歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第137歩目 はじめての別れの挨拶!③

前回までのあらすじ

星空咲音に別れの挨拶をした!
なお.....。

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□□□□ ~友との別れの盃 in ヤケ酒~ □□□□

「では、毎日君の旅の無事を祈って乾杯!」
「ありがとうございます。乾杯!」

───カンッ!

 ジョッキとジョッキの重なり合う音が喧騒の中でもハッキリと聞こえる。
 その小気味良い音と前に座る友人の笑顔が今の俺にはとても心地好い。

・・・。

 サキに別れの挨拶を済ませた(なお、別れるとは言っていない)俺は、その足で時尾夫妻にも別れの挨拶を済ませた。
 どこかのくそ生意気なJKとは異なり、時尾さんとは良好な友人関係を築いていたため、当然のことながら残念がられ、そして応援された。

「それにしても済まないね、毎日君。妻の、ゼオラのわがままを聞いてもらって」
「いえいえ。お気になさらず。
 これぐらいのことはお安いご用ですよ。とは言っても、別に俺が.....」

 と言い掛けたその時、

「別に主のおかげではなかろう。むしろ、主は何もしておらぬではないか」

(俺のセリフ取られたあああああ!)

 横から、いや、俺の膝上からぐうの音も出ない正論を先に言われてしまった。

「.....ははは」
「.....HAHAHA」

 これには俺と時尾さんも苦笑い。
 例え、事実がそうであったとしても、場の空気というものを少しは読んでほしい。

(後で注意の意味も込めて尻尾をもふもふしてやるっ!)

 今、俺と時尾さん、ついでにドールは、俺の送別会という一応の名目で酒場へとやってきている。
 そもそも、俺が今までの感謝の意味も込めて時尾さんを誘った訳なのだから、俺の送別会というのも変な話になるのだが、そこは敢えてスルーしてもらいたい。

 それに、本当は時尾さんと男二人で呑む予定だったのだが、

「ドールは果実水な?それとつまみに手を出すなら気を付けること」
「いちいち言われぬでもわかっておる。姉さまと一緒にするでない」

 ドール的には、その『男二人で』という部分がどうやらお気に召さなかったらしい。
 どうしても付いてくると言って聞かなかったので、こうして3人で酒(+果実水)を酌み交わすことになった。

 正直、始めはドールを酒場に連れてくることに一抹の不安があった。
 ドールは甘酒でも泥酔してしまうぐらいの下戸体質。下手したら酒の匂いだけで、もっと言えば、酒場の雰囲気だけでも酔ってしまうのではないか、と心配だったからだ。

 ただ、

「(じっ───)」
「なんじゃ?妾の顔に何か付いておるのか?」

 今のところは全く問題無さそうに見受けられる。
 恐らくは摂取さえしなければ大丈夫なのだろう。とりあえず、もうしばらく様子を見るつもりだ。

 ちなみに、ドールはアルコールだけではなくカフェインにも弱いのでコーヒー系もからっきしだ。
 普段は大人顔負けなぐらいしっかりしすぎていて、どこか12歳とは思えないようなドールだが、体質のせいとは言え、こういうところは子供っぽくてなんだかホッと安心する。


 さて、とりあえずドールの件は問題無さそうなので、触れないようにしていたゼオライトさんのわがままについて言及していこう。

「そ、それにしても.....。ゼオライトさんはすっかりアテナの虜になっちゃいましたね」
「.....ははは。そうだね」

 時尾さんはなんてことはないと言った表情でジョッキをグイッと一気にあおった。

 本来ならここで、「よっ!いい呑みっぷりですね!」とか言って、場を盛り上げたり、時尾さんをヨイショするのが『幹事の毎日さん』で鍛えられた俺の役目なのだが.....。

 時尾さんのジョッキが空く前に追加の酒を注文する。
 今の時尾さんには精神的支えが必要だからだ。切らすことは許されない。

 すると、注文した酒が届くと同時に元のジョッキを呑み干し、そのままの勢いで追加された酒をあおり始める時尾さん。

「ぷはぁ~.....」
「.....」

 明らかに荒れている。
 表情では大人の余裕を見せてはいるが、行動が明らかに不満のそれだ。

 仮に、俺が気を利かせて追加注文をしないと、

「親父ぃ!もう一杯!!」
「ちょっと呑み過ぎじゃないですか?お客さん。
 そりゃ、注文されたら出しはしますが.....。ほどほどにしてくださいよ」

 みたいな、やっすい三文劇場が繰り広げられそうで耐えられない。
 俺の中では『時尾さんは渋くてカッコいい大人』という印象があるだけにそういうシーンは見たくない。

「勇者様 (※)は荒れておるのぅ.....」 (※)時尾さんのこと
「まぁ、最愛の人がアテナにベッタリだからなぁ.....」
「そうは言うてものぅ.....。なんじゃ?勇者様というのはちょっとあれな人しかおらぬのか?」

 それは言いすぎっ!
 そう言いたくなる気持ちはわからなくもないけど!!

 ドールが白い目で時尾さんを眺めつつ、呆れ声で心情を吐露した。

(.....と言うよりも、忠誠バカなドールも人のこと言えた義理じゃないけどな?)

 ただ、傍若無人なサキに、異常なほどの愛妻家である時尾さん。
 出会った二人の勇者が、いずれも常軌を逸した人物という点を鑑みてみると、確かにドールがそう思ってしまうのも仕方がない側面はある。

 そう、時尾さんは異常なまでの愛妻家だ。
 ラズリさんから教えてもらったところ、愛するゼオライトさんを侮辱しただけで、『とある一族』とやらを絶滅に追いやったというから驚きだ。
 噂の真偽は定かではないが、それでも『火の無いところに煙りは立たない』という言葉がある。時尾さんに限ってそんなことは.....。などと楽観視はできない。
 それに普段の生活やサキのゼオライトさんへの対応を見ている限り、噂も真実なのでは?と思えるような点もちらほらと.....。


 そんな時尾さんが、現在荒れている原因は当然のことながらゼオライトさん絡みとなる。
 そして、時尾さんが荒れる原因となっている渦中のゼオライトさんはと言うと、今はアテナと仲良く就寝中だ。

 時尾夫妻に別れの挨拶を済ませたのは前述したが、実は時尾さん以上に俺の、.....いや、アテナの旅出に衝撃を受けていたのはゼオライトさんその人だった。

 その結果、

「.....(キッ!)」
「.....」

 俺はゼオライトさんに八つ当たり気味に怨まれてしまうことに.....。

 それに、ゼオライトさんはゼオライトさんで、もうどうにもならないことに徐々にしょんぼりしていき、最後にはアテナとの別れを惜しんでハラハラと涙を流してしまう事態に.....。
 いくら俺のせいではないとは言え、罪悪感を感じたのは言うまでもないだろう。

 ただ、その罪滅ぼしという訳ではないのだが、

「どうしても頼む!」
「う、う~ん.....。まぁ、時尾さんがそこまで言うのなら.....」

 時尾さんに「どうしても!」とお願いされてしまったため、酒場へと繰り出す前に、一緒にゼオライトさんの様子を見に行くことになった。

 本音を言えば、このことがバレた時、ゼオライトさんに余計嫌悪されてしまう恐れがあったので断りたかった。
 しかし、俺自身罪悪感を払拭したかったのと、アテナに無断で部屋に侵入するのは非常識だという時尾さんの『結局侵入するくせに今更それ言うの!?』理論に同調した結果がこうなった訳だ。

(まぁ、部屋主の俺が一緒なら断りなんていらないし、一応、筋は通っている.....のかな?)

 そして、時尾さんとともにゼオライトさんの様子を窺った結果.....。

 なんと言うことでしょう。ゼオライトさんは、まるで母が幼子を優しく包み込むようにアテナをしっかりと胸に抱き、この上なく幸せそうな表情で眠っているではありませんか。(cv.加藤○どり)

「クッ!わ、分かってはいたが.....!!」
「.....」

 ここまで説明すればわかるとは思うが、時尾さんが荒れている原因は所謂『嫉妬』だ。
 いや、もしかしたら『憤怒』なのかもしれない。

 最愛の人の心を、いくら相手が女神様とは言え、奪われたことに対する『嫉妬』。
 そして、最愛の人の心を掴めずに奪われてしまった自分に対する大きな『憤怒』。

 そんな諸々の感情が、普段は冷静な時尾さんを狂わせ、荒れさせてしまっているのだろう。
 本当、うちの駄女神はしょうもない女神のくせに、人に好かれることだけは女神級だから厄介極まる。

「すいません.....」

 なんか申し訳ない気がしてきたので、酒の追加注文をしつつ謝罪する。
 もはや俺の送別会という雰囲気ではなく、時尾さんのヤケ酒に付き合っているような気分だ。

 そんな俺と時尾さんを交互に見やったドールがぽつりっと一言。

「主も大変、.....いや、大人というのはめんどくさいものじゃのぅ.....」
「.....」

(この子は本当に12歳かよっ!?)


 ドールの哀愁漂う大人な意見に、俺はそう思わざるを得なかった。


□□□□ ~友との別れの盃 in 感謝~ □□□□

 ドールの2本の尻尾がふりふり。
 1本は優雅に振られ、現状にとてもご満悦な様子。
  1本は「撫でて!撫でて!」と主張するかのように、俺の腕にバシバシと愛らしく打ち付けてくる。

「主。あ~ん」
「はいはい」

 餌を待つ雛鳥のように、あ~んと口を開けて待っているその口に野菜を放り込む。

 なんてことはない、いつもの風景だ。
 ただ少し変わっている点があるとすれば、それは肉やお菓子類ではなく、野菜を口に放り込んでいるところだろうか。

 つまり、奉仕の相手がアテナではなくドールになっているということだ。


 現在俺は、時尾さんのヤケ酒に付き合いながらドールの奉仕をするという、これっぽっちも主役感のない立場に甘んじている。.....俺の送別会とは?.....奴隷の主人とは?

(まぁ、別にいいんだけどさ.....。
 時尾さんには世話になったし?アテナに比べればドールの奉仕なんてかわいいものだし?)

 そんなことを考えていたら、

「ほれ。手が止まっておる。早うせんか」
「.....」

 ドールからの遠慮のない催促。
 こういうところは義姉アテナに似ないで欲しい。

「.....文句あるなら自分で食べろよ。食べられるだろ」
「たまには良いではないか。なんだったら妾が食べさせてやっても良いぞ?.....ほれ、あ~ん」
「い、いいよっ!自分で食べられるから!!」
「くふふっ。今さら何を恥ずかしがっておるのじゃ?妾と主の仲であろうに」
「誤解されるような言い方すんなっ!」

 そんな俺の反応を見たドールは、尻尾を嬉しそうにたなびかせながら両手を口にあてる仕草でかわいく微笑んだ。かわいい。

(ちゃんとしてれば可愛い子なんだけどな~。もふもふだし)

 それに、ドールは俺をからかったつもりなのだろうが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 特にドールのような幼女でも、群を抜いた美少女クラスの子に「あ~ん」とかされるリア充イベントは彼女が出来たばかりの俺にはハードルが高過ぎる。そもそも挑戦すること自体が憚れる。

 比べること自体が失礼ではあるが、敢えて比べるとしたら.....。

 せめてハードルの高さをナイトさんぐらいまで落としてもらいたい。
 もしくは、最低でもニケさんクラスにまでしてもらわないとハードルを飛ぶ気すら起きない。

 ハードルを高く設定したい気持ちは理解できるが、少しは『普通の人』のことも考えてもらいたいものだ。

・・・。

 こんな感じでドールと和気藹々とすることしばらく、待望の変化が訪れた。

「済まないね、毎日君。みっともないところを見せてしまったようだ」

 どうやら時尾さんが諸々な感情から解放され、ようやく落ち着いたようだ。

 時尾さんは非常に申し訳ない表情をしているにも関わらず、イケメンゆえか、それすらも絵になる。
 乱れた髪を整え、眼鏡をクイッ!とする様なんて、男である俺でさえもつい見とれてしまうほどだ。
 仮に立場が逆だったとしたら、きっと俺は憐れな敗北者に見えていたに違いない。.....くそっ!

 フツメンがイケメンに嫉妬していると思われない為にも気持ちを落ち着ける。
 もし、こんな姿をサキにでも見られようなものなら「陰キャ嫉妬乙w」と言われるに違いない。

「.....いえいえ。こちらこそなんかすいません」
「いや、毎日君が謝ることではないよ。
 ゼオラのこととなると気持ちが抑えられなくなる僕に問題がある。本当に申し訳ない」

 時尾さんがぺこりっとお辞儀をする。おぉ!
 何をしても絵になるな、この人は。

「それだけ、ゼオライトさんのことを想っているということじゃないですか。羨ましいぐらいです」
「君は優しいんだな.....。ありがとう」

 おや?
 なんか時尾さんの俺を見る目が熱いような.....。

 まさか加護『NTR』が発動したか!?と一瞬焦るものの、既に権能をoffにして久しいので問題ない。
 恐らくは『男が男に惚れる』という友情的なやつだろう。そう願いたい。そもそも俺には♂×♂の趣味はない!

───もふもふ

 ドールの尻尾をもふもふしつつ、改めて女性が好きであることを再認識していたら、

「結果的に情けない姿を晒してはしまったが、これでもアテナ様には感謝をしているんだよ」
「時尾さんがアテナに.....?」
「勇者様が姉さまに.....?」

 時尾さんから耳を疑うような言葉が飛び出してきた。
 その内容があまりにもピンとこないものだったので、俺もドールもただただ混乱する他ない。

 ぶっちゃけ、俺が知る範囲ではアテナが時尾さんに感謝こそすれ、時尾さんがアテナに感謝する理由は全くないはずだ。

 そもそも、一緒に暮らしているとは言え、アテナと時尾さんにはまるで接点がない。
 アテナとゼオライトさんなら、もしかしたら俺の知らないところで何かあったのかも?と想像できるが、アテナと時尾さんでは難しい。.....いや、まず間違いなくないだろう。

 二人の関係が希薄とか不仲という問題ではなく、アテナが時尾さんに対して無関心だからだ。
 大袈裟に言えば、アテナは勇者関連だと、俺と勇者ちゃんだけにしか興味が無いと思われる。まぁ、俺は勇者じゃないけどなっ!

 だから、時尾さんの言っている意味が全くわからない。
 アテナの何に感謝をしているというのか.....。

 ドールも時尾さんの真意を諮りかねているようなので改めて尋ねてみた。

「ヘリオドール君の前でこんな話もなんだが.....」
「む?どういうことなのじゃ?」

 あっ。これ猥談系か。

 ドールの前で一旦断りを入れる常識的な対応をする時尾さんに対して、なぜ自分の話題が出たのか訳がわからないと困惑した表情を見せるドール。かわいいから尻尾ではなく、耳をもふもふしちゃおっかな!

「別に構いませんよ。ドールはそういうのを気にするタイプではないですから」
「そうかい?それならいいんだが」
「ドールもそれでいいだろ?」
「それもなにも訳がわからぬ。.....じゃが、問題はなかろう」

 ドールの許可も下りたことだし、早速、時尾さんにアテナと猥談の関係性を.....ではなく、時尾さんがアテナに感謝している経緯を話してもらうことになった。
 そして、そこで語られた内容は驚きのものだった!!

「毎日君も薄々気付いているとは思うが、妻は、ゼオラは結構な好色なんだ」
「.....」

 いきなりとんでもない暴露話がきたもんだ。

 いや、確かに時尾さんの言う通り、ゼオライトさんは色事が好きな人なんだろうなぁという確信はある。
 時尾さんの前ではメスのフェロモンを撒き散らしているし、身に付けている下着類はアダルティーなものが非常に多いからだ。

 そもそも、なんで俺がゼオライトさんの下着類を知っているかというと.....。
 夜のウォーキングを終わらせた後、汗を流すべくシャワーを浴びるのが日課なのだが、そこで運悪くトイレに出向いていたゼオライトさんとバッタリ遭遇してしまうことが度々あったからだ。当然、その後はぶん殴られるけど.....。

 そういった様々な事情も加味していくと、いまだ童貞の俺でさえも、それでもゼオライトさんは間違いなく色事が好きな人だと判断できるぐらいにはHな人だ。
 そういう意味では、エロ狐と噂されるドールに近い性質とも言える。

(も、もしかしたら.....。獣人はみんなこうだったりするのか!?.....となると、いぬ子ちゃんも!?)

 俺が『獣人はみんなHな子?』説を妄想していたら、

「のぅ、主。勇者様の言う『好色』とはなんなのじゃ?」
「ぶふぅ!?」

 せっかく時尾さんがマイルドに包んでくれた好意を台無しにする質問がドールから飛んできた。
 確かに『好色』なんて言葉はそうそう使うものではないので、仕方がないと言えば仕方がないのだが.....。

「.....こ、交尾のことだな」
「なんじゃ、交尾なら交尾と言えば良かろう。いちいち難しい言葉を使わぬでも良いではないか」

 答えを待つドールに、俺はそのままの意味で伝えることにしたのだが、ドールはなんてことない様子でそれを受け止めた。
 少しは恥ずかしがるかと思ったが、どうやら交尾という行為自体は恥ずかしがるものではないらしい。

 この辺りの考え方の相違はなんとも異世界っぽい。
 とは言え、もともとゼオライトさんに負けず劣らずのエロ狐だったことを考えれば妥当と言えば妥当か。

・・・。

 ドールの疑問も解決したことだし、時尾さんに話を続けてもらう。

「ただね。好色なのは別にいいのだが、実は悩みもあったんだよ」
「悩み.....ですか」

 どうにも想像できない。
 時尾さんとゼオライトさんの仲を考えると、悩みなんてできそうにもないと思えるのだが.....。

(ゼオライトさんが激しすぎるとかかな?確かに赤月の時は時尾さんももて余していたみたいだし)

 ただそれだと、単なる羨ましい惚気話で終わってしまうので、アテナとの関連性が見えてこない。
 どういうことだろう?と考え込んでいたら、意外なところから声が上がってきた。

「恐らくじゃが、子作りのことであろう?」
「いやいやいや。さすがにそれはないだろ」

 なにやら確信めいた表情を浮かべ持論を展開するドールに、俺はやんわりと否定を入れた。

 確かに、これだけラヴラヴな夫婦なのだから、子供がいないことについて疑問を持つのは理解できる。
 だがそれでも、先程時尾さん本人からゼオライトさんについての暴露話を聞かされたばかりだ。行為に及んでいれば、どちらかに問題さえ無ければ、子供は自然と授かるものだろう。

 つまり、今まで子供を授かっていなかったのは単純に運が悪かっただけに過ぎない。
 とは言え、子供は神様からの授かり物。こればっかりはラヴラヴな時尾夫妻であろうともどうしようもないだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よんだー(。´・ω・)? 」
「呼んでない。.....と言うか、大人しく寝てろ」
「はーい!おやすみー( ´∀` )」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 しかし、実際は違ったようで.....。

「さすがはヘリオドール君。まさにその通りなんだよ」
「えぇ!?マジで!?」
「ほら、妾が言うた通りではないか」

 意外な事実に、俺は身を乗り出すほど仰天してしまった。

 そうなると当然、

「ふぎゃ!?」

 俺の膝上でドヤ顔をしていたドールが転げ落ち、女の子が出しちゃいけない声で呻いた。
 今回は俺のせいだから仕方がないが、それでも敢えてドールに物申したい。

(ご、ごほん.....。クマさんパンツが見えているから早く隠せよ?)

 そんな俺の心の祈りが通じたのか、

「こ、こら!気を付けんかっ!」
「わ、悪い。あまりにも驚いて、ついな.....」

 急いで服を整え、顔を真っ赤にしながら抗議してくるドールさん。
 2本の尻尾が激しく振られ、俺の腕にバシバシと打ち付けてくる。かわいい。

 今履いているクマさんは先日購入したもので間違いない。
 購入したのは俺だしな。気に入ってくれてとても嬉しい。GJ!


 とりあえず、今はクマさんのことよりも時尾さんの話のほうが重要だ。
 ラヴラヴな夫婦仲なのに、子供について悩んでいるとはどういうことだろうか。

「えっと.....。子供が出来ないってことで悩んでいるんですか?」
 
 今、考えれられることはこんなところだろう。
 現代日本でもこの手の悩みは多いと聞くし。

 しかし.....。

「いや、そうではあるまい」

 ドールがすぐさま否定に入った。
 それに頷く時尾さん。

(.....と言うか、なんでドールが答えんだよ!?)

 よくわからないが、まるで時尾夫妻の現状を把握しているかのようなドール先生の見解に耳を傾ける。

「恐らくじゃが、ゼオライトが子作りを拒んでおるとみた」
「恐るべき慧眼、まさにその通りだよ。同じ獣人同士、何か通じるものがあるのかい?」
「通じるものというよりも、心の持ち用であろうな」
「ははは.....。ゼオラも同じことを言っていたよ」

「.....」

 なんだろう、このアウェイ感。
 話に全くついていけない。俺がこの場に居る意味ってあるのだろうか.....。悲しい。

───ドンッ!

「ぷは~.....。マスター!もう一杯!!」
「ちょっと呑み過ぎじゃないですか?お客さん。
 そりゃ、注文されたら出しはしますが.....。ほどほどにしてくださいよ」

 これが呑まずにやってられるかっての!

 そんな三文劇場を繰り広げている俺を蚊帳の外にして、二人はどんどんヒートアップしていく。

「ゼオライトの気持ちもわからなくはないのだがの。妾も主の役に立てぬと考えたら拒むかもしれぬ」
「その気持ちは嬉しいのだが.....。けれども、子供は二人にとっての幸せになるものだろう?」
「主もそうだが、勇者様も獣人についてよくわかってはおらぬらしいの。考え方がそもそも違うのじゃ」
「どういうことだい?」

「.....」

 なにやらドールから獣人についてのありがたいお話が始まろうとしている。
 一言一句も聞き逃すまいと勢い込んでいる時尾さんは姿勢を正し拝聴する様子を見せているが、友人に、奴隷に蚊帳の外にされている俺は話が全く頭に入ってこない。

 とりあえず、辛うじて理解していることは以下だ。
 ○ゼオライトさんは行為自体は好きだけど、子作りに関しては乗り気ではない。
 ○子作りに消極的な理由は妊娠による影響で時尾さんの役に立てなくなるから。
 ○おめでたは幸せなことだが、獣人の考え方は俺や時尾さんとは異なるらしい。

(あれ?意外と理解しているんじゃないのか?
 酒が、酒の力が、俺の理解力を早めているとでもいうのか!?.....ありがとう!お酒の神様!!)

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「よんだー(。´・ω・)? 」
「呼んでない。.....と言うか、お前はお酒の神様じゃないだろ!」
「ぶー(´-ε -`)」
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 アテナを軽くいなし、誰だかわからない神様に感謝を捧げつつ、ドール先生のありがたいお話を拝聴する。

「犬種族、特にゼオライトの銀狼族などは主人に仕えることを最上の喜びとしておる。
 だから、主がよく言うてくれる「ゆっくり休め」や「何もしてくれなくてもいい」などの労りは、
 一見優しさに見えるようで、その実は労りにならぬものなのじゃ。いや、むしろ言われたら辛いであろうな」

「!?」

 いきなり引き合いに出されたことで驚いた。
 しかも、「優しさが優しさにならない」と痛烈に批判されてしまうおまけ付き。どないせいちゅうねんっ!

「きっとこう思うはずじゃ。「休ませるぐらいなら、ボロボロになるまでこき使って欲しい」とな。
 そこまで尽くして初めて、体の底から満たされ、愛され、生きていると感じるのが犬種族なのじゃ」
「そうか。.....いや、そうだろうね。
 ゼオラとともに過ごしてきた夫婦生活の中で、そう感じることが度々あったよ」

 おいおいおいおいおい。マジかよ.....。

(犬種族?とやらはどんだけ主人に尽くしたいんだよ!?
 こき使う方の気持ちも考えてくれよ!申し訳ないし、かわいそうだし、気まずくなるだろ!?)

 と、そこまで考えて、ふと思った。
 なんで猫種族だと思われる妖狐族のドールが、犬種族についてそこまで詳しく知っているのだろうか、と。

 そして、俺のその勘違いはすぐさま正されることとなった。

「さすがはゼオラと同じ。とても参考になるよ」
「ふぁ!?ドールって犬種族なの!?猫種族じゃなくて!?」
「はぁぁあああ!?今さら何を言うておるのじゃ!?当然であろう!!」

 本日2度目の仰天事実エピソード
 驚きすぎて、思わず身を乗り出してしまった。

 そうなると当然、

「ふぎゃ!?」

 俺の膝上で憤慨していたドールが転げ落ち、再び女の子が出しちゃいけない声で呻いた。
 今回も俺のせいだから仕方がないが、それでも敢えて、どうしてもドールに物申したい。

クマさんパンツはかわいいけど、見えているから早く隠してくれよな?)

 そんな俺の心の祈りがまた通じたのか、

「あ~る~じ~!いい加減にせんかっ!!」
「わ、悪い。あまりにも驚いて、ついな.....」

 急いで服を整え、鬼の形相で睨んでくるドールさん。
 2本の尻尾が先程よりも激しく振られ、俺の腕にバシバシバシと打ち付けてくる。かわいいなぁ、もう!

「そもそも、なんで妾を猫種族だと思うたのじゃ?どう見ても犬種族であろうがっ!」
「え?だって、ドールってツンデレさんじゃん?猫と言えばツンデレ。これ定番じゃないか?」
「な!?な、なな、なにがツンデレさんじゃ!妾がツンデレな訳がなかろう!!」

 えー?
 そんなことないけどなー。

 ぷんぷんと激情に駆られているドール。
 しかし、その様子がどこか嬉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか。.....ちらっ。

───ぶんぶんぶんぶんぶん!

 本日一番の勢いで左右に振られる2本の尻尾。
 この振り子の原理を利用すれば電気すらも発電できそうな勢いだ。なんだ!嬉しいんじゃねえか!

 そんな俺のにやけ顔を見て、ドールが不満顔だ。

「な、なんじゃ?」
「いや~。なんでもないけど~?」
「何か言いたいことがあるなら言うてみよ!!」
「べ~つに~」

 俺の態度が気に喰わないのか、更に憤激するドール。
 しかし、肝心の尻尾の振られ具合はさらに勢いを増している。

 結局、ドールは俺に構ってもらえるのが嬉しいらしい。
 ここ最近は、アテナやニケさんにずっとかかりっきりだったので余計なのだろう。かわいいやつめっ!

「(にやにや)」
「ぐぬぬ!言うのじゃ~~~~~!」

 ドールの怒声?嬉声?とも取れる心の叫びが酒場にこだました。
 その叫びが、『送別会』から『俺とドールのいちゃいちゃ』へと転換したターニングポイントだと謂わんばかりに勢い良く.....。


 こうして、ドールとたわいもないいちゃいちゃを楽しみながら、送別会はお開きとなった。


(さて、明日はナイトさんにお別れの挨拶だ!)


.....出港まで残り2日。





・・・。





 ちなみに、気になる時尾さんがアテナに感謝していた理由は至極簡単で、納得いくものだった。

 ゼオライトさんがアテナとともに過ごしていくうちに、いつしか孤高だった性格が愛情溢れる母性に目覚め、アテナのようなかわいい赤ちゃんを欲しがるようになったのだとか。
 そのきっかけを与えてくれたアテナに感謝をしてもしきれないと時尾さんはそう語る。

(ふ~ん。なるほどね~。.....と言うか、アテナは何もしてねええええええええええ!)

 今ではゼオライトさんも子作りに積極的で、夫婦ともに毎日が充実しているらしい。
 時尾さんから、夜の営みを嬉しそうに赤裸々に語られた時なんて、ドールが発情しかけて大変だったぐらいだ。

 と言うか、結局感謝どころか、終始のろけ話だった模様。
 しつこいようだが、俺の送別会とは?


 それにしても.....。


 アテナのかわいさは孤高の戦士をも母性に目覚めさせるらしい。


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後書き

次回、本編『はじめての指摘!』

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今日のひとこま

~女性から見た男性の価値観~

これは時尾さんと酒場に繰り出す前のお話である。

「主。どこに行くのじゃ?日課は終わったであろう?」
「これから酒場に出掛けるんだよ」
「今からじゃと?」
「そうだけど?.....な、なんだよ?」

「何時だと思うておるのじゃ?今はもう24時を過ぎておるのじゃぞ?」
「わかってるよ。だから騒がしくしないように.....」
「そうではない。こんな時間に出掛けることがおかしいと言うておるのじゃ」
「あぁ~。安心しろ。時尾さんと二人で出掛けるから危険はないぞ」

ドールの忠誠バカぶりは相変わらずだ。
時尾さんと一緒だと伝えれば、ドールも安心することだろう。

「そうでもない。むしろ男二人で行くというのが余計見過ごせぬ。妾も付いていくのじゃ」
「はぁ?ドールは酒を全く呑めないだろ.....」
「別に呑まなければいいだけであろう?」
「いやいや。呑まないなら来る必要ないだろ」

それにドールには色々と不安要素もある。
例え、呑まないにしても、べろんべろんにでもなられたら色々と面倒だ。

「そうとは言い切れぬがな。それに、これは勇者様の為にも言うておることなのじゃ」
「時尾さんの為にも?どういうことだ?」
「男二人でこんな夜更けに出掛けるのであろう?」
「そうだけど。.....それが?」

「出掛ける場所が酒場とも言うておったな?」
「あ、あぁ.....。別に悪くはないはずだぞ?」
「ふん。そんな嘘で妾は騙せぬぞ!」
「嘘!?嘘ってなんだよ!?」

「酒場に行くというのは嘘で、本当は娼館にでも行くのであろう?」
「どんな勘違いだよっ!?」
「男が集まればそういうものだと妾は聞いておる」
「偏見だぞ、それ!.....と言うか、誰にそんなこと聞いた!?」

「くふふ。誰にでも良かろう。ともかく、妾は主を監視する為にも付いて行くのじゃ♪」


こうして、俺と時尾さん、そしてドールの3人で酒場に繰り出すことにした。



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