救世主になんてなりたくなかった……
第13主:決闘成立の合図
転がってきた生首を見る。シュウはその瞬間に感情がグルグルと渦巻き腰を抜かす。
怒り。後悔。悲しみ。恐怖。苦しみ。
それら全ての感情が渦巻く。
首から目を離して、別のところを見たとしても血や残った肉体が目に入る。閉じたとしても、生首が脳裏に映る。どこを見ても逃げられない。例え、上を見たって先ほどの記憶は消えない。
「シュウくん。そんなに怖がらないでよ。これがこの世界での日常茶飯事なのだから」
ビルルは笑顔で声をかけてくるが、返り血が付着しているため恐怖しか覚えない。
「ルセワルさん。ちゃんと掃除してくださいよ」
「はーい。わかりました」
食堂のお姉さんの注意に無邪気な表情で返すと彼女は手を上にかざす。それだけなのに床と彼女の服装から血がなくなった。
でも、彼の服には飛散した血が付着している。そのためこの状況だけ見ると彼が殺したようにしか見えない。そんな彼の目の前で生首と体の切り口が赤い泡が現れる。次の瞬間にヒカミーヤとサルファの生首がそれぞれの体に吸い寄せられるかのようにくっついた。
「シュウ様。こんなのは日常茶飯事ですよ。妾たちにすればまだマシな方です。あそこにいた時はジワジワと殺されたり、殺した後も嬲られ続けてましたから。スッパリと殺して、そのまま放置は良心的な方です」
「へぇー。壁のクセによくわかっているね。さすがは元魔王ということかな」
「お褒めに預かり光栄です」
「でも、一つ言わせて」
「なんでしょうか?」
「壁は壁。人間になんてなってはいけない。例え肉壁だとしても、シュウくんが安全で幸せな日常を過ごせるための道具でしかない。シュウくんに決して特別な感情などを抱いてはいけない。だって、壁なんだから」
「心得ています」
「元魔王の方はいいとして、元勇者の方はどう?」
「心得ています」
「嘘ね。シュウくんに敬語を使わずにさらに呼び捨てにしている。なのに心得ている? 嘘つくな。シュウくんは優しいのは知っている。だからって、優しさに甘えないでよ。感情がないただの壁でしかないのだから」
シュウは割って入ろうと思ったが、入れなかった。入ったって二人がもっと、災難な目にあうだと知っているからだ。
「あっ! 一応言っておくけど、死体の尊厳を蔑ろにするのが嫌いなだけだから」
「そう……ですか」
先ほどのことがあってシュウはビルルを信用できなくなっている。今の彼の中ではヒカミーヤとサルファ以外は全員敵だ。だからと言って行動を起こせるほどの行動力が彼にはない。それに例え起こせたとしても、関係のない人を巻き込んでしまう。
妹を殺して母親のことを世間に知らしめたという経験があるからこそ彼はそう考えている。本当に母親のことが世間に知らしめられたかは確認できていないが、きっとそうだと彼は信じている。
彼女のことが世間に知らしめれていないという事実を彼は知るはずもない。
「さて、部屋に帰って明日の準備をしようね」
「あ、明日のじ、準備です……か?」
「そう! というかそもそもシュウくんは字を読めるようにしないとね」
「そ、そうですね」
ビルルが歩き始めたので、シュウは少し離れた場所でついていく。彼女はそんな彼を見て少し肩をすくめたが何も言わなかった。
「ん?」
少し進むと彼の目の前を人影が通った。すると何かが落ちていた。よく見るとそれは大きな赤いリボンと一枚のカードだった。
先ほど通り過ぎた人物の落し物だろうと思い、彼はそれを拾う。
「あ、ああああの!」
彼は声をかけた。そのことに通り過ぎた人物が立ち止まり、こちらを見る。ちなみに先に進んでいたビルルも止まって、シュウの方を見る。
「こ、ここ……これ! お、落としましたよ」
目を伏せながらもそう声をかける。恐らく見知らぬ人なので、それだけでも緊張した。そもそも見知らぬ人に話しかけるなんてシュウはほとんどしない。話しかけられて返すのはよくするが。
「っ!? シュウくん! ダメッ!!」
「へっ?」
突然のビルルの叫び声に首を傾げる。彼女は何か焦っているが、彼にとっては何のことかわからない。
「ハッ! ひっかかったわね」
聞いたことある声に顔を上げるとそこには水色の髪の少女コウスター・T・トウセムダがいた。
彼女は彼からリボンとカードをひったくった。彼は何がひっかかったのか気になった。
「ジジジジジジジジジジジジジジ──!!」
突然、耳をつんざくような大きな音が学園内に響く。あまりの大きさに耳を抑えてうずくまる。
「な、何事ですか!?」
シュウが叫ぶと音が消えた。
「シュウくん。よく聞いて」
「はい」
「今のは決闘成立の合図よ」
「け、決闘っ!?」
「このクラウダー学園では男子生徒はネクタイと生徒カード。女子生徒はリボンと生徒カードを決闘したい相手に触れさせて、そこと全く同じところを触れると決闘成立するの。決闘成立を一度すると、断れないし、決闘が始まるまでは相手の命令に絶対なの。ちなみにその命令できるのは申し込まれた方。日付やどのような方式で戦うかを決めるのは申し込んだ方」
「そんなものがあるのですね」
「決闘は決闘場での一騎打ち。日付は今日の放課後。異論は認めないわ」
「異論ではないですが、質問です。お、俺はこの学園の生徒判定になるのでしょうか?」
「どういうこと?」
「この学園の生徒じゃないと決闘できないのではないですか?」
「シュウくん。説明してなかったわたしが悪いけど、決闘はどんな相手ともできるよ。でも、この世界の住人や頻繁にこの世界に来る異世界人はそのルールを知っているから意味をなさない」
「なら、今日の放課後決闘場でな。来なかったら、そこの肉壁たちを性に飢えている男たちのところに放り込むわ。覚悟しておくことだわ」
「っ!? わ、わかりました」
ヒカミーヤとサルファが行かなければ大変なことになるので、彼の中からは行かずに逃げるという選択肢は消えた。
怒り。後悔。悲しみ。恐怖。苦しみ。
それら全ての感情が渦巻く。
首から目を離して、別のところを見たとしても血や残った肉体が目に入る。閉じたとしても、生首が脳裏に映る。どこを見ても逃げられない。例え、上を見たって先ほどの記憶は消えない。
「シュウくん。そんなに怖がらないでよ。これがこの世界での日常茶飯事なのだから」
ビルルは笑顔で声をかけてくるが、返り血が付着しているため恐怖しか覚えない。
「ルセワルさん。ちゃんと掃除してくださいよ」
「はーい。わかりました」
食堂のお姉さんの注意に無邪気な表情で返すと彼女は手を上にかざす。それだけなのに床と彼女の服装から血がなくなった。
でも、彼の服には飛散した血が付着している。そのためこの状況だけ見ると彼が殺したようにしか見えない。そんな彼の目の前で生首と体の切り口が赤い泡が現れる。次の瞬間にヒカミーヤとサルファの生首がそれぞれの体に吸い寄せられるかのようにくっついた。
「シュウ様。こんなのは日常茶飯事ですよ。妾たちにすればまだマシな方です。あそこにいた時はジワジワと殺されたり、殺した後も嬲られ続けてましたから。スッパリと殺して、そのまま放置は良心的な方です」
「へぇー。壁のクセによくわかっているね。さすがは元魔王ということかな」
「お褒めに預かり光栄です」
「でも、一つ言わせて」
「なんでしょうか?」
「壁は壁。人間になんてなってはいけない。例え肉壁だとしても、シュウくんが安全で幸せな日常を過ごせるための道具でしかない。シュウくんに決して特別な感情などを抱いてはいけない。だって、壁なんだから」
「心得ています」
「元魔王の方はいいとして、元勇者の方はどう?」
「心得ています」
「嘘ね。シュウくんに敬語を使わずにさらに呼び捨てにしている。なのに心得ている? 嘘つくな。シュウくんは優しいのは知っている。だからって、優しさに甘えないでよ。感情がないただの壁でしかないのだから」
シュウは割って入ろうと思ったが、入れなかった。入ったって二人がもっと、災難な目にあうだと知っているからだ。
「あっ! 一応言っておくけど、死体の尊厳を蔑ろにするのが嫌いなだけだから」
「そう……ですか」
先ほどのことがあってシュウはビルルを信用できなくなっている。今の彼の中ではヒカミーヤとサルファ以外は全員敵だ。だからと言って行動を起こせるほどの行動力が彼にはない。それに例え起こせたとしても、関係のない人を巻き込んでしまう。
妹を殺して母親のことを世間に知らしめたという経験があるからこそ彼はそう考えている。本当に母親のことが世間に知らしめられたかは確認できていないが、きっとそうだと彼は信じている。
彼女のことが世間に知らしめれていないという事実を彼は知るはずもない。
「さて、部屋に帰って明日の準備をしようね」
「あ、明日のじ、準備です……か?」
「そう! というかそもそもシュウくんは字を読めるようにしないとね」
「そ、そうですね」
ビルルが歩き始めたので、シュウは少し離れた場所でついていく。彼女はそんな彼を見て少し肩をすくめたが何も言わなかった。
「ん?」
少し進むと彼の目の前を人影が通った。すると何かが落ちていた。よく見るとそれは大きな赤いリボンと一枚のカードだった。
先ほど通り過ぎた人物の落し物だろうと思い、彼はそれを拾う。
「あ、ああああの!」
彼は声をかけた。そのことに通り過ぎた人物が立ち止まり、こちらを見る。ちなみに先に進んでいたビルルも止まって、シュウの方を見る。
「こ、ここ……これ! お、落としましたよ」
目を伏せながらもそう声をかける。恐らく見知らぬ人なので、それだけでも緊張した。そもそも見知らぬ人に話しかけるなんてシュウはほとんどしない。話しかけられて返すのはよくするが。
「っ!? シュウくん! ダメッ!!」
「へっ?」
突然のビルルの叫び声に首を傾げる。彼女は何か焦っているが、彼にとっては何のことかわからない。
「ハッ! ひっかかったわね」
聞いたことある声に顔を上げるとそこには水色の髪の少女コウスター・T・トウセムダがいた。
彼女は彼からリボンとカードをひったくった。彼は何がひっかかったのか気になった。
「ジジジジジジジジジジジジジジ──!!」
突然、耳をつんざくような大きな音が学園内に響く。あまりの大きさに耳を抑えてうずくまる。
「な、何事ですか!?」
シュウが叫ぶと音が消えた。
「シュウくん。よく聞いて」
「はい」
「今のは決闘成立の合図よ」
「け、決闘っ!?」
「このクラウダー学園では男子生徒はネクタイと生徒カード。女子生徒はリボンと生徒カードを決闘したい相手に触れさせて、そこと全く同じところを触れると決闘成立するの。決闘成立を一度すると、断れないし、決闘が始まるまでは相手の命令に絶対なの。ちなみにその命令できるのは申し込まれた方。日付やどのような方式で戦うかを決めるのは申し込んだ方」
「そんなものがあるのですね」
「決闘は決闘場での一騎打ち。日付は今日の放課後。異論は認めないわ」
「異論ではないですが、質問です。お、俺はこの学園の生徒判定になるのでしょうか?」
「どういうこと?」
「この学園の生徒じゃないと決闘できないのではないですか?」
「シュウくん。説明してなかったわたしが悪いけど、決闘はどんな相手ともできるよ。でも、この世界の住人や頻繁にこの世界に来る異世界人はそのルールを知っているから意味をなさない」
「なら、今日の放課後決闘場でな。来なかったら、そこの肉壁たちを性に飢えている男たちのところに放り込むわ。覚悟しておくことだわ」
「っ!? わ、わかりました」
ヒカミーヤとサルファが行かなければ大変なことになるので、彼の中からは行かずに逃げるという選択肢は消えた。
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