ると奴は消えていた、否────俺の後ろにいた。
ドゴォッ!!
人体殴る音じゃねぇだろっ!! と思いながらその場で蹲り咳き込む。なんで、体内に生み出した炎が効かなかったんだ……
「何で? って顔してますねぇ…クハハッ…ん〜、そうだなぁ。圧倒的な実力差じゃないですかね?」
「……カハッ!! ……ハァハァ……」
「次は何を見せてくれるんですかぁ? 正直、雇い主死んじゃいましたから、私としてはここから出たいんですよねぇ。エルフを見てると鏡見てるみたいで嫌になるんですよ……」
「なら、なぜここに残……った!!」
そう言いながら、機人の腕で殴りかかる……が、軽く横に避けられ……腕を思いっきり叩きつけられる。
《ちょっとアンタ!! 人機纏ってんのに生身の奴に負けるとかマジありえないからっ!!》
精霊がなんか言ってる間に、右腕の装甲が光の粒子となって消えてしまった。
それと同時に、思考から怒りが消え去る……消費するのは魔力だけじゃなくて、感情もなのだろうか。
「ありゃりゃ、終わっちゃいましたねぇ。────あっ!! いいこと思いついちゃいましたぁ」
そう言うと、女は地面に倒れ伏していた俺を無理矢理立ち上がらせると、捕まっているエルフ達の方を向かせる。
「あなたには今、二つの選択肢がありますっ!! 一つ目は、エルフの命と引換にあなたの命を助ける。二つ目は、あなたの自由と引換にエルフの命を助け、自由を保証するというものです」
そう大声で言うと、聞いていたエルフ達の目に希望が戻る、しかしそのまま俺の方を向くと、またその目から光を失っていた。
命か自由か……てことか。なら、聞いておかなければいけないことがあるが、答えてくれるのだろうか…
「……ハァ……ハァ……エルフの自由って……どういう……ことだ?」
「クハハッ!! いいでしょうお答えします。ここに来たのは、既に息のない、うちの雇い主がこの村を偶然見つけたからです。 勿論儲け話ですので、誰にも言ってません……後は私が黙っておくだけで、ここの村のことを知る者は、私たちしかいなくなるわけです。 誰もここには来なくなるんですよ」
「なる……ほどな。なら、俺の自由ってなんだ?」
そう言うと、女の手が俺の脇を抱えるようにしているものから、後ろから抱きつくものに変わり、顔を耳元まで持ってきていた。
「私と……永遠の愛を誓ってもらいます」
その時の奴の顔は、先程までと一緒だが、その声は……とても震えていて、凄く真剣なものであった。
これは────決まりだな!!
最後の踏ん張りどころと思い、足に力を入れて自分の力で地面に立ち、腕を振りほどき────
────抱き締め返してやった
「……へ?」
「いいよ、お前が俺のことを好きな限り……俺もお前を好きでいる……だから、エルフ達を見逃してくれ」
こうして俺は、まだ名前も知らないこの子と共に異世界を生き抜くことになった。
「────ここは、どこだ?」
不思議な感覚だ、とてもフワフワの布団のような感覚が体を包んでいる様だ。
「布団の中だよ」
長の声が近くから聞こえる。
────どうやら、寝ていたようだ。
「おはようございます。 すいませんお布団借りちゃって」
「別にイイよ、成人後に精霊入れたんだから仕方ない。んで、気分はどうだい?」
布団から出て、体のあちこちに力を込めるが、特に違和感はない、むしろ力が湧いてくる気がする。
「いえ、特にはないです。というより何となく力が湧いてきます」
「へぇー!! 相性良かったのかもしれないね。そいつは少しヤンチャでね、普通は精霊が宿主に直接関与してくることはないんだ。けどそいつは、外の事が気になってしょうがなくて、宿主に催促してくるんだよ」
催促なんて可愛いもんだろうと思うのだが、それだけでヤンチャだったら、他の精霊はどんだけ静かなんだろうか。
「そいつの宿主になった奴、みんなが口を揃えて───『気になりだしたら煩くて眠れない…まるで呪いの様だ!!』って言って違う精霊と契約しにいってしまうんだ……」
……それ聞いちゃったら捨てられないじゃないかよ!
てか、呪いって……天使様からもくらってたんだった!! 俺、呪いだらけの男になっちゃうよ……
「その顔見る限り、天使様に呪いとか言われてるだろ、残念だが────呪われてないからな」
「へっ?」
「だから、忙しい天使様がわざわざ呪いかけるなんて、そんな面倒くさいことしないって言ったんだ」
なるほど、確かに俺の様子見るとかそんな様子じゃなかったからな……お使いさせるやつに普通足枷はしないか。てことは────
「ふふっ、気づいたか?遊ばれたんだよ、結構気に入られてたみたいだぞ。天使様、めちゃくちゃ機嫌よく笑ってたからな」
ですよねぇ!!
姉御っぽい話し方なのに茶目っ気あるなんて可愛いィィ!! 代償なしのチート能力ありがとうございます!!
手となり足となり働かせていただきます!!
「良かったな、顔見ただけで嬉しそうなのが分かるよ。それで、水を差すようで悪いんだけど、天使様からのお願い聞いてもらってもいい?」
「あ、ああ、はいお願いします。すいません、頭の中凄いことになってて」
「謝ることじゃないよ、誰だって、実は呪いがありませんでしたって聞いたら、嬉しいだろうしね」
そう言い終わると、長は立ち上がり深呼吸をする。
纏う空気感が変わり、表情がとても真剣なものに変わると俺を指さしこう言った。
「────世界を周り、困ってる者を助けなさいッ!!」
……続きを待つ。
だが、続く言葉はなく、長は腰掛け、先程の様子に戻り。
「だってさ」
と一言言った。
それだけですか? 天使様ぁ……
とても緩やかな転生になりそうだな、と心の底から思い、これからどうしようかと考え、聞いた方が早いだろうと聞くことにする。
「な……なるほど、それで、俺はこれからどうす……」
────ゴッゴッ!! バキィッ!!
「長!! 長ッ!! 人族が……人族が来ました!!」
門番のスレンダー美人エルフが扉を殴り壊して入ってくる。
えぇ……人間来ただけでそこまでするのか……
「何ッ!? わかった、すぐ向かう」
長も先程の真剣な表情になり、走って行ってしまう。
どうやら、今回は常識のようだ。なんて思いながら寝ようとすると。
下腹部のあたりから何か意思の様なものが伝わってくる。
《人間とエルフの闘い見てみたい!! 見てみたい!!》
声が聞こえた瞬間とても驚いてしまったが、特に焦ることもなく、コイツが精霊なんだと気づいた。
とりあえず、伝わる様に念じてみる、これでダメなら声に出して話しかけよう。
《聞こえるか? 聞こえるなら名前を教えてくれないか?》
《わぁ!! 人族がアタシに話しかけてくれるなんて初めてのことだよ!!  でも精霊には個体名称がないんだよ、だから好きに呼んでねっ。そんなことより見に行こうよ!!》
なるほど、これは好奇心がメーター振り切りまくってんな……とりあえず。
《わかった。今から向かうことにするから道案内を頼む》
《分かった!! って言っても村の出入口だけどねっ》
《なるほど、あそこなら道案内はいいや》
《そうでしょ!! だから早く早くぅ!!》
こうして急かされながらも、入ってきた村の入口までゆっくり歩いて向かうと……
「なんだよ……コレ……」
綺麗なエルフの女の子たちや、イケメンなエルフの男達が首輪をハメられ、涙で顔を崩しながら馬車に乗っけられていく。そんな場面に出くわした。
(村長はっ!?)
周りを見回すと、門番の子と一緒に、首輪と手枷を着けられ、口には詰め物をされていた。恐らく呪文封じの為だと予想をつける。
そんな中、人間の軍団の中で、一番ブサイクな奴が俺を見つけ、口をニタァッと歪ませると────
「おいっ!! 人間の上玉が一人、こっちを見てボーッとしてるぞ!! 早く捕まえてお楽しみと行くぞ!!」
と言い放つと、一番近くにいた豚の擬人化のような奴がドシンドシンッと近づいてきた。
気が狂いそうだ……
この場に渦巻く、全て失ったかのような悲しみや、突然襲われた不条理に対する怒り、そして憎しみで、エルフ達のあんなに綺麗だった顔立ちが、負の感情で染まりきってしまっていた。
そんな表情にさせたのは……目の前に迫るクソみたいな奴ら……
近づくにつれ漂う酷い臭い……顔はニキビができ放題で、毛は生え放題! 鎧を着ててもわかる程の肥満体型ッ!!
「……なやつらに」
「んんっ? どうじだ? ぢがづいてぎだアダジの匂いに興奮しぢまったのがぁ?」
────ナニカがキレるオトがシタ
「テメェみてぇな奴等に!!」
叫ぶ声は俺のものじゃない様だ。
頭が沸騰しているようだが、何故か冷静に感じる。
《頼む…力を貸してくれ!!》
《えぇー!! メンドくさいなぁ》
《……アイツってどれくらい強いんだろうな。もしかして、お前の力を借りた俺より強いのかな……》
ピクピクッ!!
下腹部の辺りが震える、頭の回転が異常に早い。発想が……妄想が……頭の中に浮かんでは消えていく。
《ハァッ!? アタシが力貸して、あんなヤツに負けるわけが無いでしょ!!》
どうやらこの妖精、好奇心旺盛なだけじゃなく、負けず嫌いでもあるようだ!!
《なら……頼めるか》
《いいよ!!あんたの強い心、ギンギン響いてくる────唱えなさい!!》
そう言われた瞬間、回転が異常に早かった思考の中に訳の分からないものが横切ってきた。
だが不思議と読める。いや違う……きっと感じてるんだ。理解するものじゃない! 思考ではなく心で読んでいく。
──────我が心に宿るは《怒り》
────握る拳から滴る辛苦の涙こそが
───我が糧となり、汝を滅ぼす禍となる
────来れ、暴怒の機人 《アレクター》
……気づけば、心の中に浮かんでいた言葉を口にしていた。
残り数歩までの距離まで近づいてきたクソ共は、こちらを見ながら様子を伺っていた。
「あれは、人機か?」
そう、俺の右腕は今…赤黒い装甲に覆われていた。
力の使い方なんか理解する必要はない……
────ただ、ムカツクヤツを殴る……それだけだ!!
ダッ!!
思い切り駆け出そうと思い地面を蹴ったら、想像異常に早くて止められない!!
体を止めるため、進行方向にある馬車を蹴飛ばす。
グシャァァァ!! ────ヒュッ!!
馬車はその場で潰れ、潰れきった材木は音だけ残して飛んでいってしまった……凄い威力だ!!
だが、力の代償なのか……頭が沸騰しそうな程に怒りが湧いてくる!!
「次は……アテル!!」
「ぢょうじにのるな!!」
────ブオッ!!
クソデブは身の丈二倍以上はある棍棒を横に振り、広範囲に当てに来たが、空を切る音と共に「メキャッ」と、丈夫な木を押しつぶした時のような音がする。
すると、瞬き一つする間に液体が散り、原型が分からないナニカが森の奥へと消えていった。通ったと思われる道は木がズタズタに切り裂かれていた。
「な……!?あのコンボーを倒したというのか……あんな男一人で……ありえない、お前達!! 全員で奴を捕らえろ!! 報酬はいくらでも出してやる!!」
「お…おう!! オオォォォォォ!! 男の癖に調子にのんじゃねぇ!! 金のために死ねやぁ!!」
「お前らがシネ!!」
《一体一体捻り潰すのもいいが、まとめて燃やしてしまえ!! イメージしろ!! お前の守りたいものを壊していく奴らが、灰になる姿を!!》
血の気の多いオッサンのような声が聞こえた瞬間、頭に単語が浮かぶ。
《それが発動キーだ!! イメージしろ!! 奴らを逃がすな!!》
クソッ!! 酷い怒りだ!! 思考のコントロールができない!!
とりあえず、軽い爆発を出して、時間かせ……?!
《ヌルイわッ!! これくらいはやれ!!》
声と同時に、頭の中にイメージが流れ込む。
────こ、これは……「リリース!!」
……?!口が勝手にッ!!
発動キーが唱えられた瞬間に、敵側にいた奴らが順番に苦しみだす。
「あ……あつ……カヒュッ……た、たふけ……へ」
「アヒゅい! あ……べい!!」
先ほどのイメージ通りなら、奴らは今、胃の中に炎がある状態となっている。
見渡すと、さっきまで俺に向かっていた奴らは体の内側から炎があがり、炭化して倒れていた。
だが奴らのリーダーのような奴…ではなく、一番遠くにいた緑髪の女だけは普通に立っていた。
《クソッ!! ならば直接叩くまで────ヌゥッ!》
《ハイハイ!! そこまでぇ。アレクターは毎回やり過ぎだよ!!  ちょっとは大人しくしててよね!!》
ようやく戻ってきたか…
精霊の声が聞こえた瞬間、少しだけ頭の中に冷静さが戻る。
《いやぁ、まさか『アレクター』まで出すほどの怒りとは思わなくてねっ。でもアタシが戻って来たから、意識と体がちゃんと動くでしょ?》
《ああ、ありがとう。さっきの声のやつは?》
《後で教えからっ!! 今は最後の一人……やっちゃいなよ。まだ終わってないでしょ》
《────ああっ!!》
残った一人に意識を戻し、前を見ると奴は消えていた、否────俺の後ろにいた。
ドゴォッ!!
人体殴る音じゃねぇだろっ!! と思いながらその場で蹲り咳き込む。なんで、体内に生み出した炎が効かなかったんだ……
「何で? って顔してますねぇ…クハハッ…ん〜、そうだなぁ。圧倒的な実力差じゃないですかね?」
「……カハッ!! ……ハァハァ……」
「次は何を見せてくれるんですかぁ? 正直、雇い主死んじゃいましたから、私としてはここから出たいんですよねぇ。エルフを見てると鏡見てるみたいで嫌になるんですよ……」
「なら、なぜここに残……った!!」
そう言いながら、機人の腕で殴りかかる……が、軽く横に避けられ……腕を思いっきり叩きつけられる。
《ちょっとアンタ!! 人機纏ってんのに生身の奴に負けるとかマジありえないからっ!!》
精霊がなんか言ってる間に、右腕の装甲が光の粒子となって消えてしまった。
それと同時に、思考から怒りが消え去る……消費するのは魔力だけじゃなくて、感情もなのだろうか。
「ありゃりゃ、終わっちゃいましたねぇ。────あっ!! いいこと思いついちゃいましたぁ」
そう言うと、女は地面に倒れ伏していた俺を無理矢理立ち上がらせると、捕まっているエルフ達の方を向かせる。
「あなたには今、二つの選択肢がありますっ!! 一つ目は、エルフの命と引換にあなたの命を助ける。二つ目は、あなたの自由と引換にエルフの命を助け、自由を保証するというものです」
そう大声で言うと、聞いていたエルフ達の目に希望が戻る、しかしそのまま俺の方を向くと、またその目から光を失っていた。
命か自由か……てことか。なら、聞いておかなければいけないことがあるが、答えてくれるのだろうか…
「……ハァ……ハァ……エルフの自由って……どういう……ことだ?」
「クハハッ!! いいでしょうお答えします。ここに来たのは、既に息のない、うちの雇い主がこの村を偶然見つけたからです。 勿論儲け話ですので、誰にも言ってません……後は私が黙っておくだけで、ここの村のことを知る者は、私たちしかいなくなるわけです。 誰もここには来なくなるんですよ」
「なる……ほどな。なら、俺の自由ってなんだ?」
そう言うと、女の手が俺の脇を抱えるようにしているものから、後ろから抱きつくものに変わり、顔を耳元まで持ってきていた。
「私と……永遠の愛を誓ってもらいます」
その時の奴の顔は、先程までと一緒だが、その声は……とても震えていて、凄く真剣なものであった。
これは────決まりだな!!
最後の踏ん張りどころと思い、足に力を入れて自分の力で地面に立ち、腕を振りほどき────
────抱き締め返してやった
「……へ?」
「いいよ、お前が俺のことを好きな限り……俺もお前を好きでいる……だから、エルフ達を見逃してくれ」
こうして俺は、まだ名前も知らないこの子と共に異世界を生き抜くことになった。
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