やがて枯れる花たちへ

こむぎ子

ビー玉は青い場所にある

「いやぁリモートの時代もここまできましたね。」
軽く笑う君の声を電話越しに聞いていた。
私達は今日、自殺をする。
SNSで知り合って、意気投合して、死にたいことを知った、まだ顔も知らない人。本名も知らない人。
「苦しい世界なら離れて幸せになればいい。でもそんなの叶ってたら既にしている。」
「素敵な出会い、友人、家族、いい事や未練が確かにある。それを上回る失望を知っている。」
「幸せそうな、何不自由ない人は喉の奥が火傷して声が出ない人だ。」
「生きてくれって言ってあげられればいい。でもそれで助かるわけじゃないのを知っている。だから私は見送るか、付き合うしかできない。」
SNS上での彼の言葉だ。悲しい程に滲みる。だから惹かれた。
ここまでに至る理由は互いに話さなかった。
地獄だもの。どうせ死ぬもの。
「いっせーのーででいきます?」
「それが…いいですね」
「恐怖があるなら先に死にますよ。申し訳なさに漬け込んで引きずり込みますから。」
恐ろしいくらいに真っ直ぐで、逃げ場を無くしていく。
「もしも生きてしまったら、睡眠薬を買って、テントを白百合で埋めてください。楽に死ねますよ。一番綺麗な死に方だ。」
「どうして付き合ってくれたんですか。」
「貴女がどうしても生きたそうだったから。いや、この生活から離脱した新しさを望んでいる様に感じたから。……死についてどう考えてる?」
「何も無くなること」
「そっか。でも本当は何かしらは残る。生きて残したものは風化しても残りはする。…僕の「死」はね、自己を守るためだと思うんです。これ以上この荒んだ世界に自己を侵され続けて傷つけてはいけないってね。世界に合わないから自分から合わせにいくんです。誰も追いかけられない所へ。」
「…面白い考えですね」
「ありがとう。ではそろそろいきますよ。ただもし生きてしまったら、互いの死に場所を調べて透明なビー玉を投げてください。楽しかったです。さようなら。」

電話は切れず、ミャアミャアとウミネコの鳴く声がした。
ビー玉を探しに行こう。

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