歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~
第209歩目 貴族邸の動乱!⑦
前回までのあらすじ
壺を投げるのは勘弁して!
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□□□□ ~姉君は不思議ちゃん!?~ □□□□
何はともあれ、ご令嬢方の頭を冷やすことには成功したので、話をしようと思う。
ただ、さすがにこのまま話をするにはあまりにも失礼だろう。
そう思っていたら、メイドさんはいつの間にかテーブル回りに散らばっていたぬいぐるみをきれいに片付け終えていて、サッとさりげなく椅子を引いてくれていた。
しかも、お茶の用意までしっかりとしてある始末・・・。
「お嬢様方、竜殺し様、こちらをどうぞ。お茶もすぐにご用意致しますので」
「い、いつの間に......」
「メイドたるもの、常に最善のご奉仕に励むものであります」
「そ、そうですか......」
正直、竜殺しである俺よりもメイドさんの方が何気に凄いような気がしてくる。
(うーん。メイドさん、メイドさんかぁ......。
専属ではなくとも、メイドさんもいいかもしれないな。ちょっと羨ましいかも)
それはともかく、折角メイドさんが気を遣ってくれたところ悪いのだが、俺は用意してくれた椅子には目もくれず、とある場所へと向かって歩み出した。
そして、そのとある場所の前でご令嬢方に声を掛けることに。
「座っても?」
「「「!!!」」」
仰天するご令嬢方とメイドさん。
彼女らからしたら、確かに信じられないことなのだろう。
でも、ご令嬢方の本当の気持ちを知る為には、ここしかないと思っている。
それが、例え『誓いの礼』にも等しい行為であると分かっていても、敢えて・・・。
「ご令嬢様方、座ってもよろしいでしょうか?」
「......そ、それが、どういう意味か、ご存知で仰っておりますの?」
「当然ですよ、姉君」
「......じゃ、じゃあ、竜殺し様はやはりわたくし達を───」
「いえ。妹君、そういう訳ではございません。
ですが、それほど重要なお話であると思って頂きたいのです」
俺の答えに微妙な反応を見せるも、一応ご令嬢方からは許可を貰うことができた。
なので、ご令嬢方をベッドにソッと下ろしつつ、俺もベッドに腰掛けることにした。
「お、お嬢様。ほ、本当によろしいのですか?」
「.....うん。いいわ。───竜殺し様? それほど重要なお話なのですよね?」
「えぇ、そうですね、姉君。私とご令嬢様方の今後についての真面目な話となります」
「!!───で、でしたら、構いませんわ! あ、あなたもそのつもりでいるように!」
「か、畏まりました。───竜殺し様、お嬢様方をよろしくお願い致します」
「いやいやいや。その言葉はまだ早いですから。全てはご令嬢様方次第ですよ」
ビシッとした丁寧なお辞儀をしつつ、気の早いことを言ってくるメイドさんには苦笑しか出ない。
だが、メイドさんがそのように勘違いしてしまう気持ちは分からなくもない。
そもそも、貴婦人(一応、ご令嬢方はそのように扱っている)のベッドに───それも、未婚の貴婦人のベッドに腰掛けることなど尋常ならざることなのである。
それこそ、婚約者であったり、よほど親しい男性でもない限り有り得ないことなのだ。
俺はそれを知っていて、敢えてベッドに腰掛ける提案をした。
つまり、それほど重要な話でもあるというわけだ。
そんな俺の意図を知ってか知らずか、期待したようなキラキラした表情及び眼差しで見つめてくるご令嬢方。
一方、不安そうな表情で成り行きを見守っているメイドさん。
そんな二つの対比は、俺の心情ともよく似ている。
今から話す内容は本当に良いものなのだろうか・・・。
俺の下した決断に間違いはないのだろうか・・・。
不安で、罪悪感で、申し訳なさで、心が押し潰されそうだ。
でも───。
言葉を、想いを紡がない訳にはいかないだろう。
俺はその為に、ここまでやってきたのだから。
「......えっと。私に嫁ぎたいというのは本当ですか?」
「妹はどうか知りませんが、わたくしは本当ですわ!」
「お姉ちゃんはどうか知らないけれど、わたくしは本当よ!」
「......ちょっと、どういうつもりよ?」
「......お姉ちゃんこそ、どういうつもり?」
「お、おぅ......」
まさかのシンクロ回答とは......。
いや、それだけ姉妹仲が良いと思えば、これもほのぼのとした......み、見えねぇ!
とりあえず、ぎゃあぎゃあと喧嘩し出した二人を宥めつつ、本題に入ることにする。
「お気持ちは嬉しいのですが......。
そのお気持ちが本物なのかどうか、私には分からないのです」
「どういう......ことですか?」
「んー? 本物の気持ち、ですか???」
「実はですね。今回の一連の流れなのですが───」
この二人は本当に対照的だな、と苦笑しつつも、俺は今回のあらましをできるだけ分かりやすく説明することにした。
当然、黒幕が誰なのかをご令嬢方に教えるには心理的にもよろしくはないと判断した上で、敢えて肝心な部分はボカしての説明となるが。
「───という訳でして、ご令嬢様方のお気持ちは一時的なもの。
それこそ、本物のお気持ちではないと思っているのです」
「......お話は分かりました」
「うーん。よく分からないです」
「......」
俺の説明を聞いて、三者三様の反応を見せるご令嬢方とメイドさん。
姉君の方はさすがと言うべきか、語っていない内容にすら気付いている素振りすらあり、妹君の方は予想通りと言うべきか、説明の半分すらも理解していない節すらある。
そして、一番顕著な反応を見せたのがメイドさんだった。
どこか俯き加減で、体が小刻みに震えているようにも見える。
「......」
いや、きっと、そういうことなのだろう。
このままでは、いずれ賢い姉君に勘づかれる怖れがある。
「メイドさん、すいません」
「は、ははははい! な、なんでしょうか!?」
「この紅茶はあまり好きではないので、別の物に変えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「!!───か、畏まりました! す、すぐにご用意致します! お、お嬢様方、一旦失礼致します!」
「「?」」
気を回し過ぎだったのかもしれない。
それでも、身近にも下劣な策略の協力者が居ると、ご令嬢方に勘づかれるよりかはずっとマシだろう。
それが、いつもお世話をしてくれているメイドさんともなれば尚更だと思う。
うん。ブタ貴族は勘づかれても自業自得だし、どうでもいいかな。......まぁ、敢えて教えるつもりはないけどさ?
「そういう訳で、ご結婚に関しては今一度よくお考えに───」
「竜殺し様。ご説明はよく分かりましたが、それの何がいけないのでしょうか?」
「......え?」
「意図された出会い。作られた劇に、まやかしの恋。
確かに竜殺し様の仰る通り、この気持ちは偽りの感情なのかもしれません。
ですが、それの何がいけないのでしょうか?」
う、うぉ。な、なんだ? このなんとも言えない逆らい難いオーラは......。
これが8歳の子が放つオーラなのか!?!?!?
「竜殺し様。わたくしはこう思うのです。
例えこれが偽りの感情であろうとも、今抱いているこの気持ちを大切にしたい、と」
「で、ですが、本来なら芽生えなかったかもしれない感情なのですよ?」
「いいえ。わたくしには分かります。例え今回の事件が無かったとしても......。
わたくしは必ず竜殺し様に恋をし、竜殺し様の妻となっていたことでしょう」
本当に凄いな、この子は......。どこからそんな自信が沸いてくるのか。
いや、別に不快な感じはしないんだけどさ?
「なぜ、そう言いきれるのですか? 私と姉君は出会ったばかりなのですよ?」
「これが運命だからです」
「......はい?」
「ですから、運命だからだと申し上げたのです。
わたくしと竜殺し様は結ばれる仲、運命の赤い糸で繋がった特別な仲なのです」
「は、はぁ......」
う、運命ときましたか......。
ふぅー。......なんか一気にうさんくさい話になったんだが!?
え? なに? この姉君はそういうキャラ───所謂、不思議ちゃんってやつなの!?
「......えっと。妹君も姉君とご一緒なのですか?」
「ううん。お姉ちゃんが何を言っているのか分からないけど、わたくしは竜殺し様のことが好きですよ!」
「それが意図して作られた気持ちであっても、ですか?」
「よく分かりません! でも、竜殺し様のことは好きなんです!」
「あ、ありがとうございます」
なんというか凄く癒される。多分、妹君は純粋なんだと思う。
だから、理屈うんぬん抜きで、ただただ自分の感情に従っているだけなのだろう。
例えるのなら、アテナやモリオンに近いタイプの子なのかもしれない。
一方、姉君の方は、ニケさんやドールに近いタイプに分類されるかもしれない。
自分に絶対的な自信を持っていて、それが故に歳に似合わないオーラを醸し出しているというかなんというか・・・。
ドールもそうだが、成長したら、きっと頼れるお姉さんになること間違いなしの逸材だと言ってもいいだろう。将来が本当に楽しみな子だ。
「では、どうあっても、ご令嬢様方は諦める気はないのですね?」
「「当然ですわ!」」
「そう......ですか」
とりあえず、ご令嬢方は引く気はないらしい。
だったら、俺も覚悟を決める他はないだろう。
「分かりました」
「「で、では! わたくし達と結婚して頂けるのですね!?」」
「......」
「「りゅ、竜殺し様?」」
「......それも含めて、今から大切なお話をさせて頂こうと思います」
「「な、なんでしょうか?」」
ご令嬢方からは息を呑む音がハッキリと聞こえてきた。
きっと緊張しているのだろう。
いや、緊張して当たり前か。
今から俺が話す内容如何によって、ご令嬢方の将来が決まるのだから。
俺は期待と不安の入り交じった眼差しで見つめてくるご令嬢方の瞳を一瞥した後、こう切り出すことにした。
「ご令嬢様方の気持ちはよく分かりました。
でしたら、そのお気持ちが本物なのかどうか試させて頂きたいと思います」
「「!?」」
□□□□ ~2つの条件part.1~ □□□□
「試すとか、お前何様だよ?」とのバッシングが今にも聞こえてきそうだが、俺にもどうしても譲れないものがある。
それは『本当に俺に好意を抱いている相手にだけ真剣に向き合いたい』というものだ。
実に他力本願な願いだろう?
だからこそ、支えてくれるお姉さんが、俺は好きなんだ。HAHAHA。
それと言うのも、俺は普通である。容姿が特に優れている訳ではなく、才能にも溢れている訳ではない。
偶々、ニケさんやラズリさんには好かれている訳なのだが、26年間彼女が居なかったこともこれまた事実なのである。
だからだろうか、『恋人 = 結婚相手』という認識が非常に強い。
故に、遊びの彼女はいらないのである。
また、遊ばれるというのも勘弁願いたい。
そりゃあ、相手があることだから、上手くいかないことも当然あるだろう。
だからといって、始めからそういう意識のない適当な感情だけで付き合って欲しくはないのである。
要は、めんどくさい男だということだ。HAHAHA。
だから、試す。
ご令嬢方が本物の気持ちなのかどうかを試させてもらう。
それが、例え失礼なことであってもだ。
じゃないと、俺もご令嬢方と真剣に向き合うことができない。
それも、ニケさんに罪悪感を感じてまで決断したことだ。
だから、身分の差? 無礼? 何様? そんなものは全てかなぐり捨ててでも、これだけはどうしても譲れないものなのである。
「ご令嬢様方が私と本当に添い遂げたいと思われるのであれば、今から申し上げる2つの条件を達して頂きたいのです」
「じょ、条件......ですか?」
「はい、姉君。これだけはどうしても譲る気はございません。上からの物言いで大変申し訳ございませんが、無理だと仰られるのであれば、諦めて頂く他はございません」
俺の強い物言いに、姉君の表情が若干強張ったようにも見える。
それの意図するところは分からないが、それでも俺の真剣さが伝わったことだろう。
「......分かりました。では、その2つの条件とやらを伺いましょう」
「一つ。10年間は私との結婚を待って頂きたいと思います」
「「!?」」
「ハッキリと申し上げます。ご令嬢様方のご年齢では結婚相手としては全く見れません」
この世界では───いや、この世界の貴族がどうなのかは知らないが、さすがに8歳と6歳の子が26歳のおっさ───ではなく、お兄さんと結婚するというのはあまりにも違和感がありすぎる。
そもそも、昨今では20歳差ぐらいの年の差婚はそこまで珍しいものでは無くなってきてはいるが、それはお互いの年齢が成人以上であるから良いのであって、俺とご令嬢方ではそのケースに当てはまらないと思う。
仮に、「ここは異世界だから......」という人も中にはいることだろう。
その通りだ。
俺は『郷に入れば郷に従う』のが基本だと思っている。
だから、本来は一人だけ、それこそニケさんだけを好きでいればいいだけのところに、ラズリさんの気持ちを受け入れることにした。
と言っても、最終的にどうするのかは決めかねてはいたが。
そして、もしかしたら、そこにご令嬢方も加わる可能性が・・・。
俺は譲るべきところは譲っているつもりである。
だったら、異世界側も一つぐらいは譲るべきだろう。
それが、良好なwin-win関係というものだ。
では、何を譲ってもらうかというと───。
「じゅ、10年なんて、そんな......。そ、そもそも、なぜ10年なんですの?」
「10年後であれば、妹君も成人になられておりますよね? だからです」
「「!!」」
「私が異世界から来た勇者なのはご存知ですよね?
私の世界では、女性は16歳以上でないと結婚はできないのです。
ですから、今より10年後であれば、妹君もその条件を満たすという訳です」
正直、16歳で結婚というのもどうかと思うが、6歳で結婚するよりかは大分マシだ。
それに、いくら貴族といえど16歳で未婚だからといって、行き遅れということもないだろう。......ないよね?
「貴族たるもの、10歳前後で婚約又は結婚していても珍しくはございません。
それに、大抵は成人を迎える辺りには結婚しているものでございます」
「そ、そうですか......」
うん。だったら、ギリギリセーフってことで。
「ねーねー。竜殺し様」
「妹君、なんでしょうか?」
「よくは分からないのですが、10年待ったら結婚して頂けるということでいいのですか?」
「違います」
「え!? 違うんですの!?」
「えー!? 違うんですか!?」
あれ? これはどうやら誤解を与えてしまったようだ。
危うく、『誓いの礼』の二の舞になるところだった。訂正しないとな。
確認してくれてありがとうございます、妹君。
「違いますよ。あくまで結婚するのは10年後以降でないとお受けできないという意味であって、ご令嬢様方との結婚が確定するものではありません」
「そ、それでは、10年間待っても......」
「そうとは言いきれません。10年後、再びご令嬢様方のお気持ちを伺いたいと思います。それでも、まだ私のことが好きだというのなら、その時は結婚を前提に真剣にお付き合いさせて頂こうと思います」
「「!!」」
さすがに、10年も経てば俺への気持ちなんざ当に冷めているに違いない。
でも、万が一にでも、10年間俺を想ってくれていたのなら、もう完全にお手上げだ。
そこまでの愛情を疑うなど野暮だ。
そこまでの愛情を受け入れないなど俺にはできない。
そう、その時は間違いなく、俺からご令嬢様方にアプローチしていることだろう。
「安心しました。それならば、何の問題もございません」
「ねー! 10年ぐらい簡単に待てるよね! これはもう竜殺し様と結婚したも同然だね!」
「あ、あの、10年ですからね? 分かっています?」
「ご心配には及びません。その10年の間に竜殺し様が思わず振り向いてしまわれるような素敵な女性になれるよう精進致します」
「わたくしも! わたくしもお姉ちゃんに負けないぐらいの素敵な女性になってみせますわ!」
「そ、そうですか......」
正直、ここまで軽いノリだとは思ってもみなかった。
この世界には『遠くの女房よりも近くの他人』や『遠距離恋愛は破綻しやすい』みたいなことはないのだろうか。
と言っても、ご令嬢方がこれで納得しているみたいなので、これはこれでいいのだろう。
結構厳しいことを言っている自覚はあるので、変に泣かれずに済んで助かったというのが本音でもある。
「ねー。竜殺し様」
「妹君、どうされました?」
「竜殺し様のお膝の上に座ってもよろしいですか?」
「え? えぇ。別に構いませんが......」
「またこの子ったら! いい加減にしなさいッ!」
「まぁまぁ。姉君も遠慮せず、お座りください」
俺の膝上を巡って、再び言い争うご令嬢方。
その表情は不安など全て吹っ飛ばしたかのような晴れ晴れとしたものだった。
(と言うか、普通「10年待ってくれ!」で、ここまでの影響を及ぼすか!?)
これが異世界ギャップというやつなのだろうか。
いや、おみそれしました。
□□□□ ~2つの条件part.2~ □□□□
ご令嬢方がすっかりと寛いだところで、本題に戻ることにする。
正直、一つ目の条件に比べたら大したことでもないので、軽い気持ちで伝えたのだが・・・。
「竜殺し様は、このわたくしに「二夫にまみえよ」と、そう仰るのですか!!」
「いやいやいや! そういう意味ではないですから落ち着いてください!」
予想以上に不評だった。
特に、姉君からの反対はそれはもう凄かった。
そもそも、俺が二つ目に出した条件は以下の通りだ。
『10年の間に、ご令嬢方は侯爵家令嬢としての務めをしっかりと果たすこと』
別にこれと言って、何の変哲もない条件に見えるだろう?
しかし、これが姉君にとってはとても不満な内容だったらしい。
それと言うのも───。
「貴族として、作法及び魔法や勉学に励むのは良いとしましょう。
ですが! でーすが! このわたくしが、なぜに社交界などに出ねばならないのですか!」
「いえ。それもご令嬢としての務めですよね? そうですよね、妹君?」
「うん。そうだね。おいしいものがたくさん食べられるのに、お姉ちゃんはなんで怒っているの?」
「あなたはバカなの?......いえ、バカでしたね。話にもなりません」
「ちょっ!? 姉君、それはさすがに言い過ぎでは!?」
「うぇぇえええん! 竜殺しさまぁ! お姉ちゃんがいじめるぅ!!」
と、まぁ、姉君はどうやら社交界に出席することを嫌悪しているようだ。
ただ、別に社交界自体が嫌いという訳ではないらしい。
「社交界というものは、わたくし達女性にとっては殿方との出会いの場という側面が非常に強いのです」
「な、なるほど」
「つまり、そんな場に出るということは、既に竜殺し様を良人にと決めているわたくしにとっては、それ即ち不貞行為に繋がるというものなのです」
「お、夫!? ちょっと気が早くはありませんか!?」
「関係ありません。わたくしの心と体は全て良人である竜殺し様のものです。
これは生涯変わることはないでしょう。仮に竜殺し様に貰って頂けないのであれば......」
「......であれば?」
「神に仕える(=シスターになる)ことも厭いませんッ!」
「ちょっ!? そこまで!?」
やっぱりそうだ。姉君はニケさんやドールに通じるものが非常に多い。
想いが激しいというか、徹底しているというか、あまりにも一途で純粋だ。
でも、だからだろうか、ちょっと嬉しい。
俺としては愛が重い方が───それこそ、ヤンデレ気味な方が嬉しくもある。
ぶすぅ! と刺されるのはごめんだが、依存されるぐらいに愛される分には「うぇるかむかもーん!」なのである。
故に、『おね × ショタ』のような形は一つの理想系とも・・・。
と、俺の性癖は一旦置いとくとして、姉君の説得を試みないと。
「......竜殺し様は、それでもわたくしに「二夫にまみえよ」と仰るのですか?
そんなあんまりです。わたくしは竜殺し様以外の殿方には触れられたくもありませんのに......」
「お、落ち着いてください、姉君。そういう意味ではないのです」
や、やばい......。姉君がちょっと泣きそうになっている。
しかも、姉君のそんな様子を見て、妹君からの責めるような突き刺さる視線が凄く痛い。
(あ、あの......。別に、俺はお姉さんを虐めている訳じゃないんだよ?)
「......では、どういう意味ですの?」
「別に、お付き合いをしろとは言っていないんですよ。むしろ、本当に私のことが好きだというのなら、私だけの姉君で───っと、い、今のは聞かなかったことにしてください!」
「竜殺し様!───分かりました。竜殺し様がそう仰られるのなら、今のお言葉はわたくしの心の中にソッとしまっておくことにしましょう」
「......HAHAHA」
うぅ。すげぇ恥ずかしい。
8歳の子供相手に、26歳のいい大人がマジ口説きとか、穴があったら入りたい気分だ。
どうにも、お姉さん属性を持っているであろう姉君には、ついつい甘えたくなる衝動が沸いてくる。
これだと姉君にとっても良くはないだろう。10年だ。10年は我慢しないと!
「......えっとですね。姉君には将来に向けてたくさんの知己を得て欲しいのですよ」
「たくさんの知己......ですか?」
「はい。正直に申しますと、私は貴族があまり好きではないのです」
当然、「ご令嬢様方は別ですよ?」と、付け足すことは忘れてはいない。
「と言うことは、竜殺し様の代わりにわたくしが知己を広め、今後の糧にされると?」
「その通りです。それだけではなく───」
「えぇ。存じております。わたくしに貴族とのパイプ役を任せたい、そう仰りたいのでしょう?」
「さすがは姉君。その通りです。むしろ、そちらがメインですね」
「貴族がお嫌いだということであれば、自ずと分かることですわ」
やはり、姉君は相当賢い。
大貴族のご令嬢ということで、教育がしっかりと行き届いているのだろう。
それに比べて、王女であるモリオンときたら・・・。
いや、モリオンは俺が責任を持って教育をするから問題ない。
むしろ、本当に憂えるべきはアテナの方だろう。......まぁ、あいつはどうでもいいか。
・・・。
とりあえず、俺が出した2つの条件はご令嬢方に受け入れてもらうことができそうだ。
そして、10年という月日は、きっとご令嬢方にとっても多大な影響を及ぼすことだろう。
それこそ、俺のことなんて簡単に忘れてしまえる程に・・・。
それはそれで少し寂しい気もするが、元は作られた感情であり、偽りの恋でもある。
だとしたら、俺のことなんて忘れてしまった方が、ご令嬢方にとっても幸せなことかもしれない。
それでも、10年後変わらずにいてくれたのであれば、その時は・・・。
俺の膝上で、姉妹仲良くおしゃべりしているご令嬢方を見て、俺はついそう思ってしまった。
「竜殺し様の2つの条件、見事果たして見せますわ!」
「はい。頑張ってください、姉君」
「つきましては、わたくしからも一つの条件を提示したいのですが、よろしいでしょうか?」
「条件......ですか? なんでしょう?」
俺も偉そうに条件を提示している以上、姉君からの条件も受け入れるべきだろう。
受け入れられる条件なら、という条件付きだが......。条件に条件付きとはこれ如何に。
「わたくしの......わたくしの名前を呼んで欲しいですわ!」
「なるほど。それぐらいでしたら、お安いご用です」
「嬉しいですわ! わたくしの名前は『アメジスト』。
愛名は『アメス』ですわ。ですから、竜殺し様には『アメス』と───」
「よろしくお願いします、『ジスト』様」
「ぶぅ! 竜殺し様は本当に意地悪な方ですのね!」
こうして、俺とご令嬢方は『2つの条件』を約束に、再び笑顔で笑い合うことができるようになった。
ちなみに、妹君にも名前で呼んで欲しいとお願いされたので、姉君である『ジスト様』同様に、『フローライト』である『ライト様』と呼ぶようになったことを追記しておく。
・・・。
そして、ブタ貴族と大事な話とやらの時間になったのだが・・・。
「ぎぃやぁぁあああぁぁぁああ!」
「あぁぁあああがぁぁああああ!」
「ぐわぅぅうえわぁぁぁああぁ!」
「......」
目の前では阿鼻叫喚の地獄絵図へと化していたのだった───。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
次回、本編『貴族邸の動乱⑧』!
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今日のひとこま
~とある少女の夢~
これは主人公達が貴族邸を訪れる前のお話。
「あなた。ただいま戻りました」
「おかえり、アメス。そっちの戦況はどう?」
「はい。───ちゃんと───様のおかげで順調ですわ」
「そうか。───、このままでいくと作戦完了はいつになる?」
「───様と───様が暴れまくっておるからの。残り2日といった感じかの」
「2日か......。なら、アメスはそのことを王都に伝えにいってくれ。それで、そのまま休息な。もう大分目立つようにもなってきたし、あんまり無理をするなよ?」
「良人の側に仕え、良人の役に立つことこそが妻たるものの役目。これしき何の問題もございませんわ」
「いいから休んでおけって。王都には───と───もいるし、何かあった時にも心強いしさ」
「あなたがそう言うのなら......」
「そうしてくれ。心配を払拭してくれるだけでも凄い助かるからさ」
「主は既に何度も経験しておるであろう? 一家の主らしくドンと構えておれば良いのじゃ」
「うるせえな! ああいうのは何度経験しても慣れないものは慣れないんだよ。男はそういうものなの」
「本当に、あなたと───お姉様は仲がよろしいことで。それで、わたくしが王都でやることは何かございますか?」
「うーん。伝言と......───、何かあるか?」
「報酬の件の最終確認じゃな。具体的には技術と人材の提供......それと、───と───がうるさいから食べ物もついでに貰っておくことも忘れずに、じゃな。そうそう、金はいらぬ」
「分かりましたわ。技術と人材の目安はいかほどになさいましょうか?」
「根こそぎで良いのではないか? どうせ、この地には二度と来ぬだろうしの。貰えるだけ貰えば良い」
「お、お前な......。この後の統治とか色々あるかもしれないだろ?」
「いえ、あなた。───お姉様の言うことにも一理あるかと」
「どういうことだ?」
「占領地を統治するのは貴族の務めです。従って、統治する為の人材を確保するのも貴族の務めだとも言えます」
「うん? まぁ、そうなるのかな?」
「はい。ですので、他所に人材を引き抜かれるような貴族は、その時点で統治する資格無しとも言えます」
「お、おぅ......」
「そして、そんな愚かな貴族を統治者に任命した国にも非があると言えます」
「うむ。全くその通りなのじゃ。さすがは元令嬢じゃな。道理を弁えておる」
「いや、でもさ? 統治って大変そうじゃん? 丸ごと引き抜いたらかわいそうじゃないか?」
「あなた、何も気に病む必要はありません。わたくし達が任された役目は世界征服だけです。その後のことは、この世界の者達が勝手にすることでしょう」
「そう? そうなのかな? ───とアメスがそう言うのなら、それが最善なのかな?」
「主は勝手に召喚されたのじゃぞ? その対価としての見返りは必要なのじゃ。それに優しくするのは妾達だけで良い。勘違いする娘がまた出てきても妾は知らぬぞ?」
「うっ......」
「あなた? 多くの妻を持たれることにわたくしは反対致しませんが......───様のご説得には、わたくしはお役に立てませんので、そこはお覚悟ください」
「......えっと。───とアメスに全てを任せる。その、ありがとな?」
「何を今更。妾は主の妻。当然のことを言うたまでなのじゃ」
「───お姉様の言う通りですわ。わたくし達妻一同はあなたのお役に立てることこそが一番嬉しいのですから」
「いや、本当にありがとう。俺は良い妻達に恵まれているな。愛しているよ、───、アメス」
・・・。
(ハッ!? い、今のは!? ゆ、夢......ですの?)
(それにしては所々が不明瞭でした。それに、わたくしのお腹には......)
(わたくしもいずれは良人となるべき殿方の元へと嫁ぐのは確か。そうなると、今の夢は予知......ということでしょうか?)
(わたくしの将来......)
(そういえば、お父様が明日竜殺し様がお見えになると仰っていましたね)
(竜殺し様......どんなお人なのでしょうか? もしかしたら、竜殺し様がわたくしの......?)
(もしそうだとしたら、わたくしは竜殺し様に受け入れて頂けるのでしょうか?)
(竜殺し様......)
わたくしが見た夢は正夢になるのかどうか・・・それは分かりません。
ですが、この時のわたくしは、いま見た夢にどこか運命的なものを感じていたのは確かでした。
そして、タイミング良く現れた竜殺し様。
もしかしたら、竜殺し様こそがわたくしの・・・。
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