救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第42主:屋台巡り⑸

 セインドが言った連れて行きたい場所。そこに向かうまでの道中で彼らは屋台巡りをしていた。屋台には食べ物だけではなく縁日のような遊び。仮面なども子供向けのモノを売っていたりしている。それらの屋台で買い物をしたりしていると、ある屋台の前でセインドが立ち止まった。

「おっ? こりゃあ、運がいい。悪いがそこで待っていてくれ」

 彼はそうとだけ言うとシュウたちを置いて、一人で屋台に向かっていった。そんな彼の行動にシュウは首をかしげる。でも、ビルルは何かを察したのか「ああ」と言っていた。

「な、何かわかったのですか?」

「うん。あの屋台はサイフォーテの照り焼きを売っているようだよ。運がいいことに商品が残っていて、さらに並ばずに買うことができるみたいね」

 シュウは屋台に向かった彼の方を見る。すると、隣から別の人がやってくるのが見えた。その人は顔は見えないが、服装がクラウダー学園の女生徒の制服なのはわかる。

 同時に屋台のおじさんに頼み、声が重なったのだろう。お互いに顔を見合う。すると、知っている人物だったのか驚いている。シュウは目を凝らして、二人の様子を見る。おかげで同時に屋台に来た相手の顔がわかった。その人物はシュウも知っている人物だ。

 彼女はセインドの顔を見ると、顔を真っ赤に染めている。そんな彼女に気づかずにセインドは屋台にあるサイフォーテの照り焼きの数を数える。すると、数が足りなかったのか悔しそうな表情を浮かべる。

 彼は残っている全て注文したようだ。その数は六つ。やってきた彼女の分も合わせると一つ足りないのだ。屋台のおじさんからもらった袋から一つ取り出して、笑顔で隣にいる彼女に渡す。そんな彼の行動に驚きの表情を彼女は浮かべていた。しかし、彼は当然とばかりに彼女に何も言わず、こちらに戻ってきた。

「待たせて悪いな。コウスターがいたから、つい話しちまった。んで、これ。サイフォーテの照り焼きだ。食べてみてくれ」

 セインドはみんなに渡していく。自分の分がないのにだ。その顔は少し残念そう。

「はい。これシュウの分」

 みんなに渡す時と同じような表情で彼はシュウにも渡す。

「せっかく買ってきたもらったのに、悪いが食いすぎで腹一杯なんだ。よければ食べてくれ。捨てられるよりもその方がサイフォーテと店員も嬉しいだろうからな」

「そ、そうか。なら、遠慮なくいただく」

「あぁ」

 そうして六人は食べ始める。みんなして、食べた瞬間に幸せそうな表情を浮かべている。みんなの表情を見て、素直にシュウは嬉しく思う。

 誰かが幸せにすると、シュウは嬉しく感じるのだ。だと言うのに今は自分が幸せだったら、罪悪感を覚えてしまう。でも、彼にとってはほとんどが幸せに感じてしまう。

 誰かを好きになったり、好きになられたり。普通の日常をただ送っているだけでも彼は幸せを感じ、罪悪感を抱いてしまう。幸いなことに、この世界だと戦時中ではないが、死といつまでも隣り合わせになっているので、抱く罪悪感は少ない。

「食べてる最中だけど、案内して」

「んあ? わかった。というかそろそろ時間的にヤバいな……。少し急ぐぞ」

「急ぐのはいいけど、喉に詰まらせるのは注意してください」

「わかってるって」

 セインドを先頭にビルル、グウェイ、シュウ、ヒカミーヤとサルファという順番でついていく。

「シュウ」

「ど、どうしましたか?」

「ん?」

「こ、コレは?」

「サイフォーテの照り焼きの一部。どうせお腹いっぱいじゃないんだろう。自分はいいからって、全員が食べれるようにする。シュウは優しいから、そんなことをするくらいわかっている」

「会ってまだ二日しか経っていないのに?」

「たった二日。されど二日だ。オレはお前が自己犠牲をよくしていることくらい知っている。恐らくヒカミーヤもだ。でも、今回は無意識の小さな自己犠牲だったから、ヒカミーヤは気づかなかったのだろう」

「さすがはサルファさんですね。ありがたくいただきますね」

「おう」

 シュウはサルファから爪楊枝つまようじを受け取ろうと爪楊枝に触れようとしたが首を傾げられる。彼女は指で掴み「口開けろ」と言ってくる。照り焼きなのでベトベトするから、爪楊枝で食べようとしていたのだ。でも、彼女はすでに掴んでしまった。少し恥ずかしいけど、指がさらにベトベトし出すだろうから、彼は自らの恥ずかしさを抑えて、指から食べた。

 サイフォーテとは言われた通りに口の中に含むと肉が溶け出して、照り焼きの味が口の中に広がる。しかも、照り焼きと言いながらも、ピリ辛だった。

 確かにコレは代表的だと納得した。

「ちなみにサイフォーテはよく手に入るから庶民的だぞ」

「こ、こんなに美味しいものが庶民的だなんて、この世界は贅沢ですね」

「へへ……。オレが褒められたわけではないのになんか、嬉しいな」

「そう感じるなんて、ゆ、勇者的ですね」

「ハハッ。サンキュ。一応、人間にしいたげられてきたけど、オレは人間が好きだからな」

「スゴイですね」

「しゅ……シュウ。わ、妾のもお一つどうぞ」

「いいのですか?」

「は、はい。妾たちだけが贅沢するのはおかしいですから」

「ま、魔王らしくない考え方ですね」

「そ、そんな! ……いえ、確かにそうですね。妾は魔王らしくない。魔王はもっと冷酷に残虐にならないといけないですよね」

「い、言ったら悪いですが、教室でのアレは残虐でしたよ」

「そ、そんな! ありがとうございます」

「いえいえ、お気に入りなさ、なさらないでください。そ、それにさっきの魔王らしくないは良い意味でですよ」

「そ、そうですか。お褒めに預かり光栄です」

「あっ。そういえばお二人はこの祭り楽しめましたか?」

「はい! とっても!」
  
「オレたちが捕らえられた祝いだけど、どこもオレたちのことは話していなかったし、平和だった。だから、楽しめたな」

「なら、よかったです」

「そ、そういうあなたはどうですか?」

「俺も楽しめました。この世界のことでわかったことが色々とありましたし」

 シュウが答えると優しい笑みをサルファとヒカミーヤが浮かべた。そんな二人の笑みに彼は恥ずかしく思う。

「そろそろ着くぞ」

 セインドがみんなに聞こえるような声で言うと視界が光に包まれた。

 空には綺麗な星と月が淡い光を発していた。そして、眼下には街が発しているきらびやかな光。まるで光の世界だ。左右にはただの林しかないが。

「ここが……みんなを連れてきたかった場所だ!」

 セインドは光をバックに大きく手を広げる。そのせいで彼すらもキラキラと光っているように感じた。

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