やがて枯れる花たちへ

こむぎ子

殺し屋

殺し屋の俺に来た依頼は「私が一番幸福な時に私を殺して。」というもんだった。
そいつは年に似合わねぇ高級な服着て、服に似合わねぇ死んだ顔して突っ立っていたガキだった。話を聞くに、事故でこいつ以外の家族が死んで、遺されたのは遺産だけだとか。「遺産は全てあなたに渡します。だから殺して」
そいつから提示された額に俺は驚いた。一生遊んでも遊び足りねぇ程の額だった。俺は金に釣られてそいつの依頼を受けることにした。「一番幸福な時」を見逃さない為に一緒に暮らすことにもなった。最初は汚ぇ部屋と不味い飯にも文句言わず淡々と食っていたがやがて「あなたの作るご飯はやっぱり不味い」と言われた。「うるせぇ」と返したら初めて笑顔を返された。やがてそいつは大きくなって、友人も恋人も出来て、やがて結婚することにもなった。相手は金持ちでもなんでもねぇ凡人で、だからこそお似合いのように感じた。結婚前日、俺は聞いた。「お前は明日、人生の中で一番幸せになれるか?」と。
そしたらそいつは涙を流しながら笑って「ええ。明日が一番幸福な時ね。」と言った。

結婚当日、嫌々ながら無理矢理連れられバージンロードを歩いた。俺は神が嫌いだったからだ。やがてあいつは俺の手を離れ恋人の傍に行った。その時が、一番、人生の中で最も綺麗な姿をしていた。

____


殺し屋ともあろう俺が、ステンドグラスが眩しすぎて目が眩んじまって、お前の顔すらろくに見れねぇ。契約、果たしてやったぞ。
…遺産の中に、お前の命も、入っていりゃあなぁ。

教会での銃声は合計二発だったという。

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