努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す

九九 零

ふむ。楽しそうだな。

「リリルなら…」

そう言いながらミーネが闘技場の舞台を指差した。

それと同時に、舞台の中心を陣取るサリアを巻き込んでの大魔法が発動され、一瞬にして舞台は凍りき、氷山の如き氷の山が出来上がった。

サリアは氷の山の中に閉じ込められてしまったようだ。

接近戦が得意であるサリアの弱点の一つだな。

「ふむ。なるほど」

遅れて、舞台の出入り口から一人の少女が姿を現した。

この魔力。あの姿。間違いない。

リリルだ。

魔力察知では魔力の容量までは測りきれないが、魔法の規模と、それを使用しても余裕のある動きである事を考えると、かなりの魔力量を持っている事が分かる。

「奇襲攻撃とは考えたな」

「この魔法じゃ、さすがに動けないでしょ?」

したり顔をしてると言う事は、知っていたのだな。
だが、サリアを甘く見過ぎているぞ。

「ふむ。詰めが甘いな」

ピシリッと氷に大きなヒビが入った。

「ウソ…でしょ…」

「嘘ではない。サリアはオレの教え子だ。この程度では止めれぬ」

ヒビが蜘蛛の巣状に広がってゆき、空いた隙間から炎が轟々と噴き出す。

「さぁ、見せてやれ。自身で作り上げた魔法《エクス・バーナー》をな」

オレの言葉がキッカケになったかのように、氷の山は内部からの圧力を伴った炎に負けて砕け散った。
そして、爆発とも取れる爆炎が天へと噴き上がり、宙に舞った氷のカケラを尽く溶かし尽くす。

そのまま天井を貫くと思われた炎だったが、天井に辿り着く前に時計塔からの阻害を受けて、炎が消えてしまった。

しかし、その余韻は残っている。

氷は全て溶かし尽くされ、水は全て蒸発した。
舞台上の土は熱で硬化してしまい、水蒸気によって濃い霧まで発生させ、観客席まで熱風が吹き荒れ、霧によって視界を奪われた。

これこそがサリアが一人で考え、編み出した魔法だ。

始めの頃は失敗続きで周囲一帯を荒野へと変えていたが、少しばかり魔法の知識を与えてやると成功させたのだ。

まだ威力は低めだが、自身を中心に周囲一帯を燃やし尽くす広範囲攻撃である。

《エクスプロード》のような爆発はなく、《ファイアーボール》のように炎を飛ばしたりもしない。
ただ単純に、自身を中心に周囲へと高熱の炎を噴射するだけの魔法だ。単純だが強力な魔法である。

その分、魔力の消費はバカにならないがな。

試しに使った事はあるが、オレの魔力では一発が限度であった。

「まさか、対抗策があるとは思わなかったけど、これじゃ、何も見えないわね…」

「ふむ。それもそうだな」

霧があったとしても、視界が奪われただけで、オレにとっては些細な問題にしかならない。

しかし、目に頼りきっている者達からすれば、視界が奪われる事は危機に瀕した事と同義であろうな。

ふむ。霧を消してやろうではないか。

「《エアー・コンディショナー》」

空気に関する事柄を調整する魔法だ。

昔は、この魔法を物に付与して快適な暮らしを提供したものだ。
確か、それらの物に付けられた名前はエアコンだったな。

魔法名から取られたようだが、どこかで聞いた覚えのある懐かしい名前だったのは良く覚えている。

未だに、どこで聞いたか思い出せないがな。

それは兎も角、オレが魔法を発動させると、周囲の霧が徐々に晴れて行き、舞台が薄っすらと見えてきた。

このままいけば、数分で全ての霧が晴れるだろう。

だが、サリアとリリルの姿は未だに見えていない。二人は魔法を撃ち合っているみたいだ。

サリアが炎を。リリルが氷を放っているようだが、目視では霧が邪魔をして捉えれない。
激しく何かが行き交っているようにしか見えぬのだ。

そして、二人が対になる魔法を放つお陰で、霧を完全に晴らす事が出来ない状態になってしまっている。

しかし、この様な視界の悪い中での戦闘も経験させておいて損はないだろう。

経験こそが、強くなる第一歩になるのだ。

さて、これからが見ものだな。

どちらが先に力尽きるか。それとも、魔力切れになるか。
視界が悪い中での一対一の魔法対決だ。

オレでも体験した事のない事だから少しばかり羨ましく思えるが、邪魔しては二人に悪いだろう。
参加など野暮な事はせずに、観ておくだけに留めておこう。


ーーー


毎年恒例と言われる程にまでなった、生徒同士の決闘。

これが行われるようになった経緯は、ただの喧嘩から始まったんだ。

「学院長。紅茶です」

「うん。ありがとう」

女性教師のメリーヌ君が机に紅茶の入ったコップを置いてくれた。
湯気が立ち昇っているから、出来立てだね。

僕はコップを手に取り、少しだけ口に含んで味わいながら飲む。

そして、視線を前へと。闘技場の舞台へと向ける。

生徒同士の魔法が衝突して出来た霧で視界が真っ白で何も見えないけど、僕の”深淵の魔眼”は全てを見通している。

特待生ナンバー1のサリア君と、特待生ナンバー2のリリル君の戦いだね。

この喧嘩決闘が始まってから、初めての特待生同士の戦いだよ。

とは言え、これまでの特待生と比べたらダメな話なんだよね。
彼女達は次元が違うんだから。

さすが、師匠の知り合いと言うべきか、友達と言うべきか…。

やっぱり、凄いよね。

僕達からすれば、大魔法って言える魔法をポンポンと下級魔法のように放つんだもん。
僕も同じ事が出来るけど、さすがにやろうとは思わないね。

どれだけ保有魔力が多くたって、使い続ければカラになる。
そして、魔力切れを起こすと、意識を保てなくなって倒れてしまう。

もし、戦いの最中でそんな事態に陥ってしまったら?

余裕がある戦いだったら、別に倒れた所で仲間が居れば問題ない話だけど、敵が自分達よりも強かったら、そんな事をするのは自殺行為なんだよね。

まぁ、ここは学院の闘技場で、僕の思うような危険はないけど、魔力切れを起こすのは恥をかくのと一緒だからね。
そう簡単に起こしていいものではないのさ。

けれど、彼女達にとっては関係なさそうだね。

殺気はないけど、全力で魔法を撃ち合っている。
下手したら相手を殺しかねない威力の魔法をポンポンと撃ち合っているんだ。

もうね、ここまで行くと考え方とか、そう言う違いが明らかなんだよね。

ただでさえ視界が悪くて狙いも定まってないのに、躊躇なく撃ってるもん。
観客席に被弾しちゃうって言う心配とかないのかな?

一応、観客席には結界があるけど、彼女達が撃ち合ってる魔法は、その結界を壊しちゃう魔法ばかりなんだよね。

もう既に、始めの大魔法で皹が入ってて熱風と冷気が漏れ出してるって言うのに、彼女達が止まる気配がない。

より苛烈になって、魔法を撃ち合っている。

多分だけど、彼女達がこうやって撃ち合えている理由は、ここに師匠が来ているからなんだろうね。
だから、安心して大魔法を撃ち合えているんだと思う。

彼が居れば、何とかしてくれるだろう。

僕もそう思ってしまっているからね。
だから、彼女達の戦いを止めに入らない。

いや、僕が止めに入った所で彼女達は止まらないと思うけど…。いや、ホントに。

「ねぇ、メリーヌ君」

「はい」

「あの子達、どう思う?」

「あの子達…サリアさんとリリルさんですか?」

「うん、そうだね。メリーヌ君は彼女達を見て、どう思う?」

「どうと言われましても…。強いですね…」

彼女達の強さはメリーヌ君と互角ぐらいだろうね。
でも、メリーヌ君が冷や汗に掻かせるなんて、やっぱり、底知れぬ強さがあるようだね。

サリア君は剣と魔法を使い、近接戦でも苦戦する事はないだろうけど、魔法は雑で単調だね。良い様に言えば、真っ直ぐだ。

その反面、リリル君は魔法が得意なようで、魔法の扱いに関してはズバ抜けている。
強力なだけじゃなく、色々な変化を付けたりして相手の隙を突く攻撃が多い。

良く見ると、魔法は氷だけじゃなくて土や水の魔法も使っているみたいだね。

サリア君が使う魔法は炎ばかりだから、飛んでくる炎は水を当てる事で打ち消している。と、同時に、土で相手の足場を崩し、氷で追い討ちをかける。
時には、土魔法で攻撃をしたりもしているようだね。

だけど、サリア君もやられっ放しじゃない。
飛んでくる魔法はおろか、足元からの攻撃を物ともせず、真正面から立ち向かっている。

地が盛り上がらせてサリア君に攻撃を仕掛けるけれど、サリア君の身のこなしの前では無意味に近い。
追い討ちで飛んでくる氷の礫も木剣によって叩き潰されている。

回避と防御。その二つの行動を起こしながら、サリア君は攻撃の手を止めない。

どちらかがミスを起こさない限り。もしくは、どちらかが強く攻め入らない限り拮抗し続ける戦いだね。

それから数分後。

戦いに突如、変化が訪れた。

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