救世主になんてなりたくなかった……
第8主:主従関係のない使用人でどうだ?
三人の間に気まずい空気が流れている。もちろん誰一人として話さない。また元に戻った。そんな静寂を破ったのはまたもや同一人物だ。
「シュウ様! お願いがあるのですっ!」
ツノが生えた魔王のヒカミーヤだ。彼女は本当に魔王かと思うほど、臆病で、へりくだって彼に話しかける。今はつけていない拘束具に力を吸い取られていたから、こんな状態になっているかもしれない。
でも、結局のところシュウが考えても答えは出なさそうだ。
「な、なんでしょうか?」
シュウの方はただのコミュ障なだけだ。しかし、彼の中では肝心なことで、言いたいことは、しっかり言う。
「あっ、肉壁にしてくださいというのは、もちろんお断りですよ」
「結果的にはそうなる可能性がありますけど、お願いは一つです」
お互いに視線を逸らしていたが、今はキチンと視線を合わせてくる。しかし、彼にしたら、それは耐えられないので、やはり視線を逸らす。そんな彼を真似してか、彼女も視線を逸らす。結局はお互いに目が明後日の方向を向いている。
「妾……いいえ。妾たちはこの牢屋の外に出たいです。例え、どんな扱いを受けようともです。しかし、タダとは言いません。妾たちがなんでもします」
「なんでもね……。女性はそう言わない方がいいと思いますよ」
彼はあえて外に出ることへの追及は避ける。大体予想がつくからだ。先ほどの話を聞くと、恐らく誰でも予想がつくだろう。
ーーていうか、魔王に『様』と呼ばれて、さらに敬語を使われるとむず痒い。かなり強いとかなら、わかるが、俺は結局は現実と変わらない強さしか持っていない。魔法なんて使えるとは思えない。
小学生の頃に武道を色々とやらされていたから、剣術とかなら、重みに慣れたら使えるかもな。まぁ、それでも通常状態の我が妹美佳には負けるけどな。
「シュウ様。妾の願いを二つ叶えてくださらないでしょうか?」
「二……つ? 一つ増えてね?」
「何か言いましたか?」
「い、いえ、何も」
「でしたら、妾の願いを二つ言いますね。一つ目は先ほど言ったことです。もう一つは妾たちを肉壁兼奴隷にしてください」
「なっ!」
先ほどまで黙っていたサルファにしたら、予想外だったのか、目を見開いている。しかし、シュウにすれば、可能性の一つとして出ていたので、さほど驚かない。そして、もちろん回答も決まっている。
「却下です」
そう告げた。しかし、言葉を続ける。
「一つ目のお願いの外に出してくださいは別にいいです。しかし、二つ目は俺の中では論外です」
「でしたら、肉べ」
「却下!」
ヒカミーヤはとんでもないことを言おうとしたので、即座に却下する。しかし、なぜか不服そうな顔をしている。
「性奴れ」
「意味がほぼ一緒! よって却下!」
またもや不服そうな顔をしている。
「お二人は外に出ると自由にしていてください」
「お断りします」「断る」
「おおう……」
先ほどまで少ししか会話に入ってきていなかったサルファに驚いたのもあるが、まさか同じように断られたことに驚きを隠せない。
ーー勇者だからプライドが高いと思ったけど、とんだ勘違いだったようだな。……いや、待てよ。よく考えると自由にしたら、それこそ危ないか。ヤバい。どうしよう?
「だったら、こっちも妥協して使用人なんてどうだ?」
サルファの案にサルファとヒカミーヤの二人はいいと思ってしまった。でも、シュウがそれを許さない。
「お、俺は主従関係が嫌いだ。よって却下」
創作での主従関係は彼も別に問題ないが、実際にそういう状態になると、何か違う気がする。しかも、主という方の立場に立たされている。相手がみんなに蔑まれている奴隷とかなら、まだ抵抗は少ない。しかし、今はみんなに蔑まれているとはいえ、魔王と勇者だ。抵抗は凄まじいほど大きい。
主従関係を消し去るための案を考えていると、ようやくちょうど良さそうなのが浮かんだ。しかし、彼の中ではその存在は未知数だ。元いた世界の彼にはその存在はいなかったからだ。
「と、友達なんて……ど、どうでしょうか?」
「お断りします」「却下」
考える素振りもなく二人に瞬時に言われた彼は少しショックだった。
「そうかそうか。俺みたいなやつとは友達になりたくないもんな。悪かったよ。こんな案を出して」
どうやら、少しどころではなかったようだ。
「なら、妥協の妥協だ。主従関係のない使用人でどうだ?」
「もう、それでいいよ」
彼はとうとう認めた。先ほどのでかなりのショックが生まれたから、拒否する気にはなれなかったのだろう。今の彼ならばきっと、ヒカミーヤが最初に言ったような酷いものではなければ、なんでも承諾しただろう。
「二つ目の願いは論外だ」と彼が言ったのにも関わらずにお互いに討論して、二つ目の願いを彼に認めさせたので、二人は呆然としていた。
その間に彼はハッとして、先ほど自分が言ったことを思い出した。しかし、先ほどのは嘘と言う気になれなかった。そのまま進めることにした。
呆然状態を抜け出したサルファは、何を思ったのか、少し離れたところにいたシュウの方へと豊満な胸をゆさゆさと揺らしながら、来た。そして、彼の顔を下から覗き込む。彼が視線を逸らす前に口を開く。
「これからよろしくね。ご主人様」
そう言うとニコッと微笑んだ。ただの思春期の彼はドキッとした。頬を赤くした。どうやら照れているようだが、こいつは男と何度と心の中で念じて、なんとか抑え込んだ。冷静になった彼はあることに気づいた。
「俺をそう呼ぶな! それだと主従関係があるじゃないか!」
彼は叫び伝えると何を思ったのか、シュウに抱きついた。そして、そのまま押し倒された。
「これが主従関係あるように見える?」
「…………」
そう言われると何も言い返せなかった。しかし、それで証明できたはずなのにサルファは離れない。まるで何かを待っているかのようだ。
そんな時に恥ずかしく思っていた感情が一気に冷めて、怖いという感情を抱いた。だから、彼は凶暴な獣から逃げるかのように彼女を押しのけて、後ずさりした。
「ど、どうした?」
「こ、こここ来ないでくださいっ!」
シュウの凶変ぶりに二人は自分たちに非があると思ったのか、申し訳なさそうな表情を浮かべる。だからと言って、今の本当の彼の中にある恐怖は消えない。
先ほどまでの自分は、女神から貰った能力の影響だと、彼は理解している。
ーーあれ? 女神と何を聞かれたかなどの記憶はあるのに、相手の顔と声が思い出せない。どうしてだ?
彼の疑問は消えない。二人への恐怖も消えない。だけど、約束は守らないといけないとわかっている。おかげで今、やるべき行動がわかった。
シュウは柵を叩いた。しかし、素手だからか、音が全く鳴らない。
「これで大丈夫なのか?」
視界に人がいないので、彼は落ち着いて独り言を話している。そして、誰一人として言葉を発していないので、微かに自分のいる場所を音源に静かな音が響いている。一番近くにいるはずの彼の耳には届かないほど小さい。
しかし、人間ではないヒカミーヤと人間だけど勇者という、いかにも超人的すぎるサルファの耳には彼の言葉も音も届く。それが心地よく眠くなってしまうほどだ。
そんな時にカツカツとヒールの音が響く。
「終わったのね」
声が遠くから響いてくる。おかげで相手がビルルだとわかった。
「は、はい。終わりました」
「それでそこの二人を肉壁にするのね」
「……はい」
「そう。よかったわ」
シュウはわかっていた。ビルルは彼女たちを嫌っていることを。だからこそ、主従関係のない使用人なんて言うと絶対に外に出そうとしなかっただろう。二人はそれをわかっていて、あえてそれを言わない。いや、ただ単に彼女たちが肉壁を望んでいるだけかもしれない。
ビルルが立ち止まって、牢屋の鍵を開けた。
彼が牢屋に入ってから、どれくらい経ったかはわからないが、ビルルの服装は変わらない。
「シュウくん。おかえり。そして、そこの二人は出てこい」
その時の明らかな対応の違いに文句を言おうとしたが、やめておいた。言ったとしても無駄だとわかっているからだ。
「さて、ならシュウくんの部屋に案内するね」
ビルルはシュウには優しい眼差しで話しかけて、二人には軽蔑するような冷たい眼差しを向ける。
「あっ、目隠しはしてもらうよ」
「ま、間違えないようにお願いしますよ」
「わ、わかっているわよ!」
恥ずかしさを誤魔化すためだろうが、少し怒りながらも、シュウに目隠しをして、どこかへ連れて行った。
「シュウ様! お願いがあるのですっ!」
ツノが生えた魔王のヒカミーヤだ。彼女は本当に魔王かと思うほど、臆病で、へりくだって彼に話しかける。今はつけていない拘束具に力を吸い取られていたから、こんな状態になっているかもしれない。
でも、結局のところシュウが考えても答えは出なさそうだ。
「な、なんでしょうか?」
シュウの方はただのコミュ障なだけだ。しかし、彼の中では肝心なことで、言いたいことは、しっかり言う。
「あっ、肉壁にしてくださいというのは、もちろんお断りですよ」
「結果的にはそうなる可能性がありますけど、お願いは一つです」
お互いに視線を逸らしていたが、今はキチンと視線を合わせてくる。しかし、彼にしたら、それは耐えられないので、やはり視線を逸らす。そんな彼を真似してか、彼女も視線を逸らす。結局はお互いに目が明後日の方向を向いている。
「妾……いいえ。妾たちはこの牢屋の外に出たいです。例え、どんな扱いを受けようともです。しかし、タダとは言いません。妾たちがなんでもします」
「なんでもね……。女性はそう言わない方がいいと思いますよ」
彼はあえて外に出ることへの追及は避ける。大体予想がつくからだ。先ほどの話を聞くと、恐らく誰でも予想がつくだろう。
ーーていうか、魔王に『様』と呼ばれて、さらに敬語を使われるとむず痒い。かなり強いとかなら、わかるが、俺は結局は現実と変わらない強さしか持っていない。魔法なんて使えるとは思えない。
小学生の頃に武道を色々とやらされていたから、剣術とかなら、重みに慣れたら使えるかもな。まぁ、それでも通常状態の我が妹美佳には負けるけどな。
「シュウ様。妾の願いを二つ叶えてくださらないでしょうか?」
「二……つ? 一つ増えてね?」
「何か言いましたか?」
「い、いえ、何も」
「でしたら、妾の願いを二つ言いますね。一つ目は先ほど言ったことです。もう一つは妾たちを肉壁兼奴隷にしてください」
「なっ!」
先ほどまで黙っていたサルファにしたら、予想外だったのか、目を見開いている。しかし、シュウにすれば、可能性の一つとして出ていたので、さほど驚かない。そして、もちろん回答も決まっている。
「却下です」
そう告げた。しかし、言葉を続ける。
「一つ目のお願いの外に出してくださいは別にいいです。しかし、二つ目は俺の中では論外です」
「でしたら、肉べ」
「却下!」
ヒカミーヤはとんでもないことを言おうとしたので、即座に却下する。しかし、なぜか不服そうな顔をしている。
「性奴れ」
「意味がほぼ一緒! よって却下!」
またもや不服そうな顔をしている。
「お二人は外に出ると自由にしていてください」
「お断りします」「断る」
「おおう……」
先ほどまで少ししか会話に入ってきていなかったサルファに驚いたのもあるが、まさか同じように断られたことに驚きを隠せない。
ーー勇者だからプライドが高いと思ったけど、とんだ勘違いだったようだな。……いや、待てよ。よく考えると自由にしたら、それこそ危ないか。ヤバい。どうしよう?
「だったら、こっちも妥協して使用人なんてどうだ?」
サルファの案にサルファとヒカミーヤの二人はいいと思ってしまった。でも、シュウがそれを許さない。
「お、俺は主従関係が嫌いだ。よって却下」
創作での主従関係は彼も別に問題ないが、実際にそういう状態になると、何か違う気がする。しかも、主という方の立場に立たされている。相手がみんなに蔑まれている奴隷とかなら、まだ抵抗は少ない。しかし、今はみんなに蔑まれているとはいえ、魔王と勇者だ。抵抗は凄まじいほど大きい。
主従関係を消し去るための案を考えていると、ようやくちょうど良さそうなのが浮かんだ。しかし、彼の中ではその存在は未知数だ。元いた世界の彼にはその存在はいなかったからだ。
「と、友達なんて……ど、どうでしょうか?」
「お断りします」「却下」
考える素振りもなく二人に瞬時に言われた彼は少しショックだった。
「そうかそうか。俺みたいなやつとは友達になりたくないもんな。悪かったよ。こんな案を出して」
どうやら、少しどころではなかったようだ。
「なら、妥協の妥協だ。主従関係のない使用人でどうだ?」
「もう、それでいいよ」
彼はとうとう認めた。先ほどのでかなりのショックが生まれたから、拒否する気にはなれなかったのだろう。今の彼ならばきっと、ヒカミーヤが最初に言ったような酷いものではなければ、なんでも承諾しただろう。
「二つ目の願いは論外だ」と彼が言ったのにも関わらずにお互いに討論して、二つ目の願いを彼に認めさせたので、二人は呆然としていた。
その間に彼はハッとして、先ほど自分が言ったことを思い出した。しかし、先ほどのは嘘と言う気になれなかった。そのまま進めることにした。
呆然状態を抜け出したサルファは、何を思ったのか、少し離れたところにいたシュウの方へと豊満な胸をゆさゆさと揺らしながら、来た。そして、彼の顔を下から覗き込む。彼が視線を逸らす前に口を開く。
「これからよろしくね。ご主人様」
そう言うとニコッと微笑んだ。ただの思春期の彼はドキッとした。頬を赤くした。どうやら照れているようだが、こいつは男と何度と心の中で念じて、なんとか抑え込んだ。冷静になった彼はあることに気づいた。
「俺をそう呼ぶな! それだと主従関係があるじゃないか!」
彼は叫び伝えると何を思ったのか、シュウに抱きついた。そして、そのまま押し倒された。
「これが主従関係あるように見える?」
「…………」
そう言われると何も言い返せなかった。しかし、それで証明できたはずなのにサルファは離れない。まるで何かを待っているかのようだ。
そんな時に恥ずかしく思っていた感情が一気に冷めて、怖いという感情を抱いた。だから、彼は凶暴な獣から逃げるかのように彼女を押しのけて、後ずさりした。
「ど、どうした?」
「こ、こここ来ないでくださいっ!」
シュウの凶変ぶりに二人は自分たちに非があると思ったのか、申し訳なさそうな表情を浮かべる。だからと言って、今の本当の彼の中にある恐怖は消えない。
先ほどまでの自分は、女神から貰った能力の影響だと、彼は理解している。
ーーあれ? 女神と何を聞かれたかなどの記憶はあるのに、相手の顔と声が思い出せない。どうしてだ?
彼の疑問は消えない。二人への恐怖も消えない。だけど、約束は守らないといけないとわかっている。おかげで今、やるべき行動がわかった。
シュウは柵を叩いた。しかし、素手だからか、音が全く鳴らない。
「これで大丈夫なのか?」
視界に人がいないので、彼は落ち着いて独り言を話している。そして、誰一人として言葉を発していないので、微かに自分のいる場所を音源に静かな音が響いている。一番近くにいるはずの彼の耳には届かないほど小さい。
しかし、人間ではないヒカミーヤと人間だけど勇者という、いかにも超人的すぎるサルファの耳には彼の言葉も音も届く。それが心地よく眠くなってしまうほどだ。
そんな時にカツカツとヒールの音が響く。
「終わったのね」
声が遠くから響いてくる。おかげで相手がビルルだとわかった。
「は、はい。終わりました」
「それでそこの二人を肉壁にするのね」
「……はい」
「そう。よかったわ」
シュウはわかっていた。ビルルは彼女たちを嫌っていることを。だからこそ、主従関係のない使用人なんて言うと絶対に外に出そうとしなかっただろう。二人はそれをわかっていて、あえてそれを言わない。いや、ただ単に彼女たちが肉壁を望んでいるだけかもしれない。
ビルルが立ち止まって、牢屋の鍵を開けた。
彼が牢屋に入ってから、どれくらい経ったかはわからないが、ビルルの服装は変わらない。
「シュウくん。おかえり。そして、そこの二人は出てこい」
その時の明らかな対応の違いに文句を言おうとしたが、やめておいた。言ったとしても無駄だとわかっているからだ。
「さて、ならシュウくんの部屋に案内するね」
ビルルはシュウには優しい眼差しで話しかけて、二人には軽蔑するような冷たい眼差しを向ける。
「あっ、目隠しはしてもらうよ」
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恥ずかしさを誤魔化すためだろうが、少し怒りながらも、シュウに目隠しをして、どこかへ連れて行った。
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