異世界でも僕は僕を犠牲にする

春野並木

化け物の彼女と奴隷騎士の奇跡

僕は決意する。

君を殺すと────

目の前に救いたい人間がいて、殺さなければいけない化け物がいる。

君を救うと────

化け物の彼女は叫ぶ。助けたい化け物は叫ぶ、殺さなければならない人間は叫ぶ。

 助けて─────と。
濁った化け物の咆哮に混じって確かに聞こえる。

僕は、僕は、僕は、僕は、僕は、僕は。

「君を殺すよ。それが世界を救う事なら、君の願いなら」

  涙が止まらないんだ。それでも、僕はやらなきゃならない。
 濁った瞳でも確かに彼女を眼球に収めて、ニコリと笑う。

 「大好きだったよ」

喉が破裂しそうだ。これが悔しさと悲しさの頂点とやつなのだろう。

「さようなら────」

「オニイヂァァァァァァァァァァ」

 その奇妙な咆哮で、あの頃が走馬灯ほように蘇る。
 あぁ────やっぱり僕は世界なんかじゃなく、君を救いたかったんだ。

後悔は終わらない。だがそれは残酷な事に物語に終わりが来ないことでは無い。物語は終わる。

どんな物語にもある終わりはある。これは人間の終わりの物語。ある人間の始まりの唄。

化け物の彼女の、終わりの物語。
化け物の彼女の、始まりの唄。


コメント

  • ノベルバユーザー259337

    本当にいい作品もっと評価されてもいいのでは?というぐらいいい

    1
  • うたたか

    自己犠牲の事を主においてここまで素晴らしい作品をかけるのはとても尊敬します!!
    これからも体調面に気をつけて頑張ってください!!

    2
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