国一のお嬢様は僕のストーカー

セレ

デート前半

さして言うこともないけど一応僕の紹介もすませておこうと思う。

名前は東雲圭一。現在高校二年生。

どこにでもいる普通の高校生という安っぽい文句で十分事足りるぐらいには平凡なつもりだ。

ぱっとしない見た目に高くも低くもない身長。

人様に自慢できるような特技も、隠し通すべき致命的な欠陥もとくにこれといって持ち合わせていない。

趣味はゲーム。休日は大抵、自室にこもってスマートフォンをいじっている。

親元を離れ暮らしをしているのが祟ったか、注意するものも居ないもでかなりやりたい放題やってしまっている。

そのせいで成績がものすごく悪い。

僕が通う高校は定期テストがあるたびに、上位十名のものの名前をでかでかと廊下などへ貼り付けるが、何かの拍子に順位が逆転しようものなら、間違いなく僕の名前が連ねられることになるだろう。

どうにも机に座って落ち着いて勉強するなんて器用なことが出来ない。

毎回のように、当の僕自身も目も当てられないような点数をたたき出して、教師に激怒され、その直後こそ、「次こそは!」と気合を入れる。

そして直後の三日ぐらいこそがんばってみるものの、次第に億劫になり遂にはやめてしまう。

ずっとそんなんだから、最近だと進級すら危うくなってきた。

今は百合に監禁させられて無理やり勉強させられているから何とか持ちこたえているものの、彼女が居なかったら本当に留年していただろうとつくづく思う。

そういった意味では僕は彼女に感謝すべきなのだろうけど、百合から受けてる精神的苦痛を差し引いたらむしろおつりが出ているので意地でもお礼は言いたくない。

この上なくたいくつな僕の紹介はこれくらいにして、そろそろ本題に入ろうと思う。




恥ずかしながら僕は百合に出会うまでデートなるものを一回もしたことがない。

どころか、親しくなった女の子すら数えるほどしか折らず、現在でも男友達ですらあまり居ない状況だった。

当然女の子とお付き合いさせていただいたことなどただの一度もなく、デートなんて僕とは無縁の代物だと決め付けていた。

それが今、僕は夢にまで見たデートの最中にいるはずなのに、これっぽっちも心が躍らないどころか、さっさと帰りたいと思ってしまっているのはなぜだろうか。

僕の現在地は、市内でも割りと人気で名の売れている喫茶店。

向かいには百合が座っていて、瞑目し、様になりすぎたしぐさでカップに口をつけている。

まぁそこまではいい。

問題は店内に僕たち以外の客が一切いないことにある。

もちろんたまたま客が入っていないというわけでは断じてない。

他ならない、僕の目の前で済ました顔でお茶をすすっていなさる国一のお嬢様に原因があるのだ。

「わざわざかしきりにすることはなかったんじゃないかな?」

「せっかくのデートなんですから二人きりがいいじゃないですか。私は圭一と落ち着いたひと時を過ごしたいんです。」

「こんな広い店内に僕たちしか居ないって時点で既に落ち着かないんだけど・・・」

「安心してください。店の方には、休日の収入平均の倍額以上を支払っていますから。店長さんも、快く承諾してくれましたよ?」

「・・・・・・」

もう何も言うまい。

僕は相変わらずの彼女のぞんざいさに嘆息しながら、いい加減あきらめて今を満喫することにした。

細かいことを考えていると、百合とは付き合っていられない。

なんだか全く僕の望まない形で、僕って大人になっていってるような・・・

僕が嘆息していると。

おもむろに百合がカップをお皿において、バックから大量の紙束を取り出し、ドサッと机の上においた。

「それでは今週の圭一浮気疑惑撲滅尋問会議を始めます。」

そう高らかに宣言した。

そう、これが現在僕が憂鬱である第二の原因である。

説明しよう。

この百合の百合による百合のための圭一浮気疑惑撲滅尋問会議とは、簡潔にいってしまえは、ここ一週間の僕の活動記録を資料化して、そこから僕が高校などで女の子と接触したタイミングをピックアップし、そのいちいちに対して僕が弁明するというなんとも凶器じみた最悪の取り調べである。

ああ、今週も始まってしまうのか。

僕はそれこそ四六時中百合に監視されているため、下手な言い訳は通用しない。

毎週必ず行われるこの企画は、勉強会と称した監禁の次に僕の精神をすり減らしているイベントだった。

「まず今週の圭一の女子との接触から話し合いましょう。過去六日間で圭一が学校で会話した女子が四人。消しゴムを拾った女子が三人。ペンを貸した女子が二人、内一人は消しゴムを拾った人物と一致。他にもすれ違うときに肩がぶつかった女子が十五人。授業中三十秒以上見つめていた女子が四人。その他細かい接触をあわせて、クラスの大体の女生徒と浮気疑惑が浮上しています。」

お分かりいただけただろうか(ホラー番組のナレーション風)。

彼女の驚異的な情報収集力はいまさらだからおいておくとして、ここまで細かくとがめられたらまともに日常生活も送れない。というか送れていない。

「あの~百合さん?僕は至って健全な学校生活を送っていただけなんですけど・・・?」

僕が恐る恐るそういうと、彼女ははぁとこめかみに手を当ててあきれたようなしぐさをした。

いや、あきれ返りたいのはこっちなんだけど・・・

「まぁ多少の接触は、この前締結された第一回圭一拘束緩和条約によって認められていますからあまり強くはいえませんが。」

ああ、そういや結んだなぁそんな条約。

少し前、百合の厳しすぎる拘束に耐えられなくなった僕が、ノートにいろいろと書きなぐって百合にはんこを押させたあれね。

記憶が確かなら、日常生活において無条件に女生徒との接触をとがめることはこれを硬く禁じる、なんて書いてあったはず。

「それにしても今週はひどいですね。条約の規約をこえる多くの疑惑の証拠が持ち上がっていますよ。まずのこの写真を見てください。三日前の午後二時三十五分二十四秒、数学の授業中、隣の席の女生徒加藤綾乃が消しゴムを落としたのを圭一が拾い、渡す際にうっかり手が触れ合ってしまった瞬間を写したものです。専門家を呼び、解像度ギリギリまで拡大したところ、圭一の頬が若干赤くなっていることが判明しました。」

「判明しましたあ!」

先生!

男として当然の反応だと思われます!

「これは怪しいと思い、加藤綾乃に関する情報を徹底的に洗い出したところ、興味深い事実が浮上しました。」

そこで百合はいったん言葉を切って訝しげな視線を僕に投げかけた。

なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ・・・

「護衛の人に頼んで彼女の自宅を捜査した際に、彼女の自室の机の上に置かれていた写真たてに、圭一の写真が入っていました。」

「それって絶対不法侵入だよね!?」

遂に百合の家宅捜索が僕のみならず、クラスメイトにまで及んでしまったか・・・

ってそこはこの際どうでもいい!

え?百合お嬢様は今なんとのたまいなさった?

綾乃さんが写真たてに僕の写真?

これはひょっとして、ひょっとしたりするのか・・・?

いやしかし、まだ決め付けてしまうのは早計か・・・

内なる葛藤に頭を抱える僕の耳に、更なる百合の声が入ってくる。

「さらにこんな情報もあがってきています。彼女が今月に入ってから、つまり席替えで圭一と隣になってから、授業中に消しゴムを落とした回数が先月と比較して、圧倒的に多いことが判明しました。」

「判明しましたあ!」

これだけ言われて気づかない鈍感な僕ではない。

というかむしろ僕のほどになると常に自分に話しかける女子がいようものなら、この子はひょっとして僕のことが好きなのではなかろうか、と疑ってかかっている。

そうか、綾乃さんって僕のことが・・・

「圭一?何顔を赤くして上の空になってるんですか・・・?」

おおっと、いかんいかん。

あらぬ妄想にふけっていた僕に、百合の冷ややかな視線が突き刺さる。

脳内で既に綾乃さんと楽しいデート!までいっていた僕を、百合の影の指した声音が現実へと引き戻した。

「圭一がその調子だと、せっかく成績が上がったからお休みにしている勉強会を復活させますよ?勉強へ集中すれば他の女の子にうつつを抜かすこともなくなりますもんね?」

そして、勉強会という僕がこの世でもっとも忌み嫌うイベントを引き合いに出して、一瞬にして調子に乗っていた僕を地に叩き落した。

「誤解だ!確かに僕は綾乃さんの気持ちを嬉しいと思ってしまったけど、僕が好きなのは後にも先にも百合一人だけだ!だからどうか、監禁・・・・じゃなくて勉強会の再開だけは勘弁してくれ!いや、してください!」

僕はどうにか彼女を納得させようと、必至に熱弁する。

しかし、彼女は立ち上がって力説する僕を見ても、怪しむような表情を変えることはしない。

「ふぅん?そんなに私のことが好きなんですか?本当に?だったら今から三十秒数えますから、その間に私の好きなところを十個いってください。先に言っておきますが、君のすべてが好きだとか適当なことをいって誤魔化そうとしたら即刻勉強会は復活ですから。はい、よーいスタート!いーち・・・にーい・・・」

僕に反論する隙を与えず、すぐさまカウントを始める百合。

突然振って湧いた難題に、僕は頭を抱え・・・・つつも内心では勝利を確信してほくそ笑んでいた。

甘い、甘すぎるぞ百合よ。

彼女は気づいていなかった。

自分がどれだけ完璧で美点にあふれている存在であるかを。

すなわち、彼女に出来て僕に出来ないことを羅列するだけで、それは僕が彼女を好きな理由足りえてしまうのだ。

すばらしい僕!

勝ったな。

「髪がなめらかできれい。ピアノがうまい。なんだかんだ優しい。肌が白くてすべすべ。目が愛嬌あって可愛い。料理がうまい。少女マンガを読んでいるときの反応が初々しい。割と世間知らずなところがある。変なところに羞恥の基準がありギャップがあって萌える。僕のことを好きで居てくれる。はい、十個いったよ?まだ時間あるけどつづけようか?」

完璧すぎる回答だった。

まぁ後半部分のほうに関しては・・・・

絶対に本音なんかじゃないんだからねっ!

まぁ嘘をつくには真実も一定の比率で混ぜないといけないらしいからこれがベストアンサーだろう。

ん?僕今嘘言ったっけ?

「・・・・・っ!!ご、合格です・・・」

難なくそらんじて見せた僕に、百合は耳まで赤く色づかせて、負けを認めた。

「ぬるすぎるぜ・・・」

まぁ僕の完全勝利だし、百合の可愛い顔が見れたからよしとするか。

「ま、まぁ加藤綾乃さんと圭一が何もないことは認めましょう、ええ、認めますとも。ですが今週はこれよりもさらに怪しい瞬間を多々写真に収めていますから、それについても是非訳を説明してもらいます。」

一度は萎れたお嬢様も、すぐに体制を建て直し、僕を糾弾するべく更なる資料を取り出し始めた。

というか多すぎる。

いったいいつになったら終わるのだろうか?

仮にも貴重な休日をつぶしてここにいるのだから、流石に一日中尋問されっぱなしでした、じゃあストレスではげて死んでしまう。

ただでさえ父親が若い段階ではげていたことが発覚して、いまからでも生え際に期を使わなくてはならないのだ。

ここはどうにかして終わらせなくては。

そう考えた僕は、先手にして必勝の手を使うことにした。

百合が盲目的に僕のことを好きだからこそ使える、最終兵器。

それすなわち。

「ああいとしの百合。どうか聞いてほしい。確かに僕は日常生活で、他の女の子になびいて、時にはすこし心が揺れ動くことも合ったかもしれない。けれど、断言しよう。たとえ他の女の子への好意を一まとめにしたとしても、君一人への気持ちのほうがずっと大きいよ。」

キャラを崩壊させて、愛をささやきかけた。

さあどうだ百合お嬢様よ。

僕のイケメン(クスッ)ボイスにメロメロになって・・・

「心外ですね。圭一には私がそんな白々しい演技で納得できるようなちょろい女に見えるんですか?これは本気で勉強会の再開を検討する必要がありそうですね。さあ、尋問を続けますから、いつまでも手を広げて立ち上がってないで、席についてください。」

・・・・・

誰か教えてください。

これって本当にデートですか?

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