歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~
第198歩目 冥界の魔女の実力!彼女ニケ⑤
8/11 タイトルを変更しました。
(変更前)冥界の魔女の実力!彼女ニケ⑮ → (変更後)冥界の魔女の実力!彼女ニケ⑤
なお、本文の変更はございません。
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前回までのあらすじ
モリオンとヘカテー様は相性バッチリ!
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「ねー。頑張ったらお願いいいー?」
そう尋ねてくるのは深い紫色の瞳をしたヘカテー様だ。
お願いしている姿は子供っぽくて非常に愛嬌があるものなのだが、深淵を佇ませたその瞳にだけはどうにも慣れない。何を考えているのか、はたまた何も考えていないのか、さっぱり分からないからである。
「構いませんよ。アテナ様の、歩様のお役に立てましたら、その罪を許しましょう」
そして、そんなヘカテー様のお願いに答えているのはニケさんだ。
俺もニケさんの側にいる訳なのだが、ヘカテー様の視線が明らかにニケさんに向いているので、尋ねているのは俺ではなくニケさんなのだろう。
「わーい! やったー! じゃー、人間君、よろしくねー☆」
「よろしくお願いします、歩様」
「俺へのお願いだったの!?」
と言うか、それって俺に確認するべきでは!?
なんだか分からない内に、俺はヘカテー様のお願いを聞くことになってしまった。
□□□□ ~遂に購入!~ □□□□
さて、ヘカテー様の紹介も軽く済んだところで、俺達は再び魔動駆輪コーナーへと戻ってきた。
「ところでニケさん。どうしてヘカテー様を?」
「はい。ヘカテー様に少し手伝って頂こうと思います」
「手伝ってもらう.....ですか?」
「私でもアテナ様のご要望に応えられなくはないのですが、細かい部分の調整は苦手なのです」
どういうことか詳しく聞いてみたかったが、「ふふっ。見れば分かりますよ」と軽く流されてしまった。
本当なら、「俺がヘカテー様のお願いを聞く訳なのですから、詳しく話してください!」と強く出るべき所なのだろうが、ニケさんのにっこりお姉さんスマイルに惨敗してしまった。だって、美しいからしゃーない。
「よく分からないですが、お任せしてもいいんですね?」
「はい。ですので、歩様はデザイン.....ですか? お好きなものを選んで頂けると助かります」
そういうことなので、ドールと厳正に協議した結果、俺が気に入った赤と白のレトロなデザインである【ハイカラ號】に決めることにした。
ちなみに、お値段は(機能重視である)フランジュと比べると(デザインだけで)見栄を張るトランジュらしく『32億ルクア』と、デザインだけのシンプルな機能の魔動駆輪の割には少々見栄を張ったものだった。
しかし、そこは「妾にお任せなのじゃ!」いうことで、最終的には『22億ルクア』にて即決することが決まった。ドールさん、3割引とかマジぱねぇっスわ!
「ふふ~ん♪ そうであろう。そうであろう。もっと誉めるが良い!」
よほど満足いく出来だったのか、ドールの2本の尻尾がふりふりと優雅に振られている。かわいい。
「.....(にっこり)」
一方、ニケさんはというと、静かに怒っていらっしゃる。
いや、ニケさんのきれいな灼眼が「私も役に立たせろ!」と、そう訴えかけてきている。
(HAHAHA。ハァ.....)
よほど先程の件が腹に据えかねているのだろう。
それと言うのも、ドールに値引き交渉を任せる前に、ニケさんから「私なら半額。いえ、献上させることも可能ですが、いかがなさいますか?」と提案されたのを断ったからだ。
中には「どうして断った?」とお思いの方もいるだろうが、俺はそういうのが嫌なのだ。
と言うのも、ニケさんは間違いなく『勝利』の神護を使うことだろう。ニケさんの、その『俺の為に』という気持ちは純粋に嬉しいものなのだが、だからと言って『勝利』の神護を使うのは何か違う気がする。フェアじゃないというかズルいというか.....。
俺は別に偽善者ぶりたい訳でもなく、聖人ぶるつもりも一切ない。
例え卑怯と言われても、例えズルいと言われても、有効な手段ならそれもやむなしだと本気で思っている。戦いの場面なら.....。
しかし、商売となると、また話は変わってくる。
ズルしてまで得したいとはどうしても思えないのだ。
接客業と営業では職種は大分異なるが、それでも俺は一営業マンだったせいか、殊更にそう強く思う。ごめんなさい!ニケさん!!
「.....ふふっ。別に怒ってなどいませんよ?
ただ、歩様のお役に立てているヘリオドールが羨ましいな、と思っている次第です」
「.....」
め、目が怖い.....。
その後、拗ねてしまったニケさんを.....。
「拗ねてなどいませんッ!」
「ソ、ソウデスネ.....」
その後、ニケさんの機嫌を宥めるのに相当時間を食ってしまったが、無事目的のものを購入することができた。
こうして、遂に俺は念願の旅のお供&マイホーム(予定)を手に入れたのである。
ドールの喜びようが凄まじかったことは言うまでもないだろう。なんたって、いま俺の目の前でへんてこな躍りをしているぐらいなのだから.....。
「よっこらふぉっくす♪ こんこんこん♪」
「.....それはなんだ?」
「喜びの舞なのじゃ!」
ドール、アウトー!
ただ、魔動駆輪を所持する上で色々と手続きが必要みたいだが、それらは明日行えばいいだろう。
この後は色々と相談しなければならないこともある。魔動駆輪のことについてとか、魔動駆輪のことについてとか、魔動駆輪のことについてとか。
そういう訳で、目的を終えた俺達は魔動駆輪の相談をすべく、軽い足取りでそのままフードコートへと向かうのだった。
ちなみに、今度ばかりはアテナも事情を分かっていたのか、【ハイカラ號】購入について反対してはこなかった。ただ、「ぶー(´-ε -`) なんかじみー」とぶつぶつ文句を言ってはいたが.....。
(ふっ。この【ハイカラ號】のセンスが分からないとか、所詮アテナはお子ちゃまよ)
所持金:1,108,452,200ルクア【↓2,200,000,000ルクア】
□□□□ ~魔法と魔術~ □□□□
さて、場所をフードコートに移して少し早めのくそまっずい昼食を取りつつ、早速魔動駆輪の相談をしていく。
そして、開口一番はやはりこいつだった。
「はいはーい! 私はねー、おっきーお風呂がいいー! それも温泉ねー(*´μ`*)」
そう、みんなご存知、駄女神ことアテナだ。
しかも、このくそ駄女神は何気に『温泉』というリクエストの他に『大きい風呂』という要望も加えてきやがった。温泉だけでも大変だというのに、更に大きい風呂とは呆れたものである。
「黙れ」
───ドン!
「ふぇ Σ(・ω・*ノ)ノ」
とりあえず、ここはバカを黙らせて現実的な、建設的な有意義のある相談をするべきだろう。
そう思っていたのだが.....。
「りょーかーい! どどーんとおっきー温泉を創っちゃうんだからー☆」
「どういうこと!? え!? どういうこと!?」
なぜかヘカテー様はノリノリでそう答えていた。
しかも、俺の疑問に「私はねー、これでも冥界建築士1級の腕前なんだよー☆」とか、訳の分からない答えが返ってくる始末。と言うか、冥界建築士1級ってなんやねんッ!
「落ち着いてください、歩様」
「ニ、ニケさん.....」
「ヘカテー様ならば、それが可能なのです」
「どういうことですか?」
「ヘカテー様は魔女。あらゆる魔術(・)を使いこなす魔女なのです。だから、温泉も建築士も、ヘカテー様ならば容易いことなのですよ」
温泉はともかく建築士は関係なくね?
それはともかく、『冥界の魔女』と異名を持つヘカテー様だ。
そのあらゆる魔法で温泉の件もなんとかしてしまうのだろう。そう言えば、ヘカテー様と初めて出会った時に【創造】を使っていた気がする。となると、今回も.....。
「いえいえ。魔法ではなく魔術です」
「ん? 何か違うんですか?」
「全然違うよー! ねー、アーちゃーん」
「ちがうねー! そんなこともしらないのー? 歩、おっくれてるーヽ(o・`3・o)ノ」
「.....」
う、うぜぇ.....。
ヘカテー様はアテナに容姿が酷似しているせいか、どうにもアテナ2人にバカにされているようで、普段よりもストレスがマッハだ。いや、別にヘカテー様にはバカにされてはいないけれど、なんかそう見えちゃうというか.....。よくあるよなッ!
だから、俺は決断した。
「うるせぇんだよ! このくそ駄女神がッ! ついでにヘカテー様.....(ぼそっ)」
───ぎゅむ!
───ぎゅむ!
「ふぇぇえええん(´;ω;`) ごめんなさーい」
「ふぇぇえええん。い、いたーい。なんでー!?」
俺に頬をつねられたことで、アテナとヘカテー様が喘いだ。
仲良きことは美しきかな。恨むなら、原因となったアテナを恨んでくださいね?ヘカテー様。
とりあえず、「ふぇぇ.....。ふぇぇ.....」とうるさい2人は大好きな妹達に任せることにして、俺はニケさんに魔法と魔術の違いを尋ねてみることにした。
そう言えば、魔法、魔術という2つの言葉があるということは厳密には違うんだよな.....。
「異なりますね。簡単に言えば、魔術は魔法の劣化版といったところでしょうか」
「劣化版.....ですか」
「正確には『魔力消費の少ないワンランク低い魔法』というのが正しいかと思います」
「はぁ.....。ワンランク低い魔法ですか。.....あれ? でも、ヘカテー様は【創造】を使っていましたよ?」
「はい。ですので、『魔術版の【創造】』ですね」
魔術版の【創造】.....?
なんのこっ茶?【創造】は【創造】なのでは?
「そうですね。神剣と聖剣みたいなもの、と言えば、お分かりになりますか?」
「!!」
さすがはニケさん!
今の説明で全てに合点がいった。
なるほど。魔法は神剣で、魔術は聖剣と捉えればいいようだ。
どういうことかというと、俺のデュランダルで簡単に説明しよう。
この世には『神剣デュランダル』と『聖剣デュランダル』の2つのデュランダルが存在する。
どちらも本物のデュランダルであって、どちらかが偽物であるということではない。正真正銘、どちらもかの有名なデュランダルなのである。
ただ、『神剣』と『聖剣』には大きな違いがあって、『神剣』は神が創りし最高峰の剣、『聖剣』は人が造りし最高峰の剣となっている。(※世界編! 【神剣と聖剣】参照)
つまり、魔術版の【創造】とはそういうことなのだ。
「ですので、使い勝手という観点から見れば、魔術は魔法よりも優れておりますね」
「なるほど。ちなみに、俺が使っているのは魔法? 魔術? どちらなんですか?」
「歩様に限らず、全員が魔法となっております」
「そうですか。でも、魔術のほうが使い勝手はいいんですよね? だったら、場合によっては魔術のほうが良さそうな気もしますが.....」
例えば、言葉は悪くなるが、勇者よりも格段に基本性能が劣る現地人とかは魔術のほうがいいのではないだろうか。いくら魔法と比べて、魔術の性能がワンランク落ちるとはいえ.....。
それに、魔術についてニケさんに詳しく聞くと、習得するのに適正が必要な魔法とは異なり、どうやら魔術には適正は必要ないらしい。
つまり、努力次第では誰でもあらゆる魔術を会得することが可能だという訳だ。
これはますます魔術のほうが良いような気もする。
特に、元から精強な勇者はともかく、現地人なら尚更.....。
しかし、そんな俺の考えに、神からの無慈悲な一言が下される。
「だって、いちいち設定するのはめんどくさいじゃないですか」
「えぇ.....。そんな理由なんですか.....」
それでいいのか、ニケさん。
いや、それでいいのか、神界よ。
申し訳なさそうに「規定ですので」と謝罪するニケさんの姿を見て、アルテミス様の「所詮、勇者や人間なんて神々の駒、おもちゃに過ぎないからね。あひゃひゃひゃひゃひゃw」との真理が頭を過る。ハァ.....。
とにもかくにも、あらゆる魔術を使いこなす魔女であるヘカテー様にかかれば、アテナの要望など朝飯前だということがよく分かった。
こうして、冥界建築士1級の腕前を持つヘカテー様のリノベーション無双が始まることとなる。
「じゃー、今、ここから始めよっかー! 一から……うぅん、ゼロからー!」
はい。ヘカテー様、アウトー!
□□□□ ~新たなレベル6スキル~ □□□□
建築士の仕事は多い。
実際、全てが決まった後に取り掛かる施工よりも、『クライアントの要望をどれだけ多く聞き入れることができるか』を決める段階のほうが、実は一番大変なんじゃないだろうか。
営業だってそうだ。
営業も成約後よりかは、決まる前の商談時のほうがかなり大変だったりする。
そう考えると営業も建築士も職種は異なるが、特段そう変わらないのかもしれない。.....多分。俺は建築士じゃないからわっかんねッ!
そして、いま俺の目の前では、クライアントどもがギャーギャーとやかましく要望を吐き出している最中だ。
───バン!バン!バン!
「お風呂ー! お風呂ー! お風呂ー! それもー、おっきーお風呂でしょー( ´∀` )」
「うむ。それは姉さまに賛成じゃな。大きな風呂で足を伸ばして寛ぐは天国なのじゃ」
「大きいお風呂なのだ? ドラゴンになってもいいのだ?」
「.....」
───バン!バン!バン!
「よゆー! よゆー! モーちゃんの背中を使って滑り台するんだーo(≧∇≦)o」
「ほぅ。そんなに大きくできるのじゃな。ならば、普段はできぬトカゲの背中を流すこともできそうかの」
「お姉ちゃん.....。我は嬉しいのだ!」
「.....」
───バン!バン!バン!
「温泉ー! 温泉ー! 温泉ー! おっきーお風呂には温泉だよねー(*´μ`*)」
「その温泉とやらを妾は知らぬのだが、どういうものなのじゃ?」
「我は知ってるのだ! 飲めるのだ! 飲むとすべすべなのだ!」
「.....」
───バン!バン!バン!
「そーそー! 温泉を知ったらー、コンちゃんはとろけちゃうよー(〃ω〃)」
「ほぅほぅ。飲める風呂とはまた奇特なものなのじゃな。それは楽しみなのじゃ」
「我もいっぱい飲んで、いっぱい脱皮するのだ!」
「.....」
う、うるっせぇなぁ!
いちいちテーブルを叩くんじゃねぇよ!くそ駄女神がッ!!
己の希望の全てが叶うと分かったアテナの喜びようは凄まじい。
それはもう常に興奮状態で、絶叫にも近い声を張り上げながら欲望の限りを吐き出している。
ちなみに、ここまでアテナ達が騒いでいても周りへの騒音被害は皆無である。
なぜかというと、ニケさんはあらかじめこうなると予想していたのか、ヘカテー様が要望を聞き出し始めた瞬間にレベル6スキルである【遮断音響】を発動させ、俺達以外の人達に俺達に関すること一切が何も聞こえない状態にしたからである。マジ、ニケさん優秀すぎ!
ただ、当然俺達にはそのスキルの影響はないので、うるさいったらありゃしない。
実際、その弊害は出ている訳で.....。
「もっと静かにゆっくり言ってよー! 全然分かんなーい!」
非常に困った顔をして、アテナ達に文句を言うヘカテー様。
要望を言うのは大事なことだが、建築士にその要望が伝わらないのでは意味がない。ハァ.....。本当にどうしようもないちび助どもだ。
そう思っていたら.....。
「問題ございません。全ての要望を要点だけまとめさせて頂きました」
「ふぁ!? あんな雑音の中で、ですか!?」
ニケさんは聖徳太子かよ!?
「いえ。雑音に勝利してしまえばいいだけですから」
「あっ。なるほど」
いいえ。ニケさんは勝利の女神様でした。
と言うか、『勝利』の神護が便利過ぎる!
さすがはニケさん。さすがはデキるお姉さんだ。
彼氏として、優れた彼女を持てたことに鼻が高くなるとともに、再びあの悪夢のような雑音を聞かずに済んだことに大いなる感謝の念を捧げたい。
「ふふっ。お役に立てましたでしょうか?」
「それはもう予想以上です。さすがですね」
「ありがとうございます。でしたら、そのお気持ちを形にして頂けたら嬉しいです」
「うっ.....。そ、それって、もしかして.....」
「歩様。私の気持ちを酌んでくださいね?」
酌むも何も、ニケさんはそう言い終わると、上目遣いで俺を見つめてきた。
そして、そのきれいな灼眼からは、まるで「キスして欲しい」とでも言いたげな様子だ。いや、実際キスして欲しいのだろう。だって、顎を少し上げ、手を胸の前で祈るかのように小さく組むといういつものポーズをしているのだから.....。と言うか、ここで!?
「ご安心ください。ほんの一瞬ですが、アテナ様達の認識を強制的に外させて頂きます」
「え? そんなこともできるんですか? と言うか、それができるのなら、何で今まで使わなかったんですか?」
「一応、レベル6スキルの多用は控えたいのです。申し訳ありません」
言いたいことは分かる。
でも、それなら今はどうなんだ?
そうツッコミたいところだが、今はキスしたい気持ちで盛り上がってしまったのだろう。
それに、本当にアテナ達の認識を外すことができるのなら、俺だってキスしたいのはやまやまだ。
(仕方がないよなぁ.....。ニケさんのうるうるな灼眼が魅力的なんだし! あと、ぷるぷるな唇もな! 今すぐその唇にむしゃぶりつきたいぜッ!!)
と言うことで、ニケさんのお願いを叶えることにした。
「ありがとうございます! 嬉しいです! では、早速お願いしますね。.....【強制阻害】!」
「えっと.....? これで完了なんですか?」
これと言って、変化は見られない。
しかし、アテナ達の認識の外に置かれているのは確かなようだ。
(どういうことかって? うん。よく分からん。すまんな)
ただ、上手く説明できないのだが、感覚的なものでなんとなく分かるとしか言いようがないのも、これまた事実なのである。なんだこれ?
「はい。3分少々なら問題ないかと」
「さ、3分!?」
ニケさんの言う「ほんの一瞬」という単位に疑問を呈したいところだが、今はそんなことはどうでもいい。
むしろ考えるべきは、3分という時間の単位である。
これを俺に伝えてきたということは.....。
「ふふっ。楽しみですね♪」
「.....」
ですよねー。
覚悟を決めた俺は、そのままニケさんと3分間のキスという旅路に出ることになった。
□□□□ ~ヘカテーの実力~ □□□□
ニケさんとの旅は一言、「順風満帆だった」と伝えておこう。
しかも、しかもだ!
ついついおかわりまでしてしまった。でへへっ.....。
原因は「んぅ.....。はぁ.....。歩様.....」という、ニケさんの名残惜しそうな表情に心を射抜かれてしまったからだ。
こんな表情をされてしまったら、健全な男子たるもの理性を抑えきれるはずがない。もはやレベル6スキルの多用うんぬんなんて、すっかりと忘れていたぐらいである。
そんなこんなで、ニケさんとのいちゃいちゃを満喫した俺は、再び魔動駆輪の相談へと戻ることにした。
「えっと。結局、アテナ達の要望はなんですか?」
「要約しますと、『ドラゴンもゆったりと入れるサイズで、飲むことも可能な美容に良い、そして汚れることのない天然温泉のお風呂』ということですね」
どんだけてんこ盛りやねんッ!?
そもそも、色々とおかしい。
まず、『ドラゴンがゆったりと入れるサイズ』というところからして無理がある。
「できますよ」
「なんで!?」
魔動駆輪の大きさは全長5mである。
到底、ドラゴンがゆったりうんぬんなんて無理な話だと思うのだが.....。
「【空間魔法】を使うのです。例え、外からの見た目は小部屋程度にしか見えなくとも、中に入ることで別の空間に繋がるように致しますので全く問題ないかと。.....そうですよね? ヘカテー様」
「そだねー。注ぐ魔力次第では無限に広げられるよー☆」
む、無限ときましたか。そうですか.....。
「常識だよねー( ´∀` )」
「妾は知らなんだが、常識であろうな」
「そうなのだ! 常識なのだ! 常識なのだ?」
「.....」
お、お前ら.....。
では、『飲むことができる温泉』というのはどうなのだろうか。
温泉ということなので美容面は全く問題ないだろうが、飲める温泉なんて聞いたことも見たこともない。それに、いかにして対処するのかも想像がつかない。
「【物質変換魔法】を使います。ここら辺りの調整は私よりもヘカテー様のほうがお上手ですね」
「うんとねー、浸かっている時はただの温泉だよー。でもねー、体内に入った瞬間にねー、その人の望む飲み物になるように魔力で調整するんだー! 私はれもん水が好きー☆」
れもん水とは、また子供らしからぬものを.....。
「私はねー、ジュースならなーんでもいいよーo(≧∇≦)o」
「妾はジュースよりもお茶が良いのぅ。できることなら、渋いお茶を所望するのじゃ」
「な、なんでもいいのだ!? ならお肉がいいのだ! 我はお肉を飲みたいのだ!」
「俺は.....。お酒って大丈夫かな?」
ドールの好物はほうじ茶。これ、試験に出るからな!
それと、モリオンは少し落ち着け?さすがにお肉を飲んだらアカン!
それにしても、【物質変換魔法】とやらがあまりにも万能過ぎる。
まぁ、そこはいつもの「神様だから.....」という理由で、何でも済む領域なのだろうが.....。HAHAHA。うん。もう何があっても驚かないぞ!
「で、では、最後の汚れることのない温泉というのは?」
「これは.....恐らくですが、この魔動駆輪の管理システムのAI化による自動浄化システムの構築といったあたりですか?」
「難しいことはよく分かんなーい。でもー、勝手にきれいにしてくれるようにはするよー!」
あぁ、ヘカテー様は天才肌タイプなのか。
分からなくとも、やればできてしまうという.....。
「あー! ついでにー、24時間入れるようにお願いねー(`・ω・´)」
「それは良いのぅ! さすがは姉さまなのじゃ。抜け目がないというか、図々しいのじゃ」
「いつもきれいになるのだ? じゃー、お風呂でおしっこしてもいいのだ?」
「おしっこはしちゃダメ!」
いくら自動システムで温泉が清潔に浄化されると分かっていても、さすがにおしっこは許容できない。
いや、そもそも温泉を飲まなければいいのか。
(でもなぁ、飲める温泉とかちょっと興味あるしなぁ.....。そ、それにニケさんの.....)
さすがに、これ以上は変態だと認めざるを得ないので自重しようと思う。
そもそも、内容がノクターン向けだし、仕方がないだろう。
さて、話は変わるが、魔動駆輪の管理システムのAI化には、ニケさんの協力が必須らしい。
それと言うのも、魔動駆輪そのものは『魔力炉』に魔力を流すことで動くものなのだが、その『魔力炉』の基幹に勝利することで自我を芽生えさせるらしい。
そして、魔動駆輪に芽生えた自我をヘカテー様が魔術で精神支配することで完全なるAI化を構築するとかなんとか。
「え? 無機物にも『勝利』の神護とか使えるんですか?」
「もちろんです。無機物に、機械に勝利すればいいだけのことですから」
無機物に、機械に勝利する!?
本当に色々と無茶苦茶である。
もはや勝利できないものなんて、この世には何もないようにも思えるのだが.....。
「いえ。ありますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。歩様ただお一人には、どうしても勝利することはできません」
「え? それって勝利できないのではなく、『勝利』の神護を使おうとしていないだけなのでは?」
「いえいえ。『惚れたら負け』という言葉もございます。ですので、私の人生における初めての敗北は歩様に出会ったその日なのですよ」
はぅ!?
か、かわいい.....。
ニケさんはそう言うと、まるで余裕のあるお姉さんのようににっこりと優しげな、でもどこか少女のような恥じらいのあるかわいらしい笑顔で微笑んだ。
「歩様.....」
そして、俺にしなだれ掛かるように体を預けてくるニケさん。
お互いの目と目が合う。
ニケさんの燃え盛るきれいな灼眼が俺の唇を捉えて放さない。
お互いの顔と顔が近付く。
ニケさんのぷるぷるな唇から漏れる甘い吐息が俺の心を鷲掴みにして放さない。
「ニケさん.....」
期待されている。
これは間違いなくキスを期待されている。
顎を少し上げ、手を胸の前で祈るかのように小さく組み、上目遣いで見つめてくるニケさん。
キスの準備はまもなく完了といったところか。ここまできたら、覚悟を決める他はないだろう。
だから、俺は.....。
「わ、【強制阻害】のスキルをお願いします.....」
「ありがとうございます!」
こうして、再びキスという名の誘惑に出ることになった。
・・・。
その後の魔動駆輪の相談はかなり紛糾した。
ヘカテー様の実力を改めて目の当たりにしたアテナを始め、ドールやモリオン、俺などは「遠慮の欠片など、とうに母者の腹に残してきたわッ!」と歌舞伎の演者ばりに無茶苦茶な要求を言い出し始めたのだ。
───バン!バン!バン!
「お菓子ー! お菓子製造機がほしー! いつでも製造できるお菓子製造機ねー!」
「そんなもん却下だ! 却下! ねぇ? ニケさん」
「確かに認められません。それに、製造機があろうとも、お菓子の管理はさせて頂きます」
「うるさーい! へーちゃーん、つくってー! うぅんー、つくれーヽ(`Д´#)ノ」
あれ?ニケさん?お菓子製造機はOKなんですか?
それに、ヘカテー様は「うんー! まっかせなさーい☆」とか言わなくてもいいですからね.....。
「妾はのぅ。自分の部屋が欲しいのじゃ」
「おっ! それはいいな。と言うか、この際、みんなの部屋でも作るか!」
「あ、あの。みんなと言いますと、それは私やヘカテー様も含まれるのでしょうか?」
「当然ですよね? 魔術で無限に広げられるのなら、作らない道理はないかと」
一人になれる時間は大切だよな。と言うか、今までが異常すぎた。
そもそも、24時間常に誰かと一緒にいるという環境が既におかしいのである。年頃の男女たる者、節度を持ってだな.....。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん! 我は自然が欲しいのだ! 自然の中でお昼寝したいのだ!」
「えー(´・ω・`) じゃー、虫はこないようにしてよー?」
「え? そんなこともできるんですか?」
「全く問題になりません。ここトランジュが良い例ではないですか」
なるほど。それは確かにその通りか。
ヘカテー様も「まっかせてー! 殺虫魔法を常に展開しとくー!」とどこか大張り切りだ。もしかして、ヘカテー様も虫は嫌いなのか?
「ニケさんは何か要望はないんですか?」
「できましたら、キッチンが欲しいかな、と思います。最近、研鑽を積んでおりますので」
「ニケ姉ー! まっかせてー! この世とあの世に2つとないさいこーのキッチンを創っちゃうよー☆」
「どんだけハイテクなキッチンなんですか!?」
ヘカテー様がきょとんとした表情で「マジックキッチンだけどー?」と言っているが、そのマジックキッチンなるものが分かりません。
でも、キッチンさえあれば、再びニケさんの手料理が食べられる.....。さいこーかよ!
「ヘカテー様は何かないんですか?」
「みんなと遊べるところが欲しいなー!」
「なら、リビングをでかくすればいいのでは? そこにドでかい家具を設置して、みんなの集まれる場にするとか」
「うむ。それは良いのぅ。資金は当初よりも余ったことだしの。この後は家具を見て回るのも良いかもしれぬ」
うわっ。買い物好きのドールの目が爛々と輝いている。
これは長期戦を覚悟しないといけないだろう。ハァ.....。まぁ、ドールのおかげで余ったお金だし、別にいいんだけどさ?
ちなみに、ニケさんが「家具もヘカテー様に創ってもらえればいいのではないでしょうか?」などと言っていたが、そういうことじゃないんだよなぁ。
「ど、どういうことでしょうか?」
「効率じゃないんです。『見る楽しさ』・『買う楽しさ』・『置く楽しさ』というものがあるんです。既製品だからこその価値、既製品だからこその楽しさというものがあるんですよ」
「は、はぁ.....。それは失礼しました.....」
「それにー、昔の言葉で『一生ものは大塚家具』っていうもんねー(o゜ω゜o)」
はい。アテナ、アウトー!
こちらの世界では王塚さんだから!
それに、俺は庶民の味方ニコリ派だ。
そもそも、家具は使えればいい主義なので、わざわざ大金をかける程ではない。とは言え、今回はさすがに王塚家具にしようとは思う。
(念願の魔動駆輪が手に入ったことだしなッ! 今回は奮発しちゃうぞ!!)
みんなの要望はこんなところだ。
幾つか細々としたものは残っているが、大体こんなところだろう。
そして、最後は.....。
「歩様は何かございますか?」
「俺は───」
こうして、遂に完成した念願の魔動駆輪。
そこには、みんなの夢と希望、愛と笑顔、そして欲望とわがままが詰まりに詰まった、最高で最低な魔動駆輪なのである。
・・・。
では、刮目してみよ! これが俺の魔動駆輪だ───!!
to be continued.....。
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後書き
次回、本編『完成!魔動駆輪』!
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今日のひとこま
~隠しパラメーター~
「魔術は魔法の下位互換で、これは魔法関連のみに有効なんですよね?」
「はい。その通りでございます」
「では、スキルには何もないんですか? 魔法に魔術があるのなら、あってもよさそうですが.....」
「スキルの下位互換というものはございません。ただ、隠しパラメーターみたいなものはございますよ」
「隠しパラメーター.....ですか?」
「はい。歩様はご存じのはずです」
「え? どういうことですか?」
「ドワーフの一件をお忘れですか? 呑み比べをなさいましたよね?」
呑み比べ.....?
あぁ、同じレベル3の状態異常耐性持ち同士なのに、ステータスで上回ってもナイトさんには勝てる見込みが全くない件のことか。
「えっと。確かアルテミス様が言っていた、限りなくレベル4に近い、とかなんとかってやつですよね?」
「その通りです。あのドワーフのスキルこそが隠しパラメーターなのです」
「つまり、どういうことですか?」
「特に決まった名称はないのですが、便宜上(+)・(-)と致しましょう。そして、ドワーフのスキルが(+)であり、歩様のスキルが(-)となられる訳です」
「ふむふむ」
「これは魔法と魔術の関係に似ておりまして、(+)は(-)のワンランク上となります」
「つまり、例えステータスで上回っていても、同じレベル帯での(+)には(-)では勝てないということですか?」
「そういうことになります。(+)に勝つにはレベルで上回る他はございません」
「そもそも、その(+)とはなんなのですか?」
「研鑽の証、努力の成果、レベルアップの兆しと言うのが正しいかと思います。それ以外は全て(-)となります」
「うわー。すごい納得のいく説明ですね。ナイトさんならさもありなんか」
「ちなみに、歩様や勇者は現地人以上に(+)にはなりにくいですよ」
「え? どうしてですか?」
「そもそも、歩様や勇者は日頃の研鑽ではなくポイントシステムではないですか」
「あぁ~。なるほど。.....でも、ならなくはないと?」
「はい。レベルに頼らない本格的な研鑽をみっちりと積むことでなることはございます」
「うっ.....。なんかきつそうですね.....」
「それはそうですね。ですが、強さは折り紙付きかと。極めれば、それこそ技に頼らない攻撃こそが、シンプルな攻撃こそが最強だと身に沁みて実感できますよ」
「本物の強さってやつですか?」
「はい。よろしければお教えしましょうか? 剣は不得手ですが、体術なら一家言ございますので」
「う、うーん。考えさせてください。ちなみに、体術の奥義とは?」
「踏み込んで殴る。ただそれだけです」
「.....え?」
「ふふっ。シンプルな攻撃こそ、一番避けづらい奥義なのですよ? やってみせましょうか?」
いやいやいや!
誰が体術の奥義だと自負するものを受けたいと思うのか!!
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