救世主になんてなりたくなかった……
第68主:二人はただの肉壁
シュウは目を開けると青空が広がっていた。雲は所々あるが概ねは青空だ。
頭がボーッとしている。
「目が覚めた?」
声が聞こえてきた。そちらに向こうと首を動かそうとすると、目の前に暗めの赤い瞳が現れた。
寝起きの頭を働かせて、一つの答えに至る。色々とそこに至った理由があるが、一番大きな理由は後頭部に柔らかな感触があったからだ。
シュウは今、ビルルに膝枕をされている。
頭がそのことを認識した瞬間、シュウを顔を真っ赤に染めた。
「〜〜!!」
声にならない声を上げると慌てて、その場から転がり逃げ出す。
「ど、どどどどうして……ひ、膝枕を!?」
「嫌だった?」
「い、嫌じゃないですけど……」
「なら、いいじゃない」
「せ、せめて理由を教えてください!」
「理由? どうして?」
「理由がなかったら、まるで……こ、恋人みたいじゃないですか。俺たちはまだ出会って四日目ですよ。理由なく膝枕するのはおかしいと思います」
「そういえばまだ四日目だったね。もっと、前からいた気がするよ」
「た、たしかに。の、濃密な時間を送ってますからね」
「まぁ、膝枕している理由は簡単だけどね。あまり、あの技を使って刎ねたことがないからくっ付くのを少しでも早くするためだよ。地面に放置していたら、くっ付くのが遅いからね。シュウくんはわかってないだろうけど、あの技で刎ねた首の断面を見るとズタズタになっていたよ」
「そうなのですか」
「やっぱりあの技は人にぶつけちゃダメだね。つい本気になっちゃった」
「嘘ですね」
「どうしてそう思うの?」
「ど、どうしても何もあなた自身が言っていたじゃないですか」
「わたし自身が?」
「ボケているのか、本当に記憶がないのかわかりませんが、本気の片鱗を見せると」
シュウの言葉を聞いたビルルは苦笑を浮かべた。それが何を意味するのかはシュウにもわからない。
とりあえず起き上がる。ビルルに止められることはなかった。
「ビルルさん。今は何時で、いつから闘技戦の開会式ですか?」
「今は七時前で開会式は九時からだね」
「なら、そろそろ用意しないとですね」
「うん。あっ、シュウくん。朝食は一緒に食べるけど闘技戦の会場に着いたら敵同士だからね」
「わかってます。ですが、明日からの特訓はどうすれば?」
「それら普通にするよ。あくまで会場だけでは敵同士だから、それ以外では友達として仲良くしてね」
ビルルの言葉に苦笑いをシュウは浮かべた。そんなシュウを見るとビルルは微笑んだ。
ビルルは虚空に鍵を差し込む。そして回す。それにより扉が開く。もう、慣れたのでシュウは先行して入る。そのことに少し驚いたビルルだが、特に問題はないので、ついていった。
扉をくぐるとシュウの部屋だった。しかし、入った瞬間に二人の思考が停止する。
目の前でヒカミーヤが全裸でサルファの服を脱がし、ヘソを舐めていたのだ。
シュウは一瞬にして顔を真っ赤に染め、目を閉じる。そして、空気と化す。生前に慣れていたため、苦はない。ただ、自分の存在を希薄にしていく。そんなシュウの行動を見て、怒るかのように見えたが、ビルルは苦笑を浮かべた。そして、大人しくヒカミーヤの行為を見る。その視線に気づいたのか、ヒカミーヤは慌てて、こちらを見る。そして、シュウとビルルの姿を視界に入れた。
全裸のヒカミーヤはどういうわけか、こちらに向かってくる。何か危機を感じたシュウも目を開ける。しかし、シュウとヒカミーヤの間にビルルが割り込む。ヒカミーヤは進み続ける。ビルルは構えた。接触寸前、ヒカミーヤがビルルを飛び越えた。しかし、ビルルも甘くない。すぐに後退して、細剣を構える。今度はヒカミーヤが左に避けた。それを追い、容赦なくヒカミーヤに突きを放つ。
避けるとその場の誰もが思っていた。しかし、ヒカミーヤは細剣を思いっきり掴み、止める。壊れるまではいかないにしてもミシミシと音を立てていた。
「なんて……力……っ!」
このままでは折られると判断したビルルは細剣を投げ捨てて、魔法でなんとかしようとした。しかし、細剣を投げるという一秒にも満たない行動をヒカミーヤはチャンスだと考えた。そして、ビルルを超えてシュウの前にたどり着く。
恥ずかしくて顔を背けそうになるシュウだが、今のヒカミーヤの目を見て、全てを察した。そのため腕を広げて全てを受け止める態勢に入った。ヒカミーヤはそんなシュウを押し倒して、馬乗りになる。
ヒカミーヤは舌なめずりをした。シュウはヒカミーヤの瞳を見る。彼女の瞳に光はなかった。そのため察したことが確信に変わる。
ヒカミーヤは今、己の力に飲み込まれている。おそらくは昨晩のシュウに対する疲労回復の技のせいだろう。申し訳なく思うからこそ、シュウは全てを受け入れる。たとえどんなことをされたっていい。それが彼女のためになるならば。
ヒカミーヤの背後を見るとビルルがいた。彼女はヒカミーヤを殺す気なのだろう。手には細剣を構えている。前髪で隠れている目からは殺気を感じ取ってしまう。
「ビルルさん! やめてください。ヒカミーヤがこんなことをするのは俺のためです。ですから、殺さないでください」
「ダメよ。主人に危害を加えようとした時点で処分することに決まっているから」
「それだと二人に人権はないじゃないですか!」
「当たり前よ。二人はただの肉壁。シュウくんの身代わり。壁は人間に反抗しないでしょう。人間を襲わないでしょう。だから、今の行動は処分に値するの。わかった?」
「わからない。わかってたまるか! みんながなんと言おうとも、俺はヒカミーヤとサルファのことを同じ人間だと思っている!」
ヒカミーヤの動きがピタリと止まる。
「二人を恨むのはわかる。でも、ビルルは俺を恨んでいない! 他の世界とはいえ、俺は今までこの世界の人たちのことを捕らえて、奴隷にしてきた異世界人なんだよ! 普通は俺みたいな異世界人じゃなくて、同じ世界の二人を守れよっ!」
シュウは叫ぶように言う。己の心の内を。ずっと言いたかった。でも、言う度胸がなかった。嫌われるのが怖かった。だけど、今回のことで抑えていた気持ちが決壊した。激流のように言葉が溢れ出した。
シュウの言葉にビルルの動きもヒカミーヤの動きも完全に止まっている。今のシュウの前だけ、時間が静止したようだ。
ビルルは呆れているのが見えた。だが、ヒカミーヤはどういうわけか静かに一筋を涙を流していた。その瞳には光が戻っていた。
「ぅ……ぅぅん?」
ただ一人、サルファが呑気な声を出しながら、起き上がる。
「えっ? な、何があった?」
サルファの質問はもっともだ。
全裸のヒカミーヤに組み敷かれているシュウ。それを眺めているビルル。シュウの真剣な表情しか見えないので、もっとわけがわからない状況だ。
サルファの脳内が酷く混乱していそうだ。
そして、自分の格好にも違和感を覚えたようで自分の姿を見る。彼女は今、下着姿が。
その状況にサルファの頭の容量は限界を超えた。そのためもう一度、布団の中に入り眠る。
サルファの行動を止める者は誰もいなかった。
頭がボーッとしている。
「目が覚めた?」
声が聞こえてきた。そちらに向こうと首を動かそうとすると、目の前に暗めの赤い瞳が現れた。
寝起きの頭を働かせて、一つの答えに至る。色々とそこに至った理由があるが、一番大きな理由は後頭部に柔らかな感触があったからだ。
シュウは今、ビルルに膝枕をされている。
頭がそのことを認識した瞬間、シュウを顔を真っ赤に染めた。
「〜〜!!」
声にならない声を上げると慌てて、その場から転がり逃げ出す。
「ど、どどどどうして……ひ、膝枕を!?」
「嫌だった?」
「い、嫌じゃないですけど……」
「なら、いいじゃない」
「せ、せめて理由を教えてください!」
「理由? どうして?」
「理由がなかったら、まるで……こ、恋人みたいじゃないですか。俺たちはまだ出会って四日目ですよ。理由なく膝枕するのはおかしいと思います」
「そういえばまだ四日目だったね。もっと、前からいた気がするよ」
「た、たしかに。の、濃密な時間を送ってますからね」
「まぁ、膝枕している理由は簡単だけどね。あまり、あの技を使って刎ねたことがないからくっ付くのを少しでも早くするためだよ。地面に放置していたら、くっ付くのが遅いからね。シュウくんはわかってないだろうけど、あの技で刎ねた首の断面を見るとズタズタになっていたよ」
「そうなのですか」
「やっぱりあの技は人にぶつけちゃダメだね。つい本気になっちゃった」
「嘘ですね」
「どうしてそう思うの?」
「ど、どうしても何もあなた自身が言っていたじゃないですか」
「わたし自身が?」
「ボケているのか、本当に記憶がないのかわかりませんが、本気の片鱗を見せると」
シュウの言葉を聞いたビルルは苦笑を浮かべた。それが何を意味するのかはシュウにもわからない。
とりあえず起き上がる。ビルルに止められることはなかった。
「ビルルさん。今は何時で、いつから闘技戦の開会式ですか?」
「今は七時前で開会式は九時からだね」
「なら、そろそろ用意しないとですね」
「うん。あっ、シュウくん。朝食は一緒に食べるけど闘技戦の会場に着いたら敵同士だからね」
「わかってます。ですが、明日からの特訓はどうすれば?」
「それら普通にするよ。あくまで会場だけでは敵同士だから、それ以外では友達として仲良くしてね」
ビルルの言葉に苦笑いをシュウは浮かべた。そんなシュウを見るとビルルは微笑んだ。
ビルルは虚空に鍵を差し込む。そして回す。それにより扉が開く。もう、慣れたのでシュウは先行して入る。そのことに少し驚いたビルルだが、特に問題はないので、ついていった。
扉をくぐるとシュウの部屋だった。しかし、入った瞬間に二人の思考が停止する。
目の前でヒカミーヤが全裸でサルファの服を脱がし、ヘソを舐めていたのだ。
シュウは一瞬にして顔を真っ赤に染め、目を閉じる。そして、空気と化す。生前に慣れていたため、苦はない。ただ、自分の存在を希薄にしていく。そんなシュウの行動を見て、怒るかのように見えたが、ビルルは苦笑を浮かべた。そして、大人しくヒカミーヤの行為を見る。その視線に気づいたのか、ヒカミーヤは慌てて、こちらを見る。そして、シュウとビルルの姿を視界に入れた。
全裸のヒカミーヤはどういうわけか、こちらに向かってくる。何か危機を感じたシュウも目を開ける。しかし、シュウとヒカミーヤの間にビルルが割り込む。ヒカミーヤは進み続ける。ビルルは構えた。接触寸前、ヒカミーヤがビルルを飛び越えた。しかし、ビルルも甘くない。すぐに後退して、細剣を構える。今度はヒカミーヤが左に避けた。それを追い、容赦なくヒカミーヤに突きを放つ。
避けるとその場の誰もが思っていた。しかし、ヒカミーヤは細剣を思いっきり掴み、止める。壊れるまではいかないにしてもミシミシと音を立てていた。
「なんて……力……っ!」
このままでは折られると判断したビルルは細剣を投げ捨てて、魔法でなんとかしようとした。しかし、細剣を投げるという一秒にも満たない行動をヒカミーヤはチャンスだと考えた。そして、ビルルを超えてシュウの前にたどり着く。
恥ずかしくて顔を背けそうになるシュウだが、今のヒカミーヤの目を見て、全てを察した。そのため腕を広げて全てを受け止める態勢に入った。ヒカミーヤはそんなシュウを押し倒して、馬乗りになる。
ヒカミーヤは舌なめずりをした。シュウはヒカミーヤの瞳を見る。彼女の瞳に光はなかった。そのため察したことが確信に変わる。
ヒカミーヤは今、己の力に飲み込まれている。おそらくは昨晩のシュウに対する疲労回復の技のせいだろう。申し訳なく思うからこそ、シュウは全てを受け入れる。たとえどんなことをされたっていい。それが彼女のためになるならば。
ヒカミーヤの背後を見るとビルルがいた。彼女はヒカミーヤを殺す気なのだろう。手には細剣を構えている。前髪で隠れている目からは殺気を感じ取ってしまう。
「ビルルさん! やめてください。ヒカミーヤがこんなことをするのは俺のためです。ですから、殺さないでください」
「ダメよ。主人に危害を加えようとした時点で処分することに決まっているから」
「それだと二人に人権はないじゃないですか!」
「当たり前よ。二人はただの肉壁。シュウくんの身代わり。壁は人間に反抗しないでしょう。人間を襲わないでしょう。だから、今の行動は処分に値するの。わかった?」
「わからない。わかってたまるか! みんながなんと言おうとも、俺はヒカミーヤとサルファのことを同じ人間だと思っている!」
ヒカミーヤの動きがピタリと止まる。
「二人を恨むのはわかる。でも、ビルルは俺を恨んでいない! 他の世界とはいえ、俺は今までこの世界の人たちのことを捕らえて、奴隷にしてきた異世界人なんだよ! 普通は俺みたいな異世界人じゃなくて、同じ世界の二人を守れよっ!」
シュウは叫ぶように言う。己の心の内を。ずっと言いたかった。でも、言う度胸がなかった。嫌われるのが怖かった。だけど、今回のことで抑えていた気持ちが決壊した。激流のように言葉が溢れ出した。
シュウの言葉にビルルの動きもヒカミーヤの動きも完全に止まっている。今のシュウの前だけ、時間が静止したようだ。
ビルルは呆れているのが見えた。だが、ヒカミーヤはどういうわけか静かに一筋を涙を流していた。その瞳には光が戻っていた。
「ぅ……ぅぅん?」
ただ一人、サルファが呑気な声を出しながら、起き上がる。
「えっ? な、何があった?」
サルファの質問はもっともだ。
全裸のヒカミーヤに組み敷かれているシュウ。それを眺めているビルル。シュウの真剣な表情しか見えないので、もっとわけがわからない状況だ。
サルファの脳内が酷く混乱していそうだ。
そして、自分の格好にも違和感を覚えたようで自分の姿を見る。彼女は今、下着姿が。
その状況にサルファの頭の容量は限界を超えた。そのためもう一度、布団の中に入り眠る。
サルファの行動を止める者は誰もいなかった。
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