救世主になんてなりたくなかった……
第36主:二度目の殺人
水色の髪の猫耳少女は地面に倒れているシュウに近づいていく。彼はピクリとも動かない。
彼女は彼の元に行くと、首を掴み、近くの壁に叩きつける。少し時間が経つとその場で離す。そのまま地面に彼は落ちた。
「脈が早かったわね。ということは内部を食い荒らされたのではなく、毒が回っているということだわ」
彼女は言いながらも、自らの腰のあたりにあるポーチの中を手探る。しかし、目的のものがなかったのか、すぐにやめた。
目的のものがなかったため、自分では役に立たないとわかった彼女はこの場を立ち去ろうと彼に背を向ける。
「うにゃああああああっ!!」
彼女は叫び声を上げる。何者かにネコの弱点でもある尻尾を握りしめられたのだ。いや、何者かではない。この場には全身が毒に侵されているシュウと彼女しかいないのだ。彼女以外が尻尾を掴んだとしたら、犯人は一人しかいない。
彼女は大きく飛び退いて、先ほどの戦闘で使った薙刀を構える。
彼は毒に侵されているのだ。その毒が何かわからない。神経を麻痺させる毒かもしれない。寄生しているかのように本人が思っていることとは違う行動をさせる毒かもしれない。筋力を底上げする毒かもしれない。
ゆらゆらとシュウが立ち上がったので、警戒を最大限に引き上げる。一瞬たりとも彼を見逃さない。
「はっ? なっ!?」
彼の姿が消えたと認識した時には、足を払われていた。そして、そのままお尻から地面に倒れることになった。すぐに立ち上がろうとしたが、足で彼女の腕は抑えて、彼女の足には乗った。今は馬乗りに近い状況になっている。
筋力が増強されているのか、腕の上にある足を払うことができない。それでも彼女は無理に動かそうとする。彼女の行動を、光が灯っていない瞳で、彼は見たかと思うと立ち上がり、すぐさま腕を踏みつけた。
骨が軋む音が聞こえてくる。数秒後には彼女の腕は足によって、完全に折られた。唇を噛み締めて、彼女は声を出さないよう必死だ。
彼女を見ずに彼は彼女が離した薙刀を手に待つと、軽くジャンプすると彼女の膝の上に叩き落とした。刀身の面の部分を使ったのだ。片方も同じようにした。
恐らくホントに骨が折れた。彼女の薙刀は特別製でかなり刃に重量がある。容易く十キロは超えているだろう。でも、柄に重量が軽いと錯覚する魔法が施されているため、難なく振り回せるのだ。
そんなものを膝の上に、しかもジャンプして叩き落としたら、骨など容易く折れるだろう。薙刀を投げ捨てた彼は確証を得られていないのか、思いっきり膝を踏みつける。
「ああああああああああああああああああああっ!!」
痛みのあまり、ついに叫び声を上げてしまう。でも、誰も助けに来ない。ここはまだ彼女の魔力の影響で外部には認知されない。
抵抗しようにも抵抗できなくなった彼女の腹の上に彼は馬乗りになる。自分でも、抵抗できないとわかっているので彼女は覚悟して、目をギュッと閉じた。
彼女の脳内にはこれからされるであろうことが、二通り浮かんでいる。
一つは殺される。
もう一つは犯される。
願わくば前者の方がいいが、彼は唯一の武器を捨てている。つまり後者になる可能性が圧倒的に高い。
前者なら、この世界ならどうということはない。でも、精神のキズは消えないので、後者だと最悪の場合、廃人になる。
彼は馬乗りの状態のまま、彼女の肩の上の地面に手をつく。前屈みの体勢になると、すぐに彼女の服の胸元に手をかける。あとは思いっきり、服を引き裂くのみ。引き裂き抵抗をできない彼女を犯せば、全て終わる。
でも、彼はまるで戸惑っているかのように何もしない。次の瞬間に彼は彼女の首を絞める。
息ができなくなり、苦しいが安心してしまう。彼は犯すのではなく殺すことを選んだ。それらのことで、さらに彼は他の異世界人とは違うことがわかった。彼以外の異世界人なら、欲望の中でも性欲に従順だ。さらに怠惰でもある。
首締めなどとという性欲とは直結しにくく、手間のかかることを選んだのだ。ギリギリと徐々に強く絞められていく。それに伴い意識も薄れてゆく。
「…………えっ?」
しかし、彼が声を出した瞬間に力は緩まり、意識も戻っていく。
「俺は……一体……何をしようと……」
シュウは彼女から降りて、すぐにフラフラとした足取りで後ろに下がっていく。
「ゲホッ! ゴホッ!」
当たり前だが、首を絞められていた彼女は咳き込んでしまう。そんな彼女に目もくれずに彼は尻もちをつき、全身を震わせる。自分の手を見る。
恐らく彼は自分が首を絞めて相手を殺そうとしたことに怯えている。それだけならまだマシだろうが、自分の手で妹を殺したことをフラッシュバックしたのだろう。同じ感触が手に残っているせいだ。
「アサヤ・シュウ。一つ頼みがあるわ。だから、とりあえず怯えるのはやめて」
「コウスター・T・トウセムダ……さん?」
彼女の、コウスターの声を聞いて、顔を上げる。それと同時に自分が首を絞めた相手は彼女だということを察した。でも、地面に寝転がったままなので疑問を抱く。
「私をこんな風にしたのはあなたよ。だから、責任取ってもらうわ」
「責任…………」
「私を殺して。そうしたら、こんなケガも一瞬で治るわ」
「で、でも…………」
「拒否権はなしよ」
「わ、わかりました……。ですが一体どうやって?」
「今回は特別に私の愛刀を使わせてあげるわ。それで首をスパンと切り落としたらいいわ」
「簡単に言いますけど、そんな力はお、俺にはないですよ」
「私でもできるのよ? なのに男である、あなたができなくてどうするのよ?」
「わ、わかりました……。やるだけやってみます」
彼は地面にある薙刀を取る。すぐに彼女の首に刃を添えてみる。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」
心臓の鼓動が早くなる。息が苦しい。全身が震える。立ちくらみがしてくる。妹をこの手で殺した時の気持ちが蘇る。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……」
彼は息を止めた。力を一方向だけにかける。
筋肉が刃の侵入を防いだ。さらに力を込める。どんどんどんどん首に刃が食い込んでいく。
彼女の首に二割ほど刃を食い込ませると抵抗が軽くなる。このまま一気に首を切り落としたい。
だから、一度抜く。
よく見ると彼女の口から赤い泡を出している。彼は気づいたが、このままではあまりにも可愛そうだと思い、薙刀を彼女の首に滑らせながら叩き落とした。すると、血を大量に吹き出しながら飛んでいった。
薙刀を地面に置く。飛んでいった彼女の首を取りに行き、切断面に合うように首を置く。ふらふらとした足取りで壁まで行き、座り込んだ。すぐに放心状態になった。
せっかく買ったばかりの服に返り血がたくさん付着している。でも、今の彼は気にしていないように見える。
数十秒後にようやく彼は動いた。と言っても、空を見上げるだけだ。そんな彼の目は虚ろ。
「はは……ははははは」
乾いた声で笑う。どこか寂しさが含まれているように感じる。
今の彼の手には相手の弱点を絞める感触と肉や骨を切断する感触が残っている。涙も出てこないので、自分は二回目なのに人殺しに罪悪感を覚えていないことがわかる。そのせいで自虐的な笑みを浮かべてしまう。
どれくらい時間が経ったのだろう。空が完全に闇に支配されている。日本で過ごしたシュウには暗く見えるが、この世界の人には明るく見えるだろう。今日は祭り。夜店も色んなところで出ているため、あちらこちらに灯りがある。その光が空に吸い込まれているのだ。
むくっとコウスターが起き上がったのが視界に入った。シュウに何か言うことがあるのか、まっすぐ彼の方へ進んでいく。怒られても仕方ないので、彼はその場を動かない。座りながら怒られるのはおかしいと思ったのか、立ち上がった。
彼女は彼の前で立ち止まる。
「っ!?」
次の瞬間、なんの前触れもなく抱きつかれた。先ほどまでも放心状態だったが、今は別の意味で放心状態になってしまっている。
彼女の息遣いが聞こえ……ない。そもそも、何も音が聞こえない。気がつくと地面に倒れ伏せていた。何があったかわからなかったが、すぐに首根っこがジワリと熱く感じる。
理解した。自らの首から血を流していることに。
理解した。彼女に刺されたことを。
理解した。今度は自分が死ぬ番だと。
理解した。彼女はそのために抱きついたのだと。
理解した。彼女は彼を救うために殺したのだと。
だからこそ、彼は素直に受け入れた。受け入れるしかない。
なぜか、穏やかな気持ちを抱きながら目を閉じた。
彼女は彼の元に行くと、首を掴み、近くの壁に叩きつける。少し時間が経つとその場で離す。そのまま地面に彼は落ちた。
「脈が早かったわね。ということは内部を食い荒らされたのではなく、毒が回っているということだわ」
彼女は言いながらも、自らの腰のあたりにあるポーチの中を手探る。しかし、目的のものがなかったのか、すぐにやめた。
目的のものがなかったため、自分では役に立たないとわかった彼女はこの場を立ち去ろうと彼に背を向ける。
「うにゃああああああっ!!」
彼女は叫び声を上げる。何者かにネコの弱点でもある尻尾を握りしめられたのだ。いや、何者かではない。この場には全身が毒に侵されているシュウと彼女しかいないのだ。彼女以外が尻尾を掴んだとしたら、犯人は一人しかいない。
彼女は大きく飛び退いて、先ほどの戦闘で使った薙刀を構える。
彼は毒に侵されているのだ。その毒が何かわからない。神経を麻痺させる毒かもしれない。寄生しているかのように本人が思っていることとは違う行動をさせる毒かもしれない。筋力を底上げする毒かもしれない。
ゆらゆらとシュウが立ち上がったので、警戒を最大限に引き上げる。一瞬たりとも彼を見逃さない。
「はっ? なっ!?」
彼の姿が消えたと認識した時には、足を払われていた。そして、そのままお尻から地面に倒れることになった。すぐに立ち上がろうとしたが、足で彼女の腕は抑えて、彼女の足には乗った。今は馬乗りに近い状況になっている。
筋力が増強されているのか、腕の上にある足を払うことができない。それでも彼女は無理に動かそうとする。彼女の行動を、光が灯っていない瞳で、彼は見たかと思うと立ち上がり、すぐさま腕を踏みつけた。
骨が軋む音が聞こえてくる。数秒後には彼女の腕は足によって、完全に折られた。唇を噛み締めて、彼女は声を出さないよう必死だ。
彼女を見ずに彼は彼女が離した薙刀を手に待つと、軽くジャンプすると彼女の膝の上に叩き落とした。刀身の面の部分を使ったのだ。片方も同じようにした。
恐らくホントに骨が折れた。彼女の薙刀は特別製でかなり刃に重量がある。容易く十キロは超えているだろう。でも、柄に重量が軽いと錯覚する魔法が施されているため、難なく振り回せるのだ。
そんなものを膝の上に、しかもジャンプして叩き落としたら、骨など容易く折れるだろう。薙刀を投げ捨てた彼は確証を得られていないのか、思いっきり膝を踏みつける。
「ああああああああああああああああああああっ!!」
痛みのあまり、ついに叫び声を上げてしまう。でも、誰も助けに来ない。ここはまだ彼女の魔力の影響で外部には認知されない。
抵抗しようにも抵抗できなくなった彼女の腹の上に彼は馬乗りになる。自分でも、抵抗できないとわかっているので彼女は覚悟して、目をギュッと閉じた。
彼女の脳内にはこれからされるであろうことが、二通り浮かんでいる。
一つは殺される。
もう一つは犯される。
願わくば前者の方がいいが、彼は唯一の武器を捨てている。つまり後者になる可能性が圧倒的に高い。
前者なら、この世界ならどうということはない。でも、精神のキズは消えないので、後者だと最悪の場合、廃人になる。
彼は馬乗りの状態のまま、彼女の肩の上の地面に手をつく。前屈みの体勢になると、すぐに彼女の服の胸元に手をかける。あとは思いっきり、服を引き裂くのみ。引き裂き抵抗をできない彼女を犯せば、全て終わる。
でも、彼はまるで戸惑っているかのように何もしない。次の瞬間に彼は彼女の首を絞める。
息ができなくなり、苦しいが安心してしまう。彼は犯すのではなく殺すことを選んだ。それらのことで、さらに彼は他の異世界人とは違うことがわかった。彼以外の異世界人なら、欲望の中でも性欲に従順だ。さらに怠惰でもある。
首締めなどとという性欲とは直結しにくく、手間のかかることを選んだのだ。ギリギリと徐々に強く絞められていく。それに伴い意識も薄れてゆく。
「…………えっ?」
しかし、彼が声を出した瞬間に力は緩まり、意識も戻っていく。
「俺は……一体……何をしようと……」
シュウは彼女から降りて、すぐにフラフラとした足取りで後ろに下がっていく。
「ゲホッ! ゴホッ!」
当たり前だが、首を絞められていた彼女は咳き込んでしまう。そんな彼女に目もくれずに彼は尻もちをつき、全身を震わせる。自分の手を見る。
恐らく彼は自分が首を絞めて相手を殺そうとしたことに怯えている。それだけならまだマシだろうが、自分の手で妹を殺したことをフラッシュバックしたのだろう。同じ感触が手に残っているせいだ。
「アサヤ・シュウ。一つ頼みがあるわ。だから、とりあえず怯えるのはやめて」
「コウスター・T・トウセムダ……さん?」
彼女の、コウスターの声を聞いて、顔を上げる。それと同時に自分が首を絞めた相手は彼女だということを察した。でも、地面に寝転がったままなので疑問を抱く。
「私をこんな風にしたのはあなたよ。だから、責任取ってもらうわ」
「責任…………」
「私を殺して。そうしたら、こんなケガも一瞬で治るわ」
「で、でも…………」
「拒否権はなしよ」
「わ、わかりました……。ですが一体どうやって?」
「今回は特別に私の愛刀を使わせてあげるわ。それで首をスパンと切り落としたらいいわ」
「簡単に言いますけど、そんな力はお、俺にはないですよ」
「私でもできるのよ? なのに男である、あなたができなくてどうするのよ?」
「わ、わかりました……。やるだけやってみます」
彼は地面にある薙刀を取る。すぐに彼女の首に刃を添えてみる。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」
心臓の鼓動が早くなる。息が苦しい。全身が震える。立ちくらみがしてくる。妹をこの手で殺した時の気持ちが蘇る。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……」
彼は息を止めた。力を一方向だけにかける。
筋肉が刃の侵入を防いだ。さらに力を込める。どんどんどんどん首に刃が食い込んでいく。
彼女の首に二割ほど刃を食い込ませると抵抗が軽くなる。このまま一気に首を切り落としたい。
だから、一度抜く。
よく見ると彼女の口から赤い泡を出している。彼は気づいたが、このままではあまりにも可愛そうだと思い、薙刀を彼女の首に滑らせながら叩き落とした。すると、血を大量に吹き出しながら飛んでいった。
薙刀を地面に置く。飛んでいった彼女の首を取りに行き、切断面に合うように首を置く。ふらふらとした足取りで壁まで行き、座り込んだ。すぐに放心状態になった。
せっかく買ったばかりの服に返り血がたくさん付着している。でも、今の彼は気にしていないように見える。
数十秒後にようやく彼は動いた。と言っても、空を見上げるだけだ。そんな彼の目は虚ろ。
「はは……ははははは」
乾いた声で笑う。どこか寂しさが含まれているように感じる。
今の彼の手には相手の弱点を絞める感触と肉や骨を切断する感触が残っている。涙も出てこないので、自分は二回目なのに人殺しに罪悪感を覚えていないことがわかる。そのせいで自虐的な笑みを浮かべてしまう。
どれくらい時間が経ったのだろう。空が完全に闇に支配されている。日本で過ごしたシュウには暗く見えるが、この世界の人には明るく見えるだろう。今日は祭り。夜店も色んなところで出ているため、あちらこちらに灯りがある。その光が空に吸い込まれているのだ。
むくっとコウスターが起き上がったのが視界に入った。シュウに何か言うことがあるのか、まっすぐ彼の方へ進んでいく。怒られても仕方ないので、彼はその場を動かない。座りながら怒られるのはおかしいと思ったのか、立ち上がった。
彼女は彼の前で立ち止まる。
「っ!?」
次の瞬間、なんの前触れもなく抱きつかれた。先ほどまでも放心状態だったが、今は別の意味で放心状態になってしまっている。
彼女の息遣いが聞こえ……ない。そもそも、何も音が聞こえない。気がつくと地面に倒れ伏せていた。何があったかわからなかったが、すぐに首根っこがジワリと熱く感じる。
理解した。自らの首から血を流していることに。
理解した。彼女に刺されたことを。
理解した。今度は自分が死ぬ番だと。
理解した。彼女はそのために抱きついたのだと。
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