異能力主義学園の判定不能(イレギュラー)

深谷シロ

Episode.16「間近」

◆新入生テスト・本戦◆



「各ブロック代表の選手は試合控え室へお越しください。」


この後に準々決勝の試合が開始となる。準々決勝からは選手らに控え室が用意され、準備運動がてらの練習試合なども出来る施設が整っている。


この部屋に各ブロック代表選手が集められる。俺は呼び出しされた時点で用事もなかったため、すぐに向かう事にした。


俺と同じ方向へ進む人が何人かいる。皆、ある程度の能力がある人のようだ。今まで戦ってきた素人とは、気迫が違う。


異能力スキルだけでは、ここ準々決勝まで勝ち進むことは出来ないだろう。


入学以前の経験が結果を決めるのだ。


試合控え室までは10分も掛からなかった。


部屋に入るために扉の前に立つと、背後に何人かがいた。無論、俺と同じ方向に歩いていた、その何人かである。


扉は自動で開き、中へと入った。


試合控え室の中には細木を含めた6人の選手がいた。また、上浦や鷹野もいた。生徒会の仕事だろう。


「よっ、ハヤト。」
「細木は早かったな。」
「たまたま近くにいたからな。」


細木は次の試合に向けて気合十分のようだ。見ているだけでそれを感じ取ることが出来る。


俺と細木が話している所を他の選手達は──相手となる可能性のある選手としてだろうが──見ていた。


「黙ってろ。」


こちらを見ていた1人が言ってきた。


別に俺と細木が会話する声のボリュームは大きくない。呟いていた程度だ。喧嘩を売っているという意味合いだろうか。もしくは嘗めているのか。


俺はそちらを一瞥した後、上浦と鷹野の方を見る。


視線を向けられた上浦はすぐに話し始めた。


「これで全員ですね。忙しい中、お集まり頂きありがとうございます。私は生徒会長の上浦です。そして、私の隣にいるのが副生徒会長の鷹野です。」
「前置きはここで終わらせて、試合について説明する。」


鷹野は簡潔に試合の説明をした。


新入生テストの本戦、準々決勝は引き続きトーナメント方式で行われる。勝ち上がった10人がランダムで組み合わせが決まる。


試合前に選手紹介がある。これは適当に流せば良いだろう。


準決勝は5人でバトルロイヤル。勝った2人が決勝を行う。


あらゆる武器の使用が可能であり、勝利条件は場外か気絶させる、相手を致命傷になる寸前まで攻撃する、相手を殺せるほどの攻撃。


相手を殺せるほどの攻撃を出しても、相手が対処出来れば試合続行。対処出来なければ、試合終了ですぐさま無効化させられる。


無事でいられるかどうかは運次第だ。


本気を出さなければ、試合開始と同時に負ける可能性がある。集中して試合に臨まなければならない。


万が一でも油断した者がいれば、バトルロイヤルなどでは即座に標的ターゲットにされてしまうだろう。要注意だ。


鷹野はその後、注意点を幾つか言った。


「今から選手紹介がある。試合会場に行ってくれ。」


選手紹介はあまり詳しくしないらしい。その選手の異能力スキルの説明はプライバシーに関わってくるのでしない。選手らのクラスとこれまでの試合のダイジェストを見せるらしい。


多少の気恥しさもあるが、堪えるしかないのだろうか……。


* * * * *


「これより準々決勝に出場した選手の選手紹介を行います。」


試合会場に並ぶと選手紹介が始まった。


「本戦Aブロック代表選手は1年Aクラス首席、宮倉みやくら光輝こうき。」


宮倉は一歩前に出ると礼をした。そして、戻ると同時に各映像に宮倉の試合ダイジェストが流れる。


宮倉はどの試合も快勝。〈万能系〉である『空間支配エリアコントロール』を使用したスタイル。攻撃を加えれた試合は第3試合の例外を除くと、1度もない。


ダイジェストが終わると、試合会場は声援に包まれる。首席の名は伊達ではない。


「本戦Bブロック代表選手は1年Aクラス、東谷ひがしや秋良あきら。」


東谷も同じく一歩前に出て、礼をする。試合ダイジェストでは、どの試合も彼の異能力スキルである『召喚術サモンスキル』を使った数を活かした戦いをしていた。


召喚術サモンスキル』は、生物を召喚する異能力スキル。召喚可能な生物に人間は含まれない。また、スキルレベルがそのまま召喚できる生物の数となる。


ダイジェストでは最高で35体の生物を召喚していた。スキルレベルは少なくとも35以上だ。


Cブロック代表選手はCクラスの瑞木みずき那奈なな異能力スキルは『混乱コンヒュージョン』。干渉系である。


対象に発動することで、対象は混乱して、思考が停止する。その間に攻撃して気絶させている。


これまでの試合は全て混乱させた後に、相手を場外に追い出している。本戦ではその戦い方は厳しいだろう。


DブロックはBクラスの熊無くまなし颯太そうた。『蟲術インセクトアート』。蟲を使った異能力スキルだ。相手は精神的にリタイアなどしている。確かに見ていて気持ちが良くない。


EブロックはAクラスの野々村ののむら和人かずと。『銃術ガンアート』だ。銃を使った攻撃をしている。


Fブロックは俺である。


GブロックはPクラスの加藤かとう隆盛りゅうせい。『泥美術マッドアート』。泥を使った多彩な攻撃をする。


HブロックはCクラスのアルフレッド・ローレンス。イギリス人だ。『双剣ツィンソード』。様々な物質を二刀流の剣に変化させる。剣術が得意なようだ。


IブロックはJクラスの白石しらいし魅那みな。女子生徒だ。『祈祷プライ』。祈る力が大きいほど強い力を引き出せる。


最後にJブロックが細木だ。


この10人の選手の紹介後、再び大きな声援に会場は包まれた。


「それでは、準々決勝のトーナメント表を発表します。」


その言葉に会場は静かになる。自分が応援している選手の相手は誰なのか。勝てる見込みはあるのか。人によっては賭けたりしているのではないだろうか。


そして、トーナメント表が空中映像に表示された。


* * * * *


〈第1試合〉
宮倉光輝 vs 加藤隆盛


〈第2試合〉
熊無颯太 vs 東谷秋良


〈第3試合〉
野々村和人 vs 黒霧隼人


〈第4試合〉
細木孝一郎 vs 白石魅那


〈第5試合〉
アルフレッド・ローレンス vs 瑞木那奈


* * * * *


俺は『銃術ガンアート』の野々村が相手のようだ。相手は遠距離戦闘、俺は近距離戦闘だ。試合開始と同時に相手との間合いを詰めるのが良いだろう。


試合会場はトーナメントに対する評価をしていた。ここからでも「~~選手の勝利は確実だ。」「~~を応援しよう。」などと言っているのが聞こえる。


因みにそうした話の中に俺の名前も出てきていた。その人によると近付けば勝てるそうだ。


その通りだ。誰にでも分かる事だが。


俺を含めた10人の選手は再び試合控え室へ戻った。


ある選手は準備運動を。ある選手は自分の武器のメンテナンスを。ある選手は会話を。


それぞれから試合への意気込みが伝わってきた。準々決勝はこれまで以上に熱戦となるだろう。今まで本気を出していない選手も沢山いるだろう。


その選手達にどう対策するか……試合をしっかりと見ることにしよう。


────こうして、新入生テストの本当の本戦が始まるのだった。


* * * * *


「おい、お前ら。セッティングは完了したか?」
「はい、ギリギリ終わりました!」
「よし、これで明日の試合は……。」


準々決勝の前日の夜。体育館で幾人かが何かをしていた。傍から見ると完全な不審者である。


校内には夜も交代で警備員が監視している。特に監視カメラが無い場所だ。


監視カメラが無い場所には体育館も含まれる。警備員が前方をライトで照らしつつ、体育館へ入った。


体育館に入ると、先程から中で何かをしている人を見つけた。


「おい、お前ら!何をしている!!」
「ちっ!バレたぞ!各自逃げろ!」
「「はい!」」


逃げた人数は全部で17人。皮肉にもサッカー部の部室で幹部会と称し、話し合っていたその人数と一致していた。


では、ここでしていた事は何かを仕掛けたという事なのだろう。これは準々決勝に何かが起こる前兆なのだろうか。結果は神のみぞ知る。

          

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