救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第18主:バスタオル一枚と薄いネグリジェ

「ん……んん?」

 少年シュウはうめき声を上げながら、目を開けら体を起こした。辺りを見回すと早朝なのか、少し肌寒く思う。外を見ると白い霧が辺りを包んでいた。

 彼はベットから降りると、少しだけベタつきを感じた。そのためシャワーを浴びることにした。

 石鹸やシャンプー。それにニキビ予防で清潔を取り戻す。それらをほぼ全て使って体をキレイにしたので、十分近くはかかる。

 真っ白なバスタオルが脱衣所にあることを入る前に確認していたので、彼はそれで濡れた体を拭く。

「てかっ、洗顔やらがよくあったな。まぁ、買わなくて済んだから文句はないけど」

 頭を拭きながら呟く。

 ーーどこかに洗濯機あるかな?

 体の水気を拭ったバスタオルを腰に巻く。その状態で制服を持つ。制服には血痕があちらこちらについているし、すでにボロボロだ。洗濯してもどうにもならないだろうが、気分的な問題で洗濯機を探すために脱衣所、洗面所、浴槽の全てが揃っている部屋を出た。

 その瞬間にシュウの部屋にヒカミーヤとサルファがやってきた。二人も寝起きなのか少しだけ寝ぼけ眼だ。でも、服装はすでに制服。

「ふ、二人とも。お、おはようございます。せ、洗濯機ってどこにありますか?」

「洗濯機です……か…………」

 ヒカミーヤがなぜか顔を真っ赤にしたので、彼は首をかしげる。

 ーー俺は何かおかしなことでも言ったか?

「洗濯機はここ」

 サルファは平然としている。そんな彼女が開けたのは入り口から右に進むと真正面になる壁。

「そ、そんなところに……か、隠し扉が……あったのですね……」

「気づかなかっただろ? オレを褒めてもいいんだぞ」

 彼女は得意げに言う。ただ、そんな表情を見ると褒める気が失せてしまう。彼は自分が褒めても嫌がるだけだと思ってしまっているからだ。

「あ、ありがとうございます」

 シュウはお礼を言うと洗濯機に制服を放り込む。洗濯洗剤を探したが、どこにもなかったのでそのまま洗濯機を稼働させた。

「さて、この格好じゃ外も出られないし、どうしよっかな」

 彼は呟くが、耳のいい二人には聞こえてしまう。

「ず、ずっとそのままでいるおつもりですか!?」

「ず、ずっとと言うわけではないですよ。洗濯がお、終わるまで……ですよ」

「そ、そそれでも問題があるのです! もし、誰かが来たらどうするのですか!!」

「お、俺の部屋に誰かが来るわけ」
「シュウくん。起きた? 色々と言っておきたいことがあるのだけど」

 反論を遮るかのようにして、扉が開かれた。そして、入って来たのはビルルだった。髪型はいつも通りのポニーテールだが、服装が違う。

 彼女の今の服装はピンクの薄いネグリジェ。ボディーラインがくっきりと見えてしまう。彼女は女性の理想の体型だ。でも、ネグリジェが薄いせいで微かに乳房が見えてしまっている。

 少しだけ人間恐怖症とはいえ彼は男だ。思春期だ。顔を晒しながらもチラチラと目で見てしまう。

「ど、どうしたのよ?」

 シュウの反応にビルルは少し戸惑ってしまう。でも、恥ずかしさはほんの少ししかない。

「な、ななな……なんて恥ずかしい格好をしているのですか?」

 彼は冷静を装いながらも聞くが、彼女はついつい「はぁ?」と怒り気味に言ってしまう。

「シュウくんにだけは言われたくないな。バスタオル一枚なのに」

「…………ご、ごもっともです」

 どうやら自分の格好を忘れていたようだ。間を作った割には何も言い返せなかった。そんな彼を見てサルファとヒカミーヤの二人は離れたところで、少し呆れているのか額に手を当てている。

「いくつか質問するけどいい?」

「こ、こちらもしていいなら……」

「よし。なら、決まりね。まずわたしからさせてもらうね」

 シュウは彼女の言葉にコクリと頷く。

「一つ。どうして服を着ていないの?」

 人差し指を立てて言う。

「二つ。落ち着いているけど、自分が負けたのとに気づいている?」

 中指も立てて言う。

「三つ。君はコウスターの正体を知っているの?」

 薬指も立てて言う。

「四つ。目覚めたのはいつ?」

 小指も立てて言う。

「以上がわたしからの質問。答えてくれる」

「わかりました。一つ目の問いに対しての答えはシャワー浴びたからです。服を着ていない理由は色んなもので汚れていた制服を洗濯機にかけているからです。ちなみについでに四つ目の問いに答えると、十五分くらい前です」

「あれ? パーカーはないの?」

「あっ……」

「どうしたの?」

「一緒に洗濯をしていました」

 苦笑まじりに言うとため息をつかれた。それ以外は質問はない。だから、続いての問いに答えることにする。

 ため息をついた時に微かにサルファとヒカミーヤを睨んだけど、あえて気にしないでおいた。話が脱線するしかないし、二人については彼女と話してもお互いに平行線なので意味をなさない。

「二つ目の問いについての答えはイエスです。気づいていないはずないじゃないですか?」

「なら、決闘で負けた方は相手の言うことをなんでも聞くということを知っているの?」

「……えっ?」

「知らないのね。でも、仕方ないよ。これは言うことを忘れていたわたしの落ち度でもあるし、軽くはしてもらうつもりよ」

「そ、そんな!? ビルルさんに迷惑をかけられないですよ」

「好きで迷惑をかけられているのだから気にしないで」

「ですが……」

 色々と腑に落ちないが続きを言える気がしない。彼女の表情が闇に起きていったからだ。

「三つ目の問いに対しては何を言っているかわかりません」

「そう。よかったぁ」
「ですが」

 安心しようとしていたので、それを遮る。でも、大したことを言うわけではない。

「気絶する瞬間に水色のネコ耳が見えたのですが、それは一体……」

「きっと、気のせいよ。幻覚でも見ていたんだよ」

「そうだと良いのですが……」

「うん。そうに違いないよ」

 彼女はコクコクと頷きながら言った。お陰で彼は気のせいなんだろうとした。

 そんな話を真剣にしているが、バスタオル一枚と薄いネグリジェなので、あまり真剣には思えなかった。でも、そんなことを二人は言えない。

 サルファとヒカミーヤはただの肉壁なのだから、言う権利なんてない。

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