努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す
ふむ。助けてしまった。
鳥を魔力で操って森を散策していると、同じ服装をした少年少女の三人組が人型の魔物ーーゴブリンと戦っている姿が目に入った。
「ダメ!もう保たないよっ!」
「もう少し堪えてっ!」
「うぅ…わ、分かった!でも、急いで!」
どうやら一人が負傷してしまっており、その治療に一人が追われ、残った一人がゴブリン達の攻撃に耐えているようだ。
見た所だと、普通のゴブリンが五体とソードゴブリンが一体しか居ないが、苦戦を強いられる程の魔物のようだな。
たまに居るのだ。見た目が普通の個体にも関わらず、強力な力を持った魔物がな。
それを総じて異常種とも呼ばれるが、大体は体格が違ったり、体色が違ったりする。
なので、殆どの場合は、異常種だと気付ずに終わるのが多い。
「ふむ。サリアよ」
「なーに?」
「この先に森があるのは確認できるか?」
「うんっ!」
「そこに三人の者が居り、助けを必要としているようだ。場所はーー」
「分かった!」
オレが全てを言い切る前にサリアは返事をして駆けて行ってしまった。
ふむ。こればかりは昔から何度言っても変わらぬ。
人の話は最後まで聞くべきだぞ、サリアよ。これでは、詳しい場所まで分からないままではないか…などと今更言っても意味がないか。
ふむ。仕方ない。誘導してやるとしよう。
鳥には悪いが、少しばかり身体を借りるとする。
これは【千里眼】と《闇魔法》を配合した即興の魔法で、名前はない。
ただ、【千里眼】で捉えた者の目や耳を借り、《闇魔法》で精神を操り、身体の支配権を暫く借りるだけだ。
それを鳥に行使し、サリアの前を飛んで道案内をする。
……ふむ。見えたな。
致命傷を負った少女と、それを魔法で治癒する少女。そして、彼女達を必死に守る少年の姿が見えた。
おそらくサリアも確認できただろうし、何の関係もない鳥が戦闘に巻き込まれないように空へと一度退避させてから支配を解く。
後は、鳥の目と耳を借りて状況を見守るとしよう。
「やぁーー!」
サリアが少年少女達の元に辿り着くと同時に、抜剣し、三体のゴブリンの首を刎ねた。
「へ…?」
突然サリアが現れた事に少年少女は驚きを隠ずに変な声を漏らしている。…いや、これは、今の今まで苦戦を強いられていたゴブリンを一瞬で倒された事に驚きを隠せないと言った表情だな。
そんな彼等を横目に、サリアは怯える素振りを見せたゴブリンから瞬く間に倒して行く。
ソードゴブリン一体だけが残されるまで、そう時間は掛からなかった。
と言う事は、このソードゴブリンが異常種と言う事か…。
「せいっ!」
ふむ。違ったようだ。
ソードゴブリンが剣を握る手に力を入れた瞬間、首と身体がオサラバした。
異常種ならば対応してもおかしくない適当な剣筋だったので、違うと断定できよう。
ならば、なぜ少年少女はそこまで苦戦していたのだ?
ゴブリンなど、取るに足らない相手だ。
異常種になろうと、たかが知れている。予想外の行動を取る事が多く、初見殺しが多いだけだ。
「あの…」
一瞬で目の前の敵を全て滅ぼされた少年は、暫く呆然としていたものの、我に帰ると共にサリアに声を掛けようとした。
だが、その前にサリアは空をーーオレを見て、手を振った。
「イっくーん!終わったよーっ!!」
ふむ。確かに確認した。
オレは鳥を解放して、自由にしてやる。
今頃どこかに飛び去っているだろう。
そして、後の事は彼等で何とかするだろう。
そう思い、サリアの帰りを待っていたのだが…。
「戻ったよー!」
まさか、怪我を負った者を連れてくるとは思わなかった。
残りの二人は置いてきたようだが、怪我人を連れてきてどうすると言うのだ?
「イっくんなら治せるよねっ!」
ふむ。そうきたか。
「ふむ。出来なくはないが…」
少女の傷は酷く、肩から脇腹に掛けて深々と切り裂かれている。片方の肺は確実に機能していないだろう。
先程までの戦闘では回復魔法によって繋ぎ止めていたのだろうが、既に虫の息で後数分もすれば息絶えるだろう。
オレが言い淀むと、サリアは瞳を潤ませてオレを上目遣いで見てきた。
……やはり、その目には勝てぬな…。
「分かった」
仕方ないか。
本心を言えば治す気などさらさらなかったが、サリアのその目には勝てぬのだ。
「《ヒール》」
呪文を唱えたように見せかけた、無詠唱だ。
一応、サリアには魔法名だけは唱えるようにさせているので、その見本ともなるオレが無詠唱で行使してはおかしな話なのでな。
ちなみにだが、魔法名を唱える理由は、周囲に何の魔法を放つかを伝える為である。
無詠唱でポンポンと魔法を行使されたら、援護する側としても大変だと思ったのだ。
とは言え、連携などした事もないので憶測になるがな…。
少女の全身が淡い光に包まれ、ゆるりと修復されてゆく。
血痕は残るが、これはそう言った魔法だ。
治癒能力の底上げである。
オレが改良を重ねた強化版とも言えるがな。
「ふむ。治ったぞ」
我ながら、素晴らしい出来だと思う。
細部に渡る擦り傷や古傷。神経の一本一本。全てを完全に元通りだ。
その代わりと言ってはなんだが、魔力の消費量が半端ではない。
やはり、無能であるオレにとって魔法は魔力消費が激しい。どれだけ効率を良くしても、これだけはどうしようもない。
なにせ、今の簡単な回復魔法だけで魔力を半分も消費したのでな。
前世のオレならば微々たるものだったのだが、やはり、そこまで辿り着くには先が長いと言う事だな。
「ありがとうっ、イっくんっ!」
ふむ。これが友と言うものか。
感謝される所以は無いはずなのに、感謝されると胸が暖かい何かに包まれた気分になる。
それに、その無邪気な笑顔をもっと見ていたいとも思えてくる。
「ふむ。では、この娘を返くるといい。突然仲間が連れ去られて向こうも困っているだろう」
とは言え、実際に見ていないので定かではない。おそらく、の話だ。
向こうでサリアが話を付けてたら別なのだが…サリアの性格を考えると、それはないのだろうな。
「分かったーっ!」
オレの言う通りに行動すると言う事は間違いないようだ。
サリアは元気に返事をすると、少女を肩に乗せて走り去って行った。
そして、暫くすると戻ってきた。
随分と速かったが、どうやって返してきたのだか…。いささか不安だな。
誤っても、投げて返してなければ良いがな。
まぁ、今更考えても、言ってなかったオレが悪いのだから仕方ない事だ。
「ふむ。では、進むか」
「はい」
「はーいっ!」
オレの出発の合図に、メアードルは返事をしてから鞭を振るって馬を走らせ、サリアは馬車に飛び乗った。
それを横目に、オレは学院に着いてからの予定を考える。
この調子で学院に向かえば、到着するのは試験の前日…今日の昼過ぎになるだろう。
だとすれば、僅かに時間が空く。そして、その間に成したい事が山程あるのだ。
サリアは学院に着いた後は『学院を散歩したい』と既に考えていたので問題はなさそうだが、オレはどうするか…。
……ふむ。そうだな。
時間は山程あるのだから、先程しかけていた事の続きでもするか。
迷宮を探し、そこの最奥へと向かうとしよう。
一晩もあれば行って帰ってくるぐらいならば何ら問題ないだろう。
なに、入学試験に間に合えば良いだけの話だ。
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コメント
ノベルバユーザー129987
とても面白いと思います