救世主になんてなりたくなかった……
第38主:屋台巡り⑴
ビルルに手を引かれてシュウがたどり着いた場所は何かのタレが焼かれているのか、とてもいい匂いがする屋台通りの入り口。今の彼のお腹には何も入っていないので、自然とぐぅーと音が鳴る。
「もう、お腹空いたの? さっき生姜焼き食べたばかりなのに」
「はは。まぁ、路地裏で走り回っていましたから」
「そう。シュウくんは育ち盛りだし、仕方ないか」
「それを言うのでしたら、あなたもじゃないですか。び、ビルルさん」
「残念。わたしの成長期は二年前に終わったよ。でも、一つ悲しいところがあるの」
「悲しいところですか……」
今でも充分な気がするが、恐らく身長をもう少し欲しかったとかだろうとシュウは考える。
『うん。おっぱいがもう少し欲しかったの』
「おっぱ……!!」
あまりの予想外の回答に彼は顔を赤くして、キョロキョロと視線が必要以上に動いてしまう。さすがにマズイと考えた彼はそっと目を閉じた。
『焦りすぎだよ。でも、仕方ないよね。普通ならわたしも残念に思わなかったからね。でも、そこに元男なのにスゴい胸囲の存在がいるからね』
「えっ……えっ……?」
突然、話を振られたのでサルファは戸惑ってしまう。幸い、言った本人を含む四人にしか聞こえないようにビルルが念話を使ったので、周りの誰にも聞こえていない。彼女自身が言った悲しいところも念話を使っていた。でも、シュウとサルファは予想外だったので、二人して声に出してしまう。
「さっ、屋台で何か食べましょう!」
「そうね。あなたはお腹が減って死にそうなんだもんね」
「そ、そこまでは言ってませんが、そういうことにしておきます」
「うむ」
「ビルルさんに一つ質問です」
「どうしたの?」
「おすすめを教えていただけないでしょうか」
「わかったよ。でも、わたしの好みで判断するから」
「それでだ、大丈夫です」
「そうねぇ。やっぱりまずはこれかしら」
「こ、これは……」
彼女が手に取ったものの姿は彼は見たことある。でも、こんな調理の仕方は見たことがない。そもそも、これを食べようとは思えない。
栄養があることはなんとなくわかる。菌が山盛りあることはよく知っている。人間に害を及ぼす存在だということもよく知っている。常人では食べようと思わないだろう。目の前にいる彼女のオススメがこれだということに驚きを隠せないし、引いてしまう。
もしかすると、姿が似ているだけで彼が知っている存在ではないのかもしれない。
姿が似ている時点で食べる気は起きずに吐き気が起きる。断るわけにはいかないこともわかっている。
「こ、こここれは……?」
「鎧翼虫の丸焼きだよ。ちなみに鎧翼虫はどういうわけか死ぬの。だから、こんな風によく出回ってるんだ。とても人気なんだ。特にこの甘辛いタレをかけて食べるのがね」
「はははは……そ、そうなのですか……」
満面の笑みで紹介されたが、彼の笑みは引きつってしまう。
それもそのはず。鎧翼虫とはこの世界ではどういう扱いになるかわからないが、見た目はまんま日本人の大半が天敵のゴキブリ。しかも、羽根を広げている状態。それをすすめられているのだ。仕方がないこと。
「さぁ、食べて食べて!」
「うっ……い、いただきます」
あんなにも嬉しそうにすすめられたら、断るわけにはいかないし、断れない。だからこそ、彼は串に突き刺さっている鎧翼虫を受け取り、目を閉じる。でも、屋台からは離れていく。
これはエビだと自分に言い聞かせる。思い切って、食べた。
舌の上に転がすと長いこと残るので、噛み砕いてすぐに口の中から消すことにした。しかし、予想以上に硬かったので驚いたが、噛めないわけではない。噛むとグチャッと潰れて歯にくっつくし、最初は甘辛くて美味しいかと思ったが、すぐに苦くなる。ホントにただの虫を食べているようだ。
「の、飲み物をくださいませんか……」
「なら、これね」
渡されたカップに入っている飲み物を一気に飲み干した。次の瞬間に頭がクラッとして倒れそうになるが、サルファとヒカミーヤの二人に支えられ、なんとか持ちこたえることができた。飲み物の味は完全なる無味無臭だった。水とかはほんのりと味があるが、今回は本物の無味無臭だった。ただ、液体を口の中に流し込んだだけ。そのせいで鎧翼虫の味がまだ口の中に残っている。
目の前で鎧翼虫をホントに美味しそうに彼女は食べている。その姿を見て、自分の舌は受け付けないんだなと理解した。
「あの飲み物はなんなのですか?」
「鎧翼虫の体液よ」
「ウプッ」
言われた瞬間に吐きそうになったが、なんとか飲み込んだ。
「どう? 美味しかった?」
「えっ…………と……まぁ、はい」
「そうよか」
「はぁ……ホントに君は優しいね」
「っ!?」
「えっ? あっ! あなたは……!!」
茶色のツーブロックの男性がビルルの背後にいて手を軽く上げながら「よっ」と言ってきた。
「えっと……な、名前なんでしたっけ?」
「んあ? あぁ。そういえば名乗ってなかったな。ボクの名前はセインド・U・リャアドだ。覚えにくいだろ。気軽にセインドと呼んでくれ」
「わかりました。俺の名前はシュウ・アサヤです。よろしくお願いします」
「堅っ苦しいな。敬語なんて使わなくていいからな。こっちも使わないし、シュウって呼び捨てにするからな」
「そんなの言っても彼は」
「わかった。よろしく頼む」
「あっるぇ!?」
「まぁでも、基本は今回のように外で会う時以外は敬語で話させてもらう」
「了解だ。それでシュウ。早速だが、どうしてあんな嘘をついた?」
「というと?」
「鎧翼虫の丸焼きと体液。クソ不味かっただろう?」
「えっ? いや、普通に美味しかっ」
「嘘を言うな。それくらいビルルとかいうバカ以外は誰でもわかる」
「あっ! バカって言っ」
「そこの二人もわかっただろう?」
「言葉遮るなんて酷くない!?」
「気なんて使わなくていい。首を縦か横に振るだけでいい」
「無視ですかっ!? ハハァン! そうですか!」
「び、ビルルさん! キャラ崩壊キャラ崩壊!」
ビルルのキャラ崩壊などシュウ以外は誰も気にしなかった。ヒカミーヤとサルファでさえ、彼女のことをスルーした。セインドの言葉に二人同時に頷く。
「で、実際はどうだったんだ? 教えてくれ。気を使わなくていい。なんかされそうになったら、ボクが助けてやる」
彼の言葉を聞いたシュウは理解した。セインド・U・リャアドという人物がモテる理由を。
恐らくは彼は強い。優しい。さらに誰にも分け隔てなく接する。そんな彼だからモテるのだ。物語の主人公というのは彼のことだと理解した。
「しょ、正直言うと口に合わなかった」
「えっ!? そ、そんなぁ!」
「ほらな。アレは食えたものじゃないとボクも思う」
「お前はゲテモノ好きだけど、遠慮する人の方が多いんだよ」
「それはどうだろう?」
「というと?」
「多分、ゲテモノ好きと遠慮する人は半々くらいだと思う。この世界に来て、まだ二日しか経ってないから、正しいかはわからないけど」
「まぁ……確かに言われてみればそれくらいだろう。そうじゃないと屋台なんて到底出せないだろうしな」
「それに鎧翼虫はもう少し手を加えて、虫だとわからなかったら、食べられると思う。あの独特な苦味と硬さを武器にしたら、他の食材と合わせて調和させたらね」
「なるほど。一理あるな」
「あっ、そうだ。一緒に屋台を回らない?」
「三人の許可を得れたらな」
「シュウがそういうのでしたら」
「右に同じくです」
サルファとヒカミーヤは承諾の意を示した。
「わたしもいいよ。代わりに何かオススメのものを教えてもらうけど」
「それくらいなら構わない」
「なら、決まりですね」
こうして四人プラス一人で屋台巡りをすることになった。
「もう、お腹空いたの? さっき生姜焼き食べたばかりなのに」
「はは。まぁ、路地裏で走り回っていましたから」
「そう。シュウくんは育ち盛りだし、仕方ないか」
「それを言うのでしたら、あなたもじゃないですか。び、ビルルさん」
「残念。わたしの成長期は二年前に終わったよ。でも、一つ悲しいところがあるの」
「悲しいところですか……」
今でも充分な気がするが、恐らく身長をもう少し欲しかったとかだろうとシュウは考える。
『うん。おっぱいがもう少し欲しかったの』
「おっぱ……!!」
あまりの予想外の回答に彼は顔を赤くして、キョロキョロと視線が必要以上に動いてしまう。さすがにマズイと考えた彼はそっと目を閉じた。
『焦りすぎだよ。でも、仕方ないよね。普通ならわたしも残念に思わなかったからね。でも、そこに元男なのにスゴい胸囲の存在がいるからね』
「えっ……えっ……?」
突然、話を振られたのでサルファは戸惑ってしまう。幸い、言った本人を含む四人にしか聞こえないようにビルルが念話を使ったので、周りの誰にも聞こえていない。彼女自身が言った悲しいところも念話を使っていた。でも、シュウとサルファは予想外だったので、二人して声に出してしまう。
「さっ、屋台で何か食べましょう!」
「そうね。あなたはお腹が減って死にそうなんだもんね」
「そ、そこまでは言ってませんが、そういうことにしておきます」
「うむ」
「ビルルさんに一つ質問です」
「どうしたの?」
「おすすめを教えていただけないでしょうか」
「わかったよ。でも、わたしの好みで判断するから」
「それでだ、大丈夫です」
「そうねぇ。やっぱりまずはこれかしら」
「こ、これは……」
彼女が手に取ったものの姿は彼は見たことある。でも、こんな調理の仕方は見たことがない。そもそも、これを食べようとは思えない。
栄養があることはなんとなくわかる。菌が山盛りあることはよく知っている。人間に害を及ぼす存在だということもよく知っている。常人では食べようと思わないだろう。目の前にいる彼女のオススメがこれだということに驚きを隠せないし、引いてしまう。
もしかすると、姿が似ているだけで彼が知っている存在ではないのかもしれない。
姿が似ている時点で食べる気は起きずに吐き気が起きる。断るわけにはいかないこともわかっている。
「こ、こここれは……?」
「鎧翼虫の丸焼きだよ。ちなみに鎧翼虫はどういうわけか死ぬの。だから、こんな風によく出回ってるんだ。とても人気なんだ。特にこの甘辛いタレをかけて食べるのがね」
「はははは……そ、そうなのですか……」
満面の笑みで紹介されたが、彼の笑みは引きつってしまう。
それもそのはず。鎧翼虫とはこの世界ではどういう扱いになるかわからないが、見た目はまんま日本人の大半が天敵のゴキブリ。しかも、羽根を広げている状態。それをすすめられているのだ。仕方がないこと。
「さぁ、食べて食べて!」
「うっ……い、いただきます」
あんなにも嬉しそうにすすめられたら、断るわけにはいかないし、断れない。だからこそ、彼は串に突き刺さっている鎧翼虫を受け取り、目を閉じる。でも、屋台からは離れていく。
これはエビだと自分に言い聞かせる。思い切って、食べた。
舌の上に転がすと長いこと残るので、噛み砕いてすぐに口の中から消すことにした。しかし、予想以上に硬かったので驚いたが、噛めないわけではない。噛むとグチャッと潰れて歯にくっつくし、最初は甘辛くて美味しいかと思ったが、すぐに苦くなる。ホントにただの虫を食べているようだ。
「の、飲み物をくださいませんか……」
「なら、これね」
渡されたカップに入っている飲み物を一気に飲み干した。次の瞬間に頭がクラッとして倒れそうになるが、サルファとヒカミーヤの二人に支えられ、なんとか持ちこたえることができた。飲み物の味は完全なる無味無臭だった。水とかはほんのりと味があるが、今回は本物の無味無臭だった。ただ、液体を口の中に流し込んだだけ。そのせいで鎧翼虫の味がまだ口の中に残っている。
目の前で鎧翼虫をホントに美味しそうに彼女は食べている。その姿を見て、自分の舌は受け付けないんだなと理解した。
「あの飲み物はなんなのですか?」
「鎧翼虫の体液よ」
「ウプッ」
言われた瞬間に吐きそうになったが、なんとか飲み込んだ。
「どう? 美味しかった?」
「えっ…………と……まぁ、はい」
「そうよか」
「はぁ……ホントに君は優しいね」
「っ!?」
「えっ? あっ! あなたは……!!」
茶色のツーブロックの男性がビルルの背後にいて手を軽く上げながら「よっ」と言ってきた。
「えっと……な、名前なんでしたっけ?」
「んあ? あぁ。そういえば名乗ってなかったな。ボクの名前はセインド・U・リャアドだ。覚えにくいだろ。気軽にセインドと呼んでくれ」
「わかりました。俺の名前はシュウ・アサヤです。よろしくお願いします」
「堅っ苦しいな。敬語なんて使わなくていいからな。こっちも使わないし、シュウって呼び捨てにするからな」
「そんなの言っても彼は」
「わかった。よろしく頼む」
「あっるぇ!?」
「まぁでも、基本は今回のように外で会う時以外は敬語で話させてもらう」
「了解だ。それでシュウ。早速だが、どうしてあんな嘘をついた?」
「というと?」
「鎧翼虫の丸焼きと体液。クソ不味かっただろう?」
「えっ? いや、普通に美味しかっ」
「嘘を言うな。それくらいビルルとかいうバカ以外は誰でもわかる」
「あっ! バカって言っ」
「そこの二人もわかっただろう?」
「言葉遮るなんて酷くない!?」
「気なんて使わなくていい。首を縦か横に振るだけでいい」
「無視ですかっ!? ハハァン! そうですか!」
「び、ビルルさん! キャラ崩壊キャラ崩壊!」
ビルルのキャラ崩壊などシュウ以外は誰も気にしなかった。ヒカミーヤとサルファでさえ、彼女のことをスルーした。セインドの言葉に二人同時に頷く。
「で、実際はどうだったんだ? 教えてくれ。気を使わなくていい。なんかされそうになったら、ボクが助けてやる」
彼の言葉を聞いたシュウは理解した。セインド・U・リャアドという人物がモテる理由を。
恐らくは彼は強い。優しい。さらに誰にも分け隔てなく接する。そんな彼だからモテるのだ。物語の主人公というのは彼のことだと理解した。
「しょ、正直言うと口に合わなかった」
「えっ!? そ、そんなぁ!」
「ほらな。アレは食えたものじゃないとボクも思う」
「お前はゲテモノ好きだけど、遠慮する人の方が多いんだよ」
「それはどうだろう?」
「というと?」
「多分、ゲテモノ好きと遠慮する人は半々くらいだと思う。この世界に来て、まだ二日しか経ってないから、正しいかはわからないけど」
「まぁ……確かに言われてみればそれくらいだろう。そうじゃないと屋台なんて到底出せないだろうしな」
「それに鎧翼虫はもう少し手を加えて、虫だとわからなかったら、食べられると思う。あの独特な苦味と硬さを武器にしたら、他の食材と合わせて調和させたらね」
「なるほど。一理あるな」
「あっ、そうだ。一緒に屋台を回らない?」
「三人の許可を得れたらな」
「シュウがそういうのでしたら」
「右に同じくです」
サルファとヒカミーヤは承諾の意を示した。
「わたしもいいよ。代わりに何かオススメのものを教えてもらうけど」
「それくらいなら構わない」
「なら、決まりですね」
こうして四人プラス一人で屋台巡りをすることになった。
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