異能力主義学園の判定不能(イレギュラー)
Episode.4「試合」
◇生徒会室◇
「こんにちは、隼斗君。」
「生徒会長ですか。」
終業のHRで生徒会室に行くように担任の桜井から言われたハヤトは、生徒会室に来ていた。
生徒会室には生徒会役員と思わしき面々がいる。
「紹介します。この子が新たな生徒会役員の黒霧隼斗君です。」
「……生徒会長、質問宜しいですか?」
「いいですよ?」
「どうして入学式の二日目に新しい生徒会役員が入ってくるんですか?」
「私の権利です。」
「生徒会長の権限を私欲に使わないで下さい。」
この男子生徒は溜息がつきたそうだ。可哀想に。
「まあ言っても聞かないでしょうから、もう言いませんが、この子の役目は?」
「書記です。」
「まあ、妥当ですね。」
どうやら俺は書記になったようだ。生徒会室を見渡す限り、人数はこれで全員であれば十人である。生徒会長を除けても九人。書記は足りていないのか?
訝しげな顔をしていたことに気付いたのだろう。別の女子生徒が話して掛けてきた。
「心配しないで下さい。書記は既に二人いますので、黒霧君には恐らく補助の役についてもらうと思いますが、書記の仕事については書記長の私が教えますので安心して下さい。」
ロングヘアのこの女子生徒は書記長らしい。名前は菅野蒼だそうだ。覚えておこう。
「ありがとうございます、菅野先輩。」
「いえ。」
「本当は隼斗君の実力から風紀委員などが良いと思いましたが、人数は足りているとの事なので渋々書記に回すことになりましたが、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。」
「俺もいいか?」
「何でしょうか、鷹野君。」
「黒霧は1年Tクラスだそうだな。」
「ええ、自分の実力が足りないもので。」
「嘘はいい。先程の上浦の言葉で黒霧に実力がある事は分かっている。」
脳筋では無さそうだ。俺は話を合わせるのが、あまり得意ではない。
「お褒めに頂き光栄です。」
「お世辞も遠慮しておく。俺が言いたい事は黒霧の実力を見せてほしいという事だ。」
「すみませんが、自分の異能力は戦闘に向いていないので。」
「ほう。黒霧の異能力は何なのだ?」
「『並列思考』です。」
「『希少系』か。ふむ、確かに戦闘向けでは無いな。では、上浦に聞くとしよう。黒霧は実力は無いのか?」
「ありますよ?」
「……。」
生徒会長はハヤト側では無いようだ。実力を試したいのは、何も鷹野だけでは無い。恐らく生徒会役員全員がハヤトの実力を疑っているだろう。
「では多数決で決めるとしよう。生徒会役員の諸君に聞く。黒霧の実力を知りたい者は挙手を頼む。」
……見事に全員だった。仕方が無い。手短に終わらせよう。
「……分かりました。場所と時間はどうしますか?」
「時刻は明日にしよう。場所は……体育館を貸し切るとしよう。」
相変わらず生徒会の権力が強い。生徒会に入るという選択肢は正解だったようだ。今後に役立つだろう。
* * * * *
◆翌日・体育館◆
見事に騙された。知らない所で宣伝されていたようだ。人が集まっている。数は凡そ六千人。エキシビションマッチ扱いらしい。
どうやら対戦相手は昨日話をした鷹野。役職は副生徒会長らしい。生徒会長に楯突く副生徒会長と言うのも凄い図だが、それは置いておくとしよう。
「こんにちは、隼斗君。」
「生徒会長……。どうしてこんな事になってるんですか?」
「副生徒会長は人気ですので。」
「誰がこの情報を漏洩させたか、ということです。」
「フフフ。知っていますよ。私が漏洩させたんですよ。分かっていたんでしょ?」
「勿論です。『看破』も持っていますので。」
「私の『解析』でも『強奪』で奪った異能力が分からないのが残念です。」
「それは良いとして、ハンデとして鷹野先輩の異能力を教えて頂けませんか?」
「いいですよ?鷹野君の異能力は、『格闘術です。」
「……」
『格闘術』は、格闘術の能力を大幅に上昇させる異能力だ。この能力は、格闘術を習っている者で無いとあまり効果が見られないが、逆に格闘術を習う者が使えば、その者の格闘術は天下一品の才能となる。
「鷹野君は異能力無しで全国優勝経験のある格闘術の実力者です。レベルは44と低めですが、充分な強敵でしょう。そうやすやすと倒されてはくれませんよ。」
「そうでしょうね。」
俺は脳内で『並列思考』を用いた作戦を立てていた。ある一つの思考で考え、もう一つの思考でそれをイメージ検証。その繰り返しだ。その末に一つの作戦を立てた。作戦名など付けるつもりはない。
体育館の席は十分の一も埋まっていないが、充分な人数の学生や教師がいる。鷹野の人気の理由は『国家指定異能師』の候補であり、学内異能師ランキングのトップ十人を指した『十傑』内の六位である。生徒会長は三位だ。
「いけー!ハヤトー!」
何処かで細木の声が聞こえた。応援に来てくれたのだろう。Tクラスが始まってから、細木とはよく話している。友人、に入るだろう。
「それでは両者向かい合って下さい。」
ジャッジをするのは生徒会役員で、入学式の進行役も務めていた女子生徒だ。同じ書記だった筈だ。名前は……覚えていない。次会った機会に聞いて覚えておこう。
向かい合った俺と鷹野は礼をした。異能師による決闘の類の戦いや争いは正式なものでなくとも、しきたりが大事となる。しきたりを守らなければ、世間からの信用も失う事となる。
「じゃあ、いいか?」
「大丈夫ですよ、鷹野先輩。」
「それでは……始め!」
俺の作戦だが、まずは様子見である。何も情報が無い状態で無闇に突っ込む行為は、愚か者のする事だ。全ての争いにおいて勝利は情報の差に左右される。俺は『格闘術』の能力を見た事が無い為、どうにも作戦が立てづらい。
見て能力を理解した状態で『並列思考』による状況対応をする、という事だ。
しかし、俺は鷹野を見縊っていたらしい。俺の思考は一瞬にも満たなかったが、その一瞬で鷹野は俺の背後に回っていた。
「隙だらけだぞ、黒霧。」
鷹野の鳩尾を狙った殴りはどうにか防いだが、対応に追われたハヤトは、次の無駄の無い動きで放たれる蹴りの威力を完全に殺すことが出来なかった。
「くっ……。」
鷹野の攻撃は一撃一撃が重い。これが経験者の強さなのだろう。回避しても次の攻撃が来る。さらにそれを防いでも次の攻撃が来る。
ハヤトは、鷹野の攻撃の威力を流していたが、少しずつダメージが蓄積されてきた。
……試合が長くなる程、俺には不利だろうな。
鷹野は『格闘術』を未だに利用していない。本気では無いのだ。こちらも本気では無いが、疲労して来ている為に現状打破の策が必要となる。……一発だけ攻撃を入れるか。
「ふっ!」
鷹野の攻撃には一切の無駄は無かった。しかし、無駄が無くとも攻撃と攻撃との間は無防備だ。ハヤトはその一瞬を狙った。
「鳩尾か。」
ハヤトは鷹野の言う通り、鳩尾を狙って無力化させようとした。しかし、攻撃されない一瞬と言っても、コンマあるかどうかだ。相手の対応が早ければ、今のように防がれてしまうのだ。
鷹野は連続攻撃が止まってしまった為、一旦下がった。
「黒霧も本気を出したらどうだ?」
「そうさせてもらいます。」
既に会場の熱は凄い。速い攻撃もありだが、二人は異能力を利用していない為、素人でも攻撃の様子を見る事が出来る。相手に攻撃させない鷹野の実力は折り紙付きだが、その鷹野の攻撃をまともに喰らっていないハヤトの実力も底知れない。
会場の歓声が静まり、二人の次の攻撃を待つ。それに気付いたハヤトは言った。
「ふぅ。では、行きますよ?」
ハヤトは立っていた場所から音一つせず消えた。高速移動だ。これも異能力では無い。
「背後にいるのは気付いているぞ。」
鷹野は背後を振り返らずに言う。その通りだ。大体相手がいる場所など予想出来る。ましてや格闘術を習っていれば、気配を読む能力もあるのだろう。ハヤトにはどの術から微塵も分からないが。
「横ですよ。」
「なっ!」
背後には誰もいない。高速移動の最中に鷹野の背後にいる時間を少し長くする。他の地点より少しだが長く停止する為、気配が自然とその部分だけ濃くなる。そうする事でいかにも背後にいるかのようにみせた。
しかし、鷹野の臨機応変な対応には隙が無い。どれだけの鍛錬を積めば、あれほどの大物になれるのだろうか。
「いきますよ……!」
ハヤトは高速移動を活かして、全方位からほぼ同時に攻撃を放つ。幾ら一撃が重い鷹野でも広範囲、ましてや全方位など防ぎ切れない。
形勢逆転だ。
「異能力無しでは勝てないようだな。」
とうとう来たか。異能力、『格闘術』。その能力を俺のコレクションの一つにするとしよう。
「こんにちは、隼斗君。」
「生徒会長ですか。」
終業のHRで生徒会室に行くように担任の桜井から言われたハヤトは、生徒会室に来ていた。
生徒会室には生徒会役員と思わしき面々がいる。
「紹介します。この子が新たな生徒会役員の黒霧隼斗君です。」
「……生徒会長、質問宜しいですか?」
「いいですよ?」
「どうして入学式の二日目に新しい生徒会役員が入ってくるんですか?」
「私の権利です。」
「生徒会長の権限を私欲に使わないで下さい。」
この男子生徒は溜息がつきたそうだ。可哀想に。
「まあ言っても聞かないでしょうから、もう言いませんが、この子の役目は?」
「書記です。」
「まあ、妥当ですね。」
どうやら俺は書記になったようだ。生徒会室を見渡す限り、人数はこれで全員であれば十人である。生徒会長を除けても九人。書記は足りていないのか?
訝しげな顔をしていたことに気付いたのだろう。別の女子生徒が話して掛けてきた。
「心配しないで下さい。書記は既に二人いますので、黒霧君には恐らく補助の役についてもらうと思いますが、書記の仕事については書記長の私が教えますので安心して下さい。」
ロングヘアのこの女子生徒は書記長らしい。名前は菅野蒼だそうだ。覚えておこう。
「ありがとうございます、菅野先輩。」
「いえ。」
「本当は隼斗君の実力から風紀委員などが良いと思いましたが、人数は足りているとの事なので渋々書記に回すことになりましたが、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。」
「俺もいいか?」
「何でしょうか、鷹野君。」
「黒霧は1年Tクラスだそうだな。」
「ええ、自分の実力が足りないもので。」
「嘘はいい。先程の上浦の言葉で黒霧に実力がある事は分かっている。」
脳筋では無さそうだ。俺は話を合わせるのが、あまり得意ではない。
「お褒めに頂き光栄です。」
「お世辞も遠慮しておく。俺が言いたい事は黒霧の実力を見せてほしいという事だ。」
「すみませんが、自分の異能力は戦闘に向いていないので。」
「ほう。黒霧の異能力は何なのだ?」
「『並列思考』です。」
「『希少系』か。ふむ、確かに戦闘向けでは無いな。では、上浦に聞くとしよう。黒霧は実力は無いのか?」
「ありますよ?」
「……。」
生徒会長はハヤト側では無いようだ。実力を試したいのは、何も鷹野だけでは無い。恐らく生徒会役員全員がハヤトの実力を疑っているだろう。
「では多数決で決めるとしよう。生徒会役員の諸君に聞く。黒霧の実力を知りたい者は挙手を頼む。」
……見事に全員だった。仕方が無い。手短に終わらせよう。
「……分かりました。場所と時間はどうしますか?」
「時刻は明日にしよう。場所は……体育館を貸し切るとしよう。」
相変わらず生徒会の権力が強い。生徒会に入るという選択肢は正解だったようだ。今後に役立つだろう。
* * * * *
◆翌日・体育館◆
見事に騙された。知らない所で宣伝されていたようだ。人が集まっている。数は凡そ六千人。エキシビションマッチ扱いらしい。
どうやら対戦相手は昨日話をした鷹野。役職は副生徒会長らしい。生徒会長に楯突く副生徒会長と言うのも凄い図だが、それは置いておくとしよう。
「こんにちは、隼斗君。」
「生徒会長……。どうしてこんな事になってるんですか?」
「副生徒会長は人気ですので。」
「誰がこの情報を漏洩させたか、ということです。」
「フフフ。知っていますよ。私が漏洩させたんですよ。分かっていたんでしょ?」
「勿論です。『看破』も持っていますので。」
「私の『解析』でも『強奪』で奪った異能力が分からないのが残念です。」
「それは良いとして、ハンデとして鷹野先輩の異能力を教えて頂けませんか?」
「いいですよ?鷹野君の異能力は、『格闘術です。」
「……」
『格闘術』は、格闘術の能力を大幅に上昇させる異能力だ。この能力は、格闘術を習っている者で無いとあまり効果が見られないが、逆に格闘術を習う者が使えば、その者の格闘術は天下一品の才能となる。
「鷹野君は異能力無しで全国優勝経験のある格闘術の実力者です。レベルは44と低めですが、充分な強敵でしょう。そうやすやすと倒されてはくれませんよ。」
「そうでしょうね。」
俺は脳内で『並列思考』を用いた作戦を立てていた。ある一つの思考で考え、もう一つの思考でそれをイメージ検証。その繰り返しだ。その末に一つの作戦を立てた。作戦名など付けるつもりはない。
体育館の席は十分の一も埋まっていないが、充分な人数の学生や教師がいる。鷹野の人気の理由は『国家指定異能師』の候補であり、学内異能師ランキングのトップ十人を指した『十傑』内の六位である。生徒会長は三位だ。
「いけー!ハヤトー!」
何処かで細木の声が聞こえた。応援に来てくれたのだろう。Tクラスが始まってから、細木とはよく話している。友人、に入るだろう。
「それでは両者向かい合って下さい。」
ジャッジをするのは生徒会役員で、入学式の進行役も務めていた女子生徒だ。同じ書記だった筈だ。名前は……覚えていない。次会った機会に聞いて覚えておこう。
向かい合った俺と鷹野は礼をした。異能師による決闘の類の戦いや争いは正式なものでなくとも、しきたりが大事となる。しきたりを守らなければ、世間からの信用も失う事となる。
「じゃあ、いいか?」
「大丈夫ですよ、鷹野先輩。」
「それでは……始め!」
俺の作戦だが、まずは様子見である。何も情報が無い状態で無闇に突っ込む行為は、愚か者のする事だ。全ての争いにおいて勝利は情報の差に左右される。俺は『格闘術』の能力を見た事が無い為、どうにも作戦が立てづらい。
見て能力を理解した状態で『並列思考』による状況対応をする、という事だ。
しかし、俺は鷹野を見縊っていたらしい。俺の思考は一瞬にも満たなかったが、その一瞬で鷹野は俺の背後に回っていた。
「隙だらけだぞ、黒霧。」
鷹野の鳩尾を狙った殴りはどうにか防いだが、対応に追われたハヤトは、次の無駄の無い動きで放たれる蹴りの威力を完全に殺すことが出来なかった。
「くっ……。」
鷹野の攻撃は一撃一撃が重い。これが経験者の強さなのだろう。回避しても次の攻撃が来る。さらにそれを防いでも次の攻撃が来る。
ハヤトは、鷹野の攻撃の威力を流していたが、少しずつダメージが蓄積されてきた。
……試合が長くなる程、俺には不利だろうな。
鷹野は『格闘術』を未だに利用していない。本気では無いのだ。こちらも本気では無いが、疲労して来ている為に現状打破の策が必要となる。……一発だけ攻撃を入れるか。
「ふっ!」
鷹野の攻撃には一切の無駄は無かった。しかし、無駄が無くとも攻撃と攻撃との間は無防備だ。ハヤトはその一瞬を狙った。
「鳩尾か。」
ハヤトは鷹野の言う通り、鳩尾を狙って無力化させようとした。しかし、攻撃されない一瞬と言っても、コンマあるかどうかだ。相手の対応が早ければ、今のように防がれてしまうのだ。
鷹野は連続攻撃が止まってしまった為、一旦下がった。
「黒霧も本気を出したらどうだ?」
「そうさせてもらいます。」
既に会場の熱は凄い。速い攻撃もありだが、二人は異能力を利用していない為、素人でも攻撃の様子を見る事が出来る。相手に攻撃させない鷹野の実力は折り紙付きだが、その鷹野の攻撃をまともに喰らっていないハヤトの実力も底知れない。
会場の歓声が静まり、二人の次の攻撃を待つ。それに気付いたハヤトは言った。
「ふぅ。では、行きますよ?」
ハヤトは立っていた場所から音一つせず消えた。高速移動だ。これも異能力では無い。
「背後にいるのは気付いているぞ。」
鷹野は背後を振り返らずに言う。その通りだ。大体相手がいる場所など予想出来る。ましてや格闘術を習っていれば、気配を読む能力もあるのだろう。ハヤトにはどの術から微塵も分からないが。
「横ですよ。」
「なっ!」
背後には誰もいない。高速移動の最中に鷹野の背後にいる時間を少し長くする。他の地点より少しだが長く停止する為、気配が自然とその部分だけ濃くなる。そうする事でいかにも背後にいるかのようにみせた。
しかし、鷹野の臨機応変な対応には隙が無い。どれだけの鍛錬を積めば、あれほどの大物になれるのだろうか。
「いきますよ……!」
ハヤトは高速移動を活かして、全方位からほぼ同時に攻撃を放つ。幾ら一撃が重い鷹野でも広範囲、ましてや全方位など防ぎ切れない。
形勢逆転だ。
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とうとう来たか。異能力、『格闘術』。その能力を俺のコレクションの一つにするとしよう。
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