王女は自由の象徴なり

黒イライ

06.キレる

 「ふわぁぁ……流石に疲れたわねー……」

 「今までこんなに魔獣と戦ったことはありませんでしたからね」

 まあでも、これより疲れたのは昔あったわね。体力作りの為にサリアから特訓を受けたのを思い出したわ……あの時は地獄だったわ……。思い出しただけでも寒気がしてくる…。

 「どうなさいましたか?顔色が優れてないようですが」

 「あなたから受けた地獄の特訓を思い出してたのよ…」

 「ああ、あれですか。あれはお嬢様がすぐに音を上げるから良くないんですよ」

 すぐに音を上げる?聞き捨てならない言葉が聞こえたわね。

 「あなた…当時8歳の私に何をさせたか言ってみなさいな」

 「はぁ…とりあえず騎士団の皆さんがいつもやってる特訓を少し変えてからさせましたね。確か…城の周りを10周腕立て伏せ500回腹筋300回剣の打ち込み2時間模擬戦を10戦連続…でしたね。それで夕方からはお嬢様だけ標高1000mの山を地上から頂上まで3回往復させましたね。夕食を摂られた後は城の訓練場で私と模擬戦、でしたね」

 ……………お分かり頂けただろうか。
 ねえ、おかしいよね?おかしいよね?8歳だよ?まだ年齢二桁もいってない年端もいかない小さなレディーだよ?この練習量変だよね?

 「どうしましたか?目を細めてジト目にして。別に大丈夫でしたよね?あれは週三でしかやってませんでしたし」

 「にしてもおかしいでしょうがぁぁ!あなた頭おかしいんじゃないの!?8歳よ8歳!まだ体も出来上がってない子供よ!?」

 「でもそのおかげでお嬢様は強くなられたと思いますが?」

 「……まあ、それについては感謝してるけど……それにしたってあれはキツすぎよ。騎士団の皆のあの憐れな者を見る目…あれは忘れられないわよ……」

 「左様ですか。そんなことはさておき早くギルドに行きましょう。換金しに行きますよ」

 さて置かれてしまった。でも今日は早く帰りたいのでもう文句を言うのはやめにする。





 私達はギルドの換金所の列に並んでいた。あのエルフの人がどうしてるのか様子を見てみたが机に突っ伏していびきをかきながら寝ていた。

 「ねえサリア、今日の魔法石でどれぐらい稼げたと思う?」

 「そうですね…私も魔法石の換金はした事ないので詳しくは分からないですが5万シア程は稼げるかと」

 「宿って1泊何シアぐらいするの?」

 「もちろん宿によって異なりますが大体6千シア程はするはずですよ」

 「じゃあまだ全然足りないわねー。明日もちょちょいって稼ぎましょうか」

 夕食代とかも含めるとあんまり余裕はなさそうね。

 「そうですね。明日もグラントール様に会いに行きますか」

 「私もそれ言おうと思ってたわ。あの子と一緒にいると何か楽しいんだもの」

 それにどうせグラントールに会うなら最下層まで行かないといけないんだし一石二鳥ね。

 そんなことを話してる内に私達の番がやってきた。出来ればさっきサリアが言っていた値段より高いと嬉しいわね。

 「これお願いします」

 「はい、お預かり致します。換金して参りますので少々お待ち下さい」

 「お願いします」



 数分後────

 「これは…何というか、意外ね」

 「そうですね…まさかこれ程とは」

 魔法石を換金してお金を受け取ったんだけど…その額が異常だった。私はさっきのサリアの言葉を信じて5万シアだと思ってたけど、3倍はあった。今日集めた魔法石だけで16万2000シアだった。驚きの金額だ。

 「まあ…多く稼げたならそれに越したことはないわよね」

 「そうですね。これだけあれば宿代も暫くは問題無いでしょう」

 話がとりあえずまとまり二人で宿を探すためギルドから出ようとした矢先────

 「お〜い可愛い嬢ちゃん達〜。俺らと一緒に遊ばねぇか〜?」

 ……酔っ払いの男に絡まれた。こんな奴本当に存在するのね。

 「結構です。急いでますので。行きましょサリア」

 こんな奴ら相手にするだけ無駄よ無駄。早く場を去った方がいいに決まってるわ。
 
 「おいおい待てって〜」

 男が私の腕を掴んで引き留めようとする。
刹那、男は投げ飛ばされた。

 「触れるな、貴様みたいな下衆が触れていい方ではない」

 サリアが横から男を投げ飛ばしていた。サリアが敬語で話していない。これはキレてる。サリアはいっつも厳しいけどこういう時は私思いなんだからあ、もう。

 「て、てめぇ!何すんだ!俺は緑ランクの冒険者だぞ!新米は大人しく俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ!!」

 こいつ、典型的な強くなれない冒険者ね。ランクなんてただの指標でしかないわ。実力はまた別問題でしょうに。しかも緑ランクってサリアから聞いたけどそうでもないわよね?確か白、黄、青、緑、紫、茶、黒、虹の順番だったし。

 「たかが緑ランクがほざくな」

 「てめぇ……!!ブッ殺す!!」

 男が腰に付けている剣を取り出した。武器は流石に駄目でしょ。サリアもキレてるし殺しはしないだろうけど半殺しぐらいにはするかもしれない。はぁ、仕方ないわね。

 「《動くな》」

 「……!!!」

 「サリアもやめなさい。別に私は何ともないから」

 「………分かりました。申し訳ありません。見苦しいことを」

 「別にいいわ、気にしないで。さて…あなた?」

 「は、はひぃ!!!」

 何か変な返事ね。気持ち悪い。

 「あなた、次私達に絡んでみなさい。あなたの人生…終わらせてあげるから。分かった?」

 男が顔を青ざめてこくこくと頷く。

 「だったら、早く消えなさい。…今すぐに」

 「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 男が慌ててギルドから飛び出して行く。
 はぁ、面倒くさかったわね。

 「お嬢様、申し訳ございません」

 「もう気にしないでいいってば」

 「いえ…そのことではなく…周りの視線が…」

 「え?」

 そろりと周りを見回してみるとギルドにいる殆どの人が私達を見ていた。あのエルフの人は寝てた。なるべく目立たない様にしようとしてたけど…まあ武器出してたから目立つのは当たり前かぁ。うむむーどうしようこんな静かな中見られて。
ここは…逃げるに限る。


「あ…あの、うるさくしてすみませんでした……それでは……」

 「お騒がせ致しました、失礼します」

 私達は周りの反応を待たずにそそくさとギルドから逃げる。
 あーもう!あいつのせいで変に目立っちゃったじゃない!どうしてくれんのよ!

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