歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第69歩目 はじめての奴隷商!②


前回までのあらすじ

個人で勝手に奴隷を確保するのは危険だと知った

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□□□□ ~作戦決行~ □□□□

───トン

「おじちゃーん。もっといっぱいお菓子だしてー。ぜんぜんたらなーい( ´∀` )」
「こ、これはすまないね。.....おい!店に用意してあるお菓子をありったけ持ってくるんだ!」

係りの人が急いで奥に走っていく。

───トントン

「おじちゃーん。私お茶きらいなんだよねー。はちみつ水にしてー( ´∀` )」
「そ、そうだよね。お茶なんて年寄りくさいよね。.....おい!はちみつ水を今すぐ・・・」
「.....申し訳ありません。はちみつ水なんてものはここには・・・」
「ぶー(´-ε -`)つまんなーい!じゃー、歩のところにもどろうかなー」
「だ、だ、だいじょうだよ!?おじちゃんがすぐ用意するから!.....バカもの!ないなら市場で今すぐ買ってこい!」

先ほどとは別の係りの人が大慌てで市場に購入しにいった。

───トントントン

俺達はあらかじめ決めていた通りに作戦を開始した。
作戦は至ってシンプルだ。

アテナが館長に甘える。

ただそれだけだ。

アテナがまねっこでスキルを習得するためにはスキルを教えてもらう必要がある。
ただ妖狐が言うには奴隷契約は秘密裏に行われるらしい。企業秘密というやつだろう。
しかし秘密裏に行われたのではスキルが習得できない。

そこでアテナの天賦の才である『人に好かれやすい』を利用して館長を骨抜きにし、企業秘密を暴き出してやろうということだ。

古来より秘密を暴くのは色仕掛けが一番有効的なのだとか(アテナの知識談)
アテナの場合は色仕掛けと言うよりも、老若男女全てを惑わすことができるからこその言葉だと思う。

だからアテナは早速甘えているわけだ。
まるで俺にいつもそうしているかのように館長の膝上に座り、かわいらしいにぱー☆を向けている。

───トントントントン

実際その作戦は効果覿面もいいところだ。
既に館長はアテナの天真爛漫なかわいさにデレデレになっている。

さもありなん。

アテナのにぱー☆を至近距離から浴びせられたら、世の男という男は一瞬で虜にされてしまう。
アテナの兄である神ですらそうなのだから、俺達人間では到底抗うことなどできないだろう。

しかし・・・

───トントントントントン

「(なにを苛立っておる。こういう作戦であろう。それに.....姉さまのわがままは今に始まったことではないのであろう?)」

確かに妖狐の言う通り、俺はかなり苛立っている。
テーブルを指で小突く速度がどんどん速まっている。

「おじちゃーん。このお菓子飽きたー。違うのちょーだい( ´∀` )」
「そ、そうかい。じゃあこれなんてどうだい?」
「それはさっきたべたよー!もうー!ボケるのはあとにしてよねー?これちょーだい」
「ご、ごめんよ。おじちゃんはもう年だから物覚えが・・・」
「そんなことどーでもいいー。はやくたべさせてー!」

アテナはそれはもうやりたい放題だ。
一方館長は忙しなくアテナのお世話をしている。

───トントントントントントン

・・・。

見るに耐えない。

この一言に尽きる。
いくら作戦のためとはいえ、あまりにもひどすぎる。
しかしここはスキル習得のためにも我慢が必要だ。我慢だ、我慢。

でもそれでも・・・

───トントントントントントントン

「(いい加減にせい。さすがに不審に思われるのじゃ!.....とは言え、確かに姉さまのわがままは度を越しておるが・・・)」

さすがの妖狐も、姉であるアテナの傍若無人ぶりにはハラハラしているようだ。
確かにアテナのわがままは止める者がいない今、目も当てられないほどのことになっている。

しかし・・・

「(妖狐、違うんだ。俺の苛立ちはアテナのわがままが原因ではないんだ)」
「(どういうことじゃ?)」
「(アテナが俺以外の男に甘えている姿を見ていると、どうにもむしゃくしゃしてな・・・)」
「(・・・冗談であろう?)」
「(いや、それが割りと本気でさ。これが不思議でならないんだ)」

アテナに対して恋愛感情などは一切ない。あるとすれば親心だ。
それなのに、さっきから館長と楽しそう?(俺にはそう見えている)に話している姿や、特に一番我慢ならないのが膝上に座る行為などだ。
ラズリさんやスカイさん、護衛仲間など相手が女性の場合はその姿もよく見られたが、男性の場合は俺以外に見たことがない。

今までは俺だけの特権、いや、俺だけに許された行為だった。
しかし作戦とは言え、今目の前でその唯一の特権を奪われてしまった・・・。

───トントントントントントントントン

───トントントントントントントントントン

───トントントントントントントントントントン

イライラが募る。
このなんとも言えない感情に余計イライラする。

「(.....お主らは恋人とかではないのであろう?)」
「(その通りだ。でもなんだかイライラする)」
「(.....し、嫉妬とかではないのじゃな?)」
「(嫉妬?.....う~ん。娘を取られたような感じが近いんだが・・・。これって嫉妬なのかな?)」

こうは言ってますが娘を持ったことなんてないんだけどね。
そもそも娘うんぬんの前に俺はまだ童貞なんですけどね。

「(.....妾に聞かれても困る)」
「(だよな。作戦中なんだし、もうちょっと我慢してみる)」
「(.....。の、のう?)」
「(どうした?)」
「(.....そ、そんなにイライラするなら、ね、姉さまの代わりに妾を膝の上に座らせてみてはどうじゃ?)」
「(.....へ?)」

妖狐がなにを言っているのかがよくわからない。
アテナが俺以外の男に甘えている姿を見てイライラしているのに、なぜそこで妖狐を膝上に座らせる必要が出てくるのか。

「(.....どういうことだ?)」
「(.....お、お主がイライラしている原因は、もしかしたら姉さまではないかもしれぬということなのじゃ)」
「(.....ますます意味がわからん)」
「(.....も、もしかしたら膝上に誰も座っていないことがストレスになっておるのやもしれぬということじゃ)」

.....え?なにその変な中毒者扱い。確かにいつも俺の膝上にはアテナがいるけどさ・・・。

しかし、ものは考えようだ。
俺がアテナに恋愛感情を抱いていないのは確かだ。
でも説明しきれないこの不思議な感情といつも当たり前に座っている存在が当たり前にいない事実。

もしかしたら、そんな非日常的な事態が俺のストレスになっているのかもしれない・・・。

・・・。

な~んてことを思う訳がない。
そんなことがある訳ない。

そうあり得ないことのなのだが・・・

───ぺし!ぺし!

さっきから妖狐の二本の尻尾が激しく主張してくるのだ。誉めて!誉めて!と。
ここは俺のために、真剣に考えてくれた妖狐の考えに合わせるべきだろう。

ただ妖狐には問題が・・・

「(妖狐は大丈夫なのか?昨日は嫌がったよな?)」
「(か、勘違いするでない!妾は嫌がったのではない!驚いただけなのじゃ!)」
「(じゃあ乗せるぞ?本当にいいんだな?)」
「(う、うむ。覚悟はできておる)」

覚悟ってなんだよ、覚悟って・・・。それを無理と言うのでは?

相変わらず妖狐は目をぎゅっと瞑り、何かに耐えるような素振りだ。
俺は隣に座る、まるで猫の置物のようになっている妖狐の体に触れてみる。

───ビクッ!

やはり妖狐の体に触れると、一瞬体が強張るような反応が返ってくる。

.....やはりダメだな。

そう思って手を引っ込めようとしたら、

「(.....え、遠慮するでない!妾に触れる絶好の機会なのじゃぞ?一気にいかんか!一気に!)」
「(.....ほ、本当にいいんだな?無理してるようなら・・・)」
「(.....いちいち聞くでない!時には男らしく強引にいかんか!)」
「!!!」

その言葉で俺の決心は固まった。

.....そうだった。時には強引にいくことも優しさなんだった。

そして一気に妖狐の体を持ち上げ、自分の膝上に座らせる。
幼体の妖狐は驚くほど軽かった。そしてすごく柔らかい。さらにはすごくいい匂いがした。

「(.....ど、どうじゃ?妾を座らせた感想は?)」
「(.....アテナとはまた違って、これはこれでいいな)」
「(バ、バカもの!いくら姉さまだからと言っても、他の女性と比較するものがあるか!失礼であろう!)」
「(.....す、すまん)」

.....そ、そうなのか。他の女性と比較するのは失礼なのか。さ、参考になる。

妖狐は幼女だが女性ではある。
俺よりも女性偏差値は間違いなく高いだろう。少し賢くなった気がする。

「(.....そ、それで?姉さまと比べてどちらがいいのじゃ?)」
「(.....え?)」

.....あれ?今さっき比較するなって言わなかったか?

「(ど・ち・ら・な・の・じゃ?)」

妖狐からは有無を言わせぬオーラが漂ってきた。
これは絶対に避けられない質問であり、また答えを間違ってはいけない質問でもあるような気がする。

かつてこれに似たような場面に出くわした経験がある。だから・・・

ナメるなよ!小娘!その手には乗らないぞ!
俺にはテレビで培ってきた知識がある!ここは曖昧にするのが吉なはずだ!

「(.....甲乙つけがたし!)」
「(.....ふん。お主は意外とヘタレなのじゃな。まぁ、姉さまに劣っていないだけでもいいとするかの)」

妖狐の反応は可もなく不可もなくと言った感じだ。
多少アテナと肩を並べられたという評価から尻尾が微妙に揺れている。

「(とりあえずイライラは収まったみたいじゃな)」
「(言われてみれば確かに・・・)」
「(またイライラするようなら妾を構えばよい。そうしたらまた気にならなくなるであろう)」

またって・・・。そうなったら意味がないのでは?

俺のイライラを解消するために、妖狐は膝上に座ることになった。
そんな状態でまたイライラし出すようなら、妖狐が無理してまで座った意味が・・・。え?そういうことなの?

「(.....妖狐、もしかして全部わかった上で無理してまで?)」
「(ふ、ふん!何を勘違いしておる!妾が単に座ってみたかっただけじゃ!光栄に思うがよい!)」

本当に素直じゃない。
でもすごく優しい子だ!

だから俺は、

───ぽふっ。ぽんぽん

突然ぽんぽんされた妖狐は一瞬体を強張らせた。

「(な、なにをする!?)」
「・・・」

.....え~?なんで?どうして今の状況で体が強張るんだ!?

「(.....ぽんぽんされるの嫌いか?)」
「(.....ち、違うのじゃ!嫌い.....ではないのじゃが.....さ、触るなら尻尾にしてほしいのじゃ)」
「(尻尾なら大丈夫なのか?)」
「(う、うむ。尻尾なら問題ない)」

体を触られるのは苦手らしいが、尻尾ならいいらしい。基準がよくわからない。
ただ許可がおりたので早速触らせてもらう。

───もふもふ

「(ありがとう。妖狐)」
「(くふふ。妾の尻尾は気持ちよかろう?)」

尻尾をもふもふされた妖狐は尻尾を嬉しそうにたなびかせながら両手を口にあてる仕草でかわいく微笑んだ。かわいい。


ちゃんとしてれば可愛い子なんだよな~。もふもふだし。


□□□□ ~奴隷制度~ □□□□

アテナによる骨抜き作戦も順調に進み、俺のイライラも解消したところで本題に戻る。

「その物の遍歴は確認できました。問題ないようでございます」
「それはよかったです」

当然だ。妖狐はダンジョンで助けたのだから問題があったら困る。

「早速奴隷契約を結ぶ手続きに入らさせて頂きますが、完全奴隷でよろしいですか?」
「完全奴隷?」
「はい。その物は以前、完全奴隷として契約を結んでおりますので」

いやいや。俺が聞きたいのはそういうことではなくて・・・。完全奴隷ってなにってこと。

「奴隷にも種類があるんですか?」
「これは失礼しました。ご説明させていただきます」

こうして館長から奴隷について、一から説明を受けることになった。

「まず奴隷とは所有者の『物』という位置付けになっております。
 ですので、他の所有者から所有物である奴隷を奪う行為は当然窃盗という罪に科されます。
 また当然ですが、所有物である奴隷を殺す行為もまた殺人罪として罪に問われます。
 例外として、決闘や賭けの対象に奴隷がなった場合のみ罪には問われません」

奴隷は『物』・・・。てか、決闘ってなに!?そんなもんもあるの!?

「さて奴隷についてでございますが、基本的には主人に絶対服従となっております。
 もちろん例外もございます。例外についてはこれからご説明しますが、
 どの奴隷であっても『主人を殺めるな』の命令だけは絶対遵守となっております」

その命令だけはってことは、奴隷の違いは遵守させる命令の数ってことか?

「まず現在の奴隷の9割以上が『完全奴隷』と呼ばれるものになります。
 これは簡潔に言うと、主人の放つ言葉全てが命令として奴隷に伝わります。
 ですので、奴隷の意思がどうであろうと主人の命令が全てとなり、奴隷はその通りに行動します。
 分かりやすく言えば、主人に戦えと言われれば、どんなに嫌がっても奴隷は戦いますし、
 主人に死ねと言われれば、どんなに心が拒絶したとしても奴隷は死にます」

ゾッとした。
まるで人権なんか無視したとんでもないシステムだ。それが奴隷の大半以上。
人の生死すらも主人のご機嫌次第とか・・・。あの高慢な妖狐が主人の顔色を伺うわけだ。

「次に残りの1割のほぼ大半を占めるのが任意奴隷となります。
 これは一部の命令のみ絶対服従となりますが、それ以外の命令は拒否することができます」

「一部の命令とは?」

「『主人を殺めるな』・『主人の元から逃げるな』・『主人を守れ』・『主人のために戦え』の4つでございます。
 この命令だけは奴隷がどんなに拒否しようと必ず遵守されます」

先ほどの完全奴隷と比較すれば、ある程度の人権が認められているところからもだいぶマシになったと言える。

「この任意奴隷はパートナーによく用いられるものでございます。
 奴隷と長く過ごすうちに愛情がわき、そのまま人生のパートナーに・・・。
 そういった方が完全奴隷から任意奴隷に転換されるのでございます。
 エルフやドワーフなどの種族の方がよく利用されます」

人間は?ってツッコミは入れないほうがいいんだろうな・・・。
本当人間はどうしようもない。そして奴隷はいつでも転換できると。

「最後に自由奴隷でございますが、こちらは恐らくこの世界でも10人とはいないでしょう。
 『主人を殺めるな』この命令のみが絶対遵守でして、それ以外は奴隷の判断となります。
 この道30年務めておりますが、これを選ばれた方は今の今まで出会ったことがございません」

おぉ!かなり良心的な奴隷もあるじゃないか!てか、これを選ぶぐらいならいっそ・・・

「自由奴隷を選ぶぐらいなら奴隷から解放してしまったほうがいいんじゃないですか?」
「その通りでございます。だから選ばれる方が少ないのでしょう」
「ではなんのためにこの自由奴隷があるんですか?」
「獣人奴隷のためでございます」

.....え?獣人奴隷は奴隷解放できないの?

「獣人奴隷は解放してはいけない決まりがあるのです。
 獣人は魔王の手先なのですから、当然と言えば当然ではあります。
 そもそもこの自由奴隷じたいが不要だと思うのですが、時の勇者様が決められたものですから」

.....魔王の手先って・・・それは200年前の話だろ?いつまでその設定を引っ張るつもりだよ!

でも、わかったことがある。
館長の話では、獣人は解放してはいけないと言っていた。
それは裏を返せば、つまり解放することは可能だと言うことだ。

そして自由奴隷の制度を作ったのは時の勇者だということも。
時ってことは魔王が獣人だった頃を指すに違いない。
当時の情勢がどんなものだったかは想像することもできないが、きっと苦悩して作り出した制度なのだろう。
獣人を慮り、その上で更には世情をも納得させたこの制度は、当時の情勢の中で鑑みれば素晴らしいものだと思う。
相当頭の切れる勇者だったんだろう。

.....勇者ってのはこうでないとダメだよな~。使命を投げ出しちゃう勇者とか論外だわ~。

とりあえず奴隷のことはよくわかった。
俺が妖狐に望む奴隷は『自由奴隷』だ。スキル次第では解放も視野に入れている。


こうして俺は目的のスキルも無事手に入れて、ほくほく顔で奴隷商館を後にした。


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後書き

次回、奴隷契約!

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今日のひとこま

~アテナとの約束~

「アテナは今後、俺以外の男の膝上に座るのは禁止な。あとにぱー☆も」
「なんでー(。´・ω・)?」
「な、なんでもくそもない」
「でもー、さっきのは作戦だったんだよー?」

「作戦でもダメ」
「でもー、さっきのはあーしないとスキルがー(・ω・´*)」
「今後は貯金するから大丈夫だ。なにも問題がない」
「歩は浪費家なのにー、だいじょぶー(。´・ω・)?」

俺は決して浪費家ではない!少なくともアテナには言われたくない!

「とりあえず今後はダメだぞ?もし破ったら、今後は妖狐しか座らせないからな」
「そんなことは姉さまの自由であろう。姉さま?どんどん他の男に座ってよいのだぞ?」
「なに言ってんの!?てか、勧めてどうする!」
「べ、別に妾だけが座ればよかろう!妾専用のイスになれるのじゃ。光栄に思うがよい!」

「んー?歩はー、私が歩以外の男の人に座るのいやなのー(。´・ω・)?」
「いやだ」
「わかったー!じゃー、そうしてあげるー!約束ねー(*´∀`*)(にぱー☆)」
「あぁ、約束だ」
「・・・ちっ。(妾だけでいいものを・・・)」

お、おまっ!?舌打ちはやめなさい!舌打ちは!なんか怖いから!

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