努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す

九九 零

ふむ。今日からだな。

「今日からだね、師匠」

「ふむ。そうだな」

あれから数日が経ち、メーテルの言う通り、今日から学院に通う事になった。

そして、現在は宿屋から学院に向かっている最中である。

サリア達、本試験に合格した者は既に寮へと移っているが、オレは再試験と言う異例の入学なので、まだ寮の部屋が用意されていないのだそうだ。

いつ用意できるかも分からないと言われた。

「して、なぜメーテルがここに居るのだ?」

なぜか、学院長室で別れた時からずっと付けられているのだ。そして、宿屋を出るタイミングを合わせてオレに接触してきた。

「ん?そりゃあ、あれだよ。えーっと、そう!師匠が今日から通うクラスを教えに来たのさっ!」

胸を張って言われたが…ふむ。そう言えば、聞いてなかったな。

「本当なら、君のクラスを担当する教師が出向く筈だったんだけど、特別に僕が来たんだっ!」

そうであったのか。
それは野暮な事を聞いたな。

「ならば、オレのクラスは何処になるのだ?」

「うん!師匠のクラスはFだよ!全クラスの中でも最も成績が悪く、素行も悪い。最低最悪の落ち零れクラスだね」

なんの悪気もなさそうな無邪気な笑みを浮かべながら「師匠にピッタリだよ!」と言われた。

ふむ。では、オレはその部類に含まれるのか?
内心でオレをそのクラスの人間達と同じと思っているのだろうか?

いや、それも仕方ないのかもしれぬな。

なにせ、オレは本試験に落ちているのだ。素行がどうかは知らぬが、成績が悪いと言うのは頷ける話だ。

「まぁ、行けば分かるよ。僕が師匠をそのクラスに推薦した理由がね」

ニヤッと悪戯っぽい笑みを浮かべると「じゃ、また後でね〜」と言って、屋根伝いに学院へと向かっていくと、入れ違いで模擬試験の試験官ーータクルスが焦った形相で駆けてきた。

そして、オレの前に辿り着くや否や、ガバッと頭を下げた。

「すまんっ!遅れた!」

「ふむ」

「学院長の奴が俺を木に縛り付けやがったんだ!本当にすまんっ!」

「ふむ」

やはり、メーテルは侮れぬな。

自分では『君のクラスを担当する教師が出向く筈だったんだけど、特別に僕が来たんだっ!』と言っていたが、その担当者を拘束して動けぬようにしていたとはな。

とは言え、考えてみれば確かに『来れない』とは言ってなかったがな。

おそらく、タクルスが拘束から抜け出す事も想定済みだったのだろう。

「では、行くか。案内してくれるのだろう?」

「あ、ああ!任せろ!」

頭を下げ続けるタクルスに出発の声を掛けてやると、顔を上げてキョトンとした表情を浮かべた後、胸をドンッと叩いてオレを先導するように歩き始めた。


ーーー


僕はメーテル。
メーテル・サルバートさ。

冒険者ランクはS。
ランクSは化け物達に与えられるようなランクで、どれだけ頑張ってもランクAが限界って言われてる。だから、僕はこれ以上ランクを上げれない。

ちなみにだけど、過去最高ランクはSSSなんだよね。有り得ないよね?

そう考えると、僕は化け物達のランクに片足を突っ込んでいるだけのただの冒険者って事だね。

それとね、”大賢者”なんて異名で呼ばれているけど、案外そうでもなかったりするんだ。

ただ、エルフだから人よりも魔力量が多く、扱える魔法も多いだけなんだ。
まぁ、普通のエルフ達と比べたら僕の方が扱える魔法の幅も広いけどね。

そんな僕だけど、師匠と会った時は驚いたよ。ホントだよ?

話には聞いてたけど、本当に神の祝福を受けてない。なのに、魔力量が桁違いに多かった。
神の紋様がないと、魔法もスキルも使えない筈なのにね。

試しに深淵の魔眼で覗いてみたら、もうビックリ。何も見えなかったんだ。

こんな事は”神の所有物ゴッズ・アイテム”って呼ばれるアーティファクトを覗いた時以来だった。

神の所有物ゴッズ・アイテムって言うのは、一国を簡単に滅ぼせる程の力を持ったアーティファクトの事さ。

でも、師匠とは敵対してる訳でもないし…いや、絶対に敵になんて回したくないけど…。

兎に角、学院長としての務めがあるから師匠と話しをしたんだ。

話の途中で少し感情が昂ぶったりもして、師匠に威圧を向けてしまったりもしたけど…いや、まぁ、威圧している僕が方が師匠から漏れ出した怒気に怖気付いて少しチビっちゃいそうになったけど…。

見事に言い負かされたね。

ホント驚きの連発だったね。
まさか、僕が言い負かされるとは思いもよらなかったし、僕が気圧されるとも思わなかった。

それにね、彼…僕の秘密に気付いていたしね。

もしかすると、初めから気付いていたのかもしれないね。僕が呪われているって事。

まぁ、それは置いといてさ、僕は学院が始まるまでの数日間の間、師匠の行動を遠くから観察していたんだ。

でも、相手は師匠。
すぐに尾行している事に気付かれると思ったから、隠密系のアーティファクトを沢山身に付けて、絶対に見つからないようにしていた。

それで、師匠の数日間の過ごし方を見ていたけど…いやぁ、師匠の言っていた努力の真の意味が分かった気がしたよ。

初めはさ、何がしたいのかよく分からなかったんだ。

学院の外を歩き回って、キョロキョロと周囲を見渡す。そればかり繰り返していた。

だけど、人気の全くない場所に辿り着くと、その行動の意図がやっと理解できた。

まさに、師匠は努力の化身だったんだ。

地面に見た事もない難解な魔法陣を描いたと思えば、《身体強化》を使い、それを継続させながら空に向かって莫大な魔力の込められた魔法を無駄撃ちし始めたんだ。

魔法陣は複雑過ぎて僕でも理解できなかった。
だけど、なんとなく効果は分かる気がする。

魔力の吸収。それと、回復だと思う。

魔法をどれだけ撃っても無くならないのは、大気中の魔力を吸収してるからなんだろうね。
その証拠に、彼の周囲の木や草。土や小動物。全ての魔力を強制的に吸い上げ、枯らせていた。

遠くにいた僕の魔力まで持っていかれかけた時には驚いたよ。

師匠の身体は《身体強化》の使い過ぎで肉が裂け、骨が砕け、身が剥き出しになる。と、同時に、途切れることのない回復魔法が師匠の身体を包み込み、出来たばかりの傷を塞ぎ続ける。

僕ですら見た事のない、普通とは掛け離れた《身体強化》だったけど、注意する点はそこだけじゃない。

そもそも、師匠がしてる事は、普通の人が出来るような事じゃないし、出来たとしても普通ならやろうとも思わない事なんだ。

身を削って力を得る。悪くはない考えだけど、決して人に勧めれる事じゃない。

その日を終える頃には、師匠はボロボロで地面に倒れていた。暫くの間、全く動かずに空をジッと見つめ続けていたぐらいなんだ。

いや、動かずって言うか、動けなかったんだと思う。

回復が追い付いていない程に師匠の身体はボロボロになっていたんだもん。

だけど、師匠はそれを毎日繰り返した。

何かと戦うわけでもなく、何かを極めようとしてるわけでもない。だけど、身体を今以上に強力にすると言う点では合点が行く行動。

もう、それは努力としか言いようがなかった。

アダ名気分で師匠って名付けたけど、まさに師匠の名に恥じない人だったよ。

だから、僕は師匠が本来入る筈だったクラスをAからFクラスに変更した。

学院でのFクラスは、落ち零れ。能無し。雑魚クラス。色々な呼び名で呼ばれてて、Fクラスの卒業生もハッキリ言ってしまうと手の付けられないバカばっかりなんだ。

大半は悪事を働いて死んだりする。残りは、村人として平凡に生きているのも居れば、下級冒険者として生きていたりする。
それも、タチの悪い冒険者が多い。

だけど、そんなクラスに師匠が入ればどうなる?

凄く面白そうだろう?

それを僕は見たいと思ったんだ。

師匠は…イクス君は、何かをしでかしてくれる。それも、とっても面白そうで、凄い事をね。

そんな彼に僕は学院長として、そして、メーテル個人として、期待するよ。

何かを変えてくれる大きな存在になるってね。


ーーー


「おー!集まってるかー?今日から、ここがお前等、落ち零れ共が通うFクラスだ!ここが嫌ならを実力と成績を上げやがれ!」

Fクラスの教室ると同時に、開口一番タクルスが大きな声で生徒達に挨拶をした。

その後からオレが教室に入り、中を見渡すとーー机の半数以上が空席で、居るのは4名。寝ていたり、空を呆然と見ていたり、必死に本と睨めっこをしていたりしている者達ばかりだった。

タクルスの話を聴いているのは、オレを除けば一人だけだった。

「ふむ。人が居ないな」

「だなっ!サボってんだろうよ!」

それは堂々と言う事か?

「せ、先生…その…みんなは…えと…屋内闘技場に向かっちゃいました…」

オドオドとした感じで手を挙げて自信なさげに言ったのは、唯一、タクルスの話を聞いていた男だ。

中性的な顔付きで、見ただけでは男か女かの見分けが付かないが、髪は短く、女性特有の乳はないので男だろうな。

正直に言ってしまうと、どちらかなど分からないので、男だと決めつけただけなのだ。

それは兎も角、隣のタクルスは男の話を聞いて面白そうな物でも見つけたかのような笑みを浮かべた。

「もう始まってんのかよ!今年はいつもよりも早かったな!よしっ!みんな付いて来い!」

そう言って、タクルスは一人だけで先に走って行ってしまった。

残されたのは、先程の男と、自分達の世界に入り込んでしまっている者達だけだ。

「ふむ…」

「あ、あの…先生…行っちゃいましたけど…」

モジモジと恥ずかしげに…いや、自分自身に自信がないのか?
それはダメだ。いざと言う時に自信がなければ即座に動けぬ。そして、一番に敵に狙われる存在になる可能性が高い。

クラスメイトとなったと言う事は、オレの友達候補でもある。死なれたら困ると言うものだ。

「ふむ。お前の名は?」

「えっ…その…レミナ…です…」

ふむ。全く視線を合わせようとしないな。

「そうか。で、レミナよ。お前はどうしたいのだ?」

「ど、どうしたいって言われても…」

困ったように視線を彷徨わせ、最終的には床へと向けてしまった。

まさか、自分で決断も出来ぬとはな。
だが、悪い事ではない。努力して成長して行けば良いだけの話だ。

それまではオレが幾らでも導いてやろうではないか。

「ふむ。ならば付いて来ると良い」

そう言いながら、片手を他の生徒達に向けて、魔法を発動する。

この場にはサリアが居ないので、無詠唱だ。

「貴様等も付いて来るが良い」

オレが魔法を発動すると、先程まで自分の世界に入り込んでいた生徒達が一斉に立ち上がった。

「ん…?なに…?」
「な、身体がっ!?何が起きてるんだっ!?」
「まだ眠い…」

唐突に自分の身体が意思に反して動いた事に驚きを隠せないようだ。
しかし、これでは混乱を招いただけと同義だ。

「ふむ。黙れ。そして、寝るな」

オレの一声に全員が口を閉じ、立ち寝をしようとした者はパッチリと目を見開かせて寝れなくしてやった。

これは、散々カラスに使った魔法と同じようなもので、《闇魔法》で身体を操っているだけに過ぎぬ。

オレよりも魔力操作が上手ければ簡単に抜け出せる脆弱な操作魔法だが、どうやら、Fクラス生徒には居ないようだな。

「付いて来い」

一声発せば、その通りに動く。

カラスの時は魔力だけで操作したが、相手はカラスよりも何倍も大きい人間だ。だからこそ、魔力で操作するのは魔力消費量が倍増するので今のオレではおいそれと使えない。

だからこそ、わざわざ声によって指示をする必要があるのだ。

催眠とは違うが、声によって他者の身体を操る事は同じだな。

オレを親の仇のように睨み付けてくる者も居るが、それらを引き連れて、オレはタクルスの向かった先へと足を向ける。

どこへ向かったかはレミナが言っていたので名称は分かる。
しかし、場所までは分からぬ。

屋内闘技場など、どこにあるのか見当が付かぬ。

取り敢えず、【気配察知】でタクルスと同じ気配を見つけ、そこへ向かうようにしている。

ちなみにだが、オレ達の教室は時計塔を囲む3階建の校舎から少し離れた場所にある、木々などの自然に囲まれた平屋だ。すぐ裏手に運動場がある。

3階建の校舎には、1階は多目的教室があり、2階にEクラス〜Aクラス。それから教務員室があり、3階全てはSクラスの為にあるらしい。

屋上はSクラス専用だそうだ。

他の校舎も同じような構造だが、学年が上がったとしても校舎から校舎へ移動する事はないらしい。
入学してから、ずっとこのままだそうだ。

それから暫く歩き続け、タクルスの気配の感じる場所に辿り着いた。

時計塔の前にな。

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