救世主になんてなりたくなかった……
第75主:チャーハンを食す
一通りの道具を揃え終えたので、シュウは店主を連れて、店主の居住スペースにやってきた。
ヒカミーヤとサルファは、なぜかシュンと落ち込んでいる。そんな二人に訝しげな表情を浮かべながら、店主の妻に視線を移した。
「料理が失敗しちゃったんですよ」
店主の妻が苦笑を浮かべながら言う。
「な、何を作ろうとしたのですか?」
軽くと言っていたから、軽いはずだが、失敗したということは難しいのに挑戦したかもしれないとシュウは考えた。
「その……」
少し言いにくそうだ。本当に何か難しいのを作ろうとしたのではないかと、シュウは不安になる。
「サンドウィッチを……」
「へっ?」
店主の妻から出てきた単語が予想外過ぎて、思わず変な声が出てしまった。
異世界にサンドウィッチという料理があることにも驚いたが、それよりもサンドウィッチで失敗したことの驚きの方が大きい。
シュウはサンドウィッチの具材を作ろうとしたのだと考え直す。所詮、サンドウィッチとは言え、難しくしようと思えば、いくらでも難しくできる。おそらくは今夜、大きめの戦いをするため気を使ったのだろうと、シュウは考えた。
「い、一体、どんな材料を使おうとしたのですか?」
「単純ですよ。卵とレタス、それにハムです」
「えっ? それだけですか!?」
問い返したシュウに店主の妻はコクリと頷いた。あまりにも予想外過ぎて、シュウは二人を見る。しかし、視線を合わせようとしない。二人の反応にシュウはため息をついた。
「そ、それで、生み出された料理はどれですか? 俺の前に持ってきてください」
シュウの言葉に二人は渋々という感じで、持ってきた。
「…………」
持ってこられた料理に言葉を失う。
片や紫色の瘴気らしきものが漂っていて、どういうわけかパンの原型がない。あるのはただの丸い塊。
片やパンの原型はキチンとあり、見た目は普通のサンドウィッチ。しかし、香りは料理とは思えないほど臭い。簡単に言うと、夏場におっさんが脱いだ靴下を三日間放置したかのような異臭だ。
「どうしてこうなった」
「し、四角かったら危ないと思いました。それに材料が少し少ないように感じたので」
「ヒカミーヤさん。サンドウィッチの材料はシンプルな方がいいですよ。それにパンは刺さるほど硬くないです」
「えっ? そ、そうなのですか?」
本当に驚いたように目を丸くした。その反応にシュウは苦笑を浮かべる。
ヒカミーヤは元魔王だ。おそらく、料理は側付きに作ってもらっていたのだろう。それに彼女はまだ人間界に疎い。まだ弁明の余地はある。
問題はサルファだ。彼女は元男とは言え、元勇者だ。人間界に詳しいはずだ。シュウの勝手な見解だが、おそらく魔王城らしきものを探して、旅していたはずだ。なのにこの料理下手。弁明のしようもないし、シュウからするとキチンとしたご飯を食べられていたのか不安になる。
「わかりました。こ、今度料理を教えます。今回は俺が作りますから」
シュウが告げると二人は見るからに落ち込んでいた。二人が獣人だとしたら、耳が折り畳まれているだろう。そんな二人の様子を見て、シュウは少し申し訳なくなるが、気にしないことにする。
「そ、それで、材料は何がありますか?」
「色々ありますよ」
シュウの質問に店主の妻は答えながら、冷蔵庫らしきものを開けていた。中には見たことがない材料もあったが、一通りはどんなものか理解ができる材料だ。
「器具とか勝手に使わせてもらいますね」
「うん。どうぞ」
許可を得たので、シュウは簡単に五人分の料理を使った。そして、それぞれの前に差し出す。しかし、全員が不思議そうに首を傾げていた。この世界に存在しないことを知ったシュウは簡単に話す。
「こ、これは俺の世界にあったチャーハンという料理です。卵とご飯さえあれば誰でも簡単にできます。色々と工夫のしようはあります」
「へぇー、そんなものがあるんだね」
店主が不思議そうにしていた。だが、漂ってくるチャーハンの醤油が焼けたような匂いに我慢するのが辛そうだ。
「遠慮なく食べてくださいね。俺がいた世界だと簡単に作れますけど」
「「「「いただきます」」」」
ヒカミーヤ、サルファ、店主、店主の妻が声を揃えて言った。どうやらそんなにも我慢していたようだ。
「美味しい……」
チャーハンを口に入れた瞬間、ヒカミーヤが呟くように言った。
「たしかに」
「これは驚いた」
「どうやって作るのですか?」
三人が同時に声を出した。
「えっと……」
シュウは店主の妻に近づいて、作り方を教えた。
「なるほど。今度作ってみますね」
店主の妻の言葉にシュウは軽く首だけでお辞儀する。周りを見ると、シュウと店主の妻を除けば、食べ終わっていた。だから、シュウはチャーハンをかきこむ。
「うっ!」
かきこみすぎて、喉に詰まる。そんなシュウを見た瞬間、ヒカミーヤは自分が飲んでいた水を飲ませて、サルファは心配そうな表情をして、近づいてくる。
無事流れていったので、二人に軽くお辞儀をした。二人は優しい笑みを浮かべるのみ。
「それでは、そろそろ帰らせていただきますね」
「わかった。ちなみに直で持って帰るか? それとも配達にするか?」
「は、配達だと、一番早くて、いつ頃に着きますか?」
「今日の晩には」
「晩ですか……」
シュウは今日の晩にビルル救出作戦をするつもりだった。そのため少し迷う。だが、作戦がバレるわけにはいかない。
「でしたら、配達でお願いします」
「了解」
返事を聞いたので、シュウはお辞儀して、食器を流し台に持っていくと、部屋から出て行った。
「二人ともありがとうございます」
「ん? 何がだ?」
サルファが不思議そうにする。ヒカミーヤも何のことかわからないので、首を傾げた。
「喉を詰まらせた時です」
「ああー、あれか。別に気にするな。オレなんてただ、近づいただけだしな」
「それでもです。それに二人とも、俺に気を使って、料理を作ろうとしましたよね」
「失敗しましたけど……」
「それでもです」
「気にすんな。それよりも、いつ教えてくれるんだ?」
サルファの言葉にヒカミーヤがコクコクと頷く。二人の反応にシュウは目を丸くした。
「どうした?」
「い、いえ。失礼ながらも、そこまでやる気だとは思っていなかったので」
「ハハハ。たしかにな。でも、オレたちはシュウの使用人みたいなものだし、当然だろ」
サルファの言葉に少しシュウは嫌そうな表情を浮かべた。
「す、少し買い物してから、今日の夜中に実行する作戦を立てましょうか」
シュウの言葉にヒカミーヤとサルファはコクリと頷いた。
ヒカミーヤとサルファは、なぜかシュンと落ち込んでいる。そんな二人に訝しげな表情を浮かべながら、店主の妻に視線を移した。
「料理が失敗しちゃったんですよ」
店主の妻が苦笑を浮かべながら言う。
「な、何を作ろうとしたのですか?」
軽くと言っていたから、軽いはずだが、失敗したということは難しいのに挑戦したかもしれないとシュウは考えた。
「その……」
少し言いにくそうだ。本当に何か難しいのを作ろうとしたのではないかと、シュウは不安になる。
「サンドウィッチを……」
「へっ?」
店主の妻から出てきた単語が予想外過ぎて、思わず変な声が出てしまった。
異世界にサンドウィッチという料理があることにも驚いたが、それよりもサンドウィッチで失敗したことの驚きの方が大きい。
シュウはサンドウィッチの具材を作ろうとしたのだと考え直す。所詮、サンドウィッチとは言え、難しくしようと思えば、いくらでも難しくできる。おそらくは今夜、大きめの戦いをするため気を使ったのだろうと、シュウは考えた。
「い、一体、どんな材料を使おうとしたのですか?」
「単純ですよ。卵とレタス、それにハムです」
「えっ? それだけですか!?」
問い返したシュウに店主の妻はコクリと頷いた。あまりにも予想外過ぎて、シュウは二人を見る。しかし、視線を合わせようとしない。二人の反応にシュウはため息をついた。
「そ、それで、生み出された料理はどれですか? 俺の前に持ってきてください」
シュウの言葉に二人は渋々という感じで、持ってきた。
「…………」
持ってこられた料理に言葉を失う。
片や紫色の瘴気らしきものが漂っていて、どういうわけかパンの原型がない。あるのはただの丸い塊。
片やパンの原型はキチンとあり、見た目は普通のサンドウィッチ。しかし、香りは料理とは思えないほど臭い。簡単に言うと、夏場におっさんが脱いだ靴下を三日間放置したかのような異臭だ。
「どうしてこうなった」
「し、四角かったら危ないと思いました。それに材料が少し少ないように感じたので」
「ヒカミーヤさん。サンドウィッチの材料はシンプルな方がいいですよ。それにパンは刺さるほど硬くないです」
「えっ? そ、そうなのですか?」
本当に驚いたように目を丸くした。その反応にシュウは苦笑を浮かべる。
ヒカミーヤは元魔王だ。おそらく、料理は側付きに作ってもらっていたのだろう。それに彼女はまだ人間界に疎い。まだ弁明の余地はある。
問題はサルファだ。彼女は元男とは言え、元勇者だ。人間界に詳しいはずだ。シュウの勝手な見解だが、おそらく魔王城らしきものを探して、旅していたはずだ。なのにこの料理下手。弁明のしようもないし、シュウからするとキチンとしたご飯を食べられていたのか不安になる。
「わかりました。こ、今度料理を教えます。今回は俺が作りますから」
シュウが告げると二人は見るからに落ち込んでいた。二人が獣人だとしたら、耳が折り畳まれているだろう。そんな二人の様子を見て、シュウは少し申し訳なくなるが、気にしないことにする。
「そ、それで、材料は何がありますか?」
「色々ありますよ」
シュウの質問に店主の妻は答えながら、冷蔵庫らしきものを開けていた。中には見たことがない材料もあったが、一通りはどんなものか理解ができる材料だ。
「器具とか勝手に使わせてもらいますね」
「うん。どうぞ」
許可を得たので、シュウは簡単に五人分の料理を使った。そして、それぞれの前に差し出す。しかし、全員が不思議そうに首を傾げていた。この世界に存在しないことを知ったシュウは簡単に話す。
「こ、これは俺の世界にあったチャーハンという料理です。卵とご飯さえあれば誰でも簡単にできます。色々と工夫のしようはあります」
「へぇー、そんなものがあるんだね」
店主が不思議そうにしていた。だが、漂ってくるチャーハンの醤油が焼けたような匂いに我慢するのが辛そうだ。
「遠慮なく食べてくださいね。俺がいた世界だと簡単に作れますけど」
「「「「いただきます」」」」
ヒカミーヤ、サルファ、店主、店主の妻が声を揃えて言った。どうやらそんなにも我慢していたようだ。
「美味しい……」
チャーハンを口に入れた瞬間、ヒカミーヤが呟くように言った。
「たしかに」
「これは驚いた」
「どうやって作るのですか?」
三人が同時に声を出した。
「えっと……」
シュウは店主の妻に近づいて、作り方を教えた。
「なるほど。今度作ってみますね」
店主の妻の言葉にシュウは軽く首だけでお辞儀する。周りを見ると、シュウと店主の妻を除けば、食べ終わっていた。だから、シュウはチャーハンをかきこむ。
「うっ!」
かきこみすぎて、喉に詰まる。そんなシュウを見た瞬間、ヒカミーヤは自分が飲んでいた水を飲ませて、サルファは心配そうな表情をして、近づいてくる。
無事流れていったので、二人に軽くお辞儀をした。二人は優しい笑みを浮かべるのみ。
「それでは、そろそろ帰らせていただきますね」
「わかった。ちなみに直で持って帰るか? それとも配達にするか?」
「は、配達だと、一番早くて、いつ頃に着きますか?」
「今日の晩には」
「晩ですか……」
シュウは今日の晩にビルル救出作戦をするつもりだった。そのため少し迷う。だが、作戦がバレるわけにはいかない。
「でしたら、配達でお願いします」
「了解」
返事を聞いたので、シュウはお辞儀して、食器を流し台に持っていくと、部屋から出て行った。
「二人ともありがとうございます」
「ん? 何がだ?」
サルファが不思議そうにする。ヒカミーヤも何のことかわからないので、首を傾げた。
「喉を詰まらせた時です」
「ああー、あれか。別に気にするな。オレなんてただ、近づいただけだしな」
「それでもです。それに二人とも、俺に気を使って、料理を作ろうとしましたよね」
「失敗しましたけど……」
「それでもです」
「気にすんな。それよりも、いつ教えてくれるんだ?」
サルファの言葉にヒカミーヤがコクコクと頷く。二人の反応にシュウは目を丸くした。
「どうした?」
「い、いえ。失礼ながらも、そこまでやる気だとは思っていなかったので」
「ハハハ。たしかにな。でも、オレたちはシュウの使用人みたいなものだし、当然だろ」
サルファの言葉に少しシュウは嫌そうな表情を浮かべた。
「す、少し買い物してから、今日の夜中に実行する作戦を立てましょうか」
シュウの言葉にヒカミーヤとサルファはコクリと頷いた。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
124
-
-
140
-
-
157
-
-
2
-
-
353
-
-
104
-
-
125
-
-
89
-
-
755
コメント