禁断の愛情 怨念の神
突然の求愛
「す、すすす好きだ。けけ結婚してほしい」
「――えっ?」
唐突すぎるその台詞に、私は自分の耳を疑った。
彼は大きく目を見開いて私を凝視する。私が困っていると、彼は暗い顔でうつむいた。
「やっぱ、駄目かな」
「いや、そうじゃなくて……あの」
あまりにも突然の告白。なにをどうしたらいいのかわからない。
囲炉裏で沸かした水がゴトゴトと音を立てはじめた。山菜でも煮て食べるつもりだったが、もはやそれどころではない。
「こんなことになるなんて本当思ってなくて、あの、なんていうか……」
言葉選びがかつてないほど難しい。さっきまで愛刀を研いでいた手を止め、私はうつむいてしまう。
  彼も気まずさに耐えかねたようだった。まだ存分に研ぎ終えていない刀を鞘におさめ、御座から立ち上がった。
「わかった。僕はとりあえず、長老のところに戻るよ」
「あ、あ。待って。ちょっと待って」
こちらに背を向け、立ち去ろうとする彼を、私は慌てて引き止める。
「私、まだ返事してないよ」
すっかり落ちていた彼の肩が、ピクンと跳ねた。彼は振り向いた。
「え……」
「とりあえずこっち向いてよ。私、本当に驚いただけなんだってば」
「驚いたって……そんなにかい?」
「だって! こんなときに求愛するもんじゃないでしょ、普通!」
言い訳めいたことを言いながら、私は今日の出来事を思い出していた。
時刻は昼前。
朝の鍛錬を終えた私と彼は、昼食がてらにいったん休憩することにした。
私の住む村では、若者は三人しかいない。賊が襲ってきたとき、まともに応戦できるのは私たちだけだ。だから常日頃から、長老にはこう言われている。――鍛錬も大事だが休息も充分に取れ。急いでも焦っても強くはなれん。なにより、その身体が傷つくことが最も危惧すべきことなのだ。
そういうことから、私たちは無理な訓練はしないようにしている。今日も彼と一対一の真剣勝負をしていたが、昼が近づいてきたのでいったん鍛錬をやめ、休憩所(というか小屋)に戻ってきた。のだが。
ここからが問題である。
昼休憩の前に剣を研いでいると、なんの前触れもなく、彼がこう言ってきたのだ。――す、好きだ。結婚してほしい。
私とて今年で十七になる。もう子どもではない。好きな男性に、いつ、どこで求愛されるか。そのときの言葉は? 状況は? 雰囲気は?
そのようなことを夢想することだってもちろんある。だから今回のように、なんの変哲もなく、さらっと愛を告白されること自体が驚きだった。というか、少々がっかりであった。
だが、夢と現実は違う。おかしいのは私のほうかもしれない。それに、求愛されることを毎晩のように夢想してきた、その男性こそが――
「私も好きです……ミノル」
彼――ミノルは目をぱちぱちさせた。
「ほ、本当かい?」
「……はい」
「え、あ、そうなんだ……あはは」
頬をかき、視線をあちこちさまよわせるミノル。
私もこの期に及んで顔から火が吹きそうだった。自分の心臓の鼓動が手に取るようにわかる。
「きみは……チヨコは、てっきり他の人が好きだと……」
「他の人って?」
「ほら、ショウイチとか」
ショウイチ。村に残された三人目の若者だ。歳は十五、私やミノルより年下だが、剣の腕は村で一番である。十八のミノルがまるで太刀打ちできないほどの腕前だ。
「ううん。私はミノルが……き」
「へ? なんて?」
「な、なんでもない!」
顔がかあっと熱くなり、私はミノルに背を向けた。
まったく肝心なところで聞き逃す男である。言ったこちらが恥ずかしくなった。
と。
ふいに、全身が温かくなった。
背後から、ミノルが私を包んでいた。
思った以上の分厚い胸板が、後頭部に押し付けられる。
「僕は好きだよ、チヨコ」
反則だった。
私は目を閉じ、ミノルの温かさにすべてを委ねた。
「――えっ?」
唐突すぎるその台詞に、私は自分の耳を疑った。
彼は大きく目を見開いて私を凝視する。私が困っていると、彼は暗い顔でうつむいた。
「やっぱ、駄目かな」
「いや、そうじゃなくて……あの」
あまりにも突然の告白。なにをどうしたらいいのかわからない。
囲炉裏で沸かした水がゴトゴトと音を立てはじめた。山菜でも煮て食べるつもりだったが、もはやそれどころではない。
「こんなことになるなんて本当思ってなくて、あの、なんていうか……」
言葉選びがかつてないほど難しい。さっきまで愛刀を研いでいた手を止め、私はうつむいてしまう。
  彼も気まずさに耐えかねたようだった。まだ存分に研ぎ終えていない刀を鞘におさめ、御座から立ち上がった。
「わかった。僕はとりあえず、長老のところに戻るよ」
「あ、あ。待って。ちょっと待って」
こちらに背を向け、立ち去ろうとする彼を、私は慌てて引き止める。
「私、まだ返事してないよ」
すっかり落ちていた彼の肩が、ピクンと跳ねた。彼は振り向いた。
「え……」
「とりあえずこっち向いてよ。私、本当に驚いただけなんだってば」
「驚いたって……そんなにかい?」
「だって! こんなときに求愛するもんじゃないでしょ、普通!」
言い訳めいたことを言いながら、私は今日の出来事を思い出していた。
時刻は昼前。
朝の鍛錬を終えた私と彼は、昼食がてらにいったん休憩することにした。
私の住む村では、若者は三人しかいない。賊が襲ってきたとき、まともに応戦できるのは私たちだけだ。だから常日頃から、長老にはこう言われている。――鍛錬も大事だが休息も充分に取れ。急いでも焦っても強くはなれん。なにより、その身体が傷つくことが最も危惧すべきことなのだ。
そういうことから、私たちは無理な訓練はしないようにしている。今日も彼と一対一の真剣勝負をしていたが、昼が近づいてきたのでいったん鍛錬をやめ、休憩所(というか小屋)に戻ってきた。のだが。
ここからが問題である。
昼休憩の前に剣を研いでいると、なんの前触れもなく、彼がこう言ってきたのだ。――す、好きだ。結婚してほしい。
私とて今年で十七になる。もう子どもではない。好きな男性に、いつ、どこで求愛されるか。そのときの言葉は? 状況は? 雰囲気は?
そのようなことを夢想することだってもちろんある。だから今回のように、なんの変哲もなく、さらっと愛を告白されること自体が驚きだった。というか、少々がっかりであった。
だが、夢と現実は違う。おかしいのは私のほうかもしれない。それに、求愛されることを毎晩のように夢想してきた、その男性こそが――
「私も好きです……ミノル」
彼――ミノルは目をぱちぱちさせた。
「ほ、本当かい?」
「……はい」
「え、あ、そうなんだ……あはは」
頬をかき、視線をあちこちさまよわせるミノル。
私もこの期に及んで顔から火が吹きそうだった。自分の心臓の鼓動が手に取るようにわかる。
「きみは……チヨコは、てっきり他の人が好きだと……」
「他の人って?」
「ほら、ショウイチとか」
ショウイチ。村に残された三人目の若者だ。歳は十五、私やミノルより年下だが、剣の腕は村で一番である。十八のミノルがまるで太刀打ちできないほどの腕前だ。
「ううん。私はミノルが……き」
「へ? なんて?」
「な、なんでもない!」
顔がかあっと熱くなり、私はミノルに背を向けた。
まったく肝心なところで聞き逃す男である。言ったこちらが恥ずかしくなった。
と。
ふいに、全身が温かくなった。
背後から、ミノルが私を包んでいた。
思った以上の分厚い胸板が、後頭部に押し付けられる。
「僕は好きだよ、チヨコ」
反則だった。
私は目を閉じ、ミノルの温かさにすべてを委ねた。
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