努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す

九九 零

トレール


トレールが停車する駅は街の外にあるらしく、そこまで徒歩になるのだが、それまで父は泣きながらアークと別れた事を未だに惜しんでいた。

「うぅ…アークの奴、良い奴だったなぁ。また会えると思うか?」

「ふむ。会えるのではないか?」

このやりとりは何度目なのだろうな。
同じ質問ばかり何度も繰り返し問いてくる。

さすがのオレでも、呆れてしまって同じ返答しか返せていないぞ。

「アーク!アーークゥゥ!!」

ふむ。叫ぶのは良いのだが、少しは人目を気にして欲しいものだ。

駅に近付いて来ているのか、周囲に人が増えて来ているのだが、それでも父はアークとの別れを惜しんでいる。

「別に死んでしまった訳ではない。そこまで悲観することでもないだろうに」

「イクス!イクスよぉ!熱き男の友情を語った仲をお前は引き裂こうと言うのかっ!」

「ふむ。そこまでは言ってないのだが」

「なんて奴だ!俺はお前をそんな風に育てた覚えはないぞぉぉ!!」

なぜかは知らぬが拳が振りかぶられたので、オレは軽く迫り来る拳を掴んで捻りあげる。

「アダッ!?アダダダダダッ!」

「少し頭を冷やすのだな」

捻り上げた腕を更に捻り、父の軸足を蹴り飛ばすと、グルリと宙を舞った。
そして、そのまま、地面に投げ落とす。

ほんの軽い柔術だ。

ドンッと良い音が鳴ったが、なに、頭から落ちていないので死んではいない。少し気を失ってもらっただけだ。

そんな父を引き摺って、周囲の人が向かう先へとオレも向かう。

そうする事数分で駅らしき場所に辿り着いた。
ただの長い石段であるが、人が集まっているので間違いはないだろう。

魔力を察知したところだと、石段の途切れる場所に、レールが埋め込まれているようだ。
確かに、オレが作った列車の乗り口は少し高い。しかし、出入り口は最前部と最後部にしか無かったはずだ。

ちなみに、全部で5両編成だ。

暫くすると、列車トレールと思わしき長細い物体がスーッと流れるかのように滑って来た。

車輪はなく、ただの箱を連結させただけの長細い蛇のような箱なのだ。
しかし、オレの作った覚えのない扉や窓があり、5両編成が10両程に増やされていた。

5両の中は大半が魔導機によって埋め尽くされていた筈なのだが、それらは全て取り外され、増築され、人が乗れるようにされているようだ。

ふむ。どうやら、完全にオレの知らない物と化してしまったようだな。

しかし…。

「このような使い方があったとはな」

あの時のオレは、そんな考えすら持っていなかった。
ただ、敵を滅ぼし、己の身を守る。それだけを主としていたのだ。

物思いに耽っていると、列車が駅に到着した。

「エルダール国境まで各駅に停まります。乗る方は、身分証を提示してから乗車券を購入して下さい」

列車から降りて来た紺色の服と紺色の帽子を被った男性が言うと、周囲に居た人達が男性に群がり始めた。

まるで、餌を囲う蟻だな。

「順番にっ!順番にお願いしますっ!席には余裕があるので、一列に並んでご購入下さい!」

ふむ。席がなくなるかと思ったのだな。

男性の発言に、人々は安心したかのように一列になって何かを購入してから列車へと乗り込んで行く。

だが、なんだ。
オレが作った物に乗るには金を払わなければならないとは…変な話だな。

まぁ、それが人間の定めたルールと言うならば、従わなくてはな。

父を引き摺って、オレも列に並ぶ。
とは言え、オレは最後尾だ。

何やら奇怪な者でも見るような視線に晒されるが、気にしても仕方ないだろうな。

「君で最後だね。……えーっと…」

ふむ。
オレの父の情けない姿を見て戸惑っているようだな。

「なに、心配ない。少々煩かったので気絶させただけだ」

「き、君のお父さんですよね…?」

「ふむ。そうだが?」

「えぇ…」

なぜ困惑を露わにするのだ?
父を超えてこそ、子と言うものだろうに。

「ふむ」

このままでは話が進まぬ。
オレの目的は列車に乗る事であって、ここで雑談をする事ではない。

「列車に乗りたいのだが?」

「えっ、あっ、はい…えっと…証明書って持ってるかな?」

「ふむ。ないな」

まず、証明書が何か分かっていないのだが、それに連なる物は持っていない。

「えーっと、お父さんが持ってる筈なんだけど…?」

ふむ。言われてみれば、そうだな。

父のポケットを弄ると、街に入る時に兵士に見せていたようなカードが出て来た。

「それです。それ、貸してもらっても良いかな?」

「ふむ」

盗られる心配はあるが、貸さなければ列車に乗らせてくれぬのだろうな。

…仕方ない。

少し躊躇したものの、オレはカードを男性に手渡す。
すると、男性は驚愕に目を見開いた後、父とカードとを何度か凝視し、オレへと視線を向けた。

「君のお父さんって、グランズさんで間違いないですか?」

「ふむ。そうだな」

「ご、豪剣のグランズさん…ぼ、僕、ファンなんですっ!」

なぜか男性は唐突に興奮を露わに、オレの両手を掴んできた。

なぜだ?

「あっ…ごめんなさい。つい…」

ふむ。衝動的になってしまった。と言うものか。

「でも、グランズさんと、その息子さんですかぁ…。まさか、こんな所で会えるなんて思いもしませんでしたよ。はい、これ、切符です。特別席の切符なので、失くさないようにお願いしますね」

ふむ。
このキップとやらは失くしてはならないのか。気を付けるとしよう。

「あと、グランズさんが起きたら教えて下さい。後で料金の代わりにサイン貰いに行きたいので」

ふむ。
何を言ってるのかサッパリ分からんが、まぁ、良い。料金は金の代わりに何かを支払うらしいと言う事だけは理解できたのでな。

兎に角、父が起きたらしらせれば良いのだな。

「お安いご用だ」

「ありがとうございます。では、どうぞ、良い旅を」

手で乗車を勧められたので、オレは指示通りに車内に入る。
勿論、父を引き摺って、だ。

ちなみに、入り口付近には少し階段があるのだが、それを登る際に父の頭を角にブツけてしまい、痛そうにしていた。


〜〜〜


「ふむ…」

列車が走り始めてから数分が経った。

オレは呆然と流れ行く景色を眺めているのだが、猛烈な尿意を感じているところだ。

しかし、父を一人置いて尿意を解放しに行くのは、少しばかり気が引ける。

なにせ、この列車にはオレと父の二人だけで乗っている訳ではないのだ。全くの赤の他人まで乗っているのだ。

それは即ち、悪意を持つ者もいるかもしれない、と言う事になる。

オレ達に指定された席は個室であるが、部屋内への出入りは自由だ。
誰かが勝手に入り、盗みや殺人を働くかも知れない。

だから、オレは大人しく尿意を我慢しながら父が起きるのを待っているのだが、

「…起きぬな」

そこまで強く打ち付けたつもりではないので、すぐに起きるとばかり思っていたのだが、なかなか起きぬものだ。

ふむ。仕方ない。
こればかりは余り使いたくなかったのだが、そろそろ尿意が限界だ。

「ふむ…《早く起きろナイトメア》」

なんてことはない、ただの悪夢を見せるだけの闇魔法だ。

呪文なんてものは本来は必要ないのだが、名前だけは唱えるようにしているのだ。
サリアの教育と、後々に出来るであろう仲間との連携の為にな。

ちなみに、《ナイトメア》を強力にすると、夢で殺す事も可能だ。
今のオレでは無理だがな。

「う、うぅ…イクスッ!イクスゥゥ!!おま、お前、なんでそんなにデカくなってんだよぉぉ!!うわあぁあああああっ!!」

む?どんな夢を見ているのか気になる寝言だな。
…少しばかり覗きたくなったが、もう少し待つとするか。

「やめっ!やめてくれっ!これ以上は無理だ!もう嫌だ!イクスッ!頼む!許して!許してくれぇぇ!!ーーハッ」

「ふむ。起きたようだな」

なぜオレの姿を見てホッとした表情を浮かべるのだ?……やはり、少しばかり夢の中を覗いておけば良かったな。

まぁ、良い。
オレの膀胱はそろそろ限界なので、それどころではないのだ。

「では、オレは少々便所へと向かうとする。大人しくするのだぞ」

「あ、あぁ……?」

父はオレの言葉に頷いてから不思議そうに首を傾げた。

おそらく、まだ夢から醒めきってないのだろうな。
だが、これ以上の面倒は見きれぬ。後は自分で何とかしてもらうしかない。

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