青空に映える桜 1 ~出会い~

F.ドリームプリンセス

青空に映える桜 1 ~出会い~

入学式当日。
雲1つ無い気持ちのいい朝。
窓の外から僕を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい!あきらー!遅れるぞー!もう先に行くぞ!」
その声で飛び起きた。
時計を見ると…
「ヤバい!もうこんな時間だ!」
慌てて部屋を飛び出し、階段を駆け下りるとお母さんが朝ごはんを作っていた。
「母さん!なんで起こしてくれなかったんだ!」
そう訴えると、
「何回も起こしたわよ。起こしても起きないからでしょ。」
それを言われると返す言葉もない。
急いで着替えて家を飛び出すと、学校まで猛ダッシュした。
ー学校初日から遅刻とか本当に僕何してるんだろ…。こんなことしてる場合じゃないのに…。

引っ込み思案な輝は思うように言葉にすることができず、中学の3年間決まった友達は幼なじみの駿介ぐらいだった。

なんとかチャイムが鳴り終わる前に校門を通ることができた。
門を抜けると落ち着いて歩き出した。
そしてふと上を見上げると、
ー今日ってこんなに晴れてたんだな
間に合うことに必死で天気なんか気にしていなかった。
すると目の前に桜の花びらが1枚舞い降りてきた。
どこから来たのだろうと周辺を見渡すと、校舎の横に桜の木が1つそびえ立っていた。
よく見ると、1人木の下で天を見上げている人がいる。
ー誰だろう?女の子……だよな。
木の下は陰になっていて、誰かいるのはわかるが性別まではわからなかったが確かに女の子だ。
その子には何か引かれるものがあり、つい声をかけてしまった。
「こんにちは…あの…何をしてるんですか?」
普段思ってても口には出せないのにこの時はなぜか普通に話すことができた。
僕が話しかけるとハッとしたように彼女は振り返った。
「こんにちは。私と同じ新入生…だよね?」
「えっ。あっ、はい。そうです。」
振り返った彼女は、茶色がかった黒のショートヘアで、すらっと手足が長く、顔も小さい。
間違いなく集団の中にいても一際目立つだろう。
その可愛らしさに一瞬言葉を失った。
ーすごく可愛い人だなぁ。でも僕とは今後関わらないだろうな。
彼女は声も元気で見るからに活発な子だ。
僕が言葉に困っていると、それに気づいたのか
「そろそろ教室行かないと間に合わないんじゃない?一緒に教室行こ!」
そう言われると僕は元気な声に押しきられたように
「あっ、うん。そうだね。」
そう言うことしかできなかった。
2人は急いで教室に向かった。

下駄箱で靴を履き替えると自分の教室を確認する。
彼女も僕の横で自分の名前を一生懸命探している。
ーこういう時ってマンガでは同じクラスになるんだよな。まあ、僕には関係ないか
そう思ったとき……

「ねえ!君1組だよね。私も1組だよ。一緒だね!」
僕は驚いた。
「あ、うん。」
ーこんなマンガみたいなこと本当に起こるんだな。
2人一緒に教室へ向かうと、遅れて行ったせいかクラスではグループが出来上がりつつあった。
「あっ、桜!やっと来たー!遅かったね。」
そう1人の女子が僕の隣にいる彼女に呼びかけた。
ーこの子桜っていうのか。
そう思っていると教室の端で座っている駿介を見つけた。
「駿介。朝はごめんな。寝坊しちゃって。へへへ。」
「そんな事だろうと思ったよ。寝坊してきたのに女子と仲良く登校かよ。」
「違うよ!たまたま会っただけだよ。」
そんな話をしていると先生が入ってきた。
「皆さん、おはようございます。私が担任の武田 貞雄です。このメンバーで1年間頑張りましょう…」
ーありきたりな話だな。
そう思った直後。
「いきなりですが、学級委員を男女1名ずつ選びたいと思います。立候補もしくは推薦する生徒はいませんか。」 
ー立候補なんかするやついるのかな。
すると…
「はい!私やります!」
彼女が名乗りを挙げた。
「よし。女子は相川で決まりだな。男子は誰かいないか?推薦でも良いが。いなければ出席番号の早い生徒に頼むが。」
僕には関係ないと思って窓の外を眺めていると…
「はい!推薦したいです!」
先に決まっている彼女が手を挙げた。
「誰だ?」
「瀬川君がいいと思います!」
ーえっっっ!?なんで!?
「おい瀬川。やってくれるか?」
やりたくはないが、みんなの視線が痛い。
断る理由もないから仕方がない。
「…はい。やります。」
ー初日からこんなことになるなんてなぁ。
学級委員が決まった瞬間それまで静まり返っていた教室が一気ににぎやかになった。
「静かに!」
先生がざわついている教室を静めた。
「それでは、今日から学級委員は相川と瀬川だ。2人ともしっかり務めるように。」
「はーい。」
なんとも覇気の無い返事だ。

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り、号令をすると先生が教室から出て行き事なきを得た。
休み時間。
僕は自分の席で学級委員になったことに落ち込みつつ静かに座っていた。
目の端に人影が見えた。
誰だろうと振り返ると、そこに立っていたのは僕を推薦した相川 桜だった。
彼女は満面の笑みを僕に向けて、
「改めてまして、私は相川 桜!これから一緒に学級委員がんばろうね!」
ここまで幸せそうな笑顔を見たことがあるだろうか。
その時自分に何か異変を感じた。
しばらく無言でいると、彼女は不思議そうにこちらを見つめていた。
それに気づくと僕は慌てて返事をした。
「あっ、えっと…僕は瀬川 輝。よろしく…。」
そう答えると彼女は再び笑顔で、
「よろしく!」
なんとも気持ちのいいくらいの元気な声だ。
それにつられて、気づけば自分も笑顔になっていた。
その瞬間自分の中に何かが芽生えた気がした。

窓の外は澄んだ青々とした空だった。



コメント

  • ノベルバユーザー280308

    スゴク、アリキタリ、ユエニヨイ

    0
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