救世主になんてなりたくなかった……
第16主:戦闘開始前
ジィィィィ!! とブザーが鳴る。
シュウは短剣を右手で逆手に持ちながら立ち上がる。それが入場の合図だと教えてもらった彼は恐らくはステージに繋がる通路に進む。
進むにつれて歓声が大きく聞こえ始める。その歓声を耳にしながら進み、ステージに出た。先ほどまで薄暗いところにいたので、夕焼けになり始めているとはいえ太陽の眩しさに目を細める。
「あいつバカだな! 制服だってさ!」
「ギャハハハ!! 舐めすぎだろ! さすがは異世界人。金なしなんだな!」
観客の一部の男たちがステージに出たシュウを見て、そう言う。
決闘場とは闘技場と完全に一緒だ。中央に選手たちが戦う場所があって、それを取り囲むかのように観客席がある。円形の建物だ。そして、何よりもアウェーというものが存在する。
今のシュウがそれだ。観客からゴミを投げつけられる。戦闘開始前に無駄な体力を使いたくない彼は避ける気配がない。
今日決まったはずなのに観客席は超満員。
二人はお互いに何歩か中央に向かって進む。苛立っているのは丸わかりだが、さすがにこういう場ではその苛立ちに任せるほどコウスター・T・トウセムダは愚かではない。
彼女の今の格好は華やかな改造着物。着物だけど、足や手の袖の部分には切り込みが入れられている。そんな格好の彼女の手にあるのは薙刀。でも、その薙刀はオーダーメイドなので、どんな動きをするかは予想できない。もしかすると、ヌンチャクみたいになるかもしれないし、レイピアが柄の中に隠されているかもしれない。
油断はできない。元々油断していないが、より一層警戒を強くする。
「まずはボコボコに滅多打ちされるのに逃げなかったことを褒めてあげますわ」
「あ、あんなとこを言われては……に、逃げるわけにはい、いきませんから」
「あの挑発は正解だったようだね。なら、使って正解だったわ」
「ぼ、ボコボコにするために……ふ、二人を盾に取るなんてズルいですよ」
「へっ……?」
彼女は目を見開いて、そんな声を漏らす。しかし、すぐに「くっくっくっ」という笑い声に変わっていく。
「くはっ! 壁なのに盾……うぷぷ。あはははは!! 当たり前のことだわ! 壁は盾にするに決まっているわ。異世界人はバッカだわ!! そうわよね。みなさん!」
「そうだ!! そうだ!!」
「言語も理解できないものね!」
「えっ!? 言葉も理解できないの? わたくちたちのいっていることがわかりまちゅかぁ?」
その挑発に少しイラっとするが、怒りはしない。
「まぁ、壁の方が知能が低レベルで存在する価値がないわ」
「っ!?」
コウスターの言葉を聞いた瞬間に彼は掴みかかりそうになるが、異常な視線を感じたので、そちらを見るとヒカミーヤとサルファが影からこちらを見ていた。
そして、彼が怒りに任せて彼女に掴みかかろうとしていたのを察知していたようだ。真剣な眼差しで首をゆっくりと左右に振る。
彼女たちの姿を見て下唇を噛む。血が出てくるほど強く噛む。
「つまらないわ。もっと怒り狂ってお猿さんのように暴れると思ったのに。私の作戦が台無しになったわよ」
「作戦ですか?」
本気の彼は相手に目を合わして、怒気が含まれた声色で聞く。相手の実年齢がわからないので、念のため敬語だ。
「戦わずして勝つための作戦だったわ。それが効かないということはボコボコにされたいということね!」
彼女がそう言った瞬間に凄まじいプレッシャーを感じて、肌がピリピリする。
「へぇー。これでも引かないのね。なら、もう殺すしかないわ」
彼女はそう言って、一歩彼に近づく。
「まだ審判が来てないのにそれはおかしくないかな?」
観客席のビルルが声を上げてそう言うとコウスターは彼女を睨む。その瞳には殺気が宿っていることが、シュウでもわかる。自分に向けられていないのにそれだけで恐怖を覚える。
だというのに直接向けられているビルルは笑っている。二人はライバルなのか、お互いを敵視しているように感じた。
「お二人さん。とりあえず落ち着こう」
いつかの茶髪のツーブロックの男性が立ち上がり、そう言った。まさか男性が来ているとは思っていなかったシュウは驚いてしまう。
「コウスター。審判を待とう。それが一番いい」
「う、うん。そ、そうだね」
コウスターは男性に話しかけられるシュンとしながらも、頬を赤らめて、少し視線を逸らす。そんな彼女を見てシュウは安心してしまう。
自分が今から戦う相手は心がない者ではなく、キチンとした心がある人間だということがわかったからだ。心がない者なら、先ほどのヒカミーヤとサルファを貶す言葉がウソの可能性が出てくるからだ。でも、心がある人間なら先ほどの言葉は本気だとわかる。
勝てる気はしないが本気で戦える。完全なる敵なのだから。
『よし。みんな揃ってるな。今回、審判役をさせてもらうエルリアード・D・アストラーだよろしく』
『っ!?』
その場にいる誰もが驚いてしまう。この非公式戦の審判がまさかの学園長自ら行うからだ。そのことを知らなかったのかコウスターも驚いた表情を浮かべている。
『それでは両者構えろ!』
学園長のその言葉に二人は構える。
『始めっ!!』
学園長のその言葉を聞くと、二人は同時に相手に向けて駆け出した。
シュウは短剣を右手で逆手に持ちながら立ち上がる。それが入場の合図だと教えてもらった彼は恐らくはステージに繋がる通路に進む。
進むにつれて歓声が大きく聞こえ始める。その歓声を耳にしながら進み、ステージに出た。先ほどまで薄暗いところにいたので、夕焼けになり始めているとはいえ太陽の眩しさに目を細める。
「あいつバカだな! 制服だってさ!」
「ギャハハハ!! 舐めすぎだろ! さすがは異世界人。金なしなんだな!」
観客の一部の男たちがステージに出たシュウを見て、そう言う。
決闘場とは闘技場と完全に一緒だ。中央に選手たちが戦う場所があって、それを取り囲むかのように観客席がある。円形の建物だ。そして、何よりもアウェーというものが存在する。
今のシュウがそれだ。観客からゴミを投げつけられる。戦闘開始前に無駄な体力を使いたくない彼は避ける気配がない。
今日決まったはずなのに観客席は超満員。
二人はお互いに何歩か中央に向かって進む。苛立っているのは丸わかりだが、さすがにこういう場ではその苛立ちに任せるほどコウスター・T・トウセムダは愚かではない。
彼女の今の格好は華やかな改造着物。着物だけど、足や手の袖の部分には切り込みが入れられている。そんな格好の彼女の手にあるのは薙刀。でも、その薙刀はオーダーメイドなので、どんな動きをするかは予想できない。もしかすると、ヌンチャクみたいになるかもしれないし、レイピアが柄の中に隠されているかもしれない。
油断はできない。元々油断していないが、より一層警戒を強くする。
「まずはボコボコに滅多打ちされるのに逃げなかったことを褒めてあげますわ」
「あ、あんなとこを言われては……に、逃げるわけにはい、いきませんから」
「あの挑発は正解だったようだね。なら、使って正解だったわ」
「ぼ、ボコボコにするために……ふ、二人を盾に取るなんてズルいですよ」
「へっ……?」
彼女は目を見開いて、そんな声を漏らす。しかし、すぐに「くっくっくっ」という笑い声に変わっていく。
「くはっ! 壁なのに盾……うぷぷ。あはははは!! 当たり前のことだわ! 壁は盾にするに決まっているわ。異世界人はバッカだわ!! そうわよね。みなさん!」
「そうだ!! そうだ!!」
「言語も理解できないものね!」
「えっ!? 言葉も理解できないの? わたくちたちのいっていることがわかりまちゅかぁ?」
その挑発に少しイラっとするが、怒りはしない。
「まぁ、壁の方が知能が低レベルで存在する価値がないわ」
「っ!?」
コウスターの言葉を聞いた瞬間に彼は掴みかかりそうになるが、異常な視線を感じたので、そちらを見るとヒカミーヤとサルファが影からこちらを見ていた。
そして、彼が怒りに任せて彼女に掴みかかろうとしていたのを察知していたようだ。真剣な眼差しで首をゆっくりと左右に振る。
彼女たちの姿を見て下唇を噛む。血が出てくるほど強く噛む。
「つまらないわ。もっと怒り狂ってお猿さんのように暴れると思ったのに。私の作戦が台無しになったわよ」
「作戦ですか?」
本気の彼は相手に目を合わして、怒気が含まれた声色で聞く。相手の実年齢がわからないので、念のため敬語だ。
「戦わずして勝つための作戦だったわ。それが効かないということはボコボコにされたいということね!」
彼女がそう言った瞬間に凄まじいプレッシャーを感じて、肌がピリピリする。
「へぇー。これでも引かないのね。なら、もう殺すしかないわ」
彼女はそう言って、一歩彼に近づく。
「まだ審判が来てないのにそれはおかしくないかな?」
観客席のビルルが声を上げてそう言うとコウスターは彼女を睨む。その瞳には殺気が宿っていることが、シュウでもわかる。自分に向けられていないのにそれだけで恐怖を覚える。
だというのに直接向けられているビルルは笑っている。二人はライバルなのか、お互いを敵視しているように感じた。
「お二人さん。とりあえず落ち着こう」
いつかの茶髪のツーブロックの男性が立ち上がり、そう言った。まさか男性が来ているとは思っていなかったシュウは驚いてしまう。
「コウスター。審判を待とう。それが一番いい」
「う、うん。そ、そうだね」
コウスターは男性に話しかけられるシュンとしながらも、頬を赤らめて、少し視線を逸らす。そんな彼女を見てシュウは安心してしまう。
自分が今から戦う相手は心がない者ではなく、キチンとした心がある人間だということがわかったからだ。心がない者なら、先ほどのヒカミーヤとサルファを貶す言葉がウソの可能性が出てくるからだ。でも、心がある人間なら先ほどの言葉は本気だとわかる。
勝てる気はしないが本気で戦える。完全なる敵なのだから。
『よし。みんな揃ってるな。今回、審判役をさせてもらうエルリアード・D・アストラーだよろしく』
『っ!?』
その場にいる誰もが驚いてしまう。この非公式戦の審判がまさかの学園長自ら行うからだ。そのことを知らなかったのかコウスターも驚いた表情を浮かべている。
『それでは両者構えろ!』
学園長のその言葉に二人は構える。
『始めっ!!』
学園長のその言葉を聞くと、二人は同時に相手に向けて駆け出した。
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