救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第31主:ファッション

「そ、それでどうしたのですか?」

「おっ? 来た来た。今からわたし、ヒカミーヤ、サルファの三人でファッションショーするから、シュウくんは審査して」

「…………はい?」

「なに? 文句でもあるの?」

「ぼ、僕はファッショ……」
「ん? どうしたのよ? 目をそらして。それと最後の方なんて言ったかわからないよ。もう一度、言って」

「ぼ、僕はファッションについてほぼ知りませんよ」

「あっ……。確かに。あのダッサイパーカーしかないものね」

「…………」

 ダッサイパーカーというビルルの言葉にシュウは反論しようしたが、できなかった。彼女が言ったことはあながち間違いではない。むしろ、事実だ。街中を歩いていても、彼は自分が浮いていることを理解できた。

「あっ! そうだ! シュウくんもここで買っていけばいいじゃない。わたしが審査員するよ」

「…………わかりました。そうします」

 少しだけ迷ったが、お金が有り余っている。使わないともったいない。それにパーカーと制服だけでは、かなり不便だ。

「あっ!」

「ど、どうしました?」

「やっぱりファッションショーじゃなくて、お互いが選ぶ感じにする?」

「えっ? お、俺が選ぶのはダッサイですよ」

「いいの。面白いしね」

 ビルルが微笑みながら言うと、隣でヒカミーヤとサルファがコクコクと頷いている。

「でしたら、私がこちらで参加させていただきますね」

 店主の妻が優しい微笑みで、シュウの隣に立つ。先ほどの光景を思い出し、何も言えない。

「た、助かります」

 そうとだけ言うことが一応はできた。

「それじゃあ、スタート!」

 ビルルがそう言うと散らばった。一人だけは動いていない。

「あ、あの……」

 シュウはなんとか店主の妻に話しかけることができた。彼女は優しい笑みを浮かべながら、首を傾げた。その彼女の行動は言っていいということだろうと彼は勝手に判断する。

「レディースってどこにあるのですか?」

「あっ、そうですね。確かあなたは知りませんね。ついて来てください」

 コクリと頷き、彼はついて行く。どうやら今いる二階ではなく、四階にあるらしい。今、思えば二階は靴やネックレスなどしか売っていなかった。

 四階にたどり着いた。じっくりと見て、できる限り文句を言われないようにする。

 脳内に三人の姿を思い浮かべる。

 暗い赤色のとても長い髪を持っていて、鋭いが優しさを感じるような純粋な黒い瞳。女性の平均身長よりも高く、グラマーな体型のビルル。

 金色でビルルがよりも短いが長めな髪を持っていて、タレ目気味の目つきの赤紫の瞳。女性の平均身長くらいで、ごく普通のスタイルのヒカミーヤ。

 二人よりは短めな色の茶髪を持っていて、少しだけ鋭い目つきの焦げ茶色の瞳。ビルルよりも高いが174cmのシュウよりも低い、グラマーすぎる体型のサルファ。

 彼は引きつった笑みを浮かべる。

「今さらながら、スゴい美少女揃いのハーレムだな。いや、今はそんなことよりもその三人の美少女に似合うものを選ばないといけない。この絶望的すぎる俺のファッションセンスで」

 シュウはブツブツと呟いている。本人には聞こえているようだが、同じ階にいる店主の妻には聞こえていないようだ。

「あっ、そういえば」

 彼はあることを思い出して、店主の妻に近づく。

「あの……すみません」

「どうしましたか?」

「さ、三人に下着も選んだ方がいいのか聞いてきてくださらないでしょうか」

「どうして自分で行かないのですか?」

「お、俺の服を選んでもらっているので、行ったら迷惑かなと思いまして」

「そういうことですか。でしたら、少しお待ちください」

「あっ、はい……」

 店主の妻が下へ降りていく。時間がもったいないので、シュウは服を選ぶことにした。

 シュウが顎に曲げた人差し指の第二関節を当てながら、考えていると店主の妻が店主を連れて戻ってきた。

「ど、どうでしたか?」

「『将来見ることになるかもしれないからよろしく』とお聞きしました。他のお二人も頷いていたので、恐らくは同じ考えかと」

 ツッコミどころが満載だが、一つだけツッコミを入れることにした。

「あの……どうして店主さんを?」

「彼はあなたほどはファッションセンスがあるからです」

「自信ないけどな。まぁ、やるだけやってみる」

「ハハッ。心強いです」

 店主とその妻の二人の言葉に何か言いたそうな笑みを浮かべながら、彼は言った。

「それにしても、女性の下着に抵抗がないのですね」

「俺は見慣れていますから」

「見慣れて……?」

「深く聞かないでおこう。僕たちは店員で彼はお客様。な?」

「はい。そうですね」

「いやいや、何か勘違いしていますよね?」

「勘違い? それは一体?」

「妹ですよ。妹。そのため見慣れているのです」

「なんだ。妹さんか。それならおかしくない」

 シュウは相手が納得してくれたので安心した。もし、ここで変なことを言われたら、タメ口で話してしまうところだった。彼は目上の人、相手には絶対に腰を低くする。そうしないと社会からつまはじきにされることを、アルバイトで学んだ。まともに話せない人もしかり。

 後者はできるようになるまでに時間がかかるが、前者は誰でもできる。仕事では自分のプライドは邪魔なだけ。

「それでは、まず下着ですね。でも、三人のバストを知りませんけど」

「えっ? それだと下着を選べないよね?」

「それは私に任せてください」

「えっ?」

「あぁー。なるほど」

「何がなるほどなのですか? 知らないのは彼女も一緒のはずでは?」

「彼女は一目見ただけで、バスト、ウエスト、ヒップを数値化できるんだ」

「なにそれ怖い」

「まぁ、そこは気にしない方がいい。彼女も異世界人だし」

 店主にそう言われて納得するしかない。

「それじゃあ僕たちは服を選ぼうか」

「そうですね」

「ちなみに暗い赤には紺などの暗い青、茶色にはアイボリー、金には緑系統が合うよ」

「なるほど。なるほど。その緑系統は濃い緑の方が良さそうですね」

「そうだな。それを参考にして服を選ぼうか」

 店主の言葉にシュウはコクリと頷く。


 十数分が経った。

 二階にみんなが集まっている。シュウの手には三人の服。店主の妻の手には三人の下着。ビルル、ヒカミーヤ、サルファの手にはシュウの服と下着がある。

 同じ歳にしか見えない異性に下着を持たれていると妙な恥ずかしさがある。それを悟らせないために相手を真っ直ぐ見ているため、バレバレだ。彼が真っ直ぐ人を見る確率が低い。だからだろう。でも、彼自身は一切気づいていない。

「それじゃあまず下着の見せ合いね。一応、言っておくけど着てる姿を見せるわけじゃないから。どんな下着を選んだのかを見せるのだから」

 知っているという意思表示のためにシュウはコクリと頷く。でも、実際は知らなかった。てっきり、着ている姿を見せるのだと思っていた。よくよく考えればすぐにわかることだった。下着は完全に肌着になるから、衛生的に試着は無理だ。

「そ、それでしたら、どちらから服を試着しますか?」

 自分が考えていた恥ずかしすぎる考えを消すためにシュウは聞く。

「ジャンケンで決めるの」

「あっ、そういうことですか」

「こちらは三人のうちの誰か一人を出すよ。シュウくんは出場確定ね。ちなみに勝った方がどっちにするか決めれることにするよ」

「わかりました。それでは待っておきますね」

「いや、別にいいよ」

「はい?」

「もう決まったから」

「…………へっ?」

「なるほどー。念話か」

「ね、念話?」

「脳内同士で会話すること。秘密の話とかはこれでするのが常識だよ」

「へぇー。そうなのですか。でも、今回のは秘密にする話ですか?」

「そう言われると違うとしか言いようが」
「はい。それでは代表者前へ」

 突然、ビルルが手を叩いて言うとシュウとヒカミーヤがほぼ同時に前に出た。

「最初はグー……ジャンケンホイ」

 そうして、出したのはお互いにチョキ。つまりアイコだ。

「アイコで……しょっ!」

 次に出したのはグーとグー。つまりアイコだ。そのあとも何度も繰り返しジャンケンをしたが、やはりアイコになり決まらない。

「はい。中断! 中断! 選手交代」

 サルファが出てくるとヒカミーヤは下がり、同じ掛け声でシュウとサルファがジャンケンをした。またアイコが続いたらどうしようかと思ったが、その心配らいらなかった。

 シュウがグーでサルファがパーを出したからだ。つまりはサルファの勝ち。一瞬にして決まった。

「じゃあ先に着替えます」

 どうやら念話で決まっていたようだ。三人はそれぞれの更衣室に入った。もちろん、シュウたちから着るものを貰ってだ。

 待っている間、暇なのでシュウは二人に色々と質問してみることにした。

「そういえば名前を知りませんでしたね」

「確かにそうだった。でも、長いから店主とかでいいよ」

「私の名前は発音できないでしょうから、店主妻でいいですよ」

「発音できないのにどうやって会話しているのですか?」

「念話」

「あぁ。なるほど」

 秘密の会話以外にもこんなところで念話を使っているのだなと勉強になる。でも、シュウは恐らく念話を使えない。それはどんなに頑張ってもだ。

「店番しなくていいのですか?」

「ここが見つけられること自体が少ないから、問題ないよ」

「えっ? そんなので過ごせているのですか?」

「うん。だって、どんなに飢えていても僕たちは死なないからね」

「そう……ですか」

 店主の言葉を聞いて、不死というのはホントに呪いだなとシュウは改めて思った。だけど、ヒカミーヤとサルファは悪くないと信じている。

「あっ、そういえばオススメの飲食店とかありますか?」

「カフェ・リオーネですね。あそこはカフェの割には品揃えが豊富ですから」

「どの辺りにありますか?」

「この店を出て左手側に進み、一つ目の曲がり角で左に曲がりそのまま前に進むとあります」

「なるほど。ありがとうございます」

 彼がお礼を言ったのと同時に更衣室のカーテンが開けられた。一番、最初に出てきたのはビルル。

 肩を露出していて、黒い紐が見える。恐らくは下着の紐だろう。紺色の毛糸で編まれていて、無地の紺一色。ショートパンツは水色に近い。

「うーん。自分で言うのも何だけど、似合っているとは思うんだよ。でも、上下が同じ青系統というのはあまり。髪色に合わせたのだろうけど、片方だけなら良かったけど、上下共に似た色というのはどうかと思うよ」

「そう……ですか。確かに同じ色だと微妙な出来になりますね」

「でしょ?」

 数分後に出てきたのはサルファだ。肩は隠れているが、ヘソのあたりが少し露出しているアイボリーという白色にとても近い灰色の横縞模様。下は完全に白いダメージパンツ。

「とても大きなお胸が地味に目立たなくなっているね。目立たないようにという配慮が見えてくるけど、なぜかヘソ出しだから、正直言って、意味がわからない」

「意味がわからないですか……?」

「そう。服というのはテーマを決めておいたほうがいい。露出したくないなら、ヘソ出しは論外。ダメージパンツも怪しいところね。逆なら今度は露出が少ない。全てにおいて中途半端なの」

「なるほど。ですから、意味がわからないですね」

「伝わったようで助かるよ」

 彼女は軽く微笑む。真剣にファッションと関わっているんだなと実感する。
 カーテンは開いていないが、ヒカミーヤがこちらを覗いている。そして、ビルルの方に目を向けると手招きした。それに従い、彼女は向かう。

 何も事情がわからないが、シュウでも要件は何か大体想像がつく。

 十数秒でビルルは戻ってきた。すると、すぐにヒカミーヤも出てきた。

 露出を最小限に留めている。上は毛糸で縫われた濃い緑色一色で、下は少し余裕が持てるほどの上と同じ色の長ズボン。

「うん。イモムシ」

「えっ!? ちょっ!?」

 あまりにも直球すぎるビルルの感想にシュウが焦る。

「さすがにそれは言い過ぎですよ!」

「そんな服を選ぶから悪いのだけどね」

「うっ!」

「ささっ。次はシュウくんが服を着る番だよ」

「さ、三着もあれば時間がかかると思うのですけど……」

「なら、選んで決めた一着にして。どれが誰のとかは一言も言わないからね」

「わかりました。その間に二人の服を選んであげてください。俺が買いますからね」

「へぇー。太っ腹!」

「二人の分のお金も俺が預かってますから普通ですよ」

「まぁ、いいよ。ゆっくり選んでね」

 ビルルがそう言うと全員が同時に近づき、シュウに渡した。一斉に渡されたので、誰が誰のものか彼にはわからない。彼が更衣室に入ったのを見届けると三人が四階に向かっていった。でも、ヒカミーヤとサルファは申し訳なさそうだった。

「お前もいってきて。僕は盗まれないように見張っておくから」

「えぇ、わかったわ」

 店主とその妻の会話が聞こえたかと思うと、店主にカーテンを開けられた。

「も、もし着替えていたらどうしてましたか?」

「閉めた。でも、来てないと思ったよ。衣擦れ音が聞こえてなかったしね」

「なるほど」

「さて、三人に装飾品をプレゼントする気なんだろう? 一体どうする?」

「ビルルさん……暗い赤髪の人には藍色の髪留めを。二人にはネックレスを」

「おや? あの子だけ特別扱いだね。もしかして、彼女?」

「い、いいえ、違います。か、髪留めを変えると案外目立ってしまうものです。二人はあまり目立ちたくないらしいので、ネックレスをプレゼントすることにしました」

 シュウは真実でもありうる嘘をついた。そのおかげで店主は納得してくれたようだ。少し安心した。

 彼女たちは勇者と魔王だと言うと確実に色々とヤバい。今日は勇者と魔王を捕まえることができたことを喜ぶ日だ。そんな日に勇者と魔王という言葉を出すだけでも、かなりヤバい。まして、あの二人は勇者と魔王だと言えば脱走したのだと大混乱になりかねない。

「それじゃあ君は服をどれにするか選んでおいて。僕が髪留めとかを選んでおくから」

「それには及びません。もう、決めておりますから」

「早くない?」

「シンプルなものが好きですから」

「そう。なら、一緒に選ぼうか」

「いえ、今回は場所を教えていただくだけで結構です。自分の美的センスを信じてみたいです」

「なるほど。よく考えればプレゼントはその人、本人が選んでこそ価値が出てくるものだからね」

「ま、まぁ、そういうことです」

 店主がしたような発想は思いつきもしなかったので、苦笑いを浮かべながら返した。

「えっと……髪留めはこの棚。ネックレスはあっちの棚だから。ゆっくり選んでね。僕が階段を見張っているから」

「わかりました。お願いします」

 店主は階段が見えるところまで行く。彼がそこに行ったのを見送った。


 数十分が経った。
 シュウはかなり真剣に悩みながら選んでいる。

「そういえば店主さんの妻さんはどんな世界から来たのですか?」

「それはわからないな。でも、この世界ではないことは確実。本人から聞いたけど、全員が体を自由自在に変えられるらしいよ。そんなこと、この世界だと聞いたことがないからね」

「へぇー。一体どのようなプレゼントをして、好感度を上げていったのですか?」

「君と同じようにネックレスなどをあげたね。でも、そんなの意味がなかったんだよ。惚気のろけ話みたいになるけど、僕も彼女も一目惚れだったらしいよ。まるで運命みたいだろ?」

「ハハッ。確かにそうですね」

「受け身になるばかりじゃダメだけど、好意を寄せてもらいたいのなら攻めるばかりでもダメだよ」

「何か勘違いをしているでしょうが、俺は好意を寄せてもらいたくてプレゼントをするわけではないですよ。昨日、この世界に来たばかりですけど、お世話になったのでその感謝と、これからお世話になるでしょうからそのお詫びですよ。会ったばかりなのにプレゼントはやはり重いですかね?」

「いや、重くないと思う。どんな形であれ、お詫びは嬉しくないかもしれないけど、どんな形であれら感謝されると嬉しいからね。でも、物だけではなく気持ちや声に出すのも大事だよ」

「確かにそうですね。これからはキチンと口に出していきますね」

「うん。それが大事」

 シュウは選び終えたので、レジに持って行く。そのことを察知した店主はレジに入る。それを見て、横にある機械にカードをスライドする。チャリンという音がカードから聞こえてくる。

「プレゼントだから、包んでおくね」

「ありがとうございます」

 お礼を言い、今度はシュウが階段を見張る。

「終わった。このレジの下に隠しいれておくから、服を買うときに一緒に袋に入れておく。不透明だから、恐らくバレないと思うよ」

「わかりました。至れり尽くせりでありがとうございます」

「気にしないでくれ。僕は店員で君はお客さまなのだから」

 シュウは店主にお辞儀をした。お礼のためだとわかった店主は微笑んだ。

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