RISING

鳳 鷹弥

変わらぬ場所と薄れぬ記憶








夜が明け、眠気眼を擦るようにしてロードは、頭を働かす。

川べりでだが、良く眠れたおかげか身体の痛みはほぼ引いていた。

そして、髪をガシガシと掻くと、川辺に立ち立ち尽くすレイドを視界に入れる。


「起きたなら行くぞ」


その言葉に流されるように、レイドの作った氷の足場を使って対岸へ渡り、密に生い茂った林の中を進む。

ほぼ足場のない獣道以下の足場を伝って辿り着いたのは味気の無い山小屋だった。

其処は、2年前まで、ロードとランスが暮らしていた家である。

だが、ロードはその光景に言葉を失う。


「どうした?」


「..ああ、いや。2年も開けてたのに変わんないもんだなと思って」


ロードはその変わらない光景に対する疑問を吐露する。


「ランスの奴、時折掃除しに来てるみたいだぞ?」


「..あの、ランスが...?」


そのようなイメージとは結びつかない事を良く知っているロードは顔を引きつらせる。

そして、小屋の扉を手前に引いて、中に入ると中も変わらないことを確認し、とりあえず奥の間から、新しい服を探す。


「..ああ、似たようなのがあるわ」


ロードはクローゼットから黒のレギンスと、赤の細身のマントのような羽織を着直すと、レイドの元へ、戻ってくる。

すると、レイドは、子供のころのロードの写真を眺めていた。


「..あんま見ないで下さいよ..」


少し恥ずかしそうに声を掛けた、ロードの方へ視線を向けると写真立てを元の場所に戻す。


「しゃらくせぇな。そんなに恥ずかしがるな」


「..ほっといて下さい..」


その写真に写っていたのは幼少時のロードと、育ての親ランスの姿。

ロードも何だか懐かしそうにそこに視線を当てていると、そこにレイドが目を向ける。


「..ランスはお前の事を実の息子の様に心配していたぞ」


「..意外ッスね..でもまあ、ランスと本当の親父じゃランスの方が長いこと一緒にいましたから」


記憶を掛け巡らせるように、目を動かし幾つかの写真を順番に映していく。


「俺にも息子がいる。父親らしいことなんざ何も出来てないがな。しゃらくせぇが親は子を心配する感情は俺にもわかる。きっと、本当の親父も、ランスも同じ気持ちだ」


レイドの言葉に、少しだけホッとした表情を見せたロードはそのまま少し黙っていた。

だが、その静かな時間を壊すかの如く、幾つかの影が迫っていた。



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