国一のお嬢様は僕のストーカー
百合邸前半
「ようこそ圭一様。お帰りなさいませ百合お嬢様。」
リムジンから降りた僕と百合を、大勢のメイドさんたちが出迎えた。
あまりの場違い感に僕は辟易し、軽くめまいすら覚えた。
目の前に聳え立つ百合邸は、豪奢と表現しても足りないくらいに現実離れした建物だった。
何ゆえ、僕がここにいるかというと、例の「勉強会(監禁)」などではなく、ただ単に百合と遊ぶためだ。
何時ものように、「今日は休日、つまり一日中ゲーム三昧だ!」とわざわざ早起きまでして意気込んでいた僕のところへ、突然百合が押しかけてきた。
強引に迫る彼女にいやいやながら着替えさせられ、アパートの前で待機していたリムジンに乗せられてここまでやってきたという次第だった。
僕の住むアパートの何十倍もの広さの敷地に、僕はあきれため息をついた。
ずんずん進む百合に手を引かれながら、僕は中庭をぐるりと見回した。
隅々まで手入れの行き届いた草木、咲き乱れる花々、ぴかぴかのタイルに、中央で天を仰いで咆哮し、その口から水を吐いている獣の石像。
そのすべてが、姫井財閥の圧倒的な財力を如実に物語っていた。
玄関へたどり着くと、執事が扉を開けて僕らを中へといざなった。
すると中にももう一人執事が控えていて、僕の靴を恭しく手にとって棚へとしまいこんだ。
僕の視線に気づいた執事がにっこりと柔和な笑みを浮かべ、軽く会釈した。
思わずお辞儀を返してしまう僕。
「なにやってるんですか圭一?行きますよ。」
百合に諭され、慌てて前へ向き直った。
人目で高級であると分かる絨毯の敷かれた長い通路を歩いていると、ふと壁にかけられた絵画に視線が言った。
あの絵、確か小さい頃に読んだ「世界の名画」って図鑑に載ってたやつにそっくりなんだけど・・・。
まさかね。
「ねぇ百合。あの絵なんだけど・・・」
もしかしたら実物かもしれないと思った僕が、百合に尋ねると。
「ああ、それは先日お父様がある美術館から買い取ったものですね。」
「へ、へぇ~・・・ちなみに何だけど・・・お幾ら万円?」
「確か、五十億くらいでしたっけ・・・?」
「はぁ!?」
頬に人差し指をあてて可愛く首をかしげた百合のあっけらかんとした言葉に、僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
どうやら本物で間違いなさそうだった。
「ずいぶん安く買えたってお父様、喜んでました。」
「そ、そっかぁ・・・ははは・・・」
五十億が安いって、どんな世界だよ。
一般的な収入のサラリーマンが一生働いて確か、二億円くらい稼ぐんだっけ・・・?
五十億だから、単純計算でその二十五人分。
それを安いって・・・
働くってなんだろうね・・・
あきれを通り越して、寒々しい笑いが口から漏れた。
僕が無我の境地に達していると、いつの間にか百合の部屋の前までやってきていた。
「ごゆっくり。」
そういった老年の執事が背後で扉を閉めたきり、僕と百合は広い部屋で二人きりとなった。
大病院の一フロアはあろうかという広い空間に、リビング、ダイニング、キッチンのサンセットが抜かりなく完備されている。
加えて、図書館かよってぐらいの大きな本棚、パーティー会場のテーブル並みにでかい勉強机、とく大サイズのベットまでもがしっかりと備えられている。
床には百合の私物、主に少女マンガなどが雑然と散らばっていた。
相変わらずの規格外さに僕があきれ、突っ立っていると、いち早くベットに座り込んだ百合から声がかかる。
「圭一。いつまでもそんなところへ突っ立ってないで、早くこっちへ来てください。」
ぽんぽんと自らの隣を手でたたく百合に、僕は床に散らばる物を踏みつけないよう注意しながらベットへと近づいていく。
たどり着いた僕は、ゆりから少しはなれたところへ腰を下ろした。
すると、むっとなった百合が、すっと近くによって着た。
フワリと柑橘系の香りが鼻をかすめ、思わずドキリとしてしまう。
考えてみれば、僕の今の状況はなかなかにアレでナニな物だった。
美少女お嬢様と二人きりで、ベットに方を並べ座る。
いまさらながらに現状を把握し、僕の心拍数がゆっくりと上昇していく。
「圭一?今日は何をしますか?」
隣に座る百合が域のかかる距離でそうささやいてきた。
上目使いな彼女のしっとりとぬれた桜色の唇から、僕は視線をはずすことが出来ない。
しばらく至近距離で見つめあった僕たちは、やがてどちらからともなく顔を近づけていき・・・・
「百合、とりあえずゲームしていい?」
「はぁ・・・ちょっとだけですよ?」
あきれたようにこめかみに手を当ててから許可を出す百合に、よし!とガッツボーズを取る僕。
イベントの終了日時は刻々と迫ってきている。
今の僕には、国一のお嬢様と甘いムードになっている時間など一分たりとも存在しないのだ。
スマホを起動、ゲームアイコンをタップして、僕は周回クエストへとダイブした。
タッタッタッタ・・・
ペラッ、ペラッ・・・
僕がスマホ画面をタップする音、百合が少女マンガのページを繰る音だけが続く。
やがて、一冊を読み終えた百合がクエストに夢中になっている僕に声をかける。
「圭一、まだですか?」
「もうちょっと。」
「はぁ・・・」
再びマンガを手に取る百合。
そして十分後。
「圭一、もういいですか?」
「もうちょっと!このクエ終わるまで!」
「・・・・」
再三、マンガを手に取る百合。
そしてさらに十分が経過し。
「早くしてください圭一!」
「ちょっと待って!あと五分!あと五分だけだから!」
丁度ボス戦に差し掛かった僕は、百合の方を見ることもせずにそういった。
そんな僕のおざなりな態度に、百合お嬢様が遂に痺れを切らした。
「いい加減にしてください圭一!」
大声で一喝した後、あっけにとられる僕をおいて部屋のドアまでずんずんと歩いていく。
バンッ!と乱暴に扉が開かれ、お怒りのお嬢様はそのまま出て行ってしまった。
「・・・・」
後に残された僕は、開け放たれたままのドアを呆然と眺めた。
まぁ・・・うん。今のは僕が悪いな・・・
人の家にお邪魔している分際でずっとゲームするのはちょっと失礼だったかもしれない。
百合が帰ってきたらちゃんと謝ろう。
・・・・・・
いや、待てよ。
そもそも今日は招待されたというよりは百合が僕を無理やり連れてきたんじゃないか。
本来なら今頃僕は自室で一人、心置きなくゲームにいそしんでいるはずなのだ。
そう考えると、僕は悪くない、どころか百合のほうに非があるのではないか?
まぁこれ以上百合お嬢様を怒らせるのは愚策だとさすがの僕も学んでいるから、このクエストで終わりにするか。
そう決めた僕が「挑戦」の文字をタップすると。
「ん?」
ぱっと唐突に画面が暗くなり、次に明るくなったときにはタイトル画面が表示されていた。
不思議に思い、タップトゥースタートを連打すると、ゲームが始まる代わりにこんな通知が来た。
「現在緊急メンテナンス中です。終了時刻未定。追って詳細を告知するので、お手数ですが時間を空けて再度ログインしてください。」
緊急メンテか・・・タイミング悪いなぁ・・・
・・・・
それにしたって、何か変じゃないか?
このゲームの運営は一度だって告知なしでメンテを入れたことがない。
メンテをするときは、何日も前から掲示板にしっかりと掲載し、少しでも時間が延長されれば、侘び医師の配布も忘れない。
まさに、神運営といえるだろう。
そんな神運営様様があろうことか、こんな唐突に告知なしでメンテで、しかも終了時刻未定と来た。
さっきタイミング悪いなぁなんてぼやいたけど、タイミングはむしろ良すぎるのだ。
そう、ある人物にとっては。
違和感を感じた僕は、もう一度百合が出て行き、開け放たれたままの扉を見つめた。
そしてある結論に至った。
普通なら笑い飛ばしてしまえるあまりにもバカらしい仮定だが、やはり百合に関して言うならば、信じるに足るものだった。
すなわち。
ゲーム会社が・・・運営が・・・姫井財閥に買収された?
僕が恐ろしい仮説に冷や汗を流していると、怒って出て行ってしまった百合がつかつかと帰ってきた。
そして、彼女の勝ち誇ったような表情が僕を確信へと導いた。
「百合・・・まさかこれ・・・百合の仕業?」
ゲーム画面を見せながらたずねる僕に対し。
「圭一が私を無視するのがいけないんですよ?お父様に頼んで、ゲーム会社の運営の方に急遽メンテナンスを入れるよう言いつけてもらいました。「姫井」の名を出したら快く引き受けてもらえたそうですよ?」
「・・・・」
してやったりという彼女の口ぶりに、僕は何も言い返してやることが出来ない。
どうやら僕は、どうがんばったところでこのお嬢様からは逃げられないようだった。
「はぁ・・・もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ・・・」
諦めて降参のポーズを僕に、百合お嬢様は、満足そうに顔をほころばせた。
リムジンから降りた僕と百合を、大勢のメイドさんたちが出迎えた。
あまりの場違い感に僕は辟易し、軽くめまいすら覚えた。
目の前に聳え立つ百合邸は、豪奢と表現しても足りないくらいに現実離れした建物だった。
何ゆえ、僕がここにいるかというと、例の「勉強会(監禁)」などではなく、ただ単に百合と遊ぶためだ。
何時ものように、「今日は休日、つまり一日中ゲーム三昧だ!」とわざわざ早起きまでして意気込んでいた僕のところへ、突然百合が押しかけてきた。
強引に迫る彼女にいやいやながら着替えさせられ、アパートの前で待機していたリムジンに乗せられてここまでやってきたという次第だった。
僕の住むアパートの何十倍もの広さの敷地に、僕はあきれため息をついた。
ずんずん進む百合に手を引かれながら、僕は中庭をぐるりと見回した。
隅々まで手入れの行き届いた草木、咲き乱れる花々、ぴかぴかのタイルに、中央で天を仰いで咆哮し、その口から水を吐いている獣の石像。
そのすべてが、姫井財閥の圧倒的な財力を如実に物語っていた。
玄関へたどり着くと、執事が扉を開けて僕らを中へといざなった。
すると中にももう一人執事が控えていて、僕の靴を恭しく手にとって棚へとしまいこんだ。
僕の視線に気づいた執事がにっこりと柔和な笑みを浮かべ、軽く会釈した。
思わずお辞儀を返してしまう僕。
「なにやってるんですか圭一?行きますよ。」
百合に諭され、慌てて前へ向き直った。
人目で高級であると分かる絨毯の敷かれた長い通路を歩いていると、ふと壁にかけられた絵画に視線が言った。
あの絵、確か小さい頃に読んだ「世界の名画」って図鑑に載ってたやつにそっくりなんだけど・・・。
まさかね。
「ねぇ百合。あの絵なんだけど・・・」
もしかしたら実物かもしれないと思った僕が、百合に尋ねると。
「ああ、それは先日お父様がある美術館から買い取ったものですね。」
「へ、へぇ~・・・ちなみに何だけど・・・お幾ら万円?」
「確か、五十億くらいでしたっけ・・・?」
「はぁ!?」
頬に人差し指をあてて可愛く首をかしげた百合のあっけらかんとした言葉に、僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
どうやら本物で間違いなさそうだった。
「ずいぶん安く買えたってお父様、喜んでました。」
「そ、そっかぁ・・・ははは・・・」
五十億が安いって、どんな世界だよ。
一般的な収入のサラリーマンが一生働いて確か、二億円くらい稼ぐんだっけ・・・?
五十億だから、単純計算でその二十五人分。
それを安いって・・・
働くってなんだろうね・・・
あきれを通り越して、寒々しい笑いが口から漏れた。
僕が無我の境地に達していると、いつの間にか百合の部屋の前までやってきていた。
「ごゆっくり。」
そういった老年の執事が背後で扉を閉めたきり、僕と百合は広い部屋で二人きりとなった。
大病院の一フロアはあろうかという広い空間に、リビング、ダイニング、キッチンのサンセットが抜かりなく完備されている。
加えて、図書館かよってぐらいの大きな本棚、パーティー会場のテーブル並みにでかい勉強机、とく大サイズのベットまでもがしっかりと備えられている。
床には百合の私物、主に少女マンガなどが雑然と散らばっていた。
相変わらずの規格外さに僕があきれ、突っ立っていると、いち早くベットに座り込んだ百合から声がかかる。
「圭一。いつまでもそんなところへ突っ立ってないで、早くこっちへ来てください。」
ぽんぽんと自らの隣を手でたたく百合に、僕は床に散らばる物を踏みつけないよう注意しながらベットへと近づいていく。
たどり着いた僕は、ゆりから少しはなれたところへ腰を下ろした。
すると、むっとなった百合が、すっと近くによって着た。
フワリと柑橘系の香りが鼻をかすめ、思わずドキリとしてしまう。
考えてみれば、僕の今の状況はなかなかにアレでナニな物だった。
美少女お嬢様と二人きりで、ベットに方を並べ座る。
いまさらながらに現状を把握し、僕の心拍数がゆっくりと上昇していく。
「圭一?今日は何をしますか?」
隣に座る百合が域のかかる距離でそうささやいてきた。
上目使いな彼女のしっとりとぬれた桜色の唇から、僕は視線をはずすことが出来ない。
しばらく至近距離で見つめあった僕たちは、やがてどちらからともなく顔を近づけていき・・・・
「百合、とりあえずゲームしていい?」
「はぁ・・・ちょっとだけですよ?」
あきれたようにこめかみに手を当ててから許可を出す百合に、よし!とガッツボーズを取る僕。
イベントの終了日時は刻々と迫ってきている。
今の僕には、国一のお嬢様と甘いムードになっている時間など一分たりとも存在しないのだ。
スマホを起動、ゲームアイコンをタップして、僕は周回クエストへとダイブした。
タッタッタッタ・・・
ペラッ、ペラッ・・・
僕がスマホ画面をタップする音、百合が少女マンガのページを繰る音だけが続く。
やがて、一冊を読み終えた百合がクエストに夢中になっている僕に声をかける。
「圭一、まだですか?」
「もうちょっと。」
「はぁ・・・」
再びマンガを手に取る百合。
そして十分後。
「圭一、もういいですか?」
「もうちょっと!このクエ終わるまで!」
「・・・・」
再三、マンガを手に取る百合。
そしてさらに十分が経過し。
「早くしてください圭一!」
「ちょっと待って!あと五分!あと五分だけだから!」
丁度ボス戦に差し掛かった僕は、百合の方を見ることもせずにそういった。
そんな僕のおざなりな態度に、百合お嬢様が遂に痺れを切らした。
「いい加減にしてください圭一!」
大声で一喝した後、あっけにとられる僕をおいて部屋のドアまでずんずんと歩いていく。
バンッ!と乱暴に扉が開かれ、お怒りのお嬢様はそのまま出て行ってしまった。
「・・・・」
後に残された僕は、開け放たれたままのドアを呆然と眺めた。
まぁ・・・うん。今のは僕が悪いな・・・
人の家にお邪魔している分際でずっとゲームするのはちょっと失礼だったかもしれない。
百合が帰ってきたらちゃんと謝ろう。
・・・・・・
いや、待てよ。
そもそも今日は招待されたというよりは百合が僕を無理やり連れてきたんじゃないか。
本来なら今頃僕は自室で一人、心置きなくゲームにいそしんでいるはずなのだ。
そう考えると、僕は悪くない、どころか百合のほうに非があるのではないか?
まぁこれ以上百合お嬢様を怒らせるのは愚策だとさすがの僕も学んでいるから、このクエストで終わりにするか。
そう決めた僕が「挑戦」の文字をタップすると。
「ん?」
ぱっと唐突に画面が暗くなり、次に明るくなったときにはタイトル画面が表示されていた。
不思議に思い、タップトゥースタートを連打すると、ゲームが始まる代わりにこんな通知が来た。
「現在緊急メンテナンス中です。終了時刻未定。追って詳細を告知するので、お手数ですが時間を空けて再度ログインしてください。」
緊急メンテか・・・タイミング悪いなぁ・・・
・・・・
それにしたって、何か変じゃないか?
このゲームの運営は一度だって告知なしでメンテを入れたことがない。
メンテをするときは、何日も前から掲示板にしっかりと掲載し、少しでも時間が延長されれば、侘び医師の配布も忘れない。
まさに、神運営といえるだろう。
そんな神運営様様があろうことか、こんな唐突に告知なしでメンテで、しかも終了時刻未定と来た。
さっきタイミング悪いなぁなんてぼやいたけど、タイミングはむしろ良すぎるのだ。
そう、ある人物にとっては。
違和感を感じた僕は、もう一度百合が出て行き、開け放たれたままの扉を見つめた。
そしてある結論に至った。
普通なら笑い飛ばしてしまえるあまりにもバカらしい仮定だが、やはり百合に関して言うならば、信じるに足るものだった。
すなわち。
ゲーム会社が・・・運営が・・・姫井財閥に買収された?
僕が恐ろしい仮説に冷や汗を流していると、怒って出て行ってしまった百合がつかつかと帰ってきた。
そして、彼女の勝ち誇ったような表情が僕を確信へと導いた。
「百合・・・まさかこれ・・・百合の仕業?」
ゲーム画面を見せながらたずねる僕に対し。
「圭一が私を無視するのがいけないんですよ?お父様に頼んで、ゲーム会社の運営の方に急遽メンテナンスを入れるよう言いつけてもらいました。「姫井」の名を出したら快く引き受けてもらえたそうですよ?」
「・・・・」
してやったりという彼女の口ぶりに、僕は何も言い返してやることが出来ない。
どうやら僕は、どうがんばったところでこのお嬢様からは逃げられないようだった。
「はぁ・・・もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ・・・」
諦めて降参のポーズを僕に、百合お嬢様は、満足そうに顔をほころばせた。
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