話の世界の話

世界

始まりの話の世界の話

   アルは見渡す限り水面が続いている空間にいた。

アルの下には 二つの生物が乗れるくらいの大きさの木の板があった。 

とても舟と呼べるほど精巧な作りではない。                       

でも、何故かアルはその板が決して沈まないことを知っていた。少なくとも今は、

アルにはアルの乗っている板が沈むことが全く想像できないのだ。
また、アルは自らが乗る板の下にある世界のことを全く知らなかった。想像することすらできなかった。
しかし、アルは知りたかった。水面の下の世界について。この空間や世界について

だから誰かに教えてもらおうと決心した。
でもその為には、その誰かに会わなければならない。
アルは地平線まで自分以外何もない水面を今一度、再確認してから、覚悟を決めた。
見渡す限り何もない空間にいるアルからすれば、会えるかも分からない人と出会う為に進み続けることは覚悟のいることだったのだろう。
アルは二つ持っている手で水面をかいて、とりあえずデタラメな方向に進み続けた。

ひたすら手でかいた。
何もない世界に包まれながら、アルは探し求めている
「誰か」に会うためだけに進み続けた。
もうすでに、アルのいる空間はアルにとって、アルのいる世界になっていた。 
アルは水面が動いているのか、それとも自分と板が動いているのか分からなくなってきた。
いや、本当は初めからそうだった。自己以外何もない空間では、自分との距離や位置関係を比較するものがない

アルは自分以外のものがあることの重要性を心だけでなく頭でもよく理解した。寂しいだけでは済まないのだと

それでもアルは進み続けた。
進まないと周りの世界が変わらないことをアルは知っていた。考えたり、嘆いても自分を取り巻く世界は変わってはくれないのだ。

 アルは一度諦めかけた。
無理もない。たとえ誰かに会えたからといって、
その誰かがアルの求めている「誰か」だという保証は全くないのだ。
しかし、アルは諦めかけたとき、そこで止まることがとても恐ろしい事のように感じた。この何もない世界で一人でいないといけないのだから誰だって怖いに違いない。
アルもその例外ではない。

アルはこの恐怖を原動力としてもう一度水面に手をつけて、進み続けた。



 



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