《未来視》で一命を取り留めまくりました

不二宮ハヤト

第4話 バルニアス邸攻略します その①


-4日目の朝

「おはよう。コータ。どうしたの、目に隈なんかできてるよ」
「サーラちゃんのこと考えてたら一睡もできなかったよぉーん。サーラたん癒やして~」
「さ、朝ご飯にしましょ」
「ねぇ、何かリアクションぐらいしようぜ!朝からオレのマイハートが八割ぐらいヒビはいってるよ!」
「それだけ舌が回るなら大丈夫なのヨ」

 ナイスつっこみだロリ精霊。
 まあ、隈ができてるのはビビりという名の精神統一をしていた(眠れなかった)のである。
 今でもまだ心臓の鼓動が早い。

(10年分の寿命が縮んだだろうな)

「「おはようございます。食事の準備が整いました。」」

 シャルティアとイリスが出迎え一礼をしてから席に着く。
 ちなみにこれに関しては、俺が提案した。「使用人であってもこれから一緒に過ごすのだから食事ぐらいはみんなで同じテーブルで食べようぜ!」と言ったら使用人2人は拒否したがサーラ賛成し、半分強引に2人を座らせたという。

(落ち着けオレ、いつものペースで接しろ。人狼ゲームでは“嘘顔の魔術師”と言われたオレだぞ)
ヒィヒィフゥー

 ちなみに、嘘顔の魔術師なんて呼ばれたこともないし、逆に嘘をつこうと意識すると顔にでるので“変顔コレクター・コータ”と呼ばれていたほどだ!
 コータ式深呼吸(!?)をし気分を落ち着かせる。

「きょ、今日もいい天気ですね」

天井を見上げながら言う。

「天井見ながらなのに何故そんなことが分かるのヨ」
『・・・・・・・』

(何言ってんだよオレ!全然落ち着けてねえじゃねえか。どうすんだよこの空気。引かれるしすごい眼で見られてんじゃん!!)

 これは早急に何か手を打たないとオレが恥ずか死ぬ!

「……て、ていうギャグでしたぁー…」
「あ、あはは。そ、そうよねー」
「コータさん体調が悪いのかと思いましたよ」
「私はやっと本性を現したのかと思ったのヨ」
「うぐっ!そんなこと思ってたのかよ!ちょっと傷つくぞ。いや、クリティカルヒットだよ!!」

 若干アウトな気もするがなんとか危機を乗り切ったと思う。

(朝からこの調子じゃ最後まで身体保つか心配になってきたぞ)

 自然体自然体と自分に言い聞かせているのだが余計におかしくなってる気がする。
 食事も終わり食器洗いなどの午前中の仕事が始まる。
──さあ、こっからが勝負だ。

 シャルティアにコンタクトをとれる時間は朝の食器洗い。洗濯物干し。午後の特訓だ。
 当然、一緒の仕事でなくとも接触しようとは考えはしたが、不審に思われる可能性があるのでやめておいた。
 そして今がその食器洗いの時間だ。

「「………………………」」

(とは思ったけど何この空気!キマず!!)

勝負始まった時点で無理ゲー宣言!?
不安になってきた。

「コータ様、そこの洗剤取ってくれませんか」

「は、はいー!!」

 急に話しかけられたからか咄嗟に返事したが声が高くなり、裏返ってしまった。
 だが、話せた、今がチャンス!きっかけさえあればなんとかなる精神だ!

「そういやシャルティアさん」
「シャルティアでいいですよ」
「シャルティアの家族は今どうしてるの」

すると、シャルティアは少し顔を下げ険しい顔になってから。

「ーー両親はいません。私にはたった1人の兄がいました」
「えっ……」

(いました。って)

「…兄は殺されました」
「!…すいません。嫌なこと聞いて」
「いえ、大丈夫ですよ。私もコータ様とお話ししたかったですし」

 軽い気持ちで聞いてみたがもっと暗い空気になった気がする。
 家族のことやお兄さんのことはいずれシャルティアが話してくれるときまで聞かないことにしよう。
 オレもあまり聞かれたくないしな。
 シャルティアもオレと話がしたかったというのは素直にうれしかった。

「シャルティアはいつからこの屋敷で仕事してるんだ?」
「私がこの屋敷で働き始めたのは10年前からです。イリスはその2年後からですね」

 シャルティアが現在18だから。働き始めたのは8歳の頃からか。
 イリスは現在16だから。働き始めたのはイリスが8歳の頃でシャルティアが10歳の頃か。

「ってどっちも使用人デビュー早すぎやしないか!?」

 オレの8歳の頃なんて前転にハマって家中オヤジと回りまくってた頃だぞ。まあ、あの時は母さんにこっぴどく怒られたのだが。

「そういやシャルティアって何をしてるときが楽しいの?笑ってるとこ見たことないんだと思うんだけどな」
「楽しいなんて感情は10年前から無くなっています。復讐できたら笑うかもしれませんけど。」

 シャルティアの顔が険しくなる。
 多分、お兄さんのことだろうな。
 ただ、復讐なんかできても笑うことなんて絶対にないだろうな。余計悲しくなるだけかも。

 シャルティアの表情が怒りと復讐心に駆られていた。
 普段表情をあまり出さないシャルティアがこんな顔をすると恐怖すら覚える。

「シャルティアはどんな食べ物が好きなんだ」

 必殺!好きな食べ物作戦!

「私は甘いもの全般が好きですね。特にこの前、王都に行ったときの菓子は美味しかったですね」

 顔は無表情なのだが涎が垂れている。
 こうしてみると子供っぽい部分もあって可愛いな。
 意外だったな。まさか甘いものが好きだなんて。てっきり「緑茶」とか「煎餅」とか言いそうなんだけどな。
 今度作ってみよう。何せオレは料理ができる男はモテると聞いて一時ご飯はもちろん、お菓子作りなんかもしていた。
 母さんに個人指導されていた事もありそれなりに上手くできる自信はある。いや、このオレ神楽坂康太には自信しかない!

「シャルティアも意外と子供っぽいとこあるんだな」
「!っな、そんなことはありません!」
「シャルティアのそういうところ可愛いとオレは思うけどな」
「か、かか、可愛くないです!」

 シャルティアの動揺っぷりに苦笑する。
 後から思ったけどオレ咄嗟とはいえなんて恥ずかしいこと言ってんだよ!女の子のこと本能的に誉めたの初めてかもしれない。

「オ、オレの『初めて』を奪われたぞ。責任取ってもらわんとなー。ニヒヒヒィ」
「食器は終わりましたので、次は洗濯物に取りかかりましょう」
「最近みんなオレに冷たくないかな」

 いつものことだがオレのボケを亡き者扱いされるのは何回されても慣れないな。
 こういうときにアヴニールアイを使えたらどれだけ危険回避できることか。アヴニールアイについては今度本格的に調べていこうか。

 渾身のボケをいつも通りスルーされ次の行程に取り掛かりにいく。

 シャルティアが康太には聞こえない声で

「可愛い…ですか。ンフフッ」

───さっき一瞬シャルティアが振り返るときに微笑んでいたように見えた気がしたが気のせいだろう。




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