やがて枯れる花たちへ

こむぎ子

羊飼い

「魚へんに羊とか、さんずいに羊とか、そんな言葉ないかな」と呟いたら、友人に「見たことも聞いたこともねぇ」と返された。それもそうだ。俺だってそうだ。

「写真撮ってよ。」
「いいよ。どこで撮る?」
二言で別れは済んだ。
それから俺達は乗り換えに乗り換えを繰り返し二時間半かけて海に行った。潮風に揉まれたロングヘアで、まともな顔は撮れなかったが、歯並びが悪くて写真を嫌うようになった女は、目を閉じ歯を見せて笑っていた。海をスカートにして腕を広げてみせていた。

以前、眠る時間はストレスを消す時間だと彼女は言った。睡眠時間が増えたことに過眠症かと軽口を叩いた。逆に眠れない俺に「羊を数えてみれば?」と彼女は言った。海で羊は数えられるのだろうか。

写真は最後まで見せることは無かった。家族にも、友人にも、見せることは無かった。長方形の電子機器が彼女の人生だ。
「モデル料」
彼女がズケズケと隣に歩いて来る。
俺はコンビニで崩した小銭をやって「手切れ金」と言った。「やっす」と笑い彼女は消えた。

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