救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第29主:アンティークショップ

 シュウは予想外に美しい街並みに見とれている。街の美しい白色の風景を強調するかのように、空は雲一つない。近くに海が見える。海は太陽に照らされているためキラキラと光っている。

「ビルルさん。これはどっちですか……?」

「どっちとは?」

「現実か幻覚かです」

「シュウくんはどっちだと思う?」

「幻覚です」

「残念。正解はどっちでもあり、どっちでもないよ」

「……? ど、どういうことですか?」

「これは幻覚と現実の融合。だから、どっちも正解なの。けど、どっちかは区別できない」

「混乱してきました」

「今はそんなことよりもこの街の案内をするね」

「お、お願いします」

 シュウとビルルの二人は歩き出す。数歩、後ろからヒカミーヤとサルファが続く。そんな状況はダメだと思い彼は振り返る。

「だ、ダメですよ? 逆に目立ちます。キチンと横になって、歩いていたほうが断然いいですね」

「今回はわたしも彼の意見に賛成。もし、正体がバレたら色々とマズイからね」

「「か、かしこまりました」」

 ヒカミーヤとサルファ、二人は同時に答える。緊張が伝わる足取りでシュウとビルル、二人の横に並ぶ。でも、これはこれで逆に目立つことにシュウは気づいた。

 ハッキリ言って三人とも、それぞれ違いはある。でも外見からしても、とても魅力的だ。そんな美少女という言葉が会う三人に髪色以外は平凡である彼が囲まれているのだ。目立たない方が不思議ではない。

 改めてそのことを理解すると、シュウは頬を赤く染める。

「まずは、あそこに行こう」

「えっ……? ちょっ!?」

 突然、ビルルに腕を引かれたのでさらに赤くなる。でも、そのことに誰も気づいていない。

 彼はビルルに連れられて、真っ白なのに少し古い雰囲気が感じられる建物に入った。二人の後を追い、残りの二人も入る。

「いらっしゃい。おや? かわいいお客さんがいっぱい」

 中に入ると好青年という言葉がしっくりくるほどの男性が中にいた。どうやらここはアンティークショップのようで、かなり小さな音でクラッシックが流れている。どういうことは中は落ち着いていて、天井も床も壁も全て木でできている。

「ようこそ。何でも屋へ」

「な、何でも屋?」

「飲食物以外はなんでも売っているからね。上に行くと下着などもあるよ。ここは外からじゃわからないだろうけど、四階建てだからね」

「えっ? 二階建てではなく?」

「軽い幻覚だよ」

「そ、そうですか」

「それで何を求めているの」

「見て回るだけよ」

「そう。ごゆっくり」

「シュウくんはここで色んなものを見ていて。わたしは二人を連れて上で服を探すから」

「は、はい。わかりました」

 シュウを置いて三人は上階へと向かった。ヒカミーヤとサルファは何度もチラチラと彼のことを伺った。でも、いってらっしゃいとでも言うかのように手をひらひらと振るだけだった。

「あ、あの」

「どうしたんだい?」

「おじ…お兄さんにこの機械の使い方を教えて欲しいのです」

「機械? あぁ、そういうこと。もしかして、こことは別のから来た?」

「ま、まぁ、そうですね」

「わかった。教えてあげるよ。先ほどおじさんではなくお兄さんと言い直したからね」

「ば、バレてましたか」

「バレバレだね。ちなみに僕は982歳だから、おじさんでもおかしくないよ。まぁ、おおおじいさんという年齢だからね」


「えっ? ほ、ホントですか?」

「ホントだよ。ちなみにひ孫のひ孫もいるよ」

「ま、まぁ、その年齢なら充分あり得ますね」

「これもちなみにだが、妻は君がいた世界とは違うけど、異世界人だよ」

「…………えっ?」

 ここにも異世界人を受け入れる人がいたので驚いた。異世界人は嫌われていると言われた割には、彼の周りには異世界人を受け入れている人が多い。

「あれ? どうして俺が異世界人だとわかったのですか?」

「別の世界から来たかと聞いたら、肯定したからね」

「あっ……」

 言われて初めて自分の失態に気づいた。だから、今後は気をつけようと思った。

「「「きゃあああああああああああああっ!!」」」

「っ!?」

 上から三人の悲鳴が聞こえたので、二人は慌てて階段を駆け上がる。

「三人とも大丈夫かっ!?」

 四階にたどり着くと三人を発見したので、声をかけた。その瞬間に三人はほぼ同時にシュウに抱きついた。ヒカミーヤとサルファは腕に。ビルルは正面から。

「わたしたちだけしかいないのに物が動いた!」

「えっ? と、とりあえず一階まで降りましょう」

 ビルルが言ったことは、にわかに信じがたい。でも、二人も肯定的に頷いていたので、三人に声をかける。すると、三人は無言でコクリと頷く。

 歩きにくいったら仕方ないが、怯えているので離れろと伝えるわけにはいかない。階段を下りているとあることに気づいた。

 ーーあれ? 店員さんは?

 一緒に駆け上がったはずなのにシュウの横には彼はいなかった。不思議に思いながらも一階に着くと、なぜかそこには店員がいた。
 彼はシュウのことを発見すると、ニヤリと笑う。

「わぁお。ハーレムだねぇ」

「「「「っ!?」」」」

 店員の言葉に四人全員が顔を赤くさせながら離れた。

「何階まで上ったの?」

「えっ……? 四階ですけど?」

「っ!? も、もしかして、全階覗いた?」

「まぁ、チラッとですけど」

「何か見た?」
  
「いえ、何も……」

「そう。ならよかった」

 店員が安心したことに不思議に思い、もっと不思議なことがあると気がついた。

「そういえば三人はどうして怯えていたのですか?」

「えっ? 言ったよね。わたしたちだけしかいないのに物が動いたって」

「ネズミの可能性もありますよね?」

「…………あっ」

 ビルルの返事を聞いて、彼は呆れた。

「勝手に幽霊と判断しましたね」

「しししししししし、仕方ないよっ! だって、アンティークショップだもんっ!」

「アンティークショップは幽霊が出るみたいな偏見を出さない方がいいですよ」

「はい」

 シュウが正論すぎることを言ったので、何も言い返せなかった。

「うあああああああああああああああああっ!!」

「今度はなんだ!」

 階段を駆け上がろうとすると、また三人に抱きつかれた。さっきまでと全く同じ場所にだ。

 三人の顔を見ると青ざめていて、ふるふると首を左右に振っている。

 確実に幽霊と判断しているようだ。そんな三人を見ると何も言えなくなる。店員さんの方を見ると同じように青ざめていた。彼の表情を見て、シュウも幽霊がここにホントにいるかと考え始める。

 店員さんの服を見るとなぜか盛り上がっている。シュウの顔も青ざめていく。

「ん?」

 店員の服の中から女性の顔が出てきた。肌はいつものヒカミーヤほどではないけど、かなり白い。なぜか、それが確実に生きている存在だとシュウはわかった。

「ダーリン! 今から性行為しよ!」

「やめろ! 今、お客さんの前だぞ!」

「そんな嘘通じないよ! こんな店にあたし目当て以外のお客さんがいるなんて」

 そう言い服の中から出ている顔が振り返り、シュウたちと目が合う。

「「「「「「…………」」」」」」

 しばし無言の間。

 スポンッ! と音が鳴ったかと思うと、とても優しい笑顔を浮かべて、姿勢良く立っている。でも、シュウは先ほどの光景を忘れない。

「いらっしゃいませお客様。この店も店主の妻です。本日はどういったご用件で?」

「「「「「「…………」」」」」」

 また、しばしの無言の間。

「えっ、えぇと……。腕にしがみついている二人の下着と私服ですね。ついでにこの人も服を見たいらしいです」

 なんとかシュウが無言の間を終わらせる。

 ーーそう。俺は何も見なかったんだ。

 必死に自分に言い聞かせる。

「そ、それでは三人はわたくしについて来てください」

「三人ともいってらっしゃい」

 シュウはそう言い三年を離れさせる。

 四人が上階に上がっていったのを見送った。

「その……ありがとう」

 店員さんの言葉にシュウは苦笑で返した。

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