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なつきいろ

第248歩目 りゅっころ団の余波!②


 前回までのあらすじ

 りゅっころ団の名が最東端の町にまで伝わったねー( ´∀` )

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 時系列的に、今話は前話の前のお話となります。

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 さて、遠いパレスの地にまで『りゅっころ団』の余波が広がりを見せる中───。

 所変わって、ここは「黄金期を迎えている」と言っても過言ではないほど繁栄と隆盛を極めている都市、王都フランジュ。

 そんな王都の一角で、店先を掃除している一人の少女の姿があった。

「おはよう。朝早くから偉いね」
「あッ......お客さんにゃ? おはようございますにゃ。すいません、お店はまだですにゃ」

 少女は掃除の手を止めると、冒険者の男にペコリと申し訳なさそうにお辞儀を一つ。
 語尾は変だが、教育はしっかりと行き届いているようだ。

 そして、この少女の言う通り、お店はまだ開いてはいない。
 いや、このお店に限らず、どこのお店もまだシャッターを下ろしている状態だ。

 それぐらい朝早い中での出来事ということになる。

「知ってる、知ってる。今日は客としてではなく、おめでとうって言いに来たんだ」
「おめでとう、ですにゃ?」
「うん。こういう時でもないとゆっくり話もできないからさ。ほら、いつもはエルフの娘がうるさいし」

 冒険者の男はそう言うと、照れ臭そうに頬を掻き始めた。
 どうやら、この少女に対して明らかに好意があるようだ。

 それもそのはず、この冒険者の男。
 最近アテナ教に入信したばかりの新米信者ケモナーだ。

 そして、新米信者ケモナーが必ず通る道と言ってもいいのが───。

 とあるお店で働いている姉妹に興味と信仰、恋心を抱くこと。

 真面目で優しく働き者で、しっかりしている姉の『ねこみ』。
 人懐っこく、誰にでも天使の笑顔を見せる天真爛漫な妹『ねここ』。

 二人はとあるお店の看板娘であり、アテナ教入信者が爆発的に増えている王都フランジュにおいて、只今絶賛人気沸騰中となっている猫の獣人姉妹だ。

 ちなみに、この姉妹が信者ケモナーにとって人気なのには訳がある。

 実はこの二人、人間がベースとなっている普通の獣人とは大分異なる。
 体毛に覆われた動物をベースにしている、もはや半獣とも言っていい存在なのだ。

 故に、信者ケモナーの間では『おねこ様』とか『真のもふもふ様』と慈しみ奉られている。

 当然、新米信者ケモナーである冒険者の男も、その例に漏れることはなかった。
 この姉妹に───いや、ねこみという少女に対して淡い感情を抱いてしまったのだ。

 だから、こうして二人っきりになれるチャンスをいつも物陰から窺っていた。
 そして、奇しくも今日、その奇跡に巡り会えたという訳だ。

 そう、ねこみと話していても全く問題にならない特大級の話題たいぎめいぶんを引っ提げて───。

「にゃ?」

 一方、そんな様子を見せる冒険者の男に対して、ねこみの反応はイマイチだ。

 まるで、冒険者の男の気持ちに全く気付いていないかのような......。
 いや、冒険者の男そのものを、そういう対象として見ていないかのような......。

「聞いたよ。君達姉妹の主人である竜殺し様が『りゅっころ団』という騎士団を立ち上げたとか」
「にゃ? 『りゅっころ団』? 騎士団?」
「おめでとう。これで君達姉妹はただの奴隷ではなくなった訳だ。なんたって、『りゅっころ団』の一員となったんだからさ」
「ちょっ、ちょっと待ってほしいですにゃ! お客さんは何の話をしているのですにゃ!?」

 興奮気味に早口で話す冒険者の男に待ったをかけるねこみ。

 どうやら、イマイチ状況を掴めてはいない様子だ。
 それと、目の前の男が興奮している姿に、多少引いているようにも見える。

「あれ? 聞いていないの? 『りゅっころ団』のこと」
「初耳ですにゃ。その『りゅっころ団』とはなんなのですにゃ?」
「マジか......よっしゃあッ!」

 思わず、その場で盛大にガッツポーズをかましてしまった冒険者の男。
 そこには「しめしめ、これで話を続けても問題ない良い口実ができた」と、そうハッキリと顔に書かれてある。

 そんなこと気にせずとも、普通に話せば良いものを......。
 それを物陰から様子を窺ったり、話す大義名分を考えたり......。

 この冒険者の男、案外小心者だったりするのかもしれない。

「......お客さん?」
「あッ......ごめん、ごめん。今のは気にしないで」
「は、はぁ......」

 ねこみが訝しむような眼差しを冒険者の男に向ける。
 しかし、それに全く気付いた様子がない冒険者の男。

 やはりこの冒険者の男、どこまでいっても小心者ダメなのかもしれない。

「えっとね。『りゅっころ団』というのは、君達姉妹の主人である竜殺し様が個人的に立ち上げた騎士団のことだよ」
「そもそも、その騎士団とはなんなのですにゃ?」
「あー、そこからか。うーん、そうだな......自警団は知ってる?」
「はいですにゃ。いつも私達を助けてくれる人ですにゃ」
「いや、その人達は王国の騎士団員なんだけど......まぁ、別にいいか」
「にゃ?」

 ねこみの勘違い回答に、冒険者の男は思わず苦笑い。
 あまりにも報われない王国の騎士団員達に対して合掌したい気分だった。

 そう、一信者ケモナーとして、非番を返上してまでお店の───いや、姉妹の警備を無償こういで買って出ているというのに......。

「とりあえず、その自警団を竜殺し様が作ったってこと」
「自警団を、ですにゃ? どうしてですにゃ?」
「そりゃあ、俺達市民を守る為だろうね。それ以外で作る意味もないしさ」

 事実は全く違う。

 しかし、この冒険者の男を始め、多くの人々がそう思っている。
 いや、そう思わされるように情報操作されているといったほうが正しいだろう。

 ある一人の少女の手によって......。

「となると、私も自警団員なのですにゃ?」
「騎士団員ね。というか、俺もそう思っていたんだけど......本当に何も聞いていないの?」
「何も聞いていないですにゃ。今日、ナイトさんがギルドに行くらしいですにゃ」
「ナイトさん?......あぁ、店主のことか。じゃあ、その時に詳しく教えてもらえるかもね」

 情報とは入手が早ければ早いほどに、その価値が高くなる。
 だから、この冒険者の男もまた、常に竜殺し関連の情報を逐一チェックしていた。

 全ては『ねこみと話す大義名分が欲しい』という欲望の為に。

 事実、王都フランジュにおいては、ギルド職員に次ぐ早さでこの情報を掴んでいた。
 精神あい肉体じょうしきを凌駕する、典型的な例と言えるだろう。

「でも、お客さんは凄いですにゃ! 誰も知らないことを知っているなんて!」
「そ、そう? いやー、嬉しいなー。ねこみちゃんに喜んでもらえて」
「凄いですにゃ! 凄いですにゃ!」
「ぐへへへへ」

 ねこみのキラキラした眼差しが、冒険者の男を捉えて離さない。
 一方、恋するねこみに手放しで褒められている冒険者の男はデレデレだ。

 まるで、世紀のスープを飲んだ時のような、だらしがない表情になっている。
 ねこみが何故ここまで喜んでいるのか、その理由を知りもしないで......。

「お客さん。今度はお客さんとして来て欲しいですにゃ」
「なになに? 何かおまけでもしてくれるの?」
「おまけ......は、私ではできないですにゃ。すいませんにゃ」
「いやいやいやいやいや! 俺のほうこそ変なこと言ってごめん! 今のは忘れて!!」

 尻尾をしゅんとうなだらせ、ガックリと肩を落とすねこみ。

 そんなねこみの様子に気付いた冒険者の男は相当慌てたに違いない。
 恐らくは人生で一番と言っても過言ではないほどに懸命に謝り通している。

 まるで、彼女に浮気がバレた時の彼氏のような懸命さで。

「本当にごめん。お店には行くよ、必ず行く。だから、気にしないで」
「お客さん......ありがとうございますにゃ」

 笑顔とまではいかないが、可憐な表情を見せるねこみ。
 一応、この場は収まった、そう判断しても良いだろう。

 それにしても、冒険者の男はある意味幸運だったのかもしれない。

 仮に、この状況を他の信者ケモナーに見られでもしていたら......今後、冒険者の男の姿を見掛けることは未来永劫訪れることはなかっただろう。

「それで、さっきの話の続きですにゃ」
「あー、そうだったね。うんうん。なに?」
「おまけはできないですが、代わりに私がお店を案内しますにゃ」
「なん、だと!? それって、あの案内のことだよね!?」
「そうですにゃ。それですにゃ」

 このねこみが働いているお店には(非公式だが)一つのサービスがある。

 それは看板娘であるねこみとねここが、「いらっしゃいませにゃ」から「またのご来店をお待ちしていますにゃ」のその時まで、付きっきりで接客をしてくれるというものだ。

 現代風で言えば、家電店でよく見られるコンシェルジュといったようなもの。
 それの異世界版だと思ってくれたら話が早い。

 考案者は現代で生きるねこみ達の主人───ではなく、「愚かな客には媚びて媚びて骨の髄まで金を搾り取るのじゃ!」と、そう声高に宣言したある少女である。

「ほ、本当に良いの!?」
「私にできることはこれぐらいしかないですにゃ。それとも......嫌だったですにゃ?」
「そ、そんなことはないよ! 本当に嬉しい! ありがとう!」
「良かったですにゃ。じゃあ、約束ですにゃ」
「約束! 例え、迷宮で屍を晒そうとも必ず行くよッ!」
「お客さんが死んじゃったら案内できないですにゃ!?」
「大丈夫。気合いで行く。根性で行く。それと......(君への愛の力で)」
「最後、何か言いましたかにゃ?」
「う、ううん。何でもない。君が犬の獣人ではなく猫の獣人で本当に良かったよ。ははは」
「にゃ?」
 
 ねこみとのデート権(冒険者の男はそう思っている)を手に入れた冒険者の男は舞い上がっていた。
 もう一つ話そうと思っていたことをすっかりと忘れてしまうぐらいには。

 だからだろうか。
 この冒険者の男は、決して言葉にしてはならないことを口走ってしまったのである。

「それにしてもさ、竜殺し様も酷いよね。こんな大事なことを知らせてくれないなんてさ。まぁ、忙しいのかもしけれど」
「......にゃ?」
「俺だったら真っ先に知らせるよ。どんなに忙しくてもね。竜殺し様のようなミスは絶対にしない」
「......」
「そういう意味では、竜殺し様よりも男としては優れているのかも。まぁ、他では全く敵わないんだけどさ」
「......」

 この時、冒険者の男は全く気付いていなかった。

 先程まで穏やかな表情を見せていたねこみが、今はモノトーンな表情を浮かべていることに。
 先程までキラキラした眼差しを向けていたねこみが、今は光彩を失った漆黒の眼差しを向けていることに。

 この時、冒険者の男は獣人という種族について全く分かっていなかった。

 主人が敬愛するのに値する場合、全身全霊で忠義を尽くす種族であることを。
 猫人という種族が犬人の種族に劣らず、嫉妬深く愛情が深い種族であることを。

 そして、何よりも───。

「ご......」
「ご? あれ、どうしたの?」
「ご主人様の悪口を言うにゃーーーーー!」
「!?」

 まだ朝早く、静寂に包まれていた王都に響き渡るねこみの怒声。

 さすがに、こういう状況ともなれば野次馬精神が働く者も出てくるのだろう。
 周囲からは「なんだなんだ」と顔を覗かせてくる者がちらほらと見受けられる。

「いくらお客さんでも、ご主人様の悪口は許されないにゃ!!」
「ちょっ!? え!?」
「訂正するのにゃ!! 訂正するまで一生許さないのにゃ!!」
「え、えっと......ごめん? 全面的に俺が悪かったよ?」
「それでいいのにゃ。ご主人様は世界一にゃ。ご主人様以上の人なんて居ないのにゃ」
「......」

 そう、冒険者の男はあまりにも知らな過ぎた。
 ねこみが己の主人を敬愛しているばかりか、あまつさえ淡い感情をも抱いているということを......。

 そんな冒険者の男に悲劇は続く。

「どうしたの? 大声なんて上げて」
「げげ!? このタイミングで!?」
「......あぁ、そういうこと」

 ねこみが働くお店から顔を覗かせてきたのは一人の女エルフ。
 耳長金髪碧眼とエルフの代名詞は全て揃っているが、体は筋骨隆々な女エルフだ。

 その女エルフは、状況を一目見ただけで全てを把握したらしい。
 なんてことはない。いつものことかと。

「さてと、お兄さん。覚悟はいいかしら? 営業中すら見過ごせないのに、ましてや営業外でのナンパとなると許されないわ」
「ま、待って! 俺はナンパをしていた訳じゃ───」
「問答無用! 男なら言い訳するなッ!」

 ブオンッと豪快な音を上げながら、女エルフの拳が冒険者の男を襲う。
 女エルフの見た目もそうだが、この風切り音からしても威力は十分にありそうだ。

「うわっと!? あぶね!?」

 それを言葉とは裏腹に、危なげもなく余裕綽々と躱す冒険者の男。
 小心者ではあるが、どうやら冒険者としての腕は確かなようだ。

「......へぇ。やるじゃない。躱されるとは思わなかったわ。ちょっと本気でいこうかしら」
「だから! 俺はナンパをしていた訳じゃないんだって! ね、そうだよね!?」
「そ、そうですにゃ。お客さんとは少しお話を───」
「そう言えと脅されているのね、かわいそうに......。安心して、このナンパ野郎は必ず追い払うから」
「あぁ! もう! これだからエルフは!!」

 埋まらない溝に、深まる対立。
 もはや一触即発の事態となってしまった。

「大人しくぶちのめされなさい。そうすれば、アテナ教の信者にだけは話さないでいてあげるから」

 ポキポキと指の音を鳴らして、女エルフが冒険者の男に近付いていく。
 その姿は見た目だけに留まらず、セリフともどもよく似合っている。

「お客さん......」

 一方、この事態の収束を唯一図れる存在であり、尚且二人の共通の知り合いでもあるねこみは、どうして良いか分からず困惑するばかり。
 
 しかし、ある意味仕方がないのかもしれない。

 ねこみは戦いに関してはただの素人。
 戦いの「た」の文字すら知らない完全なる一般人に過ぎないのだから。

「くッ! こうなったら仕方がない!」
「待ちなさい!! 逃げるの!?」

 冒険者の男は朝日に向かって涙を堪えながら駆け出した。
 せっかく、ねこみと二人きりで話せていた機会を惜しみながら。

 その姿は、どこか友情を守ろうと懸命に走るメ○スのそれに通じるものが───。

「お客さーん! 約束、忘れないでくださいにゃー!」
「覚えてるよー!」

 さすがに通じるものはなかった。
 だって、変わった捨てゼリフを吐いている冒険者の男の顔は緩んでいるのだから。


 こうして、『りゅっころ団』の余波は日常的なところにまで広がりを見せていた。
 

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