禁断の愛情 怨念の神
そして繰り返される死
私は言葉を失った。
死にかけている。あの怨神が。全身から紫の体液を垂らし、震える八本の足でなんとか自身を支えている。銃かなにかで一斉射撃を浴びたのだろう。見れば、五百人のほとんどが、凶悪な視線とともに、銃の先を神へと向けている。
この人間の数と、おどろおどろしい武器の数。カクゾウは本当に、人類総出で神を撃ちにきた。
「おのれ貴様ら……!」
ミノルが人びとに対して憎悪のこもった視線を剥ける。
「貴様ら自分のしていることがわかっているのか!? よりによって神殺しなどと……!」
「うるせえ、そこをどけクソガキ!」
恰幅のいいひとりの男が声を張った。銃の持ち方がぎこちない。初めて戦に参加した村民という出で立ちだ。
「俺はこのクソグモに女房を殺された! 娘もだ! いい奴らだったのによ……そいつだけは許せねえ!!」
「愚かな奴め! その程度、怨神様のこれまでのおこないに比べれば取るに足らん!」
「その程度、だと……?」
瞬間、男の頭部から見覚えのある黒い煙が発せられた。その煙は吸い寄せられるように怨神の身体へ消えていった。
「ギャアアアア!」
神の断末魔の悲鳴。八本の足を縦横無尽に振り回し、恨みの煙を払おうともがく。
なんと皮肉なのだろう。本来欲を抑えるはずの神によって欲が生まれ、人間も神も苦しみもがいている。私たちはもう、取り返しのつかないところまできてしまったのか。
恰幅のいい男が言った。
「そこをどけ。さもなくばおめえも殺してやっぞ」
五百の銃口がミノルへ向く。
やばい……!
私とショウイチは同時に跳躍した。人垣を飛び越え、ミノルに背を向ける格好で五百人と対峙する。
「おまえたち……なんの真似だ」
ミノルは振り向くこともなく言った。
「どうもこうもねえ。てめえ一人じゃどうにもなんねえだろ」
「馬鹿を言え。人間ごとき私の敵ではない」
「はいはいわかったよ」
「ちょっと。こんなとこで喧嘩しないでよ」
私は刀の鞘に手を据え、五百もの銃口に備えた。
ここまで来たはいいが、この事態をどうすべきか。
人間側には人間側の言い分がある。決して彼らがすべて悪いわけではない。かといってこのまま神殺しを見過ごすわけにもいかない……
と。
ミノルの周囲に紅の霊気が発生した。
ほのかに美しく、それでいて冷酷に鮮やかな血の色。私は思い出した。かつてミノルが、真紅の怪光線によって人々の命を奪ったのを。
「待って……ミノル、だめ!!」
「なんだと?」
「そんなことしたら、また多くの人が――」
私の制止は届かなかった。
ミノルは無慈悲に片手を突き出した。
私は耳をふさいだ。
人の肉が焼ける音。人間であることを忘れた壮絶な悲鳴。
怪光線が過ぎ去った箇所から、すべてが消え去った。生き物も、木々も、生きとし生きるものすべてがいなくやった。
「ひ、ひいいい……」
ぎりぎりの距離で死の光線から逃れた男が、情けない声とともに声を抜かした。彼だけではない。その場にいた誰もが、ミノルの恐るべき能力に言葉を失っているようだった。
「神を敵にまわすとはこのことだ。残りの者どもも許しはしない。怨神様に歯向かったこと、身をもって悔やむがいい」
「ミノル……やめて、もうやめて!」
「く、くそ! 皆の者、構えい!」
死にかけている。あの怨神が。全身から紫の体液を垂らし、震える八本の足でなんとか自身を支えている。銃かなにかで一斉射撃を浴びたのだろう。見れば、五百人のほとんどが、凶悪な視線とともに、銃の先を神へと向けている。
この人間の数と、おどろおどろしい武器の数。カクゾウは本当に、人類総出で神を撃ちにきた。
「おのれ貴様ら……!」
ミノルが人びとに対して憎悪のこもった視線を剥ける。
「貴様ら自分のしていることがわかっているのか!? よりによって神殺しなどと……!」
「うるせえ、そこをどけクソガキ!」
恰幅のいいひとりの男が声を張った。銃の持ち方がぎこちない。初めて戦に参加した村民という出で立ちだ。
「俺はこのクソグモに女房を殺された! 娘もだ! いい奴らだったのによ……そいつだけは許せねえ!!」
「愚かな奴め! その程度、怨神様のこれまでのおこないに比べれば取るに足らん!」
「その程度、だと……?」
瞬間、男の頭部から見覚えのある黒い煙が発せられた。その煙は吸い寄せられるように怨神の身体へ消えていった。
「ギャアアアア!」
神の断末魔の悲鳴。八本の足を縦横無尽に振り回し、恨みの煙を払おうともがく。
なんと皮肉なのだろう。本来欲を抑えるはずの神によって欲が生まれ、人間も神も苦しみもがいている。私たちはもう、取り返しのつかないところまできてしまったのか。
恰幅のいい男が言った。
「そこをどけ。さもなくばおめえも殺してやっぞ」
五百の銃口がミノルへ向く。
やばい……!
私とショウイチは同時に跳躍した。人垣を飛び越え、ミノルに背を向ける格好で五百人と対峙する。
「おまえたち……なんの真似だ」
ミノルは振り向くこともなく言った。
「どうもこうもねえ。てめえ一人じゃどうにもなんねえだろ」
「馬鹿を言え。人間ごとき私の敵ではない」
「はいはいわかったよ」
「ちょっと。こんなとこで喧嘩しないでよ」
私は刀の鞘に手を据え、五百もの銃口に備えた。
ここまで来たはいいが、この事態をどうすべきか。
人間側には人間側の言い分がある。決して彼らがすべて悪いわけではない。かといってこのまま神殺しを見過ごすわけにもいかない……
と。
ミノルの周囲に紅の霊気が発生した。
ほのかに美しく、それでいて冷酷に鮮やかな血の色。私は思い出した。かつてミノルが、真紅の怪光線によって人々の命を奪ったのを。
「待って……ミノル、だめ!!」
「なんだと?」
「そんなことしたら、また多くの人が――」
私の制止は届かなかった。
ミノルは無慈悲に片手を突き出した。
私は耳をふさいだ。
人の肉が焼ける音。人間であることを忘れた壮絶な悲鳴。
怪光線が過ぎ去った箇所から、すべてが消え去った。生き物も、木々も、生きとし生きるものすべてがいなくやった。
「ひ、ひいいい……」
ぎりぎりの距離で死の光線から逃れた男が、情けない声とともに声を抜かした。彼だけではない。その場にいた誰もが、ミノルの恐るべき能力に言葉を失っているようだった。
「神を敵にまわすとはこのことだ。残りの者どもも許しはしない。怨神様に歯向かったこと、身をもって悔やむがいい」
「ミノル……やめて、もうやめて!」
「く、くそ! 皆の者、構えい!」
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