ユグドラシルの奇跡

穂村千聖

出会い

僕は宇田川学園中等部2年暁冬弥。至って平凡な人生を送っているつもりだ。
この宇田川学園とは宇田川地区にある唯一の中学校である。学校でのクラスメイトや家族、友人だって変わった人は多くない。一人一人が得意なことに励みそれをいずれ人生で役に立つよう努力している。それは人間にとって当たり前なことだとも言えるだろう。意味もなくすることなんてない。そんなどこにでもいるような人達に囲まれ僕は日々を送っている。
「冬弥〜悪いけど課題見せてくんね?」
クラスの中心とも言える正樹が僕に問いかける。
「うん、いいよ」
僕は特に断る理由もなかったので言われた通り課題を見せた。
「おっ、サンキュー。いやー、やっぱり冬弥は気が利くな、また見せてくれよな」

「おう」
このような会話をしている毎日に僕は退屈していた。
その日の放課後、僕は隣のクラスにいる幼馴染と校門の前で合流し、家の方面へ歩いていった。

「なあ冬弥、お前最近学校どんな感じ?」
そう僕に問いかけるのは幼馴染の明だ。

「んー、まぁ楽しいかな。クラスの奴らも面白いし」

「そうかー、ならいいんだ。」

「どうしたんだ、急に」

とらしくないような質問をしてきた明に問う。

「いや、大したことじゃないんだ。最近お前の様子がなんかおかしいような気がしてな」

僕はキョトンとしたような顔をして少し笑った。

「なんだお前、俺の母ちゃんか?」

二人で笑いながら長く続く道を歩いていった。

明の家の前で明と別れを告げ、僕は一人自宅まで歩いて行った。
冬場である今の時期は日が暮れるのが早くもう辺りは真っ暗だった。明と別れて5分ほど経った時に僕はふと後ろに振り返った。

「おかしいな」

後に誰かいたような気がした。だが足音や人影があった訳では無い。なんの根拠もなくただ振り返っただけだ。そしてすぐ前を向き再び歩き出そうとした。するとその瞬間、
「あ、あの!」
うしろから見ず知らずの女の子が声をかけてきた。
僕はその声のする後ろの方へ振り返った。だがそれと同時に恐怖を感じた。
なぜなら、先程後に振り返った時何も無かったし何もいなかったはずなのにいきなり女の子がなんの音もなく現れて僕に声をかけてきたからだ。

「なんだい?お母さんとはぐれちゃったの?」

と少し声を震わせながら女の子へ質問をした。女の子は大きく首を横に振った。

「迷子じゃない、私はあなたを探してた。」


「え、僕を?」

この状況を理解できない僕。その女の子へ違う質問を問おうとした。しかし、彼女の身体はみるみる消えていった。
まるで、一輪の花が散るように。


「ごめんね、もう時間みたい。あなたに会えて嬉しかった。」


その現実ではありえないような光景に言葉を奪われていた。


「もし、あなたともう一度会えることが許されるのならば…」


その一言を残し女の子は姿を消した。僕は夢でも見ているのかと自らの頬をつねった。
「痛い。」
しかし、夢でしかありえないような光景を見てしまったから未だに現実だと理解出来なかった。

「そうだ、きっと疲れてるんだ。早く家に帰ってシャワー浴びて寝よう。」
そう一人でつぶやきながら走って家へ帰った。

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